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アナタが作る物語コミュの【ファンタジー】 神話夜行 2 新宿サザンテラス

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 ほとんど何も決まっていないまま見切り発車しました。2話目です。
 さて、どうなる事か。多分、彼らの戦いは続く。希望を胸に!
 …でしょうね。なにせ、神の戦いですから。千年単位ですからっ。テヘあせあせ(飛び散る汗)

【神話夜行】 1 −コウ(ゴルゴンの息子)− はこちらから。
 http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=73750993&comm_id=3656165

 イラストは阿波木氏さん。男羽鳥、女羽鳥、コウです。

 約5000文字 短いです。 09/03/09

                  ビル晴れ

 蛟(みずち)
 角と赤い髭と四肢を持つ。 背中には青い斑点、尾の先にはこぶ。想像上の生物だ。
 蛇と龍の中間体とされる。
 日本ではみずち。中国ではコウ。水神あるいは水霊とされて、雨竜とも呼ばれている。
 杜若(かきつばた)を食べて口から気を吐き蜃気楼を作るとも言われている。

 コウは自分に似ている蛟(みずち)が気に入り、コウと名乗っている。
 黒い瞳、肩までの黒い髪。コウの見かけは十七・八歳の日本人だ。
 身長はやっと百七十センチ。筋肉などお世辞にも無い、と思うほどの細身。
 そして、男なのに美少女と言いたくなる顔立ち。
 けれどもコウは、その見かけとは違い、長姉ステンノー、次姉エウリュアレー、そして末妹のメドゥーサ、そうゴルゴンの三姉妹、その三姉妹が三人で産み出した、最強の戦士に育つはずの若者だった。

 ダメージジーンズにこげ茶のジャケット、冬ならそれにハイネックのセーター。
 あまりに普通な服装だが、その端正な顔立ちと、身軽な動作が、コウを目立たせている。
 小金を持っている、初めから自分が金を払うつもりの水商売の女や有閑マダムが時おり声をかける。

「暇なら、一緒に食事でもどう?」

 その日もそうだった。
 普通の高校生なら学校に行っているはずの真昼間にバックも持たず、新宿の駅前の繁華街、サザンテラスをうろついていれば、訳ありと思われて逆に声をかけられる。

 声をかけられて、コウはふわりと風にそよぐように、振り返った。
 瞬間、顔をしかめ、右目を手で押さえる。
 声をかけた女は、コウが手で押さえる前に、その瞳が真っ赤になったような気がした。
 しゃがみこむコウに、面倒とばかりに女は立ち去った。

 女が立ち去ると、何事も無かったように、コウは立ち上がり、あたりを見渡し、またはずむような足どりで歩き出した。遊歩道を通り、サザンテラス広場を目指す。

「来た! 次の敵だ」

 その瞳は両方とも真っ赤に輝いていた。もう、隠す気も無い。
 ピジョンブラッド。鳩の血と言われる、最高級品のルビーの色だ。
 緊張よりも、興奮している。遊園地へ行く朝の子供のように高揚していた。

 すれ違った二人連れが、振り返る。今すれ違った若者の瞳が真っ赤だった気がする。
 見間違い? それともカラーコンタクト? どちらでもいい。すぐに忘れた。

 コウが広い場所に出ると、音が消え始めた。街の騒音が小さくなっていき、それに合わせて人々の姿も薄くなっていく。テラスを囲むしゃれた店も、空も、高層ビル群も、かすんでいく。
 ジャケットのポケットに手を入れ、携帯電話を取り出し、通話を選ぶ。相手は羽鳥だ。
 回線が繋がり、コンマ一秒で切れる。元より普通の携帯では無い。通話が切れたのは、空間が閉ざされたからだろう。
 青空も高層ビルも色を失い、見渡す限り、灰色の景色が広がっている。人の姿も、車も無く、音も無い。風も止まったようだ。
 廃墟のような都会の広場の中にコウは一人立っていた。
 人の視線が消えたのだ。ポケットに戻すふりなどしない。携帯がコウの手の中から消える。

 コウの髪が、その瞳のような真っ赤な火の色に変わった。

 回線が切れるまでのコンマ一秒の間に、コウは必要な事は全て伝えていた。羽鳥は記憶を再生し、人間の六十倍速ほどで話したコウの話を聞き取り、もうここへ向かっているだろう。
 しかし、これほどの広さの空間を切り取り、コウごと移動し閉鎖する力とはどれほどのものだろう。
 恐怖よりも好奇心のほうが勝っていた。

 でも…、この前の例もある。あまりに小さな力しか持たない奴かもしれない。今感じているぐらいの小さな。
 もし、力を測られないように抑えているのでなければ、雑魚だ。

 十本ほどの髪の毛を一気に放射状に伸ばした。三十メートルほどのところで壁を感じた。
 やはり、空も、ビル群も、切り取られたわけでは無いようだ。そう見えるように、光に干渉しただけ。
 ドーム型の透明な壁の中心は、コウの目の前十メートルほど先の地中だった。
 罠かもしれない。しかし、コウはためらうことなく、うにの触手のように広げていた十本ほどの髪の毛を、その中心部に叩き込む。

 刹那。叩き込んだ髪の束を踏み台にコウは上空に飛び上がった。それまで、コウが立っていたコンクリートの床が大きくえぐられコンクリートの塊が飛び散る。
 コウが開けた穴、敵が開けた穴。ふたつの穴から飛び散った、コンクリートの塊が、閉ざされた空間の中にゆっくりと広がってゆく。
 時間が引き延ばされているので、その速度はまるで、静止しているかのようだ。
 その塊のひとつに着地したコウは、髪を元の長さに戻し、自分が立っていた場所に視線を向けた。

 先ほど感じた中心部はやはり罠だったようだ。
 コウが立っていた場所に開いた穴、その穴の中心に、薄茶色のそいつはいた。
 ひとがたはしていたが、全身薄い茶色。
 完全な人間に変身する事はできないのだろうか…。

「俺は大地の神であり創始の女神ガイアの眷属(けんぞく)。大地の在る所、それは俺の世界…」

 ふん。コウは侮蔑の目をして敵を見た。
 先ほどの中心部がダミーだとしても、半径三十メートル、あるいは四十メートルほどの空間しか閉じる事のできない相手に、すでに興味は失っている。

 キン!

 軽い音を立てて、コウが立っていたコンクリートの塊が、そして空中に浮かぶいくつもの塊が次々と砕け散った。

 空間いっぱいに散っていく、細かなかけらが、次の瞬間一気にコウに向けて収束する。
 ゆっくりと、地上に降りていくコウの周りで、そのかけら全てが弾かれる。何本かの髪の毛がくるくると、コウの周りでバリアを張っていた。

 ふと肩越しに右上を見たコウの視線の先で、空間に小さなさざなみが起きた。
 霧雨よりもさらに小さな水滴が、静かな水面に落ちた時に現れるような、かすかなさざなみ。
 コウの髪の毛の一本がその場所をノックするように二度叩き、次に数本の髪がその場所を叩いた。

 敵と対峙しながら、何事も無かったかのように地面に降り立つ間に、それだけの事をコウはした。
 コウが叩いた場所の空間がはじけ、美しい女の顔と胸を持った大きな鳥が現れた。
 女の顔はコウと同じ日本人。三十歳を少し越えたあたりか。
 しかし、マリリンモンローのような妖艶さと隠微さを持っている。
 薄い眉。厚い唇。濡れたような瞳。栗色の艶やかな髪がゆるやかなカーブを描き肩のあたりで揺れていた。
 そして、裸の胸。美しい裸の胸が、鳥の体についていた。

 鳥はふわりとコウの横に降り立ち、男に姿を変える。

 男の身長は百八十センチをゆうに越えている。
 やはり、三十歳を越えたあたり。彫りは深いが日本人。
 黒い革ジャンにサングラス。厚い胸板。シルバーのねじ式のピアスを片耳にだけつけている。
 暑苦しいほどに男を誇示している。羽鳥(はどり)だ。
 降り立つと、サングラスをはずし、むねのポケットに差し込んだ。
 雨のように降りそそぐコンクリート片をまったく意にかいさず、コウに声をかける。

「なにを遊んでいるんだ、コウ。連絡をもらって来てみれば…」

「雑魚ってわかっていたら、呼ばなかったさ。
 呼んじゃったから、来るまで待ってた。
 遅かったんじゃない?」

「あからさまに閉じた空間があって、その中からはお前の気配まで漏れてきていた。
 誰だって疑うさ。罠じゃないか? ってな」

 自分を無視して和やかに会話を続ける二人に、敵がじれる。
 ぼこっ! ぼこっ! ぼこっ!
 音を立てて、こぶし大のコンクリートがいくつも床から浮き上がった。
 二人にめがけて、一斉に降りかかる。

 パキ! ガッ! バカッ!

 様々な音を立てて全てが砕け散った。羽鳥は風を司る。直接彼自身が手を下さなくても、彼の周りでは、薄い風の幕が、すでに彼を守っている。
 コウは一本の髪の毛をくるくると回して、同じように身を守っていた。

 次々と打ち砕かれたコンクリートの粒で、空間はすでにいっぱいだ。
 霧か霞でもかかったように見通しが悪くなっている。

「三本だ。コウ。
 それ以上は使うな」

「わかった。はあちゃん」

 目を細め笑うコウ。小さなネズミをいたぶる子猫の目をしている。

「羽鳥だ」

 シュン。ガッ。ガッ。ガッ。
 コウの髪の毛の一本が、途中にあるコンクリートの塊を蹴散らして真っすぐに敵に向かって飛んだ。
 後ろに飛び、空中のかけらを集めて壁を作る敵。髪の毛が壁に当たり、音を立て止まる。
 ガッ! 反転しコウの元に戻る髪。ニヤッと口元をゆがめた敵の表情が驚愕に変わる。
 二本の髪が、同時に伸びてきていた。
 最初の一本とは違い、全てのコンクリートのかけらを避けて、音も無く。
 そして、壁の両端から、さながら意思を持つ蛇のように襲いかかり、敵の両手を貫いていた。

 両の手首にそれぞれ一本の髪がささり、さらに伸びて敵の体を運ぶ。
 自身が切り取った空間の壁に、イエスのように手を広げはりつけられた敵ののど元に、最初の一本の髪が突き刺さった。
 一本目の髪は、コウの元に戻ってなどはいなかった。当たり前のように壁を打ち砕いている。その動きは初めから、ダミー。後から放たれた二本の髪の隠れ蓑だった。

 両手に刺さっていた髪が抜け、敵の体を瞬時に切り刻む。
 飛び散った血のようなものも含め、敵の全てがきらめいて消える。

 コトン。

 敵が消えた後に、林檎(りんご)サイズの薄茶色の水晶玉のようなものが現れ落ちた。

「またクリスタルだね。はあちゃん。」

「そのよび方はやめろ」

 羽鳥が拾い上げた。

「遊びすぎだ、コウ。手を貫いたりせずに、初めから切り刻め」

「……それじゃ、おもしろくないよ」

 空間に色と音が戻ってきた。
 だまされて切り取られていた空間が、ゆっくりと自分の居場所を思い出し、元の場所に戻っていく。

 青い空。キラキラと光る高層ビル群の窓。大気に排気ガスの臭いが重く混ざる。

 叫び声が聞こえた。
 サザンテラス広場のコンクリートの床のあちこちに穴が開き、何人かの人間が倒れていた。

「ちっ。雑魚が!
 空間の閉じ方までいい加減だったのか」

 羽鳥が吐き捨てる。

 若い男が携帯を出し、羽鳥とコウを写そうとした。
 いきなりいくつかの穴が開き、何人かの人間が倒れた。その中央に、こつ然と現れた無傷の二人。
 訳がわからぬまま、とりあえず撮ろうとしただけだったのだが、男の手が止まり、目がうつろになる。
 男だけではない。その場に居た全ての人間が動きを止める。

「行こう。
 はあちゃん」

「その呼び方はやめろと言っているだろうが。羽鳥だ」

 そう言いながらも羽鳥は鳥に姿を変え飛び立った。
 コウは軽くジャンプをするとその背に乗った。
 羽鳥が飛びたった後、人々はまた動き始めた。
 その時には、彼らの記憶の中から、羽鳥とコウに関するものが消えていた。


 家に向かって飛ぶ羽鳥の背に腹ばいになり、その首に両手を回していたコウはすねるような声で言った。

「はあちゃん。羽鳥に怒られちゃった…」

 くすっ。笑って、羽鳥は答える。

「私も羽鳥でございますよ。ぼっちゃま。
 それに羽鳥は怒ってなどおりません。
 喜んでおりますよ。ぼっちゃまがお強くなられて」

「ほんと?」

「ええ。
 それに、ぼっちゃま。
 三本の髪の毛を全て戦いに向けて、ご自分のバリアとしてお使いになっていた髪の毛をお休みさせましたでしょう?
 その時、羽鳥が風の一部をぼっちゃまの防御に回そうとした事をお気づきでしたか?」

「気がつかなかった…。
 だって羽鳥は三本って…」

「一本は防御に。二本は戦いに。そのつもりでございました。
 でも、ぼっちゃまは、ご自分のエネルギーでコンクリートのかけらを弾かれておられた。
 ですから、羽鳥は風を防御に回す事をやめました」

「ふうん」

「いいんですよ。りっぱにお一人で倒されましたからね。
 男の時の羽鳥はぼっちゃまの闘いの教育係だと思っておりますから、なかなか口には出しませんが、男の羽鳥も喜んでおりますよ。
 でも、忘れないで下さいね。いつでも、羽鳥はぼっちゃまと共に戦っております。
 それから、戦いの間はいつでも周りには注意をしていて下さいね。羽鳥の事もです」

「うん、わかった」

「本当に。ぼっちゃまのお母様がたから、ぼっちゃまをお預かりした時には、まだまだお小さくて、羽鳥はもう…」

 コウはもう聞いていなかった。この話になるとはあちゃんは長い。なにしろ、羽鳥がコウの教育係になったのは五百年も前の事だ。それから五百年間の長い話が、この後に続く。

 コウはのそのそと羽鳥の背から下りていき、その両足にぶらさがる。

「ああ、やっぱりいい風だ。
 このあたりまで上がると、排気ガスの臭いもしないし。このほうがいい。
 ねえ。もう少し飛んでいていい?」

 自分の話の腰を折られた事など羽鳥は意にもかいしていない。
 元より、その気になれば一分もかからず家に戻れた。
 男の羽鳥に叱られて元気の無いぼっちゃまの為に、ゆっくりと旋回をしていたのだ。

「かしこまりました。ぼっちゃま」

 早くクリスタルを持って帰りたいと思っていたが、女の羽鳥はいくらでもコウを甘やかすのだ。


 サザンテラス広場のコンクリートの床にいくつかの穴が開き、転んだ客がすり傷を作った。
 そんなささいな事はニュースにもならなかった。

 …終わり

神話夜行(3)はこちらから↓
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