僕は出張から帰宅の途中
路面電車に乗り込んでいる
時は夕刻
街を闇が包もうとしていた
サイレンの音
救急車がすれ違う
停車したパトカーの傍では
一人の男を複数の警官が取り囲んでいた
電車の座席で眠る人
お母さんの隣から
小さな少女が僕に笑いかけてくる
目があって、思わず微笑んでしまう
路面電車はデパートの前を曲がっていく
車輪が軋む
停車場で降りる人にサヨウナラ
僕の降りるべき場所はどこ？
民家に葬式の花が出ている
結婚式場のお洒落な建物がライトアップされていた
産婦人科の駐車場は車でいっぱい
窓の外の風景が見慣れたものにかわる
そろそろボタンを押さなくちゃ
自動ドアが開き タラップ
空には月と星とマンションの灯り
重いビジネスバックを下げて
舗道を歩く
うつむき衿を立てて
エレベーターの数字の電飾
誰もいない箱のなかで
少し重力を感じる
扉に鍵を差し込み 中に入ると
「おかえり」って君が僕の首に巻きついてくる
なによりもさきに君を抱く
そう、ゆっくりと……
ＥＮＤ
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