2022.1.2
石川淳さんと安部公房さんとの対談の初出誌に、単行本未収録箇所を発見しましたので、下記に再現します。
「対談 言葉・文化・政治 石川淳/安部公房」p12-17『波』1977/1・新潮社。
当該箇所はp12-p13中段。「記憶と変形」という小見出し。内容重複により割愛と文庫版文末に注あり。厳密には重複とは言いがたい所もある。
「記憶と変形
安部 石川さんをどんな事情でお訪ねし、いつ、どこで、初めて、お目にかかったのか、どうもはっきりしません。と言うより、ぼくと先生との間に意見の違いがあるわけですね。果してどちらの記憶が正しいのか・・・・。
石川 それははっきりしている。ぼくの記憶のほうが正しい。
安部 そうでしょうか。
石川 時期と場所がね。
安部 何回目かにお会いしたときの事は、今でもはっきり覚えています。もの凄くびっくりしたな。今でこそ石川さんはこういうおとなしい方ですけど、当時は相当なものでした。高輪のお宅は玄関の隣が部屋になっていて、たたきとその部屋をへだてる壁のところに円い障子みたいなものがあった。先生とその部屋で話していると、新聞社の人が訪ねてきた。二人の声はもちろん玄関に筒抜けなんだ。奥さんが応対に出たら、石川さんがいきなり大声で、いま留守だ!(笑)奥さんもびっくりして、あのとおりの人ですからって謝っている。石川さんはぼくと話をしながら、また、うるさい!帰れ!と叫んだんだ。ぼくはとりつく島がなくてね、障子の向こうで記者が粘ってるんだから。そうしたらまた、いないと言ったらいない!帰れ!その記者は結局帰って行ったけれども、先生は全然そういう現象に無関心というか気にしていない。ほんとうにあのときは、びっくりいたしました。
石川 若い時分だ。
安部 もう二十六、七年前になりますかね。
石川 そうなるかな。今でも同じだがね。昔の編集者からも一喝された話をされるけど、しょっちゅうやっていたんだから、誰に言ったか覚えているわけない。
安部 僕にはその高輪の家の印象が濃厚なものですから、最初にお会いしたのがあそこだったような気がしていたんですがね。
石川 ちがう。下北沢だ。
安部 ぼくは記憶力が悪い方だから・・・・。
石川 人間の記憶力には普通という標準はないが、ぼくは比較的いいほうだ。記憶がいいということは、人間の才能として別に自慢できるものじゃないと思うから言うんだが。
安部 ぼくは極端に悪いな。だから記憶を都合のいいように変形する癖がある。
石川 君に初めて会った時期については、ぼくの記憶のほうが信じられる。それは君の『終りし道の標べに』(昭和二十三年)が出たときだ。
安部 そういうことにいたします。
石川 そして翌年、品川に引越した。」
「対談 言葉・文化・政治 石川淳/安部公房」p12-17『波』1977/1・新潮社。
当該箇所はp12-p13中段。「記憶と変形」という小見出し。内容重複により割愛と文庫版文末に注あり。厳密には重複とは言いがたい所もある。
「記憶と変形
安部 石川さんをどんな事情でお訪ねし、いつ、どこで、初めて、お目にかかったのか、どうもはっきりしません。と言うより、ぼくと先生との間に意見の違いがあるわけですね。果してどちらの記憶が正しいのか・・・・。
石川 それははっきりしている。ぼくの記憶のほうが正しい。
安部 そうでしょうか。
石川 時期と場所がね。
安部 何回目かにお会いしたときの事は、今でもはっきり覚えています。もの凄くびっくりしたな。今でこそ石川さんはこういうおとなしい方ですけど、当時は相当なものでした。高輪のお宅は玄関の隣が部屋になっていて、たたきとその部屋をへだてる壁のところに円い障子みたいなものがあった。先生とその部屋で話していると、新聞社の人が訪ねてきた。二人の声はもちろん玄関に筒抜けなんだ。奥さんが応対に出たら、石川さんがいきなり大声で、いま留守だ!(笑)奥さんもびっくりして、あのとおりの人ですからって謝っている。石川さんはぼくと話をしながら、また、うるさい!帰れ!と叫んだんだ。ぼくはとりつく島がなくてね、障子の向こうで記者が粘ってるんだから。そうしたらまた、いないと言ったらいない!帰れ!その記者は結局帰って行ったけれども、先生は全然そういう現象に無関心というか気にしていない。ほんとうにあのときは、びっくりいたしました。
石川 若い時分だ。
安部 もう二十六、七年前になりますかね。
石川 そうなるかな。今でも同じだがね。昔の編集者からも一喝された話をされるけど、しょっちゅうやっていたんだから、誰に言ったか覚えているわけない。
安部 僕にはその高輪の家の印象が濃厚なものですから、最初にお会いしたのがあそこだったような気がしていたんですがね。
石川 ちがう。下北沢だ。
安部 ぼくは記憶力が悪い方だから・・・・。
石川 人間の記憶力には普通という標準はないが、ぼくは比較的いいほうだ。記憶がいいということは、人間の才能として別に自慢できるものじゃないと思うから言うんだが。
安部 ぼくは極端に悪いな。だから記憶を都合のいいように変形する癖がある。
石川 君に初めて会った時期については、ぼくの記憶のほうが信じられる。それは君の『終りし道の標べに』(昭和二十三年)が出たときだ。
安部 そういうことにいたします。
石川 そして翌年、品川に引越した。」
|
|
|
|
コメント(74)
石川淳「明月珠」p25-39『三田文学』3月号 第20巻 第3号 1946.3.1三田文學会 藕花先生＝荷風 連絲館＝ 偏奇館(ぺんきかん・へんきかん)
「三月九日夜半、東京大空襲、翌十日、荷風の偏奇館(麻布市兵衛一丁目六番地)消失を見届ける。それらについてふれた「明月珠」を書いたが、発表予定の『三田文学』編集所も焼け、発表不可能となる。」以上p330下段〜渡辺喜一郎 作成 (2008.9.23) 石川淳年譜『石川淳と戦後日本』日文研叢書・ミネルヴァ書房・2010.4.20
1945年3月10日払暁の東京大空襲で偏奇館は焼亡、荷風は草稿を抱えて避難したがおびただしい蔵書は灰燼に帰した(ウィキペディア)。1945年3月10日払暁の東京大空襲を石川淳は「しのぶ恋」としても書いている。
「三月九日夜半、東京大空襲、翌十日、荷風の偏奇館(麻布市兵衛一丁目六番地)消失を見届ける。それらについてふれた「明月珠」を書いたが、発表予定の『三田文学』編集所も焼け、発表不可能となる。」以上p330下段〜渡辺喜一郎 作成 (2008.9.23) 石川淳年譜『石川淳と戦後日本』日文研叢書・ミネルヴァ書房・2010.4.20
1945年3月10日払暁の東京大空襲で偏奇館は焼亡、荷風は草稿を抱えて避難したがおびただしい蔵書は灰燼に帰した(ウィキペディア)。1945年3月10日払暁の東京大空襲を石川淳は「しのぶ恋」としても書いている。
- mixiユーザー
- ログインしてコメントしよう！
|
|
|
|
石川淳 更新情報
-
最新のトピック
-
最新のイベント
-
最新のアンケート
-
まだ何もありません
-
石川淳のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています
人気コミュニティランキング
- 1位
- 北海道日本ハムファイターズ
- 28129人
- 2位
- 大人のmixi【おとミク】
- 6392人
- 3位
- お洒落な女の子が好き
- 89984人