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SS倉庫コミュの【オリジナル】魔都の歩きかた〜A child of Pinocchio〜#捜査ファイル4『オールドシード』(8)

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〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜新歴99年、3月12日、午後16時24分、『里』周辺〜〜


自滅し、意識を失ったクラウスを睨めつけながら雪は小さく呟いた。

「……畜生」

あの時、クラウスは勝っていた。
だが、クラウスは勝利を捨て敗北を選んだ。
そうした理由を雪は、誰よりも理解していた。

「自分を殺そうとしている奴を『殺さないため』に負けるかよ?普通逆だろうが」

跳んだ刹那、クラウスは自身の速さが『速過ぎる』事に気付き、そのままの速度で頭に触れていたら雪の首は折れないまでも危険な状態になっていただろうと判断した。
それは事実、間違っていない。

「……?」

ふと、雪は俯せに倒れたクラウスの髪の隙間に光るものを見つけ、おもむろに手を伸ばし掴んでみた。
掴んだそれは最初こそ僅かな抵抗を見せるが、少し力を籠めるとすんなりと抜け白日の下にその正体を晒す。

「糸?
……いや、針か」

柔らかいが、先端の尖りから針と認識できたそれは、不意に雪の手の中で砕けて砂となり風に吹かれて散った。

「……ちっ」

雪は苛立ったように舌打ちすると、曲げた薬指をくわえ指笛とし甲高い音を鳴らした。
すると、一分と経たずに数人の気配が雪の背後に現れた。

「状況は見てたか?」
「ああ」

雪はその答えにまた舌打ちをすると、「長に伝えろ。客を招いたとな」とその者達に言った。

「それと、こいつを私の屋敷に運べ。
丁重にな」
「……いいのか?」
「……あ?」

その言葉に、雪はジロリと言った者を睨んだ。

「二度は言わねえ、さっさとしろ。
それと、炭焼き小屋の糞餓鬼共も一緒に長の前に引っ立てておけ」
「……わかったよ」

鋭い眼光の奥の殺気にその者はたじろいだが、すぐに立ち直り雪の言葉に従う。
クラウスが担ぎ上げられリク達と共に運ばれていくのを見届けると、雪は苛々を隠す事なくその者達の後を追って山の奥へと進み始めた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜新歴99年、3月14日、午後19時45分、新東京〜〜


時刻は夜を示す街中を一人の奇妙な『鬼王』の十代前半かそれ以下と思われる少女が歩いていた。
奇妙なことに、春先とはいえこの時刻になればそれ相応に冷え込むのだが、その少女は着流しに薄手の羽織り一枚と軽装にも関わらず特に寒さを感じているふうでも無い。
しかし、この少女の奇妙な事はそれだけではない。
この少女は、背と脇に身の太さに迫る程の酒樽のような太く長い筒を二つ括り付けているのだ。
少女が歩く度にがちゃがちゃと音が聞こえることから、中には固い棒状の物が何本も収めてあるのが聞いて取れるが、少女はそれをさも当然とぶら下げているのだ。
しばらく歩き続けた少女は、入口に警備の者が待機する一つの建物の前で立ち止まった。

「これはこれは。
このような時間に御足労致しますとは、なにかあったのですか?」

屈強を絵に描いたような『神羅』の警備員は、少女に気付くと畏まってそう尋ねた。

「うむ。
ちと聞きたいことがあってな。
あやつはおるか?」

まるで老女のような似つかわない喋り方に驚きを見せる事なく警備の者は答える。

「はい。
ですが、昨日は大分早く起きていたようなので今は書斎にてお休みかと思いますが…」
「んなわけがあるまいて。
あやつの事じゃ、どうせ寝る間も惜しんで意味不明な文字で遊んでおろうて。
中に入らせて貰うぞ」
「その…一応、お荷物を預からせてください。
貴女様とはいえ、こちらも仕事ですから」
「ふむ。
致し方ないの」

男にそう応じ、背中と腰の筒をそれぞれ一つづつ渡した。

「っ!?」
「ぐっ!?」

直後、筒を受け取った警備の者達はその重さに驚き取り落としそうになるものの、それを意地で踏み止まる。

「こ、これ、何キロなんですか?」

努めて平静を保ちながら一人がそう少女に尋ねると、少女は槎もあらんと平然と重さを口にする。

「ん?
確か、一つ30貫(90kg)程じゃな。
なんじゃ、主達にはちと重かったかのう?」

二つ合わせて200kg近い荷物を少女が苦もなく背負っていたという事実が彼等のプライドを刺激した。

「…い、いいえ。
そんな事はありません。
詰め所にて預からせて頂きますので、お帰りの際には申してください」

脂汗を浮かべながら無理に笑顔を浮かべてそう告げた警備の者に少女は頷くと、今度こそ建物の中へと向かった。

「まったく、最近の若い者は意地ばっかり大きゅうなって、腰をおかしくしてもしらんぞい」

屋敷に入り目的地までの廊下をさくさく歩きながら少女はそう外見からは不釣り合いな口調で呟きつつ進み、目的の場所にたどり着くとノックせずに扉を開いた。

「邪魔するぞい。
……と、やはりか」

部屋の中は、少女の予想が完璧にそのままだった。

部屋の中には壁という壁に本が敷き詰められ、床には数式らしき文面に埋め尽くされた紙の山がいくつも散らばり、それでも足りなかったらしく空いている壁や床にまで数式が書き連ねられていた。

「パルティ。
おるなら返事をせい。
さもなくば、この紙の山に火を放つぞ」
「待った待った待った!!
ようかく完成した公式を焼くなんて勘弁して!!」

少女の言葉に応じるように一際堆い紙の山が崩れ、中から眼鏡を掛けた『神羅』の女性が飛び出すように現れた。

「……よもや紙の山の中に巣を張るとはな。
主はいつから蓑虫になったのじゃ?」
「違う違う。
完成した公式の確認しようと紙を引っ張り出そうとしたら、バランスが崩れて起きた雪崩に巻き込まれただけだよ。
そしたらインクの匂いが気持ち良くてついうとうとしちゃったけどね。
あ、でも、公式の紙束に埋もれられるなら我はそれもありかな」

にへらと笑いながら吐かれた思いっきり間の抜けた台詞に少女は苦笑を返す。

「主も相変わらずよのう。
して、時間を取らせて悪いのじゃが、凶報が二つある。
どちらから聞きたい?」

苦笑が消え引き締まった顔でそう問われたパルティは、三つすべての目をカバーする眼鏡の位置を直し答える。

「最悪じゃないほう」
「うむ」

答えに頷くと少女は要件を話始めた。

「数時間前、ウルル近辺で大規模な戦闘が起きたそうじゃ」

その話に、パルティは目を細める。

「先程、血相を変えたフェナが確認に発ったが、まあかの地には『緑』殿がおるからして、大事はなかろうよ」
「…そうかな?」
「なに?」

パルティは眼鏡のブリッジを押し上げ、不可解だというのを隠さない少女に言う。

「いくら我達『女王』に比肩するドラゴンの長『緑』と言っても、彼もかなりの歳だ。
あまり楽観はしないほうが良いと思う」
「……確かに。
本人も地力は既に衰えておるとそうは申しておったな」

パルティの言葉に、少女は頷く。

「それで鈴鹿、それは一先ず置いといてそれ以上に最悪な話って何?」
「うむ。
それなんじゃがな……」

真剣な顔で話す鈴鹿の言葉に、パルティの顔からも険が浮かぶ。

「……本当にか?」
「わっちとて耳を疑ごうたわ。
が、確かな筋の情報故、戯事と笑い飛ばせなんだ」

その言葉にパルティは額の目に力が篭るのを感じながら言う。

「となると、やらなきゃならなくなるね」
「じゃな。
アル殿には悪いが、『女王』として次の手は打たせてもらうとしよう」


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