THE　感動する話コミュの一羽の折り鶴(投稿者の実話)

折り紙を手にして１4年かぁ……。
あの時、折り紙に出会ってなければ自分を殺していたか人を殺していた…もしくは心のない人形のような廃人になっていた。

６～７歳の物心ついた時には暗闇の中にいた。どう抗っても抜け出せない。光すらない。

父親が母親に一目惚れして結婚して産まれた。
しかし父親は体目当ての最低な人間だった。
物心ついた頃には父親は会社の社長でギャンブルにハマっていた。

賭け事の勝ち負け次第で態度が変わった。
勝ったら育児放棄してるくせに優しくしてくれて、負けたら腹いせに殴ってきた。
大人のパンチを喰らって泣かない子供はいない。でも泣いたら「うるさい」と理不尽に蹴り上げられた。

そして母親は父親があんなクズだから理想を子供に押し付けた。
「ピアノができたら良いな」
「空手ができたら良いな」
「字が綺麗な方が良いよね」
「勉強もできた方が良い」
毎日が習い事だらけで友達となかなか遊べなかった。
……まぁ、友達は少なかったけど。

子供にできる反抗と言えば習い事をサボるだけ。
そしたら最大で３日はまともな食事はなかった。
子供だからコンビニやスーパーで食べ物を買う事も出来ない。
水道水で飢えをごまかす？
…愛媛県はよく水不足になって蛇口から出るのは泥水。
水不足対策に冷蔵庫には御茶や水が保管してあるが、大量に飲んだらどうなるかは子供でも想像できる。

生ゴミを食べたし、捨ててある革靴もかじった。
もちろん泥水も飲んだ。

そして…… 楽になろうと自分を殺そうとした。
幸せになろうと親を殺そうとした。

自殺未遂・殺人未遂。まだ１０歳にもなってないのに、今考えたら狂っている。

何度…親を殺そうと深夜に包丁を持ち出したことか。最初は手が震えていたが、だんだん手が震えなくなる。

そんな生活。

ある日……… 幼馴染みの女の子が遊びに来た。折り紙で遊んだ。その時にその娘から折り鶴を教えてもらった。

「折り鶴って１０００羽折ると願い事が叶うよ」

自分の力では何にも変えられないから奇跡を求めた。奇跡にすがった。

でも奇跡を起こすのは人間だと信じていた。

そして月日は流れて小学校中学年～高学年。
イジメに遭っていた…。
春夏秋冬、長袖長ズボンという服装だったからだ。
春秋冬はこの服装でもあまり不自然ではないが、真夏だと不自然。
イジメる理由なんて小学生ならそれで十分だ。

父親に殴られてできたアザを見せないために長袖長ズボン。

あの幼馴染の女の子にも心配はかけたくないから笑顔で大丈夫だと嘘をつき続けた。

そして小学校卒業後に両親が離婚。

それは突然だった。
『パパについて行くか、ママについて行くか決めなさい』

12歳の時だ。離婚なら世の中に同じ経験をした子供もいるだろう。しかし、その子供達と俺は違うと思う。

父について行けば愛媛に残る。母について行けば広島に行く。

本当は父について行きたかった。
あの最低で最悪な生活の元凶である父を殺害しようと考えていた。
夜中に眠っている時なら包丁等で刺殺できる。

でも考え直した。弟は俺の後ろをよくついて来る。弟も一緒に父について行くって言ったらどうしよう。

父を殺害して、俺も死ぬつもりだったから弟は独りになってしまう。独りになっても、すぐに母に引き取られるのは予想してる。

でも兄弟が身近で死ぬのは体験してほしくない。

そして誰よりも仲の良い幼なじみを悲しませたくない。

それを考えた。まだ12歳の時に。

選択に迷う事は許されない！迷えば弟も迷ってしまう。だからハッキリと即座に選択肢を選んだ。『ママについて行く』弟も同じだった。

その後、最悪な事態になる事も予想していた。
『俺が嫌いなんか(怒)!!?』父が激怒して、また暴力を振るってくる事だ。

だから俺はズボンの腰に包丁を隠していた。正当防衛として父を刺すつもりだった。しかし、力勝負になったら勝てない。

その場合、包丁はフェイントになる。力負けしたら包丁を奪われる予定だった。人間は相手が持っていた武器を奪うと少しだけ安心する。

それで安心すると油断してしまうのが人間。その隙にポケットに隠したナイフで刺してやるつもりだった。

まだ12歳。

目の前にいる巨悪を倒すよりも、近くにいる兄弟と大好きな幼なじみの事を考えた。

だから広島に来た。幼なじみには『大好き』と言ってない。言えば愛媛に残りたくなる。友人にすら詳細を言わずに去った。悲惨な生活の果てに広島に引っ越す事になったなんて言えなかった。

母親について行って広島で生活。中学校時代は特に何もなく過ごせた。ただ中学校卒業間際に母親に彼氏ができた。その男性は良い人だったが酒癖が悪くて酔った時には何度か衝突した。

そして高校入学。中学生時代と同じく美術部に入部。絵筆を持たない美術部員だった。

そして高校２年生で民間催事団体の連鶴講師になった。小さな目標、達成した。でも……誰もいない。同じ目標を持った子は心臓の病気が悪化して既に雲の上。同じく曾祖母も小学校高学年の時に天に召された。応援してくれた友人たちは遠い海の向こう側。

大好きな女の子がいる。その娘と出会ったのは約16年前。

その娘とは幼なじみ。強くて明るい。そして、とても優しい。そんな強さに憧れた。

ずっと一緒にいたいから自分も強くなろうとした。そして出会ってから約8年後。その娘と離れ離れになった。

本当は一緒にいれた。親の離婚がきっかけで離れ離れ。母につけば広島へ行く、父につけば愛媛に残れる。

だから、また会えたら一緒にいたくて強くなろうとした。

覆面とは自分を隠すモノ。仮面とは自分を偽るモノ。

あの娘と離れ離れになってから覆面をかぶり、その上から仮面をかぶった。

どんなに辛い事があっても笑顔でいる事が強さの証明だった。そしてさらに強くなる為に新たな思想を持ち始めた。

『絶対に悪には屈しない』

あの時、悪に屈したから…あの娘と離れ離れになったんだ。

そして『悪はどんな手段を使ってでも殲滅する』という自分に変わった。

そして自分を偽り続けた。友人を助けるために。家族を助けるために。

悪人を倒す為なら手段を選ばない。友人を助ける為なら尚更、手段を選ばない。爆破攻撃・心理戦・罠・謀略……。

本当は昔から貧弱な体質だった。そんな体に無理させて基礎体力を無理矢理に上げた。 …… 無理矢理に基礎体力を上げて周囲からは『体力バカ』と言われるようになった。

そして、その強さを求めた果てに辿り着いた結末。あの娘はこう言った。

『昔の凱が好きだったよ。無邪気でヤンチャだけど、とても優しい。そして自由にありのままに生きた凱が好きだったよ。広島に行ってから変わったんだね…』

昔に戻りたい。でも時間は一方通行で未来にしか進まない。強さを求め、あの娘と一緒にいる未来を求めた果てに残ったのは…… 無理してボロボロになった体と、ボロボロになった心… …。そして、あの娘がくれた折り鶴。

変わってしまった俺はもう、あの娘と一緒にはなれないだろう……。

大好きな折り紙をするたびに、あの娘と過ごした日々を思い出す。大好きな折り紙をしてるのに、胸が痛い。

14年間も頑張った事が無意味だったようで虚しい。

でも立ち上がる！あの娘に本当を伝えたい。広島に来て変わったんじゃない、君に出逢って変わったんだと。君と一緒にいたくて変わったのだと。

そして……… 14年間も心の支えになっていたモノを失った。 14年間も抱いていた信念は折れた。『大好き』ではなく今はもう『大好きだった』人がいる。

折り鶴をくれた幼なじみ。やっと会えたのに嫌われなければならない現実。大好きだったからこそ、嫌われなければならない。

愛媛に行った理由。

①悪人の口を塞ぐ。悪人の組織そのものを潰す。 (大切な人達を守る為)

②ずっと大好きだった人に『大好き』と伝えたい

①は完了。 ②は半分完了。

大好きだと伝えたい。でも、できない。嫌われなければならない。

人間ってやつは責任や傷を押しつけ合う。その傷は時間が経てば消えるってもんじゃない。誰かが背負わなければならない。僕は黙って見ているなんて無理だ。その傷を大切な人達や友人が押しつけられるのを黙って見てられない。

俺が全て引き受ける。

だからこそ、幼なじみに嫌われなければならない。傷を押しつけ合う連鎖の中から、救い出す為に。簡単な事。押し付ける側に仕立て上げれば良い。

～～～再会～～～
20歳になって……。幼なじみに9年ぶりに会った。前文のように嫌われた。幼なじみに嫌われそうな事をした。幼なじみの事だからよく知っている。

嫌われる前……

俺『ずっと大好きな人に会いに来た』

幼なじみ『え！会いに行けば(^^)/』

俺『すぐに会える。電話してみようかな』

幼なじみ『それが良いよ。私は夜に仕事があるから少し寝るね(^。^;)』

この後に嫌われそうな事を実行。初めて聞く幼なじみの怒った声。初めて見る幼なじみの怒った顔。

その後、幼なじみの前から消えた。

幼なじみは俺を探していた。きっと仕事に行く前に携帯電話を操作したんだろう。

『大好きな人に電話してみようかな』

それを言った直後の時間に僕からの着信履歴があるから。

夜に仕事ある事、寝てる間は電話に出れない事、全て知っていた。

ごめんな。さよなら。和解はできない。嫌いになったままで良い。今まで、ありがとう。

～～～折り紙少年～～～
幼なじみに嫌われた。

深夜に公園のベンチに座って、これからやる事の確認をしていた。全て失っても前を見て進む。

懐かしい公園だ。よくここで遊んだものだ。友人は少なかった。

少なかった友人はよく折り紙を応援してくれた。そんな友人達にちゃんと別れの言葉も言えずに広島に引っ越してしまった。

親に酷い事をされた果てに広島に行く事になったなんて、友人達には言えなかった。友人達に心配させたくなかった。

適当な折り紙を置き手紙に使う。

『元○○小学校6年4組折り紙大好き少年参上！』

その置き手紙と一緒に作品を友人達の家のポストに突っ込んで行く。懐かしい町を走り回った。

友人達に会う事はできない。会えない。愛媛に来たのは嫌われる為。幼なじみと友人達とで俺が態度を変えたら、幼なじみにバレてしまう。

走り回ってたら、いつの間にか朝。

そろそろ帰るかな、広島に。

みんな、今までありがとう。さよなら。

……同い年くらいの人が早朝から数人、走り回っていた。その人達は手に折り紙を握り締めていた。友人達だとすぐに気づいた。面影がある。

だが、会う事はできない。

でも元気そうで良かった。

かつての友人達に見つからぬように薄暗い裏路地を通った。子供の頃は近道に使ってたかな。

視界に霧がかかってきた。視力は両目とも2.0 だぞ？視線が低くなった。自分が膝をついてる事にすら気づかなかった。

最後に見たのは地面。やっぱり6日間も徹夜して走り回ったら倒れるか(笑)

～～～折り紙～～～
ずっとずっと大好きだった幼なじみと一緒に歩む未来が夢だった。

『折り鶴って1000羽折ると願い事や夢が叶うんだよ』

その幼なじみの言葉と暖かさで正義感と希望を抱いた。

その願い事や夢の中には幼なじみと一緒に歩む未来も含まれていた。そして願ったのは平和な世界。

それが信念だった。絶対に平和な世界がくる。

幼なじみと一緒に歩む未来が心の支えだった。

心の支えを失った。 14年間も抱いてきた信念も折れた。

平和な世界‥‥‥ 幼なじみと一緒に歩む未来‥ ‥

最後は人々の悪意そのものと、自分の正義感に引き裂かれた。なんて不条理で理不尽なんだ。なんて皮肉なんだ。

『ずっとずっと頑張ったのに、たった一つの願いも叶わない』

『こんな世界なんて‥‥』

それ以上は言わなかった。それ以上言ったら本当に悲しみや憎しみに染まってしまう。

～～～子供達～～～
子供達を見ると昔の事を思い出す。暗闇にいた自分を思い出す。

『あんたさえ、いなければ！』

理不尽な理由で母に首を絞められて殺されかけた事もある。その言葉が頭から離れない。

その他にも辛かった記憶が頭から離れない。

ただ子供達を笑顔にしたいという意志があるだけ。子供達のために、誰かのために。

折り紙を諦めようかと真剣に考えた。たった1 つの願いも努力も報われなかった。

『子供達のために、誰かのために』俺にできるのは折り紙だけか…… しかし、それすら報われなかったら？

それが怖かった。

また、虚しい結末になったら？そうなる前にやめた方が良いのかも知れない。

しかし、俺自身の一部とも言える…物心ついた時からそばにあるモノをやめたら俺は何になるんだ？

何も残らない。続けるのも怖かった、やめるのも怖かった。折り紙を折っていても、ただ毎日をどこか無気力に生きていた。

そんな、ある日…… 折り紙講座の依頼主から話を聞いた。『この前、講座に来ていた4歳の子供が折り紙が大好きになったそうだよ。保育園でも人気者だってさ(^0^)お母さんも子供が明るくなって、人気者になって喜んでるよ』

あぁ…この前、車の窓から嬉しそうに手を振っていた子供か…。

何かに…誰かに感謝したわけでなく『ありがとう』という言葉が自然に出てきた。