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アナタが作る物語コミュの【ファンタジー】神話夜行 4 サイバールーム(事務室)

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 イラストは阿並木氏さん。女羽鳥の獣人バージョンです。

 前作と合わせて、前後編的な作品です。
 約4000文字。短いです。初出 09/03/28

 神話夜行1はこちらから↓
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 神話夜行2はこちらから↓
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 神話夜行3はこちらから↓
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                   パソコン満月


 新宿高層ビル群の中でもひときわ高い百二十階建てのビル。その屋上にコウは飛び降りた。百二十階建てのビルの屋上には、もう人目は無い。空中を移動している間、だれからも見られないようにと自分にかけていたフェイクをコウは解いた。屋上によくある配管や水のタンクをよけて、急ぎ足で進む。

 コウ(蛟・みずち)
 蛇と龍の中間体と言われている。角と赤い髭と四肢。背中には青い斑点があり、尾の先にはこぶを持つという想像上の生物だ。
 日本ではみずち。中国ではコウと呼ばれる。水神あるいは水霊とされていて、雨竜とも呼ばれている。
 あやめに似た杜若(かきつばた)の花を食べて、口から気を吐き蜃気楼を作るという。

 コウはその蛟(みずち)が気に入り、コウと名乗っていた。
 黒い瞳、肩までの黒い髪。コウの見かけは十七・八歳の日本人だ。
 身長はやっと百七十センチ。筋肉などお世辞にも無いと思えるほどの細身。
 そして、男なのに美少女のような端正な顔立ち。
 けれども、コウはその見かけとは違い、ゴルゴンの三姉妹、ステンノー、エウリュアレー、そしてメドゥーサの三人が産み出した、最強の戦士に育つはずの若者だった。

 コウの進む先に一軒の家がある。しかし、このビルの関係者の誰一人としてそこに家がある事を知らない。誰かが何かで屋上に上がって来た時には、家みずからが姿を消してしまう。
 窓もドアも無い。シンプルすぎて、コンクリートの箱にも見える。どことなく丁寧な造りで、しかし、なにか普通では無いその家にはコウと羽鳥が住んでいた。

 ただのコンクリートの壁、その壁にコウが手を当てる。ドアが現れる。普段なら家がドアを開けるのだが、コウは待たずに乱暴な手つきでドアを開けた。
 窓が現れ、リビングの中に真昼の日差しが差し込む。
 自分の部屋に駆け込むように入り、ベッドに飛び込んだ。
 コウの体の中で、まだ怒りがうずまいている。

 人間ならば十歳ぐらいに見える少女だった。少女は自分の母親のためにコウを殺しに来たと言った。
 簡単に叩き伏せた。あまりにひ弱で、けな気だった。
 コウは向こうの世界に帰るように少女に言った。母親のそばに居ろと。
 少女は泣きじゃくった。見ていられず背を向けた。

 だが…、その全てが幻だった。
 羽鳥が倒した少女の本体は、少女の何倍も強く異質な力を持っていた。
 やすやすとだまされた自分に腹がたった。自分のほほを打った羽鳥にも腹がたった。

『羽鳥に助けられ、ほほを打たれるぐらいなら、敵に切り裂かれるほうがいい。
 切り裂かれても、必ずとどめをさしてやる』

 コウに少し遅れて、羽鳥が男の姿のまま風をまとい、二人の家に戻ってきた。
 家が気配でコウが自分の部屋に居る事を羽鳥に知らせる。かすかに眉をひそめただけで、羽鳥はリビングの隣にある、羽鳥達が『事務室』と呼んでいる部屋に入った。
 本来サイバールームとでも呼ぶべきなのだろう。壁の二面にはスチールの棚が埋め込まれ、その棚は各種の機材で埋まっている。何台かのPC、プリンタ、FAX、モニターが置かれ、別の壁際には大きめのスチールの机がある。机の上にも小型のPCが置かれている。
 羽鳥は机の上のPCを起動させ、すぐに呼びかける。

「ジジイ、居るか?」

 モニターが明るくなり、頭のはげた年寄りの顔を映し出す。背景に映し出された机や本、年寄りの手元のカップと比べるとかなり小柄で、顔も手もしわくちゃでしなびている。
 藍色の作務衣の上に茶色の半纏(はんてん)をはおり、年齢の予測はつかない。六十歳にも百歳にも見える。

「ジジイとはなんじゃ。ジジイとはっ! もっと年寄りに敬意を払わんかい」

「ジジイはジジイだ。それよりこれを見てくれ」

 羽鳥が胸のポケットから、林檎(りんご)大の薄い水色をしたクリスタルを出す。
 モニターが暗くなり、沈黙する。

「すねている場合じゃないんだ。またクリスタルだ」

「……」

「……おいっ! くそジジイ!」

「……」

「ああ、ああ、悪かったよ。…テュポエウス様。
 これでいいかっ」

『なんであっちもこっちもふくれっ面で、俺は機嫌をとって歩かなきゃいけないんだ』
 と、羽鳥は心の中だけでつぶやく。

「ひっひっひっ。よっぽどの事態のようじゃのぉ。
 じゃが、そんな名前で呼ぶのはよせ。ケツがかゆくなるわ」

「じゃあテツ爺。見てくれ。また大きなクリスタルだ」 

「ほほう」

 テツ爺と呼ばれた年寄りは分厚い眼鏡を取り出すと「渡せ」と言って手を差し出す。
 羽鳥がクリスタルを乗せた手をモニターに無造作に近づけると、画面からしわしわな小さな手が出てきて、受け取っていった。

「どれどれ…と」

 手の中でクリスタルをくるくると回しながら見ていたテツ爺がつぶやく。

「この前のと同じようじゃのぉ…」

「?」

「無理やりこの大きさまで育てられたクリスタルじゃよ」

「そんな事が!」

 自然界の中で何万年もかけて育つか、大きな力を持った者の体内で何千年かかけて育つか、この大きさまで育てるにはこのふたつしか方法が無いと思っていた。

「いわば偽物のクリスタルじゃな。どうやって作ったものか…。
 使った者の気に影響されて、あっさりと色がついてしまっておる。
 じゃがまあいい。これについては、今、調べさせている…。

 …それよりも気になるのはコウのほうじゃな」

「コウ…ですか?」

「ああ。
 まぁ、最初の奴はいいとして、二回目の奴と、今回の奴じゃ。
 あきらかに、コウを狙って来おった」

「!」

「思うに、最初の奴は餌じゃったんじゃな。お前らをあぶり出すな。
 で、コウをみつけた。
 後々、手強い敵になりそうなコウを今のうちに刈り取っておく事にした。
 まあ、そんなところじゃろう」

「……」

「コウはまだまだ幼い。母親も恋しいだろうし、簡単にへそを曲げる。子守りは大変だろうが、お前さんにまかせた。
 まあ、なんとかしろ」

 そう言って、テツ爺のヘラヘラ笑った顔が消えていき、モニターが沈黙する。

「クソジジイッ!」

 羽鳥は毒づいた。
 今回の敵の詳しい話はまだしていなかった。だがコウがすねている事まで知っていた。
『どこかで見ていやがったんだ』

 しかし、最初の敵が餌だったとすると、あの時、もうひとり監視役がいたはずだ。
 羽鳥にも油断があった。自然にできた小さな穴から、時おり雑魚が紛れ込んで来る。『今回もまた』あまりに弱い敵にそう思い込んでしまった。そして倒した後、充分に周りをチェックしたとは言えなかった。

『くそっ』

 昼食をトレイに乗せてコウの部屋のドアを叩く。羽鳥は男の姿のままだ。
 普段、食事のしたくは鳥の羽鳥の仕事だ。しかし、コウとの間が修復するまで、羽鳥は鳥の羽鳥に戻りたくなかった。
 部屋の中から返事は無い。

「入るぞ」

 声をかけてドアを開ける。ベッドの上に仰向けに寝ていたコウが、何も言わずに向こうを向いた。

「食え。いつでも戦えるようにしておけ」

「……」

 ベッド脇のサイドテーブルにトレイごと置いて、黙って出て行こうとして、羽鳥はドアの所で振り返った。
 コウが羽鳥を見ていて、また慌てて向こうを向いた。
 ドアの所でため息をついて羽鳥は言う。

「すまなかった」

 返事は無い。
 ドアを閉め羽鳥が出て行くと、ようやくコウが起き上がる。しばらくドアを見ていたが、急にベッドから飛び降りてドアに駆け寄った。

「はあちゃん!」

 家が気をきかせて、ドアにつく前にドアを開ける。その事にコウはいらだってドアを蹴った。ドアは笑っているかのように震えた。
 羽鳥が気がついて振り返ると、コウは何度もドアを蹴り、その度にドアは震え、笑っていた。
 コウが本気で蹴ったらドアは一瞬で木っ端微塵になっただろう。
 羽鳥がコウの所へ戻るとコウは言った。

「僕を助けてくれたんだよね、はあちゃん。ありがとう。
 でも、次は助けないで。僕は自分でやる」

 羽鳥はつい笑ってしまう。まだ幼いくせに、真っすぐな目で戦士の言葉を吐く。
 羽鳥はどうしても、この若者を愛さずにはいられない。

「ああ。次はおまえが助けてくれと言うまで、俺は助けない」

「僕は絶対に言わないよ。そんな事」

 羽鳥が何も言わず、こぶしを目の前に突き出すと、コウもこぶしを作り、羽鳥のこぶしに当てた。

「ああ、お腹すいちゃった」

 コウがそう言って部屋に戻って行く。

「でも、はあちゃんが作ったんだよね。男のはあちゃんが…」

 振り向いてそう言い、おおげさにため息をつく。

「なんだその不満そうな言いかたは。
 それに、その呼び方はやめろと言っているだろう。
 羽鳥と呼べ」

 コウの背中に言葉を投げる。そして、続ける。

「コウ。おまえは狙われている。
 今日みたいにおまえに仕掛けてくる奴が、これからも来る」

「へえぇ」

 コウの顔に、おもちゃを見つけた子猫のような笑みが浮かぶ。

 コウが部屋に入り、ドアを閉めると、羽鳥は鳥バージョンに姿を変えた。
 顔は女、体は鳥。その顔はなまめかしく美しい。細いまゆ。厚い唇。マリリンモンローが日本人だったとしたら…。そんな顔をしている。
 羽鳥はくすくすとひとり笑いをしてキッチンに戻って行く。その足はうれしそうにスキップをしていた。

 …終わり

神話夜行5 はこちらから↓
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