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猟団 コンバットマグナムコミュの2 出会いのち災難

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 寒冷期にしては暖かな日差しのある日。一匹のアイルーがわらを山と積んだ馬車の荷台の上で揺られながら幸せそうに寝息をたてていた。
 ひなたぼっこが好きで有名なアイルー達にとってはこの上なく絶好の日和りだ。
と、大きな街の前で馬車が止まると、御者である人の良さそうなおばあさんが荷台のアイルーのほうを振り返って、やさしく揺り起こす。
「ポンちゃん。ポンちゃんや」
「う。うみゃあ〜……おさかにゃがつかみ放題なのにゃ〜……」
どうやらアイルーはかなりいい夢見心地らしい。無理もない。ぽかぽかの日差しに加え、保温性の高いわらの中に埋まっていれば寝起きの悪いエスピナスも起きないだろう。
おばあさんはその様子を微笑ましそうに見ながらさらにアイルーを起こそうとするが、一向に起きる気配を見せない。
そこで何かを思いついたおばあさんは、荷物の中から魚の干物とよろず焼きセットを取り出すと、馬車から降りておもむろに干物を焼きはじめた。
辺りに香ばしい匂いが立ちこめ、「上手に焼けました」の声とともに干物が火から外された。実においしそうに焼けた魚を串ごと持って馬車の御者台に上がると、今だに寝ているアイルーの鼻先に焼きたての干物を近付ける。
――と、自然とアイルーの口元から滝のようなよだれがたれてきた。
「ほぉら、ポンちゃん。白金魚の干物だよぉ〜」
そう耳元で囁いたとたん、アイルーのくりくりした愛らしい目が見開かれ、瞬間的にわらの中から両手が飛び出してそのまま干物をバシッとはさんだのだ。
が。
「ああああっついニャ〜〜〜!?」
肉球を真っ赤にさせて荷台から転げ落ちると、あまりの熱さに馬車のまわりをぐるぐると走りはじめたのだ。
「あらあら、ごめんなさいね」
おばあさんは慌てず騒がず袋からなにか包みを取り出すと、走り回るアイルーを抱き留め、その両手の肉球を包みに押し当てたのだ。すると涙がこんもりと盛り上がっていたアイルーの顔が次第に和らいでいった。
「冷たくてきもちいいニャ〜」
そして、はっと何かに気がつく。
「これ氷結晶かニャ?」
「ええ、そうよ。溶けないから、布を巻いて触っていればやけどなんてすぐに治るんだから。それと、ごめんなさいね、大事な肉球をやけどさせて」
「大丈夫ニャ! へっちゃらニャ!」
「そう、それならよかったわ」
おばあさんはほっと息をつくと、アイルーの頭をなでてやった。そして、肉球の赤みが消えた事を確認して、氷結晶を自分の前掛けのポケットにしまった。
「そ、そうだニャ! ここは一体どこなのかニャ!? お昼にはドンドルマに着かないといけないのニャ〜!」
「ふふ、大丈夫よ。ほら、もうそこがドンドルマの門だから」
微笑んでアイルーを膝の上から下ろすと、まだ昼を回ってないことを教える。すると、アイルーは「うにゃ〜」と鳴いて彼ら独特の喜びのステップを踏んでみせた。
「おばあさん、ここまで連れてきてくれて本当にありがとうだニャ!」
そう言うなり荷台に飛び込んでわらの中に埋もれていた自分の荷物を掘り出す。どんぐりスティックに、何が入っているのかはわからないがアイルーにしては大きな麻で編み込まれた袋をさげて荷台からゆっくり下りる。
「それじゃ、ボクはこれで失礼しますニャ。おばあさんもミナガルドで商売がんばってニャ」
ぺこっとおじぎをしてアイルー……ポンは背中を向けた。
「待ってポンちゃん、これ、お弁当よ」
「ニャ?」
「これ、さっき焼いた白金魚の干物よ。持っていってどこかでお上がりなさいな。お行儀よくね」
「ほんとですニャ!? 何から何までありがとうだニャ!」
紙で包まれた干物を受け取るとポンは手を振って別れを告げた。
「おばあさん大好きだニャ〜!」
てててっ、と走り去っていくポンを、おばあさんは姿が見えなくなるまで見送っていた。

「ふにゃぁ〜……ここが都会の街なのかニャ〜」
門をくぐり、メゼポルタ広場を抜けたポンは立ち並ぶ建物を見上げて感嘆の声を洩らした。
「すごいニャ〜。訓練所の授業ではならったけど、実際に見てみるとすごい迫力なのニャ」
ポンは辺りを見回すと、手ごろなベンチを見つけてよじ登った。そしてもらった干物の包みを開いて頭のほうからかじりつく。
瞬間、あまりのおいしさに青い瞳にきらきらと星が浮かんでしまう。
「おいしいのニャ〜」
まさにネコ夢中といった体で骨ごと干物を平らげると、麻袋の中から何やら書類の束を取り出す。
紙には肉球のスタンプが所狭しと押されているが、単に人間にはそう見えているだけであってアイルー、メラルー両一族にとれば立派な文字らしい。
そして、その紙にはポンの配属先となるハンターの事細かなデータが記載されていた。名前はもちろん、趣味、嗜好、ハンターランク、武器防具の使用頻度、モンスターの討伐暦、その他もろもろだ。
ただし、スリーサイズは載っていない。なぜなら、調査に雇ったメラルーが風呂を覗いたがために、大剣のタメ3切りをもらってほうほうの体で逃げ帰ってきたためだ。
「よし、情報のおさらい完了ニャ。あとは……」
ポンはもう一枚紙を取り出すと、じっと眺めた。これにはハンター、ルルの住所が人間のことばで書かれている。文字は羽ペンネコの教官から習っていた。
 しかし。
「ニャ〜。街が広くてよくわからないのニャ。都会というのも考えものニャ」
紙面から顔を上げると、さてどうしたものかと考え込む。
幅の広い道は昼食時ともあって人間でごった返しており、中にはちらほらとハンターの姿を見かける。ハンターは盗難防止のために日中から防具を付けているので間違いなく浮いて見えるのだ。
同じハンター同士なら何か知っているのでは、とポンは荷物を持ってベンチから下りると、雑踏を擦り抜けて一人のハンターに話し掛けてみた。が、まったくの無視。
「……」
気を取り直して二人目のハンターに話し掛けるがこれまた無視。
三人目、四人目と話し掛けるが、全て同じ結果におわってしまった。
「ニャんで誰もボクの話をきいてくれないのニャ!? ひどすぎるニャ!!」
ポンはもともと人間が好きだった。オトモアイルーとなったのも人間の役に立ちたいがためなのだが、今、その信念が揺らいでしまっていた。
「これが人間の姿なのかニャ……」
遠く離れた砂漠にある実家が早くも恋しくなってきた。
と、突然首のあたりの皮をつままれて荷物と一緒に持ち上げられてしまったのだ。
「ニャ〜!?」
そして、さっきまで座っていたベンチのところまで戻されるとゆっくりと下ろされた。
「い、いきなりニャにするのニャ!」
 憤慨して振り向いてみると、そこには緑色で随所から棘の生え、四本の弦が張られた狩猟笛を背負った若いハンターが穏やかな顔で立っていた。
「ごめんね、さっきから何してるのかな、と思ってね。話を聞いて上げたかったけどあそこは通行の邪魔になるからね」
「そ、そうだったのニャ。ありがとうだニャ」
「いやいや。で、どうしたのかな? 私にできることがあればいいんだけど」
「ルルというハンターをさがしているのニャ」
「ふむ?」
ポンが隣をすすめると、ハンターはポンの横に腰を下ろした。
「住所と地図はあるんだけどニャ。ボク、こんなに大きな街に来るのははじめてでまったくわからなくて困っているんだニャ」
「どれ? ちょっと貸してくれるかな?」
ハンターは地図を受け取ると、すぐにあぁ、という顔をした。
「君は彼女のところには何をしに?」
「ちょっとわけあって、しばらくご厄介になることになってるのニャ」
「そうなんだ」
テスト期間中ということもあり、オトモアイルーの存在はまだ公になっていない。
「――疾風怒濤のルル。まあ、結構有名だよ。……色々とね」
「そうなのニャ?」
「あー、まあ、ね」
(そんなあだ名は書類には載ってなかったけどニャ〜……それに最後の苦笑いが気になるニャ)
「住んでいるのは街の奥の方にある大きな木の近くだよ。乗り合い馬車で近くまでいけるから、その方が早いかな。あ、お金は持っているかい?」
「それは大丈夫ですニャ〜」
ゼニーは支度金と旅費を兼ねて千ゼニーが訓練所から支給されている。
「それじゃあ、ありがとうでしたニャ。お世話になりましたニャ」
「うん、君も気を付けてね。あー、名前は?」
「ポンですニャ」
「私はマーク。ポン君、またどこかで。元気でね」

ハンターと別れたポンはしばらく馬車に揺られたのちに、目印の大きな木の近くで下りるとルルの家を探す。
「あ。ここかニャ?」
確かに表札にはルルと書いてある。レンガ造りの少し小さめな家ではあるが一人で住むには十分な広さだろう。
「ごめんくださいニャ! アイルー労働組合から派遣されましたポンと申しますニャ〜。ルルさんはご在宅ですかニャ〜」
……
反応はない。
「ごめんくださいニャ〜!」
さっきより声を張り上げてはみたがやはり反応がない。ポンがこくん、と首を傾げる。
「留守かニャ? ニャら、待たせてもらうニャ」
しかし、日が傾き、空が朱に染まり、星が瞬く時間になっても当のルルは帰ってこなかった。
「い、いくらニャんでも遅すぎるニャ……」
 アイルー、メラルーの活動範囲はフィールドを選ばず広い。過酷な火山や雪山でもなんのその。それでも、やはり寒冷期の夜。寒いものは寒いのだ。
「ううう、寒いにゃぁ……」
 ポンは耳をたたんで膝を抱えてかたかたと震えているが、何の慰めにもならないほど寒い。
「おなかもすいたニャ……」
ポンを始め、アイルーは雑食性であるので、その気になればそのあたりの草や虫を捕って食べればそれで済むのだが、彼らの味覚はどちらかと言えば人間のそれに近い。
「……ひっく」
深夜となり、冷たい風に乗って女の声が聞こえてきた。
(か、帰ってきたニャ……遅いニャ! いくら何でも遅すぎるニャ! ここはニャめられないようにビシッと一つクレームつけてやるニャ!)
「ひっく。うぃ〜……」
ポンは声の主が玄関先に現われたのを見ると、一直線に駆け寄ってまくしたてた。
「遅いニャ遅いニャ遅いニャ遅いニャ遅いニャ遅いニャ遅すぎるニャ寒いニャおなかすいたニャ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
しかし声の主はポンの涙ながらの訴えに気付く素振りをまったく見せずにそのまま足を踏みだしポンを踏ん付けてしまう。
「むぎゅうっ!?」
さらにそのまま何事もなかったかのように歩いていくが踏ん付けられたポンはお腹に靴あとをつけられてのびてしまっている。
「う、う、うにゃあ〜〜〜んっ!」
あまりのことに泣きだしてしまったポンの泣き声でようやっと気が付いたのか、声の主はポンの方を見た。
「……ひっく。なんだぁ、この毛玉はぁ」
「毛玉!? 毛玉って言ったニャ!? ひどいニャ……」
「お〜、しゃべんのかこの毛玉〜。かんわい〜」
 ひょい、と首の皮をつまみ上げると目の前でぷらぷらとさせる。
「毛玉じゃないニャ! ボクの名前はポンだニャっ!」
「んへへ〜、かわいいな〜、ちゅーしちゃえっ」
「ニャ!? くさっ! とんでもなくお酒くさいニャ!?」
「なにぃ? 毛玉のくせにこのルルさんのちゅーがいやだっていうのか〜?」
「ちょ、鼻がもげるにゃ!? は〜な〜す〜にゃあ〜!」
ポンは必死に抵抗するが、酔った女性であってもさすがにハンター。並大抵の力ではない。
が、突然ルルの顔が真っ青になった。ポンは解放されると不思議そうに見上げている。
「……吐きそう」
「!?」
「う……っ」
「ま、待つニャ! 今洗面器を持ってくるから待つニャ!」
「も、ダメ……」
『疾風怒濤』――
 とんでもない大酒飲みでありながら疾風のごとき早さで化粧室に向い、怒濤のごとき勢いで戻すを何度となく繰り返すためついた不名誉極まりない称号――
 だがしかしポンがそれを知るのはまた後日の事。
「ニャ、ニャ……」
あまりの事態に動けなくなっているそこへ月の光を受けて光る滝が生み出された。
 そして至近距離にネコ一匹。
「うにゃあ〜!?」
 ……
合掌。

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