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アナタが作る物語コミュの【恋愛感動系】愛しい人(長編)

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 長編の執筆が進まず、変わりにふっと短編のネタが浮かんでしまいました。どうも、リバーストーンです。

 私個人としては珍しく、初めての全編女性視点からのストーリーなので、不慣れな所もありますが、よろしくお願いします。

*************************************************************************

 「大丈夫かい?」
 体中傷と痣だらけで身なりがボロボロになって夜の街中の路地裏の片隅でうずくまっている私に、彼はそう尋ねた。
 私はうつろに後ろを見やると、そこには一人の男が立っていた。

 見たところ四十代くらいで、スーツの上にコートを羽織って片手には鞄を持っている。痩せ型の体系ゆえか、頬が少しこけて見え、第一印象はくたびれた会社員という感じだった。
 彼が近寄ろうとするので、私は思わずライトの当たらない物影に身を潜める。
 女としてこんな格好を男性に見られるのはとても嫌だった。

「心配しなくてもいいよ。僕は君に危害は加えない」
 警戒していると勘違いしたのか、彼は静かに私に手を伸ばす。しかし、私はその彼の差し出した手をバシッと振り払った。きっとこの時の私は疑心暗鬼の塊のような目をしていたのだと思う。自分が持てる憎悪の全てをこめて彼を鋭く睨み付けていた。
 こうして甘い言葉に騙されて、辛い仕打ちが待ち受けている事は嫌と言うほど知っている。
 せっかく逃げ出してきたのに、またあんなところに連れて行かれるなんてごめんだ。

 私は男を無視し、立ち上がって歩を前に進める。だが、弱った足腰にそんな力をこめる筋力もなく、私は崩れるようにして再び倒れ込んだ。
同時に頭を打ちつけて視界が混濁する。
倒れた私を、男はひざを着いて何かをこらえるように見下ろしていた。
遠のく意識の中で彼の声が小さくささやく。


――――――ああ、君は他人を信じることをやめてしまったんだね、と。


 私は物心ついた頃から大人から虐待を受け続けていた。殴る、蹴るは日常茶飯事。熱湯をかけられたり、煙草を押し付けられたりもした。体中はいつもどこかに痣が出来ていた。
 ただ唯一、顔だけを除いて。

 偶然、私は世間で言う美人な顔立ちらしく、顔だけは傷つけられなかった。その容姿にみんな可愛いだの綺麗だのとお膳立てのように評価するが、私はそれを心良く思わなかった。むしろ呪いすらした。
 この姿のせいで私は散々見知らぬ他人に振り回され、弄ばれ、そして捨てられる人生を続けてきた。中には商品のように私を売り飛ばそうとする者もいた。そこには人道や命の尊さの欠片も無い。
 毎日が先も光も見えない暗闇の道で、受け続ける苦痛と辱めは地獄だった。

 今、こうして生きていられるのは、本当に奇跡だと思う。
 いや、今までのことを思えばこれは悪夢と言うべきかも知れない。
 私は常に死ぬことを望んでいた。

 死んで土に還ればこの辛さも、この苦しさも感じなくなる。
 もう人に縛られる事も耐え続ける日々を送ることもない。
 天国なんて上等なものはいらないから、汚れて醜い私の人生に終止符を打ちたい。
 日々の生活を送るうちに憧れは願望に、願望は切実な思いへと変わっていた。

 このまま眠ったように死ねるのなら本望だ。
 走馬灯に蘇る過去が、あの世への誘いだとしたら私はもう何も迷わない。
 病気で亡くなった母のところへ、私も・・・・。

コメント(12)

 
              ◆

 まばゆい光にうっすら瞳を明けると、私は見知らぬアパートの一室のソファーの上で寝かされていた。

「気がついた?」
 横を見ると路地裏にいたあの男が、心配そうに私の顔を覗き込んでいた。視線を合わせながら、私は何で目を覚ませてしまったのだろうと己の不運を悔やむ。
 ―――――やっと死ねると思ったのに。

 脱力し、うつろな眼で天を仰いでいると彼はそっと、
「君、名前は?」
と尋ねてきた。私に身元になるものを何もつけていなかったせいだろう。分からないのも無理もない。私だって自分の名前なんてとうの昔に忘れてしまった。
『物に名前など必要ない』
 それが私を扱ってきた人達の考え方だったから。

「名前がないんじゃ、呼ぶときに不便だな」
 何も反応しない私に、彼は唸るように考え込む。どうやら、私の名前を思案しているらしい。
(ペットじゃあるまいし、名前なんか要らない)
 言葉が上手く話せない私は、ふんっとそっぽを向いた。

 しかし、彼はそんな私の態度を気にも留めず、しばらく考えた後、
「カンナ。うん、カンナがいいな」
と、何か納得したようにつぶやいて、勝手に名前をつけてしまった。
(強引な男)
 私は呆れながら溜め息をつく。
 最初の彼のイメージは無神経でお節介焼きな人だった。

 同居を始めてから数日後、彼は相も変わらずに優しかった。
 今までの人達なら、態度を変化させてもう私を弄んだりしても良い頃だと思うはずなのに、彼からは一向にその気配もまるでない。

 最初、親切心から彼は迷子か家出をした私を元の家に返そうとしているのだろうと思っていた。だが、私が家に帰りたがらないのを察してか、見ず知らずの私を受け入れ、逃亡者である私の捜索届も出さず、まるで家族のように接してくれた。

「これからはここが自分の家だと思って良いからね」
 そう言って彼は私の頭を撫でる。
(――――ここが、私の家?)

 以前には無かった安息の住処。
 罵倒も虐待もない平和なところ。
 怯える日々を続けなくてもいい私の居場所。
(――――私、ここで暮らしていても良いの?)

 不思議と涙が出てくる。抑圧していた感情が一気に弾けて、ぽろぽろとこぼれた。
 もう帰る場所なんて無いと思っていたのに。
 私はその表情を隠すように彼の懐に顔をこすり付ける。

「あはは、気を使わせちゃったかな?」
 彼はちょっと困った顔をしつつも笑いながら、また私の頭を撫でてくれた。
 屈託の無い笑顔に朗らかな声、そして大きな掌に似つかぬ繊細で温かい撫で方はいつのまにか私の心の隅にあった一抹の不安さえも消し去ってくれていた。
 身寄りのない私に初めての『家』が出来た。

              ◆
 それから数ヶ月が経ったある日のこと。
「『カンナ』はね、僕の娘の名前なんだ」
 私が部屋に飾ってあった写真立てを眺めていた時に、彼はそんな事をぽつりと言った。珍しく普段あまり自分のことを話さない彼が、私に過去を明かしたのは初めてだった。その話題をきっかけに彼は色んなことを私に教えてくれた。

 自分の仕事が上手く行かず、転職をせざるをえなかったこと。その際に妻と口論になり、離婚して、子供とも別れてしまったこと。そして一年前、元妻と子供が交通事故で亡くなってしまったことも。

「何て因果なんだろうね。家族を守るために仕事を頑張ってきたのに、僕は仕事で家族と離ればなれになってしまった」

 彼の今にも割れてしまいそうな硝子のような瞳。
 それを見た時、私はその綺麗で儚く、美しくて危うい、光の輝きの正体を解かってしまった。この人が優しいのは寂しさを紛らわすためなのだと。後悔と懺悔で己を呪った戒めの十字架を背負った証なのだと。

 私は泣き崩れる彼に近づき、そっと自分の手を彼の手に重ねた。
 家族を亡くし、取り残された絶望。
 彼の孤独の苦しみは、私にも身を引き裂かれそうなくらい分かる。
 私もそれに怯え、恐怖し、誰かに救って欲しかった一人だったのだから。
 例え彼がその相手に私を拾ったとしても、それを責めることはとても出来ない。
 私は心に決めて、同時に誓った。
 彼と人生を共に生きようと。

(大丈夫、安心して下さい。私はずっとあなたのお傍に居ます)
 伝えられない言葉の変わりに、私は彼の横に寄り添う。彼も涙を拭きつつ、黙ったままそれを受け入れた。 
 この人にも、そして私にも、互いがすでに無くてはならない存在になっていた。
 このまま時間が止まればどんなに良かっただろう。
 でも、運命は残酷にもその誓いすらも引き裂こうとしていた。

 一人で留守番をしていた時、私は突然血を吐いた。この症状は知っている。母がかかったものと同じ、死に至らしめる病だ。
 彼だけには知られたくない。私は真っ先にそう思った。
 せっかく手に入れた幸せなのに、自分が病気に侵されているのを彼に気付かれて悲しむ姿を見たくは無かった。

 悲しませるのは、死んだ後の一回だけでいい。
 私は今まで通りになるべく普通に振舞うことにした。
どんなに苦しくても、どんなに痛くても、彼と一緒なら全てが和らぐような気がした。
 
             ◆
 最近、めっきり食欲が減った。
「どうしたの? 美味しくない?」

 私は彼を心配させまいと首を横に振り、明るく振舞った。無理に食べ物をかき込み、彼の居ない所で私は吐いていた。胃が受け付けなくなってきているのだろう。私の命はもう長くは無い。病院などに行かずとも自身の体は自分がよくわかっていた。刻一刻と日に日に終わりが近づいて来るのが感じられる。

 どうしてだろう。
 あんなに望んでいた『死』なのに、今はどうしようもなく怖い。
 生きることに貪欲になったせいだろうか?
 彼と居ることの永遠を望んだからだろうか?
 恐怖の起因すら見つけられず、二週間が経過した頃には、私の病魔はすでに全身を蝕みつつあった。

 そして彼が仕事で出掛けている時、ついに私は床に倒れ込んだ。
 手も足も全く動かせない。まるで力が抜かれているみたいな錯覚が襲う。途端に咳き込み、また吐血した。
 いつもとは違う強烈な激痛。

(―――――苦しい・・・苦しい・・・・・苦しぃ)
 私の全身から命を吸い尽くすように、吐いた血が床に広がっていく。
これが『死』。
 次こそ確実に奈落へ突き落とそうと、何度も何度も体を痛めつけてくる私の死神。
私は必死に負けないように、その猛攻に堪える。
だが、それも長くは続かず、徐々に限界に近づいていった。

(―――――・・・・・・・辛い、・・・・・・苦しい、・・・・・・痛い)
 もう意識は苦痛の言葉しか浮かばない。
(・・・ダメ・・・・・ダメ、・・・・・・・・私は・・・・・・これ以上・・・・耐えられない。あなた、・・・・・私は・・・・カンナは・・・・・・・・泣いて・・・・・・・しまいそうです)
 最後の抗いもむなしく、病気は私の思考までも食いつくしていく。

(ごめん・・・・なさ・・・い)
 目を閉じる瞬間、私は彼に対してそう呟いていた。


どこからだろう?
誰かが自分を呼んでいる。
天国の母なのだろうか?
いや、この声は。


「――――カンナ! カンナ!」
 目を開けると、私を抱え、揺り動かして必死に呼んでいる彼の姿が見えた。
幻でも夢でもないあの温かい大きな手が私をがっしりと抱いて、支えてくれている。

(ああ・・・・)
 今度こそ胸がはち切れそうになった。
(なんてずるい人。・・・・・いつも私の心の張り子が切れそうになる時にあなたは側にいる)
 彼の涙が頬を伝って流れ、輝く宝石のように私の顔に落ちた。純粋なその涙に私は心を締め付けられる。

(お願い、・・・・・どうか・・・・・こんな私のために泣かないで下さい。私には・・・・・その涙はもったいなさすぎる。どうあがいても・・・・・・・・今の私にはあなたの澄んだ瞳に溜まった涙を拭ってはあげられないのですから)

 この時彼の腕に抱かれながら、ようやく私は自分の恐れていたものに気が付いた。
 それは死そのものでも、僅かな寿命に怯えることでもなかった。
 誰にも気付かれず、誰の記憶にも存在がなくなって、いなかったことになるという事だった。

 私は自身の畏怖を理解し、同時に安堵した。
 そして、残りの力を振り絞って彼に笑いかける。

 ずっと一人で、孤独のまま死ぬと思っていたけれど、最後になってあなたに抱かれ、一緒にいられてカンナはとても嬉しかったです。もうこれで、冷たくなっていく自分の体温から寒さと恐怖にかられることもありません。
 今の私は幸せ一杯なのですから。
 だからもう泣かないでください。私の愛しい人。


 それが私の、
 ――――――あなたの猫としての最後のお願い。



(・・・・・・・・ああ、・・・・・・・・・・・・あったかい・・・・)
 毎回コメントありがとうございます。
 途中で彼女の正体に気付かれてしまったので、自分の文章の乱雑さを悔やむばかりです;;まだまだ精進が足りませんね。
 重ねてどうもありがとうございました。^^
>レイラ・アズナブルさん
 ありがとうございます。恐縮です^^;

>まゆ 6号さん
 毎回コメントありがとうございます!
 自分も恋愛、感動系に関しては涙腺緩みまくっています^^;

 動物って無邪気な可愛さがあるから良いんですよね。

 なるべく後味悪い話にならないように、頑張ります。
カンナ(´;д;`)

少しの時間でも幸せを感じる事が出来てよかった涙
再びコメントありがとうございます!!

猫の視点から書くのはとても難しかったのですが、共感頂けて嬉しいです。

わずかな幸せの大切さをもっと上手く伝わるように、表現力の腕を上げたいと切に思いました。^^;

どうもありがとうございました!!

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