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リレー小説やってますコミュの風のバトン 第二章 In the Wind 第 38 話

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めずらしく、古田美奈コーチがグランドに来ていた。100mのスタート地点でなにやら説明している様子だ。

そこへ、ドタバタと息を切らせながら渡瀬弥生が走ってきた。

「おやおや、思考と手足がバラバラね、それじゃあ、マネージャ時代のあなたの走り方じゃないの。何かあったのね?」

「もう、冗談じゃないですよ、はあ、はあ、古田コーチ、弥生は、はあ、もう付いていけません」

「だからどうしたのよ?」

「品村コーチったらひどいんです。20日は競技会の1次予選と2次予選です。その3日前、17日に、男子の野球部は、練習試合をするって言うんですよ」

「えー、知ってるわよ。甲子園出場常連校の大宮西野高校とやるんでしょ」

「だって、3日後には、100mと4継の予選ですよ。いいんですか?」

「大丈夫じゃないの、私は、17,18日の早朝に練習試合を2試合すると聞いてるわよ」

「そんなの無理です。それじゃあ、今でさえ、夕方会うのも難しいのに、朝から練習試合なんかしたら、もう大会が終わるまで、会えませんよ!」

それを聞いた、蝶子をはじめとした、つばさも、しのぶも、誰もがどきりとした。

「何言ってるの、弥生、あなたは自分がなにを言ってるのかわかってるの?」

「だって、ずっと話もできませんよ!そんなのってありなんですか!ずっと練習だけで、しばらくは純、あ、木下君と会えなくなるじゃないですか!」

弥生はすでに涙を流している。

古田はクスリと笑った。

「だったら、その練習試合に応援に行けばいいじゃない。私も興味があるわ。だって初めての実戦になるわけよね」

「あ・・・でも、それじゃあ、4継の練習がおろそかになります。せっかく市営競技場を借りてるのに。タータントラックでは、まだ練習が足りないから・・・」

「ふふふ、それは付け足しなんでしょ?いいじゃない、品村コーチを始め、メンバーも納得してるのだから」

「でもおぉ・・・それじゃあ、ますます会えなくなります。しくしく」

蝶子や、つばさの眼が光った。

「私、応援に行きます。お弁当作ってくんで、食べてもらいたいです」

「あ、それ、私も」

ほとんどの部員が応援に行きたいと言い出した。

誰もが、神宮大会でも優勝して見せると大見得を切った、風間たちの野球がどんなものかを知らないのだ。

「わかったわ、私が、マイクロバスの手配をするから、朝5時に正門前に来て頂戴」

エーン、エーン、弥生はわざと声を上げて泣いてしまった。


早朝6時、すでに大宮西野高校の野球専用グラウンドでは、試合が始まろうとしていた。

なぜか、品村は相手ベンチにいて、西野高校の前田監督の側で話していた。

「おい、品村、本当に大丈夫なんだろうなあ、おまえの願いだから無理したんだけど、我が高も、神宮大会高校の部ではエントリーされてるんだからな、つまらん試合をしたらただじゃおかんぞ」

「まあ、まあ、先輩、私もまだ実戦は見たことが無いって言ったじゃないですか。何を隠そう、これが彼らの初戦なんですから・・・自信をなくさねばいいんですがね」

「まあ、だめだと思ったら、試合を打ち切るまでだ」

マウンドには藤村が立っていた。1塁に木下、2塁が鈴木、3塁が小笠原、遊撃手に今井、左翼に松本、中堅に堀井、右翼には亀井がいた。

「さあ、やってやるぞおお、みんな、緊張するんじゃねーぞおお」

大声を張り上げたのは捕手の風間だった。

「よーし、サード、小笠原から行ってみようかあ」

風間は左バッターボックスに1番打者が立つと、構える前に、そう叫んだ。

藤村はコクリとうなずく。

「なに?おい、品村、どういうつもりだ。あの投手のスピードなら、らくらくホームランだぜ」

「さあ、何しろ私も見るのは初めてですから」

二人の会話の間に、バットがボールを叩く音がした。

「サード!」

打球は激しく小笠原の前でバウンドし、その胸に当たった。慌てて拾う小笠原だったが、ボールに手がつかない。

「よーし、オーケー、オーケー。それでいいぞ。じゃあ、もう一度いってみるか」

2番バッターは、右バッターボックスから、どうしたものかと前田監督を見た。

「かまわん、好きなように打て!大きいのでかまわんぞお」

「おや、おや、送らないんですか?」

「サードに打たせると言ってるんだぞ、内角に来るんだろう、思いっきりホームランを打たせてもらうさ」

1球目は外角へのゆるいスライダーだった。

2番バッターは、前につんのめりそうにながら、見送ってしまった。ストライクである。

「なるほど、サードへ打たせるというのはブラフか?」

「まさかでしょう、風間と藤村はそういうことはしませんよ」

藤村の2球目は、バッターが待ってましたと振ることができる内角の真ん中の高さである。

「しめた!」

しかし、思いっきり振った打球は、力なくサードの前に転がった。ダッシュで手に取った小笠原は、1塁へめがけて投げた。

しかし、その送球は、木下のライトよりに反れ、しかも高かった。だが木下の反応はすごかった。思いっきりジャンプしてキャッチしてしまったのだ。だが1,2塁オールセーフだ。

「きゃっ、純ちゃん、カッコイイ」

弥生は両手を胸の前で合わせて喜んだ。他の応援団もまた、キャイ、キャイ、喜んだ。

「ほう、あのファーストはやるなあ」

「そうですかね、1,2番ともサードに打たされてますが?」

「うむ、カットボールかなあ、沈む球を投げているんだろうなあ。一見打ちやすそうだが」

「サード!ドンマイ、ドンマイ、今ので十分だ。じゃあ、次はセカンドだ、鈴木、行くぞ!」

これには、来年のドラフト候補生の一人でもある、左打ちの3番バッターもカチンと来た。ボックスをはずし、2度、3度と素振りをくれた。

「ほう、ナイススイング、一丁、セカンドに打ってくれや」

藤村は1塁、2塁を目でけん制しながら、真ん中高めに投げた。

バッターが思いっきり振ったところで、ボールは大きく内角へ曲がった。

「し、しまった」

バッターがそう思ったときはすでに遅かった。打球はつまった感じで、鈴木のグラブに納まり、ボールはショートの今井のグラブに納まった。その瞬間、一塁ランナーのスパイクが今井を襲う。

今井は、何事も無かったようにジャンプしながらボールをファーストに投げ、ランナーを交わして、前転し立ち上がった。木下は、思いっきり右足を伸ばすとズッと滑らせ、ぴたりとグランドに。それはダブルプレーの完成だった。

「きゃあああああ」「キャアアア」

応援団は大騒ぎだった。

「なに、あれ、見たあ、見ました、コーチ」

「うん、今井君てあんなにすごいんだ!びっくりしちゃう」

「今井クーン!」

みんなの声が飛ぶ。

今井は、軽く帽子を取って答えた。

「なんだ、あのショートは、あんなプレー、日本のプロでもなかなかお目にかかれないぞ。それにファーストのやろう。やつらは何者だ?」

「私も初めて見るんですからね。それより、3人とも注文どおりに打たされましたね」

「くっ、だが、4番こそ来年のドラフトの超目玉だ。ランナーは3塁にいる。あのピッチャーじゃ持つまい。でもなあ、敬遠はなしだぞ」

「当然でしょう、胸を借りてるわけだし、逃げてどうします」

「よーし、藤村、3球でいいぞ」

サードに目をやりながら、藤村はうなずいた。

前田監督が驚いた。3度続けて息を呑んだ。

「なんなんだ、あのピッチャー、っ知らんぞ。俺は藤村など去年聞いたこともなかった」


「ほらね、送っとけばよかったでしょう?」

「よーし、ご苦労さん。みんな上出来だ」

選手がベンチに駆け寄ってくるのを迎えたのは、谷田監督である。

「鈴木、おまえやるじゃないか、小笠原もなかなかいいぞ、後ろにそらさなければおまえの勝ちだ」


2010/04/01 ちいーまん

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