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SS倉庫コミュの【オリジナル】魔都の歩きかたA child of Pinocchio〜捜査ファイル6『ブラッドチェイン』(3)

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〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜新歴99年、5月1日、午前10時10分、横浜〜〜


「…どうなってんだ?」

『走駆』を起動し自宅へと駆ける切は、視界に映る街の異常に眉を顰た。

街に、誰もいないのだ。

今切が走る道は、普通なら買い物客や散歩する者等で人通りが絶えない道なのだが、今はゴーストタウンのように誰もいない。
更には店という店が軒並み戸を閉め、竜神会がいつも頭を痛めていた露店が一つも見受けられない。

「……『疾駆』起動」

言い知れぬ不安が去来し、切は神奈川では違法の『走駆』に『疾駆』を重ねる二重加速を起動し全速力で事務所へと疾る。
そしてビルが見える角を曲がった直後、『魔式』を切り呆然とビルを見上げてしまった。

「……なん……だと」

事務所がある二階に、人一人が楽に通れそうな大穴が空いていた。

「…っ!?」

呆けている場合ではないと切は急いで階段を昇り、クゥが眠る部屋の扉を開いた。

「クゥ!! …っ!?」

だが、そこにはクゥはいなかった。
そこに居たのは、破壊された機材に身体を押し込まれ両腕を失い着物の左脇腹に大穴を空け機能停止した通恋だけだった。

「通恋!?」

急いで抱き起こしてみるが通恋は人形のようになすがままで反応は無い。
視線を移し脇腹の傷を確認した切は、信じられない事に気付き呻いた。

「……『タケミカヅチ』を、奪われてるだと?」

脇腹の傷は、ちょうど人間の腎臓がある位置と同じ場所に開けられており、本来なら【RAIJIN】の一つ『タケミカヅチ』が有るはずなのだが傷口の奥には何も無かった。

「…『精神プログラム』は大丈夫みたいだな。 しかし、一体誰が……?」

通恋の緊急保護を確認し安堵した切が破壊された通恋の右手に何かが握らされていることに気付き、それを拾い上げる。
通恋の握っていたのは小型のホログラム映写機だった。
録画データが入っている事を告げるランプが点灯しているのを確認した切はそれをポケットに捩込み、通恋の応急修復と回収の手続きを行うため端末を片手に自分の予備パーツを保管しておいてある四階へと駆け出した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜新歴99年、5月1日、午前09時20分、八王子、PCサービスセンター・地下〜〜


付着していたジェルを拭い、スーツを着たクラウスは改めてリシルを問い質した。

「リシル。 貴方は何を考えているのですか」

『イザナミ』の指示に従うならば、切を強化する意味も、クラウスを修理し着替えを待つ理由も薄い。
寧ろ、この期に乗じて二人を撃破する方が効率的で安全だ。
尤も、最大出力稼動すらも必要としない分意味は薄いともいえるが。

しかし、そんなクラウスの懸念をリシルは笑う。

「僕はオペレーションに参加する気は無いよ」
「…なんですって?」

世界の命運を賭けた大博打を、リシルは拒否すると言いその理由を口にした。

「正直、世界がどうなろうと僕はどうでもいいんだ。
カナや通恋みたいに人間に愛情を感じていないし救いたいとも思わない。
逆に、奴やダナラのように敵意を持ってもいないし排除したいとも思わない」
「…」

リシルの真意が分からずクラウスは押し黙り、リシルは更に続けた。

「更に言えば、兄さんみたいな憧憬も無ければEXISみたいに恐怖も感じない。
クラウスはどうだい?
君は、人間に特別な感情はあるの?」

クラウスは、すぐに答えられなかった。

アルや雪を始め特定の人物に対して深い敬意や強い有為を感じてはいるが、人間全体と言われればわからない。
逆に、特定の人物以外がどうなろうと関係ないと思っている。

だが、

「確かに、私も貴方と似たような意見です。
ですが、決定的な違いがあります」
「……へぇ」

閉じられた双眸をまっすぐ見据え、クラウスは自分の答えを口にする。

「私はアル様の従者として、また、切の弟として二人の助力となりたい。
確かに私は大多数の人間がどうなろうと構わない。
ですが、二人が世界を救うというなら、人間を助けるというなら私は一切の迷いなく私は力を振るい助ける。
それが、私の答えです」
「……まったく、他者のために動けるなんて…クラウスは強いね」

しばしの間を置きリシルはそう苦笑すると、椅子から立ち上がる。

「じゃあ、オペレーション通り殺し合うかい?」
「まさか」

リシルの言葉を笑い飛ばす。

「今から別の手段を探します。
半月も無いと貴方は言いましたが、逆に言えばそれまでに『白翼』の裏を斯く手段を見付け講じれば済むのです。
私はリーダーとして、浅慮な決定に従うつもりはありません」

そう言うと端末に手を伸ばし『イザナミ』へと通信を始めようとしたクラウスだったが、それより早く携帯端末がアルの着信を継げる。

「アル様…」
『クラウス、動けるわね?』

通話状態にするなりの唐突なその言葉に、僅かに戸惑いつつクラウスは「問題ありません」と答えた。

『すぐに『スクルド』と『オルトリンデ』を持って切の事務所に向かいなさい。
『女王』は使用の許可を出しているわ』
「……何故ですか?」

『イザナミ』の決定に伴い【OP】専用兵器『ワルキューレ』の使用が正式に許可されたのは解る。

だが、参加者でない切にまで『スクルド』を与える理由が解らない。

『治療中のクゥが掠われたわ。
犯人は【P1】天 薙よ』
「なん…ですって?」
「野郎…そうきたか…」

その言葉はリシルにも聞こえたらしく、苦虫を噛み潰したような表情で声を零す。

『更に薙は通恋から『タケミカヅチ』を奪っているらしいの。
貴方はあらゆる最悪を通り越した最低の状況を想定していかなる手段をも講じ行動なさい』
「アル様は如何するのですか?」

話振りから別行動を執ろうとしていると察したクラウスが尋ねると、アルは思いもよらぬ答えを言った。

「私は皇居に向かうわ」
「……はい?」
『おそらくだけど、この件に深く関与している筈の人物に会ってくるわ。
クラウス、一度しか言わないからよく聞きなさい。
もし、私の予感が的中していたとしたら、その時は切を見捨ててでもクゥの安全だけを最優先に動きなさい』
「どういうことですか!?」
『クゥは19年前の事件の際中心にいたリューイと菫の娘なの』
「あの二人のですって!?」

19年前、『白金(しろかね)』と呼ばれた『獣偉』の戦士リューイと皇族の家系に生まれた女性を巡り騒動が起きた。
その二人の娘であるクゥの『安全を最優先』にしなければならないということはつまり…

『それ以上は説明している暇は無いわ。
とにかく急ぎなさい』

全てを告げずブツリと一方的に通信を終わらせるアル。

「アル様!?」

クラウスは即座にかけ直すが、電源を切ったらしく繋がらなかった。

「まさか…いや、しかし…」
「急ぐよクラウス」

困惑して固まるクラウスを、踵返しメンテナンスルームの扉を開いたリシルが急かす。

「……手を貸す気ですか?」

薙との衝突がほぼ確定している今回の事件に、オペレーションを拒絶したリシルが動く理由は無いはず。
戸惑うクラウスだが、リシルは真剣な顔で言う。

「奴の目的が気になるんだ。
それに…」
「それに?」
「兄さんを助けたいと思ってるのは、なにもクラウス、君だけじゃないんだよ」
「……そういうことですか」

ようやく、クラウスはリシルの真意が僅かだが理解できた。

「お互い、不器用ですね」

リシルは人間が滅びても構わないが、切が死ぬのは嫌なのだ。
そのために現段階で最強の駆体を用意し、これから始まる戦いの支度を整えた。

「…兄さんほどじゃ、ないけどね」

そう僅かに笑うと表情を引き締め、追って歩き出したクラウスと共に『ワルキューレ』が眠る地下へと続く道を歩き出した。


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