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アナタが作る物語コミュの【恋愛】 未確認浮遊生物

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 初出 08/12/18 約3600文字。短いです。


                   ブティック

「あきってさ、タカオさんとつきあってるんですか?」

 真面目な顔をしてああチャンが言う。
 ああチャンは多分私とタメ。二十歳ぐらい。
 タカオは2・3才年上。ああチャンが高校の時の先輩らしい。

 確かに私とタカオは隣の席に座ったりしないし、手をつないで歩いたりしない。
 だけど、みんなが集まる時にはふたり一緒に行くし、帰る時だって一緒だ。
 気がつかないって事は無いでしょう?

「うん。なんで」

 ああチャンは、返事を探しながら、ちらちらと私を見ている。
 ああ、なんてうざい。こんな話はみんなとつるんでる時だってできる。
 わざわざ話したい事があるからと私ひとりを呼び出したのだ。もっとぐだぐだな話がこの先に続くのだろう。
 もう少しこっちから説明するから、その間に考えをまとめておいてよ。

「もう2・3年はつきあってる。
 タカオは最初から結婚してくれって言ってるけど、私はその気になるまで待ってくれって言ってるわ。
 まだ、その気にならないの」

「なんでそんな人を連れてくるのかなぁ」

 やめてよね。タカオに連れてこられてるわけじゃない。私が気に入ってるからくる。
 みんなで映画に行ったり、遊園地に行ったり、ゲーセンに行って、はやりのゲームを確認したり。
 そのつどメンバーは微妙に変わるけど、私は全部が気に入ってる。
 タカオとつきあったら、それを捨てなきゃなんないなら、私はタカオと別れるよ。

 私はタカオと婚約したわけでもない。ああチャンとだってつきあうだけなら別になんの問題も無い。そう思う。

「私はかまわないわよ。私とつきあいたいの?」

 そう言ったらああチャンは「タカオ先輩に悪い」って言った。

 理解不能だ。男はいつだって未確認生物だ。未確認でその上浮遊してる。
 だからかな。ああチャンの行動も言う事も私には理解できない。
 秘密にしてフタマタかけるわけじゃない。今日の事だって、きちんとタカオに言ってきた。
 ああチャンに呼び出された。だから、その日この時間は会えないわよって。早く済んだら連絡するって。

 そう言ったら、ああチャンは心底びっくりしていた。

 タカオとはSEXだってしてる。妊娠したくないから避妊だけはしてって言ってある。
 私はしたいわけじゃない。でも、タカオがしたいならつきあう。その程度だ。
 それを言ったらああチャンはどんな顔をするだろう。

 未確認な浮遊生物は観察したいと思う。つきあったっていいと思う。
 だから、ああチャンとつきあったっていい。そう言ってる。

 ちゃんと手順をふんで、私がその気になったら寝るかもしれない。
 …って事までは言わなかったけどね。
 でも、ああチャンはあきらめるって顔をしてる。
 とても、傷ついたって顔をしている。

 かんべんしてよ。かってに被害者にならないで。
 私の話で冷めたのならいい。面倒が無くていい。
 あきらめるって? それ程私は簡単な女なの? それ程軽い想いだったの?

 店を出たら急に抱きついてきた。泣き声で「だけど好きなんです」って繰り返す。

 うんざりする。で、どうするの?
 つきあったら私をタカオからさらえるかもしれないよ。

「ゴメン。今は好きじゃない。でもいつかは好きになるかもしれない。
 で、どうするの? つきあう?」

 仕事帰りのサラリーマンがああチャンにぶつかって、それをきっかけみたいにしてああチャンが私から離れた。
 口の中でごそごそとなにか言って、頭を1回下げて、ああチャンは去って行った。
 なんて言ったのか聞こえなかったけれど、聞き返す気も起きなかった。
 ずうっと後姿を見ていたが、背中を丸めズボンのポケットに両手を突っ込んで、そのまま消えていった。振り返りもしなかった。

 タカオに会って文句を言った。タカオは笑って聞いている。
 笑いながら「あきが傷つく必要は無いよ」って言った。

 ああ、そうか。私はああチャンに腹を立ててるんじゃなくて、傷ついている自分に腹を立ててるんだ。
 気がついて落ち込んだ。落ち込んでまた腹が立った。

 タカオも未確認浮遊生物だ。
 私とは違う、と何度も思った。多分一生理解できないかもしれない。
 でも時々、鏡みたいだと思う。今みたいに私の気がつかなかった私を見せてくれる。

 ああチャンはそれきりみんなの集まりに来なくなった。

「どんな顔をしたらいいの」
 最初のうち毎回タカオに、そうぶつぶつ言いながら行った。

「まんまでいいよ」ってタカオが言い。
 それってどうでもいいよって聞こえるよって心の中でつぶやき。

 毎回、がっかりした。ああチャンが居なくて。
 ああチャンに会いたいなぁ。
 ああチャンに会って自分がどんな顔をするのか知りたいなぁ。


 タカオと寝ていた時、タカオの携帯がなった。
 なんて奴。切っとくのがマナーでしょ。信じられない。
 タオルケットを体に巻いて、ベットの上で聞いていた。
 なんだか仕事の話だった。
 タカオは大学を留年しながら好きな事を仕事にしている。
 どっちが先なんだろう。留年と仕事。
 どっちだっていい。タカオは本当に浮遊してる。

「卒業できねえかもしんねえ」ってタカオは笑っている。

「あ ちょっと待って」

 そう言ってタカオが私に向かって「出る?」って聞いた。

「?」

「ああチャン」

 なに考えてんのォ? ばっかじゃないのォ!

「だってあいつ、あきの事、好きだったでしょう。声、聞きたいかと思って」

「…」

「ああ、今あきが居るんだわ。代わる?」

 ああチャンが代わるって言ったんだろう。携帯を差し出した。
 男たちってわかんない。理解不能。

「お元気でしたぁ?」とか「久しぶりぃ」とか。

 普通に会話して携帯を返した。

「じゃ」って言ってタカオが切った。

 あらやだ。ほんわか幸せな気分。
 女だって未確認浮遊生物だね。



 半年たってああチャンが年上の女の人と同棲をしたって聞いた。
 なんだかこざっぱりして、ニコニコしてたって。
 ああ、そうなの。

「な。だからあきが気にする事はないんだよ」
 ってタカオが言い、悔しかった。


 あれから何年たったんだろう。5年かな。卒業して。就職して。

 冬の歩道でああチャンと会った。偶然だった。
 こっちはひとりだったけれど向こうは同年代の男とふたりだった。
 どっちも背広にネクタイだから同僚かな。

「や、やあ」追いかけてきて肩をたたかれた。

 にっこり笑ってみせる。

「お久しぶり。元気してた?」

「ああ。
 僕、あきの事好きだった事あるでしょ。ふられたけど」

 ふったのはあんただよ。

「あの後しばらく同棲してたんだ。
 知ってた?」

 ああチャンの連れがうんざりしたような顔をして離れていく。
 そいつと目が会った時うっすらと笑ってやった。
 おや、なぜあんたが照れるの。

「ええ、知ってたわ」

「あきを忘れようかと思ったんだけどうまくいかなかった」

 なぜそんな話を今頃持ち出すの。

「こないだ出て行かれた」

 まさか自分はフリーだと言いたいわけ?
 それとも、出て行かれたのは私のせいだと言いたいの?

 ご同僚は知らん顔をして、しっかり聞いているわよ。いいの?
 ふたりそろって私を上から下まで値踏みするような目で見てる。
 口には出さないけど、ねえ、いい女でしょう?

「まだタカオとつきあってるの?」

 まだ、ですって。ふざけんじゃないわ。
 そんな事あんたに言わせない。あんたは私たちの間に入ってこなかった。

「結婚したわ。まわりがうるさくなって、逃げ切れなかったの」

 左手を目の高さで振って指輪を見せた。

「ああ、そう」

 みるみる私への興味がなくなるああチャン。残念ね。焼けぼっくいでもなくて、火もつかなくて。
 じゃあ、って別れた。連絡先も交換しなかった。

 後姿を見ていたら、今度は振り返った。軽く手を振ったので、こっちも振りかえした。
 私、絵に描いたような笑顔になっているかなぁ。なってるといいんだけど。

 ばいばい、ああチャン。未確認でも浮遊生物でも無くなったああチャン。
 もう興味も沸かないわ。ゴメン。

 ああそうそう。さっき聞いたばかり。

「妊娠してますね。どうします? 産みますか?」

 むっとして「産みます」って答えてタカオに聞かなきゃいけなかったかなって考えた。
 でも、聞かなくてもいいわね。タカオがなんて言おうと産むもの。

「うん。最初だしね。そのほうがいいね」ってお医者さんが言った。

 お医者さんてのはまったく事務的に話すのね。
 カルテを見ながらボソボソと話す。
 結婚してるのかな、なんて態度にも出さない。
 今は結婚してない人が多いからかな? それとも医学的には関係ないから?
 だから聞かないの?

 ああチャンに「今、赤ちゃんが居るの」って、言ってみたかったな。どんな顔をしたろう。
 でもやっぱり、最初はタカオに報告したい。
 タカオはなんて言うだろう。想像もできない。

 退学したタカオは友人と事務所を作り、楽しくやっている。たまにしか帰って来ない。
 いまだに理解不能で、未確認浮遊生物だ。
 多分、一生ね。

 …おわり

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