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アナタが作る物語コミュの【どうしようもない恋愛系】 『ツグミ』

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カラコロとドアのカウベルが鳴ったから、カウンターの中の佳久冶(かくや)は顔をあげた。入って来た客は女がひとり。
「いらっしゃい」
にっこり微笑んで迎えながら、止まり木に座った女の顔を見て、(あぁ、幸薄そうだなぁ)と思った。
佳久冶にはそういう勘が働く。その勘で、寂しがり屋をみつけては巧みに擦り寄って行く。寂しがり屋はみんな優しい。優しいから居心地が良い。だから気持ちが惹かれる。

いつもなら、客の方から注文を言うまで黙っているのに、佳久冶は自分から声をかけた。
「何にしましょう?」
女は、ぼんやりメニューを眺めて、「おすすめはありますか?」と逆に尋ねてきた。
「何でも」
「じゃあ、おまかせします」
自分で決められないのか、そんな気分なのか。
「お好みでお作りしますよ。甘いのでも、甘くないのでも」
黙っているから、自分で決められないんだろうと思った。
「僕が好きなのでも良いですか?」と聞いてみたら、女は黙って頷いた。やっぱりそうだ。自分に自信がなくて、他人の言葉に弱そうだ。
誰かがカラスを指さして「あの鳥は白い」と言えば、きっと黙って頷くんだろう。

グラスを選びながら、女の人なら甘い方が良いかな?とも思ったが、佳久冶の好みで良いと言うから、その通りにしてみた。ジンをトマトジュースで割ってクレイジーソルトをひとふり、レモンをしぼる。本当のレシピなら、ブラックペッパーをふるところだが、佳久冶の好みで適当に作ってみた。おつまみには、新タマネギをスライスしてカツオ節とポン酢をかけて添えてみた。これも本当ならパールオニンのピクルスあたりが正統だが、佳久冶の好みでさっと作ってみた。
女は一口飲んで、一口つまんで「美味しい」と笑った。どちらも甘くなくて正解だったようだ。
佳久冶は嬉しかった。この女とは、きっと相性が良い。舌が合う女とは相性が良いはずだ。

女はツグミといった。
雀に似た地味な小鳥の名前だ。その名の通りのような女だった。
決して醜女(しこめ)ではないが、取り立て美人でもなく、薄化粧で、長い髪は染めても巻いてもいない。服装は流行りのデザインでもなく清楚で真面目そうだ。
三十路あたりだろうか。優しそうというよりもっと、情が深そうだ。
生き方が人相を作るというならば、間違いなくこの女は幸薄かろうと思われた。
しかも、優しさ以上の情の深さが仇(あだ)になって不幸を招いてしまうタイプだろう。

ツグミはいつもふらりと、ひとりでやってくる。恋人なんかいないと、まとわりついている寂しいオーラが鳴いている。その鳴き声が、佳久冶には聞こえた。
ひとりだから、いつもカウンターに来る。窓際が空いていれば必ずそこを選ぶ。
佳久冶はツグミが来ると、出来る限りいつもツグミの視界に入るようにした。
話しかけてみたり、黙ってそっと見つめてみたり、目が合うと照れて俯いてみせたり、そうやって少しずつ態度で誘ってみた。
ツグミにしてみれば、佳久冶のような、若く美しい青年に見つめられて、決して悪い気はしない。けれど、恋の相手にしては、佳久冶は自分には勿体ないような気がしていた。
そのくせ、佳久冶が気まぐれに、他の客とクスクスと耳打ちしたり談笑をしたり、こっそり姿を消してしまうのを見送るのは寂しくもあった。
そんな時、人の噂に聞いてしまった。佳久冶は相手を気に入りさえすれば、春をひさぐ。
ドキリとした。それ以来、佳久冶の見つめる瞳に捕らわれると、まさか、もしかして、と思った。佳久冶はそんな目で自分をみつめていたのだろうか?

その通りだった。
簡単な事だ。互いに想い合っていれば、遅かれ早かれ自ずと通じるものだ。
同じ気持ちで目が合って、同じ想いで見つめたままで、互いに頷けば、それで成立した。
ツグミは、一夜限りの夢にしてしまおうと、それ以上を望んではいけないと思った。

舌が合えば相性が良い。佳久冶の予想は外れていなかった。
ついばみあったツグミの舌はとても冷たく、それが佳久冶の情炎を煽った。佳久冶の炎に焼かれながらツグミは震えて鳴いた。
愛し戯れ合った後。ふたりは毛布にくるまって、ぼんやりと、窓の外に見える他所の家の、外から綺麗に見えるように飾られているクリスマスイルミネーションを眺めた。
「あれって、うそ寒いよね」
ツグミが言うと、
「飾れば飾る程、寒く見えるよね」
虚しい瞳で、悪戯っぽく笑って、佳久冶は静かに答えた。
店でもないのに、人目を引くように、普通の家の窓やベランダにキラキラ輝く光。
あの窓の向こうの部屋が、本当は温かくなければ気味が良いのにと、意地悪く思っていた。
ふたりとも寂しかった。

「そんなの、いらないよ」
ツグミが妥当と思えるだけの金額を差し出すと、佳久冶はそっぽを向いた。
「ツグミさんには売りなんかしない」
「じゃあ、他の人にはするの?」
思わず聞いてしまって、佳久冶の顔色が変わるのを見て、ツグミは(しまった)と思い、気まずくなった。
「しないよ」
その場限りの嘘なんかいつでも平気でつける佳久冶だったが、この時は本当にそう思っていた。
だから、ツグミからは代償としての金銭を受け取りはしなかった。
けれど、その夜からツグミの部屋に住みついてしまった。居心地が良いと思ったからだ。
ツグミの寂しがり屋な心根が、佳久冶にとっては居心地が良かった。
いかにも幸せそうな他所の家のクリスマスイルミネーションを、一緒に意地悪い気持ちで見た事が、身体を重ねた事よりも、より深くふたりを繋げていた。
ツグミも佳久冶に「帰れ」と言う理由がみつからなくて、愛しい気持ちと寂しい気持ちが傾くままに、佳久冶を許してしまっていた。

佳久冶はツグミの帰りを待ちながら、冷蔵庫の中の物で簡単な惣菜をこさえたりした。
ツグミは、帰る部屋に灯りがついていて、誰かが待っていてくれる事の温かさを思い出した。そうなるともう、誰もいない暗い部屋に帰る生活には、戻りたくなくなった。

けれど、ツグミにとって、夢みたいな甘い日々はいつまでも続かなかった。
まだ若い佳久冶は、飽きっぽくて、気まぐれだ。
ある日、何も言わずに姿を消し、携帯も繋がらずツグミを怯えさせ、いよいよ警察に相談しようかと思った頃にひょっこり戻って来た。
どんなに心配した事かと、泣いて怒るツグミに、佳久冶は「ごめんね、ちょっと」と、明らかに適当な嘘をついてごまかそうとする。
ツグミには、佳久冶の言葉に嘘があるのは見えていたけれど、責めてばかりでも可哀そうだと思ってしまい、やがて甘やかして世話を焼く方に回ってしまった。
ツグミにとってはその方が楽だからだ。言い争ったり戦ったりなんかしたくなかった。
せっかく無事に戻って来た佳久冶の機嫌を損ねたくなかっただけだ。
また、ひとりになるのが寂しいから、佳久冶がまた何処かに消えてしまわないように。

ツグミがそういう女である事が、佳久冶には最初からわかっていた。

事実、佳久冶が何度わがまま勝手を繰り返しても、遂にはツグミの貯金を持ち逃げしても、戻ってみれば、ツグミは泣いたり怒ったりしても、結局、佳久冶を許してしまう。

佳久冶はツグミに都合の良い女でいて欲しかったし、ツグミも佳久冶が望むとおりの、都合の良い女でかまわなかった。そうする事で佳久冶に必要とされたかった。
こんな佳久冶に、こんなツグミだから、ふたりは惹かれ合い繋がっていられるのだから。

コメント(9)

すいません。
ちょっと書き方を変えただけになりました。

http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=42763761&comm_id=3656165
お〜い!
ちと読んだら似た感じのが浮かんでもうたやんけ〜!

…パクりとも、言うな(笑)
(((*´∀`)小ずるい男ですなるんるん ツグミは生ぬるさと妥協に心地好さを感じたのでしょうか…
>dekaoさん

パクリて(笑)

自分が書いたものが誰かに影響を与えてしまうなんて、嬉しいっすわ。


>ヨシさん
どうも、コメントありがとうございます。
佳久冶とツグミはお互いに「ふたり特有の相性の良さ」を感じたんじゃないかと、思っております。


>レイラ・アズナブルさん
深いですか?ありがとうございます。
本当はもっと佳久冶目線で書いてみたかったのですが、あたくしが女ですし、どうしてもツグミよりになってしまいました。
こういう恋愛を「ああ、やだやだ」と感じるのは、健全でよろしかと思いますよ(笑)
>レイラ・アズナブルさん
ありがとうございます。
そうそう、あのクリスマスイルミネーションを「ふたりで一緒に意地悪い気持ちで見た」っていうのに引っかかってもらえて嬉しいです。

どうしたことか、良いことを一緒にするよりも、悪いことを一緒にする方が、より強く絆が結ばれるんじゃないかと、あたくしは思ってしまいます。

共犯者ってやつでしょうか。

でも、心底悪くはなりきれなくて、自己防衛のために、どこかで相手を憎くもうとしたり軽蔑しようとしたり

うわ〜、また、妄想しちゃうじゃないですかぁあせあせ(飛び散る汗)

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