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アナタが作る物語コミュの【ファンタジー】名もなき王と災厄の魔神

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第1話「私とランプと三つの願い」↓
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=35834719&comm_id=3656165

その他のシリーズはこちらから↓
作品一覧【2010/04/08 現在連載中】
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=39667607&comm_id=3656165



 むかしむかし、悪い魔神がいました。

 とても悪い魔神だったので、農村を襲って羊を焼いて食べたり、漁村を襲って魚を焼いて食べたりしました。
 だけど頭の悪い魔神だったので、意味もなく子供を攫って髪の毛が生えなくなる呪いをかけたり、綺麗な女の人を攫って髭が生える呪いをかけたりしました。
  
 それでも強くて怖い魔神だったので、村の呪術師はお供えをして祟らないで下さい、できれば隣の国に行って下さいと頼む呪文を唱えました。
 お供えが豚の足一本きり(魔神の被害甚大でそれだけしか出せませんでした)なのに怒った魔神は、呪術師をピンクの象に変えてしまいました。
 心の清らかな娘さんがキスをすると呪いは解けて、二人は結婚しました。
 娘さんは『象さんの象さんが小さくなった』と少し残念そうでしたが、末永く幸せに暮らしました。

 街の魔術師はそんな魔神を、自分の使い魔にしようと魔法の勝負を挑みました。
 魔神はげらげら笑って呪文をあっさり跳ね返し、魔術師を緑の山羊に変えると海賊船に売り飛ばしました。
 これも心の清らかな娘さんがキスすれば解ける呪いでしたが、長い航海で女の人の代用品にされた緑の山羊はそのまま船長さんと幸せになりました。

 好き勝手絶頂に暴れる魔神を、ついにお城の大神官が神に祈って鎮める事になりました。
 ここまでくるともう、国家の一大事になっていました。
 占いで選ばれた吉日に中庭で、王の御前で祭壇が築かれ、香が焚かれ、長い祭文が唱えられました。
 すると魔神が飛んできて、祭壇を蹴り倒しました。
 大神官が神に祈ると、雷が魔神の上に落ちました。
 だけど魔神はすぐに起き上がり、大神官の髭を燃やしました。
 白く長くサラサラだった髭は黒焦げのチリチリになり、大神官のこめかみに血管が浮かびましたが、彼は努めて冷静に言いました。

「魔神よ魔神、汝も我らも皆等しく神に作られたもの。それを害するは神の意に反する事ぞ。なのに何故暴虐を繰り返す」
「そんなの、退屈だからに決まっておるわ!」 
「そのような下らぬ事で……許せん!!」

 こうして大神官と魔神の長い闘いが始まりました。

 中庭に魔法の火炎が舞い踊り、神威の稲妻が降り注ぎます。
 お城の召使いが逃げまどい、神官達は隅っこに集まって震えています。

 このままでは巻き添えで死人が出たり、お城が壊れたりするでしょう。

 大神官は狼に変身すると魔神に噛みつきました。魔神は熊に変身して殴り飛ばしました。
 吹っ飛んだ狼は鷲に変身すると熊の目を抉りしました。のたうちまわる熊は狩人に変身すると鷲を射落としました。
 落ちた鷲は毒サソリになって狩人の足を刺しました。倒れた狩人は鶏になって毒サソリを啄みました。
 
 闘いの決着はなかなかつきません。
 王の側近が大神官に加勢しようと剣を抜きましたが、目まぐるしく変身を繰り返し、ヤマアラシとアルマジロが取っ組み合う頃にはどちらが魔神かわからなくなっていました。

 その時『ふわあ』と大きなあくびが聞こえてきました。
 この非常時に誰がと、側近が振り返るとそれは王でした。

 玉座にだらしなく腰かけた王は、素焼きの壺に入った葡萄酒を手酌で飲んでいました。
 王が逃げずに魔神と大神官の戦いを見物しているので、兵士達は涙目で持ち場を守り続けています。
 
 葡萄酒を飲み干した王は、壺を逆さに振って中身が一滴も残ってないのを確認すると、それを大きく振りかぶって投げました。
 
 壺はアルマジロに馬乗りになったヤマアラシの頭に当たって割れました。
 ヤマアラシは大きなたんこぶをつけた大神官になって倒れました。

「王よ……何を……」
「爺、下がれ」
「ふはははっ!味方を攻撃するとはおろヘブッ!?」

 ふんぞり返って笑うアルマジロの鼻に銀の杯が直撃しました。
 アルマジロは魔神の姿に戻ってのたうちました。

「ぐぬおおおっ!?すこぶる痛い!!」
「うるさい」

 王は傍にいた兵士の兜を取ると、魔神の口に投げ込みました。

「オゴベッ!?……おのれ!何をする人間風情が!!」

 魔神はバリボリと兜を噛み砕きながら怒鳴りました。

「ここは人間の国で、余はこの国の王だ。この国の全ては石ころ一つから女奴隷の腹の中の子まで余の物だ」 
 
 王は顔色一つ変えずに言いました。
 
「だから、貴様が余の国を荒らすのなら、余が相手となろう」 
「なんじゃとぉ?」

 魔神は王を頭からつま先まで眺めました。
 王は大神官よりずっと若く、逃げた召使いよりもちっぽけでした。

「いいだろう!一口で食っ……」
「真に偉大なるものは力を誇らぬ。知恵比べで勝負だ」 
 
 魔神の大口に半ば呑まれ、その顎が閉じる直前に王は言いました。

コメント(12)


 勝負の内容はごく単純なものでした。
 魔神と王とで互いになぞなぞを出し合い、答えられなかったら負けです。

 王が勝ったら、魔神はこの国を二度と荒らさない。 
 魔神が勝ったら、王を食い殺して良い。
 どちらが勝っても、誰も文句を言わない事。
 
 そういう約束事を神に誓いました。 
 神に誓ったので、魔神も王も約束を違える事が出来ません。

「まずはワシからなぞなぞを出すぞ!」

 魔神は鼻から炎を噴きながら言いました。

「朝は四本足、昼は二本足、夕方は三本足、これは何ぞ?」

 魔神のなぞなぞはあまりにも古典的でした。
 書物で答えを知ってる大神官はほっと胸を撫でおろしました。

 なぞなぞの答えは『人間』です。
 生まれたての赤ん坊は四つん這いで歩き、成長すれば立って二本の足で歩き、年老いれば杖をついて三本になる。
 人の成長の過程を日の出から落日までになぞらえたなぞなぞなのです。
 
 魔神は自分の背後で大神官がこっそりと王に答えを伝えようとしている事に気づきました。
 そして腹の底でニヤリと笑いました。 

 今はちょうどお昼です。
 王がなぞなぞの答えを『人間』と答えたら魔神は『二本足と言うには余計なモノがついているな』と言って王の両手をもぎ取るつもりです。

 ちなみに朝なら、二本の足を縦に二つずつ裂いて『四本足』にして、夕方ならその辺の兵士の足をもいで王の腹に刺して『三本足』にしてやる予定でした。

 昔、魔神仲間が、知恵比べに負けて泣いているスフィンクスに『今度はそうしてやるといい』と言って慰めていたのを魔神は思い出したのでした。
 
 今が何時でも、王は痛くて痛くてなぞなぞどころではなくなるでしょう。
 血がたくさん出るから死ぬかもしれません。
 どちらにしろ王はリタイヤで魔神の不戦勝となるでしょう。  

 王は魔神の肩越しで口パクで答えを伝えようとする大神官を見てニヤリと笑い、そして言いました。

「簡単すぎるな……答えは、ボンボエリカ虫だ」 
「は?」
 
 魔神と大神官の目が点になりました。

「なんじゃそりゃあ!ボンボンエリー虫だと!?」
「ボンボエリカ虫だ。知らないのか?朝は四本足で昼に二本抜けて二本足になり夕方には一本生えて三本足になる。そうだろう側近よ」
「はい。確か深夜には五本足になるのでしたね」

 恭しく頷く側近は見た目も能力も平凡でしたが、空気が読めてアドリブが利くので王に重用されていました。
 
「答えは人間じゃあ!!スフィンクスの話を知らんのか」
「はっ……愚かな、たった一日で人間の足が増えたり減ったりするわけがないだろう」 
 
 ――それともどこぞの魔神がもいだり生やしたりしてくれるのかな?

 王は魔神をあざ笑いました。
 魔神はとても悪い魔神でしたが、王はとてつもなく意地悪な王でした。
 
「ぐぬぬ……ウギー!認めなんぞっ!!ボボンエリン虫なんて、足が増えたり減ったりする変な虫なぞおるものか!」 
「ボンボエリカ虫だ。存在しないと言い張るならば、ボンボエリカ虫を探して持ってくるがいい。
 ボンボエリカ虫が見つかればそのまま余が正しい事になり、見つからなければ貴様が正しい事になるだろう」 
 
 後の世にいう悪魔の証明でした。
 (良い子の皆さんは、存在すると主張する側が証拠を持ってきましょうね) 
 
「よおし王よ、待っておれ!この世の果てから果てまでくまなく巡りボボボーボリエカ虫なぞ存在しないと証明してくれるわ!!」 
 
 魔神は爆炎を巻き上げながら、空の彼方に飛び去りました。

 魔神が戻ってきたのは16年後の事でした。

「ふははははっ!王よ見るがいい!!」

 魔神は大声で笑いながら、大きな石版を王の執務机に投げだしました。
 執務机は木端微塵になり、近くにいた財務大臣(側近は出世しました)は腰を抜かしました。
 
 王は目の前に落ちてきた石版を物珍しげにぺちぺち叩いていましたが、駆けつけた大神官(代替わりして若くなりました)が耳打ちすると顔をあげて『ああ、そんなこともあったな』と呟きました。

「王よ、ワシはこの世の果てから果てまでくまなく巡りボンボエリカ虫を探した!しかしてボンボエリカ虫はおらなんだ!
 砂漠にも森林にも海原にも沼地にも草原にも台所の鍋の下にもおらなんだ!
 冥府にも地獄にも魔界にも妖精郷にも天界にも、ボンボエリカ虫はおらなんだ!!
 このワシの魂と誇りと力と命に賭けて断言する。ボンボエリカ虫なぞ存在せんわーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

 そして魔神は神様に申請して証明書を発行してもらいました。
 それがこの石版でした。

 石版には神様の文字で『魔神が全ての世界を巡って、ボンボエリカ虫が存在しない事を証明した。全知全能の神がいうんだから疑うなよ(意訳)』と書いてありました。
 そして石版の隅っこにとても小さな字で『つーか、そんな変な生き物作った覚えねーよw(意訳)』と書いてあったのを、大神官だけが読み取りました。
 
「というわけで、ボンボエリカ虫は誤答じゃ!ざまーーーーーーーーみろ!!」
「本当に……探したのか……16年も……」

 王は苦しげに口元を手で覆い、肩を震わせました。
 爆笑寸前なのを必死でこらえていたのですが、空気の読める財務大臣は『王、お気を確かに!』と深刻そうな顔を作って王を支えました。
 
「ふぬははは!ワシの勝ちじゃあ!さぁ頭から喰ってやる。ワシは優しいから踊り食いか丸焼きか選ばせてやろうぞ……蒸し焼きか?貴様用のタジン鍋はほれこのとおり用意しておるぞ」 
「その前に、余のなぞなぞを解いてもらおうか」
「ぬぐっ!?」

 魔神はすっかり忘れていました。
 なぞなぞは魔神と王とで互いに出し合うと。 
 
 タジン鍋や調味料をそそくさと片付ける魔神に、王は白くて四角い薄い布のようなものを渡しました。

「なんじゃこの布は、折り目がないのう」
「それは遠い東の国から渡ってきた紙というものだ。燃えやすくて破れやすいのが難点だが、薄くて軽いので粘土板と比べものにならない程の情報を記録し保存できる」 
「ほう、木でできておるな。地獄の書類は人皮で出来ておったが」 
「木が材料か、いい事を聞いた……ああ、なぞなぞだったな。魔神よまずはそれを半分に折ってくれ」
「……折ったぞ」
「では、あと9回ほどそれを繰り返せ」 
「なんじゃと?」
「それが余のなぞなぞだ」

 傍で聞いてた財務大臣がゴフッと咳き込んで肩を震わせました。 
 
「わはははは!王よ、ワシを馬鹿にしておるのか?消化試合にも程があるぞ」 
 
 うすっぺらい紙を半分に折る。
 それを合計10回繰り返す。
 魔力を振るうまでもなくたやすい事だと思いました。

「合計10回が無理なら、9回でもいいぞ。余は慈悲深いと近隣諸国に評判だからな」
 
 今度は大神官がゴフッと咳き込んで肩を震わせました。
 
「ふふん。ワシに勝てぬとわかっているならこんなまだるっこしい事などせずに、参りましたと拝跪すればよいものを」

 鼻歌まじりに言いながら、魔神は紙を折っていきます。
 2回折り、3回折り……7回目であれっ?と首を傾げました。
 そして8回目を折った時、手が止まりました。
「むむむ……」
「何がむむむだ。さぁ折ってみよ。あと1回で貴様の勝ちよ」
「んぎぎ……」

 魔神の大きな手の中で、8回折りたたまれた紙は、小さく硬い塊になっていました。 
 これ以上は『半分に折る』なんて出来ません。
 (良い子のみなさんも、ティッシュペーパーで試してみてくださいね)
 
「どうした魔神。消化試合にもったいぶらずとも貴様の偉大さはようわかっておるが」
「うぬぬ……」

 魔神は魔法で紙の塊を大きくしたり小さくしたりしましたが、ギュッと折りたたまれた紙の塊である事は変えられなかったので、9回目がどうしてもできません。 

「ほう、これが余の為に作ったタジン鍋か、なるほどちょうどいい大きさだ。このままよく眠れそうだ」  
 
 王はこれみよがしに特大のタジン鍋でごろごろしています。
 魔神はギシギシと全身全霊の力を指先に込めて、紙の塊を折ろうとしました。
 そして勢い余って手が滑りました。

 ――ズルっ……ボッ

 凄まじい荷重が生んだ摩擦は、小さな紙の塊を一瞬で燃やしてしまいました。

「ぬわーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」 
 
 叫ぶ魔神の掌に、燃え尽きた真っ白な灰が残りました。
 
「なんと、なぞなぞが解けないからと問題を燃やしてしまうとは」
「ちょっ……待っ……これは違」

 慌てる魔神を王は冷ややかに見つめましたが、左の拳がぷるぷると震えているのは笑いをこらえる為固く握りしめているからでした。

「さすが魔神。魔神汚い」
「いいんですよ魔神様、あなたが横暴なのは承知の事ですから」 
 
 財務大臣と大神官もひそひそコソコソと追い打ちをかけます。
 
「おのれぇぇぇぇぇぇっ!小賢しい人間共があぁぁぁぁぁっ覚えておれっ!!」 

 魔神は爆炎を巻き上げながら、空の彼方に飛び去りました。


 知恵比べの勝負は、結局どちらもお互いのなぞなぞが解けなかったので、引き分けという事になりました。


 こうして国に平和が戻ったように思えたのですが、魔神はそれからも数年おきに現れるようになりました。

 なにせ勝負は引き分けだったので、魔神は王を食べられませんでしたが、王の国から手を引かせる事もできませんでした。
 魔神はどうにかして王にギャフンと言わせたくてたまりませんでした。

 魔神は現れる度に王に無茶振りをし、王はその度にえげつないあしらいをしました。


 例えばある年、王は荒地を開墾して畑にしました。
 魔神はその土地にできた作物をよこせといいました。
 王は畑を耕すなら、畑の土の下にできたものはすべて魔神にやろうと約束しました。
 魔神は喜んで畑を耕しました。
 そして王は畑に麦を植えました。

 例えばある年、河が氾濫して橋が流されました。
 魔神の仕業だとは知らないフリして王は、生贄をやるから新しい橋をかけてくれと魔神に頼みました。
 魔神は喜んで橋を架けました。
 そして王は、一番最初に橋をわたった者を生贄にやるからといって、大きな鉄球をアンダースローで転がしました。

 例えばある年、隣国と戦争する事になって国境に城壁を築く事になりました。
 そんな忙しい時にきた魔神は、自分がいかに強くて偉いか延々と自慢しました。
 王は魔神と賭けをしました。一晩で城壁を作れるかと。
 一晩で作れたら、王と王の一族郎党は魔神にフルコースで食べられる事になりました。
 魔神は喜んで城壁を作りました。
 そして王は夜明け前に宴会芸に秀でた兵士を呼んで、ニワトリの鳴きまねをさせました。 

 そんなある年、魔神がいつものようにお城にいくと、宰相(側近はここまで出世しました)が大勢の家来を引き連れて、一斉に拝跪しました。

「魔神様、お待ちしておりました」
「おお、いつになく殊勝だな、さては王めようやく降参する気になったか」

 上機嫌の魔神を宰相は中庭に案内しました。
 かつて先代の大神官と魔神が戦ったそこには、綺麗な絨毯が敷かれ、柔らかな絹のクッションがいくつもおかれ、山のようなご馳走が並べられていました。 
 山海の珍味に東西の美酒、そして羊の丸焼きとナツメヤシの蜂蜜漬けは魔神の好物でした。
 
「どうぞお召し上がり下さい」 
「おう!」

 魔神はこの国に来て初めてもてなされました。

「ふふん。ようやく礼儀というものをわきまえるようになったか、それで王はどこだ」
「王は昨年、身罷られました」

 答えたのは、先代そっくりの白髭になった大神官でした。 
 
「みまかるとは何だ?」
「死んだという事です」
「何を馬鹿な、あやつが死ぬわけないだろう」
「昨年の戦で受けた矢傷が元で患われて……もとより御高齢で身体が弱っておりました」 
 
 魔神と王が知恵比べの勝負を始めてから、40年が経っていました。

 火と風で出来ている魔神は、水と土で出来ている人間と違って、老いも死もありません。
 だから魔神は大神官が言っている事がほとんど理解できませんでした。

「王は……先代は臨終の際、世継ぎを決めて後事を采配なさった後に、こう言い残しました『自分の死後、魔神が襲来したら丁重にもてなせ』と」 
「あやつは、人間の癖に魔神のワシを馬鹿にしておったではないか」 
「どうぞこれを。先代が魔神様に宛てたものです」

 大神官が手紙を魔神に渡しました。
 手紙には、魔神にこれまでの非礼をわびる内容が別人のような美辞麗句を連ねた言葉が美しい文字で書かれてました。
 だけど手紙の裏の隅っこに『もう遊んでやれなくてごめんな』と小さな走り書きがありました。 
 
「………………」

 魔神は手紙を不気味なモノを見る目で見ました。
 薄気味悪いと、指先でつまんでぷらぷらと振りました。 

 それからくるりと辺りを見渡しました。
 宰相と大神官が恭しく頭を下げています。
 召使い達は怯えて隠れ、神官達が隅っこに集まって様子を覗っています。
 魔神の傍では、度胸のある女奴隷がにっこり笑って給仕をしていて、兵士達は女奴隷の丸いお尻に釘付けになっていました。
 
「そうかわかったぞ!」

 魔神は立ち上がるとふんぞり返って笑いました。

「王が死んだというのは嘘じゃあ!!ワシを恐れて隠れておるに違いない!!」

 そしてテーブルの下を覗いたり、水瓶を逆さにしたり、女奴隷の腰布をめくって蹴られたりしました。 

「ここか?それともここか!王め!ワシの目は誤魔化せんぞぉぉぉぉっ!」 
 
 魔神は城内をかき回すようにして王を探しました。
 だけど王は見つかりませんでした。
 
「よおし王よ、待っておれ!この世の果てから果てまでくまなく巡り貴様を探し出してくれるわ!!」 
 
 魔神は爆炎を巻き上げながら、空の彼方に飛び去りました。 
 


「……本当に叔父上の遺言通りになったな」 
 
 女奴隷――女奴隷の恰好をした世継ぎの娘は空を見上げ、魔神が見えなくなったの確認してようやく息をつきました。
 宰相が慌てて上着を彼女の肩にかけて、そのあられもない姿を隠しました。

 王は一年前に本当に死んでいました。
 死ぬ前に幾つかの遺言を遺しました。
 後継者の事、国の運営方針の事、徴税の事、外交の事、軍の事。
 魔神の事もありました。

『自分の死後、魔神が襲来したら丁重にもてなせ』

『そして余の手紙を渡せ。そうすれば――』

『魔神は勝手に誤解して、余を探しにどこかへ行くだろう』

 ニヤリと笑った王の死に顔を思い出す度に宰相は、笑いたいのか泣きたいのか複雑な気持ちになります。

「最低でも16年は戻ってこないだろうから、その間に態勢を整えろ……か」

 国を継いだ女王は山積みの問題を背負って不敵に笑いました。
 だけど16年たっても、魔神は現れませんでした。
 20年たっても、女王が孫に王位を譲っても、国が帝国に併呑された後も、その帝国が滅んだずっと後も、魔神が現れる事は二度とありませんでした。


【終】
お久しぶりです。
馬鹿話です。

山田と魔神エピソード0でした。

ランプに封じられる前の魔神はこんなでした。
ビフォーアフターにまるで変化がありませんね。

ファンタジーなので時代考証については見逃して下さい。

誰得なおまけ1


・王 
 歴史にも民間伝承にも残らない古代の王国の主。趣味は魔神いじめ。
 元々王位継承権は低く、王になるまで身内がたくさん死んで、性格は見た目より荒んでいる。
 ごく普通のマキャベリストだが、マキャベリストらしい苛烈さで敵からも味方からも悪魔の化身と恐れられた。
 内政は善政を敷いたので民からは篤く慕われていた。
 人生の六割を戦場で過ごしたが、勝率はそこそこ。負け戦での立ち直りの速さに定評があった。
 死後、王の偉業を讃えた石像がいくつか作られたが、そのことごとくが何者かに丸かじりされたように破壊された。

・宰相
 農民の出身だが、子供の頃にうっかり王の友達になり、流されるまま側近になり、まさかの出世を重ねた。
 一見すると運がいいように見えるが、周囲は敵も味方も濃い人間ばかりで振り回されまくりで苦労しまくり。
 凡人だったけど必死で勉強してレベルをあげた努力の天才。
 頑張りすぎて王の死後、女王を傀儡にして政をほしいままにしていると誤解されて暗殺されそうになった。

・大神官(旧)
 敬虔な神の僕。 
 魔神とガチバトルできる程度の力をもつが、真面目が過ぎて高位の者に疎まれて、当時いらない子だった王の後見を押しつけられた。
 即位前の王とは『爺』『ぼっちゃま』と呼び合う仲。
 頭部が丸くツヤツヤなので後宮の皆さんから『朝日の君』とあだ名をつけられている。
 白くてサラサラの髭が自慢だったが、魔神にボンバーなアフロにされた。
 魔神の呪いか、髭はアフロのまま元に戻らずあだ名が『日食の君』になった。

・大神官(新)
 子供の頃、魔神にかけられた髪が生えなくなる呪いを解くため神官になり修行を重ねた。
 当時の大神官の目にとまり、出世コースへ。
 聖職者としては野心家で、せっせと暗躍した結果めでたく次の大神官に。
 だけど魔神の呪いは死んでも解けず、墓から眩しい光が漏れたとか、その光を浴びたら髪の毛が抜けるとか惨い噂をたてられた。

・女王
 王の後継者。セクシーダイナマイト。
 王の兄の隠し子という事になっているが、本当は戦場で拾った孤児。
 宰相の傀儡になったフリをして謀反人を炙りだして火炙りにした。
 王に輪をかけて残忍な性格だが、変装が趣味のお茶目さん。
誰得その2



 ……魔神が現れる事は二度とありませんでした。


「ランプに閉じ込められておったからの」 

「何か言ったか」
「山田には関係ないわ」
「そうか」

 魔神が何やらイラッとくるような事をいったような気がしたが、私はそれどころではなかった。

 風呂の掃除はした。トイレは洗剤をかけてそろそろ10分、水際の黒ずみは消えているだろう。
 ああ、布巾を漂白しないと。


 今日、馬鹿な魔神がまた馬鹿な願いを口にした。

『貴様の親の顔がみたいわっ!!』と。

 些細な口論の売り言葉に買い言葉が、そのまま願いになってしまうとは。 
 不幸な事故でこいつの願いを百個叶えないといけないとはいえ、こればっかりは拒否したい。
 連絡しなければ問題ないだろうと思っていたのに。
 なぜだが実家の父の方から電話がかかってきて、明日二人でこちらに来る事になった。

 それで慌てて部屋の掃除をする事になったのだが、案の定、魔神が邪魔だった。
 手伝いなどハナから期待はしていないが、壁に向かって三角座りで何かブツブツ言ってるのが非常に鬱陶しい。

 今度はどこからか石像の頭を取り出して、それと私を見比べては首を傾げている。

「何だそれは、石が必要なほど漬物をつけるつもりはないぞ」
「これはこの世で最も狡猾で残忍な王の首の偽物だ……なんだ、たいして似ておらんではないか」
「どういう意味だ」

 ああ、ケンカを売ってるのかそうなのか。

「ぎゃああああっ!足の小指に椅子を置いて座るでないわーーーーーーっ!!」

 じっくりと話し合った結果、魔神は掃除に協力的になってくれた。
 窓ふきを任せたら、とても真面目に鼻息で窓を吹き飛ばそうとしたので栓をして止めた。

「おい山田」

 鼻の孔にグレープフルーツを詰めた魔神の声は、妙に甲高くなっていた。

「なんだ魔神」
「朝は四本足、昼は二本足、夕方は三本足、これは何ぞ?」

 魔神はえらく古典的ななぞなぞを出してきた。

「ボンボエリカ虫だ。ギアナ高地に生息していて周期的に足の数が変わる。虫とついているが、実際はカニや蜘蛛に近い生き物だ」

「――ッ!?」

「その生態は謎に包まれていて、足の数が変わるというのは最近の研究でわかった事だ。それまではそれぞれ別の生物と思われて……おいどうした魔神?」
 
 顔が悪い。
 いや顔色が悪いぞ。
 まさかボンボエリカ虫は実在するのか?
 普通に『人間』と答えるのも味気ないので、適当に口から出まかせを言ってみただけなのに。

 あ、なんだやっぱりいないのか。

 16年かけてそんな虫はいないと証明したって?

 ヒマな奴だな、お前は。



山田と魔神と大掃除。

王と山田の関連性は不明。
でも思考回路はほぼ同じ。
誰得その3


 気が付くと、右腕の痛みが消えていた。
 というか、腕の全体の感覚がなく、指一本動かない。
 見れば矢傷を受ける前の倍に膨れ上がってる。

 侍医と将軍が腕を斬る斬らないと言い争っているが、どのみち俺はもう持たないだろう。

 歳だし。
 爺よりも爺になった。

 小姓を呼んで遺言を書かせた。
 今後の方針を決めて、後継はあいつでいいだろう。
 あとは宰相がどうにかするだろ。

 そういえば、来年あたり魔神がきそうだな。
 よし、死んだと見せかけて実は生きてると見せかけてやろう。
 ボンボエリカ虫の件に懲りた様子がなかったから、うまく引っかかるだろう。
 ヤツがぎゃあぎゃあ騒ぎながら、居もしない俺をさがしまくる様子をみれないのは残念だ。

 なんだろうな、もうすぐ死ぬというのに笑えて仕方ない。


 そうだ。ヤツは現れる度に俺を笑わせてくれたな。


 最初に会ったのは、俺に毒を盛ったお袋を幽閉した頃だったか。
 なんで毒を盛られたんだったかな……兄貴を殺ったのは殺られそうになったからだし、弟が性病こじらせたのは俺のせいじゃない。
 俺は止めたぞ豚はやめとけって。
  
 次に現れたのは、統一のかかった戦で大敗した時だ。
 隣国の裏切りというか奇策にやられたな。あの後、そこの軍師暗殺するの大変だったな。

 その次が疫病が発生した時か。
 戦よりも遥かにたくさんの人間と牛があっというまに……さすがに税がとれないよあれは。

 その次は水害が酷かった年。
 正妃が腹の子ごと流されるし、城が半分水没したっけ。

 その次は、謀反を起こした息子を返り討ちにした時だっけ。
 あの馬鹿息子、自分の嫁と子供道連れにしやがって、あれで俺の血縁途絶えちまった。


 笑える要素なんて欠片もない状況に、あの馬鹿魔神は空気も読まずにやってきて、馬鹿な事を言って馬鹿な騒ぎを引き起こして。

 俺は王なんてやりたくなかったのに。
 生きているのがどうしようもなく虚しかったのに。

「……ああ、面白かった、な」 



不良老人の走馬灯。
口が裂けても『ありがとう』なんて言いません。
(((;´∀`)魔神にそんな過去が…衝撃

(因みに『終』とあったのでオマケがあるとは思わず、うっかりコメントしてオマケと挟んでしまい、慌てて削除しました。恥ずかしい行為を…あせあせ
ヨシさん〉気を使わせて申し訳ないです。
おまけは部外品な感じなので欄外というか、【終】の後にぶっこむのが癖になっております。

魔神にはあんな過去がありました。
昔話の間抜けな悪役な事を繰り返してました。
ランプ閉じ込められた経緯はいずれまた。
(((;´∀`)いえいえ、こちらこそすみませんあせあせ(飛び散る汗) いやぁ…ごめんなサイパ〜ンるんるん
 しかし、魔神の更なる過去となexclamation & question 一体どんなオテンバな経緯でランプの中に…(ワクワクわーい(嬉しい顔)
 そして山田の両親とのご対面とは…exclamation ×2 どんな残虐なご両親なんでしょうかあせあせ

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