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アナタが作る物語コミュの【刑事】 2 ハッピーバースディ

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 またまた犯罪です。病んでましたね。わーい(嬉しい顔)
 そして、梶山先輩と岸田刑事登場編です。

 約5700文字です。初出 09/05/29

 第一話 花ざかりの庭はこちらから。↓
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                     携帯電話

 井上亜紀の携帯から救急に電話が入ったのは13日の日曜日。昼の11時2分だった。

 友人宅に戻ったら友人ふたりが倒れていて、変な臭いがするというものだった。
 もっとも、それほど簡潔に話したわけではない。電話を受けた署員があわてる彼女に、ていねいにひとつひとつ聞いていき、わかった。
 10分後、救急車がついてかけつけた隊員がベランダにいる3人の少女をみつけた。
 ひとりは電話をした井上亜紀、友人達からはイノとよばれていた。元気だった。
 残りのふたりはイノの友人、ミカとチヨだった。
 イノが通報をした時には倒れていたと言うが、隊員がついた時には顔色も良くなっていた。だが、ふたりともベランダにしゃがみこんで辛そうだった。
 3人とも中学1年生でクラスメイト。小学校からの仲間だった。
 イノが換気扇を回し、ふたりをベランダに引きづり出した。そして、救急車を待つ間にかなり回復したのだという。

 イノはそのマンションの持ち主の一人娘の佳也子(カヤコ)が風呂場に居るはずだと言った。
 風呂場はまさにその異臭の発生源と思われた。危険を感じイノは近寄らなかった。その事がイノの命を救った。

 風呂場の異臭は簡単な事故だった。塩素系と酸素系の漂白剤を混ぜて洗面器に入れた。そのために青酸ガスが発生したのだ。
 カヤコは助からなかった。


「梶山先輩。何をしているんです?」

 少年課の刑事になってまだ間が無い岸田が聞いた。梶山は岸田より15歳ほど年上の同じ少年課の刑事だ。ベテランと言える。岸田が配属されてすぐに、ふたりは組んで仕事をするようになった。つまり、梶山は岸田の教育係だ。

「証拠品の整理さ。科捜研から最後の結果が届いた。これで全部だ」

「証拠って? ああ、この前の漂白剤の事故の…」

「ふん。事故ねぇ」

 梶山先輩は意味ありげに笑った。

「違うんですか?」

「ふっ…まずはこれだ。漂白剤のボトル。
 まずは塩素系。カラだ。カヤコの指紋がみつかった。次に酸素系。こちらからもカヤコの指紋がみつかった」

「ええ。だから、塩素系のほうは少ししかなくて、酸素系を足して使ったんじゃないかと…」

「問題はカラの塩素系漂白剤のほうの指紋さ。
 キャップから3個。親指、人差し指、中指が1個づつ。それだけだ。他の指紋は無かった。
 つまり、カヤコはこうやってボトルをつまんだんだ」

 そう言って、梶山先輩はビニール袋越しにキャップのところでつまんで見せた。

「開けるためには、もっとたくさん、たとえば左手の指紋も必要さ。だろ?
 酸素系のボトルからはしっかりとみつかっている。母親の指紋もあった。
 それまで使っていたんだ。あって当然だ」

「どういう事です?」

「つまり、塩素系のボトルをカヤコは開けなかった。つまんで持ち上げただけだ。
 ではこの塩素系の漂白剤はどこから来た?
 このカラのボトルを風呂場に置いたのは誰だ?
 なぜ、そいつの指紋は無い? 母親の指紋ぐらいはあってもいいだろう? 違うか?

 ついでに、付け加えるなら、塩素系の漂白剤は家には無かったはずだとカヤコの母親が証言している。これがその調書だ」

「でも、カヤコの友人が、カヤコが洗面所の下の戸棚から持ち出すのを見たと証言してます。母親の思い違いじゃないですか? 昔に買って、忘れていたとか」

「ふん。友人ねえ。そいつが本当なら、カヤコが3本指でつまんで戸棚から出したって事か?
 じゃあ、それっきり他の指紋が無いのはどういうわけだ?

 まあいい。その友人のひとり、通報者のイノだが。彼女はマヨネーズを買いに出かけ、戻ったら異臭がして友人が倒れていたと言っている」

「ええ、マンションの防犯ビデオでも確認が取れています。
 言っている通りでした。ひとりででかけて、30分後にコンビニの袋を持って帰っています」

「しかし、冷蔵庫の中にはまだ新しいマヨネーズが入っていたぜ。しかも2本。
 安売りだから2本買って、1本を使い始めたばかりだと母親は言っていた。
 なぜ、買いに行く必要があったんだ?

 さらに、風呂場のドアの近くの床に家具を引きずったような跡があった。
 これがその鑑定書と、写真だ。新しいものだという事は確かだ。
 キズのひとつは近くに置いてあった洗濯機がつけたものだそうだ。あとタオルなどを入れていた小さな整理ダンスのキズも。そんなもの普通は動かさないよなぁ。
 最近、動かした記憶は無いとさ。これも母親の証言だ」

 梶山先輩はいつもよりも口数が多くなっていた。何かに興奮して、たぶん何かをみつけてうれしくなって。岸田はそんな感じがした。

「おまえに調べさせたよなぁ。3人とカヤコの人間関係を、さ。
 誕生日に他の友人達よりも早く3人だけ呼び寄せて、一緒にパーティーの料理を作るような仲だったか?」

 確かに梶山に言われて、不審に思いながらも岸田は調べに歩いた。
 その時の事を思い出しながら答えた。

「いえ…。それは…カヤコの友人達も不思議がっていました。
 出身の小学校もカヤコは別でした。
 カヤコと同じ小学校から来た女子達のグループではカヤコがボスみたいなもので…」

「ああ、イノ達のグループとは微妙に距離をおいていた。というか反目しあっていたって言ってたよな。

 カヤコがイノ達を呼んだというのはイノ達の証言だ。
 一緒に料理を作り始めて、イノがマヨネーズを買いに出かけ、その後、カヤコのTシャツに醤油がこぼれて、カヤコは風呂場で漂白しようとした。
 風呂場から異臭がしてミカとチヨは気持ちが悪くなり、ベランダのガラス戸を開けて外へ出ようとして倒れた。
 イノが戻ってきて倒れているふたりをみつけた。つんとする臭いもした。換気扇を回した。
 しかし、ガラス戸が開いていたからか、イノにはたいした異常は出なかった。
 そして、ふたりをベランダへ引きづり出した。

 …だが、これは全部3人の証言だ。わかるか?」

 梶山先輩がなにを言いたいのかわかってきていた。しかし、岸田は聞かずにはいられなかった。

「でも…。なぜ…。うそをつく必要があるんです。だって…」

「事故じゃなかったからさ」

「そ、それは…」

 事故ではない。それは殺人を意味する。

「彼女達は自分達から押しかけて行った。
 母親は留守で、午後から友人達を呼んで、バースデーを祝う事も知っていた。
 醤油をわざとかけ、漂白する事をすすめた。塩素系の漂白剤を洗面器に入れ、足りないからと酸素系の漂白剤を風呂場に持ってこさせた。
 塩素系の漂白剤は酸素系のボトルに入れてあったのだろう。同じ酸素系のがいいと言えば、カヤコも自分で風呂場に持って行く。

 ああ? カラの塩素系のボトルは風呂場の真ん中にでも置いておけばカヤコがつまんでどけるだろう?
 その時に指紋がつく。つまんでどけるだけの指紋だ。合ってるだろ?

 そしてカヤコが洗面器に酸素系の漂白剤を入れ、青酸ガスが発生する前に、塩素系の漂白剤を入れていたボトルを持って風呂場を出る。
 3人でカヤコが外へ出られないように家具を移動してドアを押さえた。イノが買い物に行き、ふたりはベランダに出て風呂場が静かになるのを待った。
 それからベランダへのガラス戸を全開にし、換気扇を回し、空気を入れ替えてから、家具を元に戻した。

 すべてが終わり、イノに連絡をする。

 イノが買い物から戻り、救急に連絡をした。
 イノが元気に通報できる理由、そのためにイノは出たんだ」

「で、でも、まだ中学1年生ですよ。なんで殺す必要が…」

「それも、おまえに調べさせたじゃないか。小学生時代にイノ達にこき使われていた女の子がいただろ?」

「ええ。ほとんどいじめでした…。それが、なんで…」

「中学に入ると、他の小学校からボスが来た。カヤコだ。
 そして、彼女達のおもちゃを取り上げて自分のおもちゃにしたのさ。
 それもおまえが調べてきた人間関係にあった」

「だけど、だけど、なんでそんな事ぐらいで…」

「さあ、知らないな。なんでなんだろうな。だが証拠はそう言っているさ。

 死亡時刻だが微妙にずれている。30分ほどだがね。すぐに解剖されたので比較的正確だ。
 ミカとチヨの症状も本人達が言っているよりもずっと軽いものだった。これも医者の診断書がある。
 換気扇が回される音がして、かすかな異臭を感じたと隣の部屋の住人の調書もある。
 救急車が来るはるかに前、イノが戻って来るよりも前だった。おかしいだろ?
 イノが戻ってきてから換気扇を回したんじゃないのか?

 イノに、もう帰ってきていいと携帯で連絡を取り合ったんだろう。その履歴も取り寄せてある。
 換気扇も携帯も、ミカとチヨが気分が悪くなって倒れたと証言している時間帯だ。
 コンビニで時間をつぶし、ミカからの携帯を受けて出て行くイノの映像もある。
 きっかり、時間が残っている」

「じゃあ、やっぱり…」

 恐ろしいほどの切れ者だ…。だれもが事故だと思っていた。いや、だれが中学1年生の少女達が殺人を犯すと思うだろう。それを梶山先輩は…。

「先輩! 何をしているんです!?」

 証拠品を全てダンボールに入れ、ガムテープで封をし始めた梶山に岸田が聞いた。

「今、逮捕したってイノとミカは13歳だ。一番若いチヨは12歳だ。たいした事はできん。
 だが、2年と2ヶ月待てば全員15歳以上だ。うまくいけば刑務所に放り込める」

「し、しかし。彼女達が犯罪を犯した時の年齢は変わりませんよ」

「彼女らはおもちゃを取り返した。このままで済むと思うか?
 今はまだおとなしくしているが2年後にはエスカレートしているさ。
 物を隠せば窃盗。水をかければ傷害。金をせびれば恐喝だ。
 服を破けば器物破損。まだまだある。
 たたいて出るほこりは全部くっつけて送ってやる。続く非行の初めに殺人さ。

 成人の刑法犯なら、おまえの言うとおりだ。ひとつひとつ別々に審議される。

 だが、未成年を更生させて社会復帰させるのが目的なら、非行暦で一緒くたにできる。
 いっしょくたにされて、逆送されて裁判だ。大人とは意味が違う」

「先輩はそこまで考えて・…」

 いい先輩にめぐりあったのかもしれない…。岸田はうっかりそう思った。

「バカヤロウ。気安く尊敬なんかするなよな。
 俺は奴らを更生させる気なんかないさ。更生なんかできんよ。

 中学3年で、殺人犯のレッテルが貼られるんだ。
 少なくとも高校にゃ行けんよ。中卒の殺人暦のあるやつが仕事につけるか?
 うん? 雇う会社はあるか?」

「………」

「本人のよっぽどの覚悟と、親の金とつてがなきゃ無理だな。
 あいつらの親に金とつてがあったか? おまえ調べただろう? 普通の親だ。
 その上、娘が殺人だ。なけなしの金とつても吹き飛ぶさ。

 本人に覚悟はできそうか?
 いやいや、クラスメイトをおもちゃにして喜んでいたやつらにはできない相談さ。
 風俗か、クズ男か、ヤクか。
 どっちにしろやつらの一生は終わるんだ」

「先輩…。先輩、うれしそうなんですけど…ぼくの勘違いですよねぇ…?」

「いいや、うれしいよ。
 合法的に人間の一生をつぶせるんだ。こんなに楽しい仕事はないな。
 そのために少年課の刑事になったんだ。1年に何回かはこんなケースを扱える。
 おまえは? 正義感か?」

「………」

「さて、こいつを保管課に預けて…。
 俺のPCが、2年と2ヶ月後のチヨの15歳の誕生日に、こいつの封印を開けろと俺に教えてくれるわけだ。
 さて、岸田。預けてきてくれ」

 この男はクズだ…。岸田はそう思いながら重い箱と心を抱えて、保管課に向かった。
 でも、梶山先輩は本当にクズなんだろうか。もっとどこかに希望は無いのだろうか。



「シンコ。おかわり。今度はアイスミルクティーにして」

 さっきからイノとミカ、チヨの3人にかわるがわる注文をされて、シンコはドリンクバーとテーブルの間を行ったり来たり。まだ椅子に座っていない。

「シンコ。あんた忙しそうだから、あんたのパフェはあたしが食べておいてあげるわね」

 イノが言い。3人が目を見交わして笑う。

「ここ、あんたが払っといてねシンコ。ありがと」

 シンコが小動物の目をして、身をすくめる。

「あしたはチヨの誕生日だね。これで全員15歳だ」

「シンコ。あんたチヨに何をあげるの?」

「これから見に行かない? ねえどこ行く?」

「いいわねえ。駅前に新しいお店ができたじゃない? 行こ!」

「で、でも…そんなお金、もう…」

 シンコが脅えたようにつぶやいた。

「今日でなくていいのよ。あしたで。
 持って来るわよねえ。あんたが持ってないんだったら、親の財布から持って来なさいよ」

 イノがシンコの持って来たばかりのグラスをつかみ、中のアイスミルクティーをシンコの頭からかけながら言った。

 ファミレスの中がしんとした。


 翌朝、梶山のPCのアラームが鳴って、玉手箱のふたが開いた。

 梶山は岸田に、2年と2ヶ月前に封印をした箱を持ってくるように命じた。
 そして楽しそうに両手をこすり合わせ

「こまごました補強捜査をしなきゃならないなぁ…。まあ、たっぷり出てくるだろう」

 とつぶやいた。

 …終わり


 第3話 ハイドランジア(水の器)はこちら↓
 http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=74646586&comm_id=3656165


 この作品以外のシリーズ作品はこちらから↓

 作品一覧【2010/04/08 現在連載中】
 http://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=3656165&id=39667607

 【作品一覧【シリーズ/完結】】
 http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=39667339&comm_id=3656165



後書きに代えて

その1
 混ぜるな危険と書いてあって、塩素系と酸素系を混ぜると確かに危険です。
 場合によっては死にます。
 でも、ネットで紹介されているという自殺用(つまり殺人用)は実は塩素系と酸素系の漂白剤を単純に混ぜるという方法ではありません。
 騒ぎになった時に警察やプロバイダーが削除しました。
 しかし、表現の自由とかで(アホか!)削除された後にわざわざ書き込むバカがいてみつかりました。
 というわけで、今回、そのへんは意識的にさけて書いています。

その2
 少年法について。
 2000年の少年法の改正で、刑事罰対象年齢を「16歳以上」から「14歳以上」に引き下げられました。
 また2007年11月に、施行された少年法の改正によって、少年院に収容できる年齢の下限を「14歳」から「おおむね12歳」に引き下げることになりました。
 15歳じゃなく14歳で書こうかな…とは思ったのですが、14歳になってすぐだと、温情が働くというか…。
 2000年には14歳以上、2007年から「おおむね12歳」となっていても、中学生のいじめに警察が介入するようになったのは、やっと、ここ何年か…ですから。
 この作品を書いた2009年にはちょっと早いと思いました。
 つまり、言い訳です。わーい(嬉しい顔)

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