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アナタが作る物語コミュの【ファンタジー(爆)】山田と魔神とフランダース群狼伝(前編)

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私とランプと三つの願い
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【こみかる活劇】山田と魔神と百の願い
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【ファンタジー(笑)】ランプの魔神のいる生活
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その他のシリーズはこちらから↓
作品一覧【2010/04/08 現在連載中】
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ボッチの方、リア充の方、皆々様、メリークリスマスでございます。

クリスマスプレゼントにかえてこの話を投下させたく思います。



注:この話は『フランダースの犬』をネタにしたコメディです。

コメディですが。

・残酷、暴力、猟奇的な表現があります。
・世界の名作を著しく損なう恐れがあります。
・鬱展開が含まれます。
・宗教的、思想的な意図はまったく含んでおりません。
・18歳未満にお勧めできない内容ですが、エロスは一切含まれておりません。

それでも平気だ。
暇で仕方ない。

という方以外が読むと時間を無駄にした挙句、気分を害する恐れがあります。






それではスタート!





+++++++++++++++


 昔々、フランダースのある村にネロという少年がいました。
 ネロは寝たきりのおじいさんと愛犬のパトラッシュと一緒に、貧しいながらも幸せにくらしていました。

《中略》

 教会の扉は開け放たれていました。
 冷たい石畳に横たわるネロにパトラッシュが駆け寄ると、ネロは低く叫んでパトラッシュを抱きしめました。

「パトラッシュ、もう疲れたよ。世間の人はみんな僕らに用はないんだ。僕達はふたりっきりなんだ」

 突然、大きな白い光が、がらんとした聖堂に流れ込みました。
 月でした。
 いつしか雪は降り止んで、雲間から月の光が二枚の絵を照らし出しました。
 ずっと憧れていた、ルーベンスの名画でした。

「ああ神様、もうこの上はなんにもいりません」



 静かに力尽きた二人のもとへ、天使達が舞い降りました。
 天使達は、二人の清らかな魂を天へ……


「そこまでだ」

 外の吹雪よりも冷たい声に天使達が振り向くと、山田がいました。



【山田と魔神とフランダース群狼伝】



「 ま た お 前 か 」
「おのれ!人間風情が何度も邪魔をっ」

 山田は黙って手にしたフライパンを大きく振りかぶると、力いっぱい薙ぎ払いました。

 すぱああああああああああああああああああんっ!!

「山田ァァァァァァァァァーーーーーーッ」

 天使達はステンドグラスをぶち抜いて、お星様になりました。
 そして山田はネロの傍にいくと、胸倉掴んで引き摺り起こし、あおざめた頬を引っ叩きました。

「起きろネロ。立てパトラッシュ。お前らの物語は終わっていない」

 少年の怯えた目と犬の胡乱げな目が山田を見上げ、山田は小さく溜息をつきました。

「やれやれ、何度やってもこれは慣れないな」

 山田はふと、『一回目』からこれまでの事を思い出しました。



+++++++++++++++



 内心恐れていた日がついに来た。

 フリーマーケットで冗談のようなランプを冗談のような値段で冗談のつもりで買ったら、中から三つの願いを叶える魔神が出てきた冗談のようなあの日の現実。

 不幸な事故で、願いを叶えてもらうどころか、魔神の願いを(それも百個も)私が叶えなければならなくなって、早数ヶ月。

 幸い魔神は頭が悪く、エビフライの尻尾を譲るとか、風呂の温度は42度だとか、しょうもない雑事で願いを消化していったが、最近どうにも小賢しい。

 ゴミを分別して出していたり、洗濯物を畳んでいたり、帰ったらご飯が炊けていたりしていて何を企んでやがると思っていたら、全てはこの時の為だったのだろう。

 要未来のネコ型ロボットレベルの、無理な願いを叶える為の。



「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 クリスマスイブの夕方。
 ガチムチマッチョな髭魔神が暑苦しく泣いていた。
 絵本を抱いて泣いていた。

 ホットケーキ(クリスマスケーキ?何それ食べ物?)を焼いている間、何だか妙に静かだと思っていた。
 子持ちの友人曰く、子供が静かにしている時は大抵何かえらい事しでかしているらしい。

 絵本の表題は『良い子の世界名作シリーズ・フランダースの犬』とあった。


+++++++++++++++

【説明しよう!】

 フランダースの犬とは、イギリスの作家、ウィーダが19世紀にベルギーのフランドル地方を舞台に書いた児童文学で、美術と犬をテーマにした少年の悲劇として知られている。

 日本ではアニメ化され、その感動の最終回は懐かしのアニメ特番のトリを毎回飾る例のアレだ。

+++++++++++++++


 その可愛らしい絵本をどこで拾ったんだとか、貴様の髭面には似合わないよマジでとか、言うべき事はいろいろあったが。

「近所迷惑だ。黙れ」

 とりあえず広辞苑の角を魔神の足の小指に沈めて、静かにさせた。

「ぐぎぎ……山田よ……」
「何だ魔神」

 魔神はぷるぷると震え、かっと見開いた目にいっぱい涙を溜めながらこちらを睨み据えた。

「ネロとパトラッシュは貧しく寂しい身の上で、けなげに慎ましく生きておった」
「そうだな」
「悪い事など何一つしておらん、放火は濡れ衣だし、拾った財布をネコババせずに持ち主の家に届けた」
「知ってるさ」
「それなのに……ネロは死んだっ!何故だッ!?」
「坊やだからさ」

 魔神はきゅうっと縮んで五歳児になると、ぱたりと倒れてそのままグズグズとすすり泣き始めた。
 認められないものだな、悲劇性ゆえの名作は。

「山田よ……ワシは願うぞ」
「え?」

 キンッと小さく澄んだ音がして、私の手首に巻きつく赤いビーズの腕輪の一粒が光って青く変わった。
 ビーズの粒の数は百。
 魔神の願いと同じ数。
 願いを一つ聞けば青くなり、その願いが叶ったら透明になる。
 ビーズの全てが透明になればミッションコンプリートで、私と魔神は解放される(魔神の百個目の願いが『ランプからの解放』だから)という仕組みになっている。

「ワシの願いを叶えよ山田!」

 非常にイヤな予感がした。
 これまで魔神は『プリンが食べたい(本当は茶碗蒸しだった)』とか『朝ズバよりシャキーンが観たい』とかしょうもない願いしか口にしなかった。
 しかし最近の魔神は妙に小賢しい。

「ネロとパトラッシュを幸せにしろぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
「阿呆かーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 小賢しいと思ったら、やっぱり魔神は魔神だった。

「何故じゃあああああっ!?」
「何故とかそういう以前に意味不明だボケ!」

 あの話はフィクションだ。
 実際の事件や場所や人物には一切関係がない。
 百歩譲っても、あれは19世紀の外国の出来事で、全ての登場人物は百年以上前に生まれて死んでる。

「私に出来る事なんて何も……」
「四の五の言わずに行けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 チビ魔神はぴょんと飛び上がると、手にした絵本を私の頭に叩き付けた。

“ずぼっ!”

 激突の衝撃はなかった。
 だけど、何やら解せぬ音がして、目の前が真っ白になった。



+++++++++++++++

 気が付くと、私は暗く冷たい場所にいた。
 何も見えないと思ったが、等間隔に並んだ燭台に灯った蝋燭が、あたりをぼんやり照らしている。
 石造りで天井が高く、中世の城のようだがあちこちに十字架があるあたり、教会か。

 ……教会。

 あの絵本の最後のページのあの教会に非常に似てるような気がするが気のせいだ。

 あたりをぐるりと見渡すと、妙に明るい一角があった。
 窓から月の光がスポットライトのように差し込み、行き倒れの少年を照らしていた。

 少年は、大きな犬を抱きしめていた。

『ネロとパトラッシューーーーーーーーー!?』

 認めたくないが、ここは『フランダースの犬』の絵本の中らしい。
 あまりの事に呆然と立ち尽くしていると、上から背中に白い羽を生やした幼児が何人もひらひらと舞い降りてきて、倒れている二人にわらわらと集った。
 幼児は金髪碧眼で全裸だったが、性別はよくわからなかった。これも認めたくないが天使とかいう奴だろう。

 天使達は、ネロとパトラッシュから何かを引っ張り出した。
 半透明のネロとパトラッシュだった。
 あれは幽体だの魂魄だのと呼ばれるものではないだろうか?
 天使達は半透明な二人を掴んで、そのまますーーーっと上へ……

「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ」

 とっさに手にしたもので、天使を追い払った。
 自分としては、軽く蝿を追い払うようなつもりだったのだが、持っていたのは丸めた新聞紙ではなくフライパンだった。

 すぱーーーーーーーーーーーーーーーんっ!

「ぎゃーーーーーーーーーーすっ!?」

 天使はよく飛んだ。
 羽があるからだろう。

 一方、ネロとパトラッシュの魂は、本体に沈み込むように戻った。

「お……おい、大丈夫か?しっかりしろ!」

 羽織っていた綿入れはんてんをネロに掛けて、肩を揺さぶる。
 もう片手で、パトラッシュの背中をがしがしさする。

 しばらくすると、パトラッシュが小さく呻き、ネロの目蓋がかすかに震えた。

「気が付いたか」
「あ、あなたは……一体?」
「……えーと、通りすがりの仮面ライダーだ」
「かめん?」
「それより良く頑張ったな、もう大丈夫だ」

 私はフライパンの底に張り付いていたホットケーキ(奇跡だなオイ)を剥がすと、半分に割って二人に差し出した。

「とりあえずこれでも喰え。旨くはないかもしれないが、腹の足しにはなる」

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その後……結論から言うと、一回目は失敗に終わった。

 気が付くと、台所に戻っていて、チビ魔神が床に転がってジタバタしていた。

「ネロとパトラッシュは幸せになっておらんではないかーーーー!」
「いや、正直スマンカッタ」
「ワシは認めんぞーーーーーーーーーーっ!!」

 実際、願いのかかったビーズは青いままだった。

「もう一回行ってこーーーーーい!!」

 魔神はそう叫ぶと私の頭の絵本を叩きつけた。

“ずぼっ”

 一度ならずと二度までも奴の先制攻撃をくらうとは屈辱だ。


+++++++++++++++


 気が付くとさっきと同じ教会で、さっきと同じようにネロとパトラッシュが天に召される真っ最中だった。

 さっきと同じように天使の皆さんに退場してもらい(フライパンを握ったままだった)

 さっきと同じようにネロとパトラッシュを叩き起こしたところで、気持ちを切り替えた。

 さっきと同じでは、同じ失敗をするだろうが自分。

 前回の失敗を踏まえてアプローチ方法を変えてみる。


「起きろネロ。本名ニコラス・ダース、15歳童貞。起きろ」

 倒れ伏すネロの前髪を掴んで顔を引き上げた。
 安らかな眠りから一転して苦痛に歪む少年の顔に、極悪人っぽくニヤリと笑いかけてみる。

「可哀想なネロ、あわれなネロ、みじめな宿無しの貧乏人のネロ。死んでしまうとは情けない」
「何を……あなたは一体……」
「私は悪魔だ。えーと……地獄の大公アスタロトの斜向かいの家に住んでる悪魔カスタネトの妹の婿養子の又従姉妹の悪魔センタクネットだ」
「教会に、悪魔が」

 つっこみどころはソコでいいのか?
 まぁいい。

「お前、教会の中でくたばると葬式の手間が省けてイイとか思ってるかもしれないが、思い出してみろよ」

 ――お前、どうしてこうなった?

「誰のせいでもないとか、運命だとか、そんな頭の悪い事いわないよなぁ?」

 パトラッシュがこちらを睨んで、牙を軋らせながら低く唸っているけど気にしない。

「ああ、今夜の吹雪は冷たいな。だけど村の連中はもっと冷たい。コキュートス(氷結地獄)のがまだ過し易いくらいだ」
 
 村中の子供が招かれたアロアの誕生日に、ネロだけは招かれなかった。
 村で火事が起こった時、ろくに調べもせずにネロが放火犯にされた。
 村人達は、ネロ達が売る牛乳を買わなくなった。
 貧しいかれらの僅かな収入源がそれしかないと知っていたのに。
 祖父が死んだ時、誰も弔いに参列するどころか、お悔やみ一つ言わなかった。
 靴屋の主人は、身寄りのないネロを、家賃が払えないからと寒空の下放り出した。

「生前の爺さんと親しかった人も、餓死寸前のお前らにパンの堅皮一切れもよこさず、ガン無視決め込んでたよな」
「どうしてそれを」
「悪魔だからさ。お前の事はちょっと見ただけですぐわかる」

 ネロが死んだ祖父にもうちあけた事のない将来の夢の事を言うと、面白いほど真っ青になった。
 悪魔センタクネットは心が読めるとか思ったのだろう。
 本当は心じゃなくて絵本を読んだわけだが。

「どうしてこうなったかわかるか?」

 泣きそうな顔で首を振るネロ。
 本当はうすうすわかっているのではないだろうか。
「理由は2つ」

 魔神の動作を参考にわざとらしく指を振ったりする。

「コジェの旦那……アロアのお父さんがお前の事が大嫌いだったからさ」

 アロアのお母さんの方は、ネロの事を貧乏な事以外何一つ欠点がないと思っていたようだが、生憎ネロは大層な美少年という欠点がある。
 (作者注:菊池寛訳によると本当に『美しい少年』とありました)

 ああ、欠点だとも。
 
 娘を持つ父親からすれば、貧乏で絵描き志望で、イケメンとか最悪のコンボだろう。

「村の権力者に睨まれた奴に、誰も関わりたくはないよな」

 そんな事したら、次は自分が村八分という事になる。

「もう一つの理由はな、村人達は自分の子供を、村一番の金持ちの家の娘婿にしたいと思ったからさ」

 実のところ、コジェの旦那はネロに対して直接的な圧力はかけていない。
 せいぜいネロが描いたアロアのスケッチを金で叩いて取り上げようとしたのと、火事の時に疑うような言動をとっただけだ。

 後は周囲の人々が勝手に判断して勝手に動いた。

「お前が一文無しになったのも、じいさんが死んだのも、宿なしになったのも、親愛なるご近所様方がコジェの旦那のご機嫌を伺ったから」

 ただ、それだけ。

「単なるご機嫌とりの延長で、お前は今夜ここで死ぬ。餓えと寒さに苛まれながら」
「そんな……僕は……僕は……」
「だから私は言ったのさぁ“情けない”と」

 ネロは何か言おうと唇を歪めた。
 彼の中で今、言葉にならない何かが渦巻いているのだろう。

 あ、パトラッシュが身を低くかがめて今にもこちらに飛びかかる体勢に入ってる。
 動物はやはり勘がいいな。

 私がどんな奴かわかってる。

「ネロ、このまま静かに死ぬか、それとも……」

 私は仕事の時もめったに使わない優しい笑顔を作った。

+++++++++++++++


 一方その頃、魔神は『フランダースの犬』の絵本の前で正座していた。

 絵本の中で山田はかわいそうなネロとパトラッシュを今度こそ助けて、幸せにしてくれるはずだ。
 本当は自分で絵本の中に入って彼らを助けたかったが、絵本の最後のページに天使がいたので入れないのだ。

 やがて絵本はぼんやりと光り、その厚みが少し増した。

「おお……」

 山田が涙のラストシーンを覆したのだ。

 魔神はわくわくしながら絵本のページを開いた。


+++++++++++++++
 昔々、フランダースのある村にネロという少年がいました。
 ネロは寝たきりのおじいさんと愛犬のパトラッシュと一緒に、貧しいながらも幸せにくらしていました。

《中略》

 そのクリスマスの夜を境に、ネロとパトラッシュは忽然と姿を消しました。

 人々は二人を探しましたが、その行方は杳としてしれず、やがて皆はかわいそうな二人の事をわすれました。

 それから三年経ちました。

 冷たく暗い冬の夜に大きな犬の遠吠えが響きました。

 その翌日、靴屋の主人が死にました。

 全身をズタズタに引き裂かれた惨たらしい死体でした。

 次の夜も犬の遠吠えが響きました。

 そして村人が死にました。

 日頃から火の始末にだらしのない、だけど気のいい男でした。

 やはり獣に噛み裂かれたようなズタズタの死体でした。

 夜が来る度に遠吠えが響き、その度に村人が死にました。

 見張りを立てたら、その見張りが犠牲になり、隣村から呼んだ猟師も次の朝には骸に成り果てておりました。

 生き残った村人達は囁きました。

 ――三年前、村が見捨てたネロとパトラッシュの祟りだと。

 コジェの旦那の屋敷に村人達は立て篭もりました。

 窓という窓は釘を打った板で覆われ、扉という扉は積み上げた椅子やテーブルで塞がれました。

 暗い屋敷の奥ではアロアとお母さんが震えながら泣いています。

 コジェの旦那はいいました。

 ――何があってもドアを開けるんじゃないぞ。と。

 そして、闇夜に遠吠えが響きました。

 アロアの両手で塞いだ耳にも、ドアの向こからのたくさんの物音が届きました。

 それは恐ろしい音でした。

 幾つもの足音。

 何かがぶつかり、こわれる音。
 
 犬の鳴き声と笑い声。

 大きな悲鳴に、段々小さくなる呻き声。

 唐突にそれらの音は止み、耳が痛くなるほどの静寂の中、ノックの音がしました。

 アロアは震えながら……



『なんじゃこりゃああああああああああああああああああっ!!』


++++++++++++++



 魔神の絶叫が聞こえたと思った次の瞬間、私は絵本の外に戻っていた。

「なんだ魔神。今いいところだったのに」
「いいところって、何が!?どこが!?」
「ネロとパトラッシュが村人達に復讐して、最後の仕上げにかかろうとしてたじゃないか」
「貴様アロアに何をするだァーーーーーーーーーーーッ!!」
「安心しろ、アロアは残す。生き証人がいないとお話が成立しないだろう」
「完膚なきまでに破綻しておるわ!!」

 魔神は何故か怒っていた。

「誰が世界の名作をホラーにしろと言ったーーーーーーーっ!!」
「寄る辺ない子供と犬が、村ぐるみのイジメで命を落とすんだ。祟りの一つや二つ、ごく自然な流れだろう」

 日本昔話では良くある事。

「貴様が裏で糸を引いたんだろうが!」
「望んだのはお前だろ」

 私は静かに天に召されようとしていた、ネロとパトラッシュに復讐を吹き込み、そのバックアップをした。

 身を隠して復讐の牙を研ぐねぐらの確保に、効率よく復讐を実行する為の作戦立案。

 標的の村人が一人になったところを見計らい、また一人になるよう誘導した。
 終盤は村人がパニック状態に陥っていたから、紛れ込むのは案外容易かった。
 だから生き残りが屋敷に立て篭もった時も、二人を簡単に引きこめた。

 そもそも二人の生存を望んだのは魔神だ。

 そういった事を説明しているうちに、魔神の顔色が悪くなっていた。
 意外だな、魔神も風邪を引くのか。

「絵本の中で三年も……」
「復讐という名の料理は、冷め切った頃が最も美味なんだぞ」
「…………」
「ん、滞在費の事か?」

 アントワープの街まで出て、親のスネかじってる画学生を見繕って『美少年のヌードデッサンをやりたくないか?』と言って物陰にさそってゴリッと。
 こんな話に喰いつくような奴は、二〜三度繰り返して搾り取ってもかまわないだろう。

 どうした魔神?
 何故泣く。

「貴様の血は何色じゃああああああああああああああああああああっ!!」
「赤いぞ。毎月否応なく確認してるが」
「そーじゃなくてッ!」
「まったく……お前は何がそんなに不満なんだ?」

 ネロとパトラッシュは生き残り、諸悪の根元は大体滅んだというのに、願いのかかったビーズは今だ青いままだ。

「児童文学で津田三十人殺しとかありえんだろうがッ!!」
「それを言うなら津山三十人殺しだろ」

+++++++++++++++

 説明しよう!
『津山三十人殺し』とは、1938年5月21日、岡山県苫田郡で起こった大量殺人事件だ。
 横溝正史の『八つ墓村』のモデルになった事で有名だ。
 ちなみに作者はググるまで本気で『津田』三十人殺しと思い込んでいたぞ。
 みんなも気をつけよう!

+++++++++++++++


「それはともかくっ!いいかよく聞け山田」
「聞いてやるから黙れ」
「ハッピーエンドに死者はいらーーーーーんっ!!」

 魔神は絵本を振り翳し……

“ずぼっ”

 またかよ。おい。
++++++++++++++


気が付くと、またあの教会だった。

氷より冷たい石畳にネロとパトラッシュは倒れ伏し、そこへ天使がわらわらとたかっている。

私にとっては三年ぶりだが、こいつらにとってはこれからの出来事だ。

……と思っていたのだが、フライパン片手に近づく私に気づいた天使の顔が、蒼褪めて引き攣った。

「げえっ!関羽ぅ!」
「りょ……呂布ですーーーーーーぅ!」
「いや、悪魔センタクネットですぅ!」

 なんだ、憶えていたのか。
 それなら話は早い。

“すぱーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!”

 天使の皆さんに帰ってもらった後、ネロとパトラッシュを叩き起こす。

 うっかり『やぁ久しぶり』とか言いそうになるのをぐっと堪えながら、前回同様に二人に憎悪と復讐心を吹き込んでみる。
 ここで気をつけないといけないのは、魔神が『人死にはNG』と注文をつけたことだ。

 二人を家から追い出した大家や、火の不始末で火事を起こした男だの、二人の不幸の原因を片っ端から血祭りに上げるのはよろしくないようだ。
 半殺しくらいならかまわないのではないだろうか?

 駄目か。

 ……さて、どうするか。

 ふと顔をあげると、例のルーベンスの絵が目にはいった。

 天井高く掲げられた二幅の絵。
 世間に見放された男が磔獄門にされているところと、その死骸が引き摺り下ろされているところだ。

 アントワープの街の観光の目玉。
 一目観るだけでも多大な拝観料を要求するそれ。

 ネロはそれを食い入るように見つめて、パトラッシュはそんなネロを見つめていた。

 全てを失った少年の最期の、ヒトカケラの希望。

 ……よし。

「ネロ、このまま静かに死ぬか、それとも……」

 私は仕事の時もめったに使わない優しい笑顔を作った。


+++++++++++++++


 一方その頃、魔神は『フランダースの犬』の絵本の前で正座していた。

 絵本の中で山田はかわいそうなネロとパトラッシュを今度こそ助けて、幸せにしてくれるはずだ。
 少なくとも、死にオチとジェノサイドエンドは回避してくれるはずだ。

 やがて絵本はぼんやりと光り、その厚みが少し増した。

「おお……」

 山田が涙のラストシーンを覆したのだ。

 魔神はわくわくしながら絵本のページを開いた。


+++++++++++++++


 昔々、フランダースのある村にネロという少年がいました。
 ネロは寝たきりのおじいさんと愛犬のパトラッシュと一緒に、貧しいながらも幸せにくらしていました。


《中略》


 そのクリスマスの夜を境に、ネロとパトラッシュは忽然と姿を消しました。

 人々は二人を探しましたが、その行方は杳としてしれず、やがて皆はかわいそうな二人の事をわすれました。


 それから十年経ちました。
 イギリスで起こった産業革命の波はこの国の小さな村にも押し寄せました。
 若者達は都会に出て、畑は荒れ、村はどんどん寂れていきました。

 そして最新の製粉装置を導入した工場が、隣村にできてコジェの旦那の風車は誰も使わなくなりました。
 みるみるうちに借金で首の回らなくなった、コジェの旦那の家と土地は人手に渡る事になりました。

 買い取ったのは、隣村に工場を建てた新興の実業家でした。
 彼は周辺の土地も買い叩くと、新しい工場を建て始めました。

 都会で雇った人足が畑を潰し、広場の木を切り倒し、水車小屋を取り壊します。

 げっそりと老け込んで泣き崩れるコジェの旦那の目の前で、村の象徴だった風車も次々に解体されていきます。

 最後に残った風車の前に、女の人が立ちふさがりました。
 それは美しく成長したアロアでした。
 アロアは涙ながらに、実業家にいいました。

「お願いネロ、もうやめて」

 実業家はまだ歳若い青年なのに冷たい目をして、傍らに年老いた大きな犬を連れていました。
 成長したネロと、長生きをしているパトラッシュでした。

 青年実業家は表の顔で、裏ではいくつもの犯罪組織を束ねています。
 特に力をいれているのが、美術品の裏取引で、贋作詐欺や窃盗で荒稼ぎしています。
 アントワープの街の人達は、教会のルーベンスの絵がネロの描いた精巧な贋作とすりかえられている事に誰も気づいていません。
 本物は、パリの成金に売り飛ばされ、それを元手にネロは隣村に製粉工場を建てたのでした。

「土地の権利書はこちらにある。自分の土地をどうしようと、自分の勝手だろう」
「お父さんから騙し取ったのでしょう。知らないと思ってるの!?」
「君の父上より、こちらがより勤勉だった。ただそれだけの事」

 成長したネロは微かに笑いました。

「まぁ『絵を描いてばかりの怠け者』に言われる筋合いはないのだろうけど」

 歪んだ侮蔑の笑みでした。

「それより、工事の邪魔だからそこをどいてくれないか……ああ、立退き料が欲しいのかな?」

 ネロが合図をすると、パトラッシュがくわえていた袋をアロアの足元に放り投げました。
 袋の中にはお金がぎっしり詰まっていました。

「ちょうど2000フランある。拾えばいい」
「あなたという人は……ッ!」
「気にしなくていいよ。僕にとってははした金だ」

 ネロは懐から財布を取り出すと、中身をばら撒いて村のみんなに言いました。

「欲しければくれてやる、好きなだけ拾うといい……優しいだろう」

 地面に散らばり泥に塗れたお金に村人達が群がります。
 アロアは呆然と立ち尽くしていました。
 仲の良かった村人達が、這い蹲り泥まみれになってお金を奪い合っていました。

 靴屋の大家さんがいました。
 友達がいました。
 気のいいおじさんがいました。
 木こりのおじいさんもいました。
 お父さんもいました。

「ネロ、どうしてこうなってしまったの、優しかったあなたはどこに行ってしまったの?」
「死んだよ。あのクリスマスの夜に」



『おいやめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!』
+++++++++++++++


 魔神の絶叫が聞こえたと思った次の瞬間、私は絵本の外に戻っていた。

「なんだ魔神。今いいところだったのに」
「いいところって、何が!?どこが!?」
「村人達とベルギーの画壇に、死にまさる苦痛と屈辱を与えていたじゃないか」
「やめんかゴラァァァァァァァァァッ!」

 魔神は何故か怒っていた。
 ちゃんと言われた通りに殺戮は無しの方向でやっていたのに、ビーズは青いままだった。

「人を殺さずに復讐を果たせってのはこういう事じゃなかったのか?」
「復讐から離れろ、復讐から!!」
「じゃあ、何をすればいいんだ?」

 わからない。
 魔神はいったい何がしたいのか。

「わからんのか山田?本当にわからんのか?」
「お前が具体的に願わないのが悪い」

 全ての日本人にファジー機能がついているわけではないというのに。

「いいか山田、『幸い』というものはだな」
「線が一本抜けただけで『辛い』になるな」
「違うわ!そーじゃなくて……」

“ぴんぽーん”

 魔神が何か言いかけたところでチャイムが鳴った。
 うちのは壊れているので、代わりにチャイムそっくりのシールが貼ってあるのだが。

「おい山田、どうする?」
「無視だ。新聞も浄水器も布団丸洗いサービスもいらん」

“ぴんぽーん”
“ぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽーん”

 再び鳴る。何度も鳴る。
 十六連射でチャイムが鳴る。

「出るまで鳴らすつもりのようだぞ」
「ガスも水道も電気もNHKの受信料だって払っている。出る筋合いはないな」

“ぴんぽー……ゴスッ”

 ドアの向こうから重い打撃音が聞こえて、チャイムは止んだ。
 育児ノイローゼと夫婦間トラブルで帰省中の大家の娘さんの逆鱗に触れたようだ。

「…………」
「それで、魔神。幸せがどーたらと言ってたようだが」
「何事もなかったようにッ!?……ワシはただ、いつも思っておったの」

“ガシャーン”

 魔神が何かいいかけたところで、窓ガラスの割れる音がした。
 振り返ると、窓の外に鉄パイプを持って涙目の外人いた。
 ここは二階なのだが。

「き……貴様はっ!?」
「居るなら居るって言って下さいよ!」

 外人は金髪碧眼の美形で白いローブを着て背中に真っ白い羽を生やして浮いていた。
 どうも外人ではなく人外らしい。
 よくみると即頭部が妙に凹んでいた。

「天使が何故ここにッ!?」
「天界よりクレームの申し立てに参りました」

 どうも絵本の中の連中の上役らしい天使は、ずかずかと部屋に上がりこむと辺りを見回してこう言った。

「貧しい人は幸いです。天の国は彼らの為に……ごめんなさい!ここが貧乏とか思ってませんからっ!」
「山田、話にならんからフライパンを下ろしてくれ」

 私が無言で脅してると思っているのか、失礼だな。
 遠方からの客に友好的に接してやるとも。

 割った窓ガラスの補償してくれたらな。


【後編に続く】
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