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広き心耳な音コミュの最終楽章

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「うそだ!」

何とか口に出したがそこまでだった。僕の心は完全に溶けていた。上手く体が心をつなぎ止めておけない。今見た光景が何度も再生、巻き戻しを繰り返し自動上映されている。目の焦点が定まらないまま立ち尽くした。


遠くで声が聞こえる。
「捜し物は渡しましたよ。」


その瞬間、ドーンという音がしたように感じた。
クロ、くろ、黒。
あたりはどこまでいっても漆黒。黒よりも黒い闇であった。もうどうでも良くなっていた。自殺だと思っていた姉の死。思いもよらなかったが、知らず知らずのうちに自分の都合のよいように記憶をねじ曲げていたのか。姉を殺したのは自分だった。偽装工作までして。今まで何食わぬ顔で暮らしてきたのだ。18年。18年も。ある時には亡き姉の温もりを求め、ある時には自分を置いていったことを恨んだりもした。しかしそれらも全て薄っぺらい感情であったようだ。



もう考えることをやめることにした。今は色も形も音も時間も空間さえもない。とても楽になった。人間は人間という形の中でいるときに苦しみ悲しむのだとわかった。










『いらない』
『全ていらない』






そして全てが1つ1つなくなっていった。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」






「・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・リョウコ・・・。」




意図せずその名前を呼んだ。

風を感じた。
とても心地よい風だ。
風は鼻先から額、そして僕の髪を撫で、通り過ぎた。

「リョウコ。」

もう一度発音してみた。

また風が吹いた。

「リョウコ。」
3度名前を呼んだ時、突風のような風が吹いた。


その瞬間音が生まれたのを感じた。
目の前にリョウコの顔が現れ形と色が生まれた。
隣にリョウコがいる。
空間が生まれ、僕らは歩きだしそして時間が生まれた。


「帰ろ!ここにいてもつまらないわよ。」

さっきまでの気持ちが嘘のように不思議と素直に従えた。
「ああ。帰ろうか。」

視界が戻ってきた。
花畑に戻る。
自分に決着を付けなければいけない。

正面に"自分である何か"が立っている。

「あれ?帰ってきたか。もう戻らないと思ったのに。まぁ、十分です。目的は果たしました。」


「目的?真実を告げることがか?」
あたりを疑惑に囲まれながらも声ははっきりしている。

「それもありますがね。それは付属品。本当の目的はあなたに真の自由を、解放を与えることです。これからは過去、未来に縛られることはないですよ。」

「何を言ってる。僕は僕にけじめをつけるために戻ったんだ。」

「ふーん。どうぞどうぞご自由に。別に何をしてもあなたの自由です。もう私は僕ですから。」

目の前の人物が何を言っているのかわからなかったが、一つ違和感があることに気づく。相手の衣服が変わっている。そうあれは僕が着ていた服だ。それにさっきから体の動きがぎこちない。よく見ると関節という関節におもちゃのような節がある。

「ナンだ?」

「気づきました?これからはあなたはこの世界の住人となっていただきます。私はあなたとして生きていきます。とはいっても私の意志で行動しますがね。」

「長かった。随分時間がかかりましたがやっと終わりました。楽譜を見つけさせてこちらに引き込む。そしてお姉さんの片鱗を見せつけ、あなたの興味を引いた。そこからはご存じの通りです。この日が来るのをあなたの中で18年待ち続けていました。さぁ終わりです。自由をあなたに。さようなら。」

"僕"は180度振り返り、僕がやってきた靄の中に消えようとした。

「マて!あノ記憶ハ本当ナノか?」

「もうどちらでも良いと思うんだけど・・・。あぁそうそうこれはお返ししておきます。では。」

右手と楽譜を置き、そのまま"僕"は靄に消えた。
僕は右手歩み寄り拾い上げた。腰を屈めるのもつらい。関節がキギっと音を立てた。

「姉サン。何故僕はアナタを。わからなイ。ワカラナイ。」

再び失意。戻りかけた僕の周りの僕の空気がまた急に薄くなっていく。

これからはこの世界で生きて行かなければいけない。どうやら心臓はないしそもそも血が流れていない。自分で命を絶つことはできないらしい。
右手を抱え水分のない目から涙を流した。


「いつまでたっても世話のやける子ね。」

頭の後ろから声がする。昨日も聞いた。ついさっきも聞いたこの声。

「リョウコ。」

顔を上げた。

「何よ。そんな顔して。シャンとしなさい。」

「姉さん?」

「ずっと見てきたけど、結局こうなってしまったわね。リョウコさんになりつつなんとかしようとは思ったんだけど。」

驚きはなかった。

「あぁ姉さん。近くにいてくれたのはわかってたんだ。だからここに来ることで直接姉さんにつながる何かが見つけられるかと思ったんだけど。でも僕は姉さんを殺してしまっていた。僕の中に僕の知らない僕がいるんだ。ごめん姉さん。」

「はぁ。バカね。そんなこと真に受けて。」

「え?」

「どうしてあなたが私を殺すの?殺したかったの?」
「いや。でも。」

「私が死んだのは事故だったわ。クリスマスの朝、私はライブで早朝から出かけることになっていたの。まだ薄暗くもない時間に家を出たわ。そしたら夜通し長距離を運転してきた酒酔い運転のトラックが赤信号を無視してきてね。それで。」


「じゃああの記憶は?」

「多分あなたの記憶を寄せ集めて継ぎ接ぎしたんでしょうね。」

「あれは僕なのか?何なんだ?」

「一種のコンピューターウィルスみたいなものね。人間には未知の部分が多いのよ。現代医学なんて話にならない。見ているのは表層だけ、本質はだいたい奥に隠されているものなの。」

「じゃあアレも・・・・」

「ええ。外的要因ね。あなたが喪失を覚えたあのとき入り込んだものでしょう。でもあなたにも原因があるのよ。あなたの心の持ちよう次第なんだから。」

「ウィルス。まやかし。」

「そう。まやかし。私もね。だからあまり時間がないの。」

「どうすれば?」

「いい?まずは心を強く持ちなさい。人だもの、折れそうになることもあるでしょう。でもね、大地に足を付けていられれば大丈夫。また、心は育つ。きっと心は保てる。人間だもの依るべきモノがなければ真っ直ぐに立つこともできないわよ。」

「でも。」

「そうね。あなたはそれができなかったから一度折れてしまった。それは私のせいかもしれないわね。あなたは相手に全ての信頼を預けることができない。いいえ。預けることを恐がりやめてしまったの。」

「そうかもしれない。僕は姉さんが亡くなったあの日、何かをそこに置き去りにしてしまった。自分が楽になるために、目先の苦痛から解放されたいがために。人を信じ、自分を預けることをやめてしまった。」

そう僕はあれ以来誰にも心を許していない。父にも母にも友人にも、リョウコでさえも自分以外の誰かであった。


「もういいでしょう。あなたには大切にできる人がいるじゃない。あの暗闇の中で心から出た声を思い出しなさい。全てを空っぽにされたとき最後に残った気持ちを。」

「リョウコ・・・。でも僕はもうこの体でここから出ることも。」

「何言ってるのよ。あなたの体でしょ。あなたが心を取り戻せば、体も帰ってくるわ。」

姉は菜の花畑に置かれた真っ白なピアノにそっと手をそえた。

「あなたの歌を奏でなさい。」

「僕の歌?」

足下に落ちている楽譜を拾い上げる姉の姿が透き通っている。

「姉さん。体が。」

「あなたが心を取り戻しつつある証拠よ。もう私は必要ない。ほら楽譜も。」
渡された楽譜は黒ではなかった。真っ白な紙に音符のない五線が延びている。ただ、よく見ると右下のあたり、五線の上に記号がついている。

「D.C・・・『ダ・カーポ:はじめに戻る』」

「そう。はじめに戻る。ここからあなたはまた1から歩きはじめるのよ。ただし、知っていると思うけどこの記号、全てをリセットするわけではないわ。これからの人生も、失敗も成功も含めた今までの歌の続きであることを忘れないで。そして今度は大地に根をはり力いっぱい強く生きるのよ。」

「姉さん。」

もうよく目を凝らさないとそこに姉がいるのかさえわからない。

「こんな形になってしまってごめんね。先に行くけどずっと見てるわ。さぁ。」


ぼくは楽譜を譜面台に置き、目を閉じ、心の声に耳をすませた。

深呼吸を一つ。
僕は-ラ-の白鍵に人差し指を重ねると、重力に最大限の助力を得つつ、しっかりと押した。

ビアノは僕の合図を受け、-ラ-の透き通った声を返した。
「ここが、ここからが始まりですね」と。
僕もそれに答えるように一つ音を返す。

「ありがとう」

白紙だった楽譜に言葉が綴られ、形となり、音となった。


心が完全に晴れわたっている訳ではない。
だけど。


そして僕はまた歩きだした。





−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



僕はボクと言葉を交わすだろう。



僕はアナタと形を作るだろう。



そしてセカイとともに歌おう。

                 -fin-

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