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広き心耳な音コミュのねこ10

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「来るような気がしていたの。」

山奥ある湖のように静かにネコ3は言った。

「メスのカンね。」

僕は久しぶりの再会に言葉を探していた。

「少しオスらしくなったんじゃない?」

そういうネコ3はずいぶんと雰囲気が変わったように見えた。
一瞬、僕が知るネコ3とは全く違う生き物のように感じた。
まるでイレモノが同じでもナカミは全く違うような、そんな気がした。

もっともアノ場所で僕らが共にいた時間は限られたものだった。
それに僕はあの頃いつも昼寝をすることしか考えていなかったもんだから、きちんと話した記憶すら2,3回くらいしかない。
そして、ネコ3はすぐに旅へ出たのだ。

「何か聞きたいことがあるから来たんじゃないの?」
黙り込んだままの僕にネコ3は言った。

「実は・・・」
「クロネコのことでしょ?」
僕がしゃべり終わる前にネコ3は言った。

また僕は沈黙してしまう。

「全部わかっているわ。大丈夫。でも、その前に私の話を少し聞いて・・・。」

そう言ってネコ3は今の自分の境遇についてしゃべり始めた。

旅に出た後すぐに土砂降りの雨にあって迷子になったこと。
餓死寸前で死にかけていく中、老夫婦に拾われたこと。
その老夫婦は病院の理事長をやっていて拾われてからは外国製のシャンプーと豪華な食事の毎日なこと。
そして、今は「チャーリー」と呼ばれていること。


その話し方は久しぶりにあった同士と懐かしさを分かち合うというより
話ながら一つ一つ整理をし自分自身に言い聞かせているようだった。

一通り話を終えるとネコ3は言った。

「そう、クロネコのことね・・。」
そう言って少し寂しそうな顔をした。

「『オトウト』を知っているんですか?」

ふいに敬語を使っていた。
あの頃、僕はネコ3とどんな風に話していたのだろう?


「知っているわ。あなたが彼に会うずっと前。ずっとずっと前からね。」

ネコ3は僕から視線を外して言った。
「ずっーと昔、彼と将来を誓い合っていたのよ。」
それはとても静かな一言だった。でも存在感のある一言。

「前世の記憶が残っているのよ。私は。あなたもそんなことある?前世の記憶があることって。」
そう言って僕の瞳をすーっと見た。

ゼンセイ?

ポカーンとした僕の顔を見てネコ3は言った。
「いいの。気にしないで。きっと必要な時に必要な分だけ思いだすこともあるのよ。・・・それが一番幸せなことね。」

それはやはり湖だった。
見つめたネコ3の瞳はとても深かった。
そしてその瞳は少し僕を悲しくさせた。

「なんで・・、なんで僕が来ることがわかったんですか?なんで『オトウト』の居場所がわかるんですか?なんで白ネコを探さなくてはいけないんですか?」
突然僕は胸の関が切れたように次から次へと質問が込み上がってきて止まらなくなった。

「落ち着きなさい。」とても静かにネコ3は言った。
「簡単よ。あの小枝を加えたネコも一緒なんでしょ?」

「ホームズを知っているんですか?」
もう何がなんだかわからなくなりそうだった。

「知っているわ。たぶんあなたよりもね。」

混乱している頭の中で必死で質問した。
「白ネコは?なんで・・・?ネコ4を・・いや白ネコを・・なんで・・?なんで?」

「白ネコ?・・・そう。そうなのね。彼はね・・・」

キィーッ

入口のドアが開いた。

「ちょっとしゃべり過ぎですよ。」

ホームズだった。

そう
僕らは丘の上の病院に着いた時に、ネコ3の居場所は理事長室だということを突き止めた。
でも理事長室へ行くにはいくつか突破しなくてはいけない関門があった。
なにより厄介だったのはセラピー犬として飼われている犬たちだった。
その犬たちの気を引くためにホームズは囮となり、その間に僕は理事長室へ忍びこめたのだ。

「話す必要はないはずですよ。なにより話したところで何一つ理解することはできませんよ。今の彼には。」
ホームズは念をおすようにネコ3へ言った。

「変わらないのね。その利己的なところ。」
ため息をするようにネコ3は言った。

「教えてください。」強い口調で僕は言った。「僕にだって知る権利はあるはずです。」と。

「ないですよ。」
ホームズは凛と言った。
そして付け足した。「今のあなたはね。・・・いずれわかる時が来ますから。それがあなたのためですよ。」


「クロネコの居場所だったわよね?」

僕たちの空気をさえぎるようにネコ3は言った。「わかるわよ。居場所。きっとね。」


そう言ってネコ3はしばらくの間、目をつぶった。
そうするとなぜか部屋の空気が少しピリッとしたカンジがした。

今まで経験したことのない雰囲気だった。
ネコ3の回りだけどこか別次元の空間に変わった気がした。
いや違う。無駄がなくなったと言った方が正しいのかもしれない。
そんな洗練された空気だけがネコ3を包んでいた。

僕は一瞬、自分の目を疑った。
不思議とネコ3がヒトの姿に見えたのだ。
金髪の長い髪をした肌の白い女性。街で一度見かけたことがあるガイジンというのに似ている。
ずいぶん古びた服を着ている。街では見かけてことがない。
目に包帯を巻いている。

そうだ。盲目だった。きっと。
なぜか納得している自分がいる。

変だ?これはなんだ?幻なのか?いやでも不思議と実感がある・・・
僕はまたひどく混乱した。

「北の方よ。」
ネコ3は目を開いて言った。
「北の山の中。夜空を眺めているわ。何一つ変わっていない。相変わらずね・・。」
それはやっと言葉のカタチをとっただけで、ネコ3は何回もその場面を想像したことがあるようだった。
そう。いつも。日常的に。

「そうですか。山ですか・・・。」とホームズは言った。
「ここから北の山で星空が見えると言ったら・・・あの山しかありませんね。確かにあの山にいたら私も出会う機会がないはずです。事件でも滅多に行くことはなかったですし。」

ビル街からも離れ都市生活からは一別されている、富士の樹海よりも厄介でとても急な斜面を持つあの山。
この地域を古くから守ったり守らなかったりしたと言われる山。
そう『古山』。

「行き場所が決まりましたね。」
とホームズは言った。

ネコ3は言った。
「もし彼に会うことができたら『私の眼のことはもう気にしなくていいのよ』って言っておいて。」
僕はなにも言わずにうなずいた。不思議とうなずけたのだ。

「・・・私は十分幸せだから。」
そう言ってネコ3は鼻をひくひくさせた。


僕らは古山に向かってゆっくりと歩き出した
その足取りは一つ一つ覚悟を踏みしめているようだった。
さっきよりも確実にナニカに近づいて行っているな気がした。


僕はしばらくネコ3の幻の姿に包まれていた。
僕ももしかして、ずっと昔に、そう僕がネコになるずっと昔は、もっと別の何かだったのかもしれない。
そう思うと胸のあたりが一瞬ズキンと痛んだ。


-必要な時、必要な分だけ

ネコ4、君もそうなのだろうか?



‐ 追い出されたことには代わりないじゃない?そう何一つね。 −


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