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アナタが作る物語コミュの「ともし火」

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 7月の暑い日、電車を降りたブラッドは、駅の改札で立ち止まった若い女にぶつかった。

 ドカッ
「おっ」
 バタッ
 そいつは倒れてしまった。

「大丈夫か・・・?」

「うーん・・・暑くて一瞬、ボーッとなった」

「ぶつかってすまなかった。ちょっと休んだ方がいいんじゃないかな」

 色白・細身で猫背の女は、茶色い髪をおっ立てていた。
 着古したプリントTシャツに、肩紐はずした黒のオーバーオール、足元はぞうりサンダルといういでたちだ。

「飲みなよ」
 ブラッドは、日陰のベンチで女にエビアンの小さいボトルを渡した。
「ありがとう。お兄さん、音楽やってるんですか?」

「あ、これ?」
 かたわらのギターを見るブラッド。
「一応、バンドのヴォーカルだけど、時々ストリートでも弾いてる」

「あたしも歌ってるんだ・・・」

「・・・・?どうした?」

 女は、今度は震え出した。
「日陰入ったら、寒くなってきた・・・」

「変温動物か!?」

コメント(17)

 AAAAAAA〜!!
 ZUDADADADA・・・・
 シラフの酔っ払い 寄りかかるな
 して欲しい事あるなら言ってくれ
 自分で出来るならやってくれ
 ラクしてぇだけならやめてくれー
 DUNDUDURUROON・・・

 BAKIN!! BAKIN!!

 ガールズパンクバンドのヴォーカル、火瑪(ひめ)は、スタンドマイクで足元のライトを叩き割った。

 ・・・・やるつもり無かったのに
 ステージライトが暑かったんだ・・・・・

 
 



 火瑪はストーンショップで働いている。
 
 出勤時、若者がうじゃうじゃいる通りを歩くと、真夏なのに、圧迫感で寒気がする。

 
 石に囲まれていると、それだけで落ち着く。だが、仕事なので最低限の営業トークは必要だ。
 お客によっては、パワーストーンの神秘的要素を強調した質問をしてくるが、効果を保証出来るものではない。
 自分で相性を感じて、気に入って買って欲しいと、火瑪は思う。
「お兄さん・・・ここで弾いてたんだ」

 ブラッドがストリートでギターを弾き歌っていると、駅でぶつかった女が、曲の合間に話しかけて来た。


 そして、今日もいる。

「お前さ、オレのファン?」

「たまたま仕事が終わりの時間なんだよ。それに、お前って呼ばないでよ。ヒメって名前あるんだから」

「ヒメ?お姫様の姫?」

「その字じゃないし、残念ながら、そんな感じじゃないよ。ファイヤーの火に、王書いて、馬」

「いい名前じゃん。火瑪って呼んでいいのかよ」

「うん」

「オレはブラッド」

 ブラッド、血、赤い色。でも、火瑪はブラッドに緑色を感じた。
 しゃべってるとブラッドはよく「さあ」「別に」「わかんねぇ」って言う。火瑪は直感的に、信用できる人間だと感じた。

「火瑪ってさ、あったかい感じするな。でも、なんか乾いてる。一緒にいて、居心地いいよ。今までいなかったよ、そんな奴」

「そんな事言われたの初めて。あたし自身は、涼しい所が好き。冬が好き。冷え性だけど。アツ苦しい人も場所も苦手 」

 タンクトップ姿の火瑪の身体からは、所々カットしたような傷跡がのぞいている。腕にも傷はあった。



 

 夏の夜、火瑪はよく悪夢をみる。毎夜蠢くもう一人の自分。

 無抵抗なまま、野犬の群れに食い殺される
 身体中に針を刺される
 狭い部屋に閉じ込められ、巨大なハチ数匹に刺される
 この前は、目を開けてもハチが消えず、起き上がって電気をつけた。ハチは布団のシミとなり、やがて消えた。

 音や声が聞こえる事もある。
 ハカイセヨマニアワナイ
 キーンと耳鳴り
 アルミ缶を潰すような音や枯れた木が折れる音
 男女の会話
「ぐったりしてるよ、この子」
「平気だろ、何か飲ましときゃ」
 ガーッ、バタン チキッ

「うあぁ〜!!」
 汗びっしょりで目覚める火瑪。寒くないのに歯がガチガチいい出した。

 暗い所で火を見てると落ち着く。
 ライターの炎を見て目を細めると、だんだん炎が2つに見えてくる。それが1つに合わさった所で、大きく息を吐く。
 ちょっと眠そうで冷めた眼。ブラッドも時々、そんな眼してる。 
今夜も、ブラッドと火瑪は一緒。

 数曲弾いたブラッドは、
「今日は気分乗らないから、終わりにするわ。缶ビールでも買って公園で飲まないか?」

「いいよ」

 コンビ二で缶ビールを買い、公園に向かうと、犬の散歩をしている人がいた。コーギー犬を連れている。

「足、短ーい。カワイイね」

「犬好き?」

「うん、動物好き。純粋だから。目、見たらわかるけど」

 そういえば、火瑪もキレイな目してるとブラッドは思った。

「でも犬とか猫、もし飼えたとしても、なんかコワイ」

「コワイ?」

「飼う自信ない。何でもそうだけど、ダメにしちゃいそう。大事にするってどういう事なんだろう・・・」
 火瑪は小さい頃、一緒に寝てたスヌーピーのぬいぐるみを、ボロボロになるまで可愛がり、汚れたので洗濯機で洗った。すると、スヌーピーの首がちょん切れてしまった。
 まあ、ぬいぐるみは縫えばいいんだけど。

「子供の頃」「公園」で思い出した。
 母さんは離婚してから、よく家に男を連れ込み、火瑪は夜の公園で時間をつぶしていた事がある。
 寂しさをまぎらす為、走って地球儀みたいな遊具を回した。勢いがつき、手を離すと元気良く回っている。
 逆回転にしてみたくなってつかもうとしたら、腕を持っていかれ、バランスを崩し転んでしまった。



「よう、オレと付き合ってみない?」
 公園に着き、缶ビールで乾杯すると、ブラッドが唐突に言った。
「オレさ、火瑪の事、すげー気になる」

「ヤダよ・・・自分をさらけ出したくない」

「そっか、正直なんだな」

「それに、何か大事な事見失っちゃいそう。もう少し、お互いを知ってからでもいいんじゃない?」

「そうだな・・・火瑪の夢って何?」

「うーん、特に無いな・・・夢なんて夜見るだけだよ」

「どんな夢見んの?」

「なんか・・・わりとコワイ夢。まあ、夢でよかったって言えばそれまでだけど、眠るのコワイ日もある」

 ブラッドには、火瑪が恐れをまとっているように見えた。どことなく、切羽詰った様な恐れ。軽々しく手放せなんて言えない。

「好きな言葉は?」

「やられたらやり返す」

「そっか・・・好きな物とか事は?」

「なんだろう・・・ロック、天然石、あと、フィギュアスケート?1人で滑るやつ」
「へぇ、意外だな。もちろん、見るほうだろ?」

「ちょっと、何笑ってんの?あたしが滑ってるとこ想像した?・・・・・ねえ、ブラッドは何で身体カットしたりすんの?」

「そうだな・・・内面のコントロール・・・身体への執着を超えたいのかな・・・」

「ブラッド、時々難しい事言うね。あたし、バカだからよくわかんない」

「そんな事言うな、自己暗示みてーなもんだぞ。まあ、俺はよく訳わかんねー事言うから、気にすんな。火瑪は、何で?」

「なんとなく」

「自分でやっててなんだけど、出来れば火瑪には、やって欲しく無いんだよな」

「うん・・・今は、やってないよ。若気の至りってやつ?・・・ねぇ、ゴメン、あたし帰っていい?何か今、ものすごく1人になりたい・・・ブラッドが嫌いって訳じゃないよ。時々、こうなるんだ、あたし」

「わかるよ、それ」

「本当にわかんの?」

「・・・・・」

「聞いてる?」

「・・・・・」

「シカトしないでよ!」
 カチャン!!
 火瑪は、ブラッドが手に持っていたサングラスをパッと取り上げ、下に叩きつけた。

「スマン、わかったつもりだったのか、とかいろんな考え浮かんで、フリーズしちまった。シカトするつもりじゃなかったんだ」

「怒んないの?」

「オレが黙ってるの悪かったし。火瑪はちゃんと怒ってるの伝えてくれた。ゴマカさなかった」

「ゴメン・・・誤解して欲しくなかったし、ちゃんとわかって欲しかったのかな・・・大事なサングラス壊しちゃった。弁償するよ」

「いいよ、安モンだ。それより、オレらの関係は壊さないようにしようぜ。まだ浅いかもしれないけど。なあ、流れ変えられるようにならないか?やられたからってやり返さない、キレられても逆ギレしない・・・」

「それじゃ、ボロボロになんない?」

「もちろん、ある程度自分を守るのは必要だけど、落ち着いてるのが、本当は一番強いんだよ。それに、俺達にゃ、歌があるだろ」

「そうだね・・・あのさ、今度ブラッドん家で、ゴハン作らせてよ。おわびって訳じゃないけど、そういうのやってみたい」


 アパートの部屋に帰って、1人になった火瑪に、また声が聞こえてきた。

 アイツハキケンカモシレナイ ハカイセヨ

 ブラッドを破壊?・・・ダメだ・・・・
 


 体育座りで顔をうずめる火瑪。
「やさしくしないで・・・」  
 ジュージュー・・・

 ブラッドの部屋に、バターや醤油のいい匂いが立ち込めている。

「出来たよ」

 大きな皿のはじに焼きトマト、焼いたジャガイモの薄切り、アスパラガス。逆サイドにプリン、上に焼いたカジキマグロの切り身。

「バランス悪くね?」

「この空いた所の上で、パンをちぎるの」
 フランスパンとバターを持ってくる火瑪。

 
 食べながら、横にあるライターを見て火瑪が言った。
「カッコいいね」

 つや消しシルバーで四隅が角ばっている、小型のオイルライター。

「やろうか、それ。他のあるし、すぐオイル無くなっちゃうから」

「えっ、いいの?じゃあ交換しようよ」
 自分のライターを出す火瑪。

「律儀なんだな。気ィ使わなくていいけど、せっかくだから、とりあえずもらっとくよ。サンキュー。あれ、タバコ吸うんだっけ?」

「ううん、吸わない」

「何でライター持ってんの?」

 カキンッ シュボッ

「火、見てると落ち着くんだ。オイル、いい匂いだね」

「オレの身体も、オイル流れてりゃいいんだけどな」

 食べ終わると、火瑪は皿を洗ってすぐ帰ってしまった。
 ブラッドも引き止めなかった。

 ブラッドはただ、人とメシ食ってこんなウマかったの初めてだ、と余韻にひたっていた。



 
 

その日の夜、火瑪の夢にはブラッドが出てきた。
 
砂漠の中、1つのデカいバッグを2人で下げて歩いていた。
サソリがいたけど、コワくなかった。バラが咲いていた。よく見たら、ドライフラワーだった。
 
 久し振りに、良く眠れた。
 
 カシッカシッ

 火瑪がブラッドにもらったライターは、オイル切れ。
 
 あそこのコンビニにオイル売ってたかな。もうすぐ入れてやるからね。
 今日も暑いな・・・ゴホゴホ
 まぶしいとクシャミ出る人いるけど、火瑪は咳が出る。

 コンビニの自動ドアに、日光が反射している。
 駐車場から車のドアを閉める音。バタンッ

 一瞬、火瑪は頭が真っ白になり、立ちすくんだ。

 ビィーン
 自動ドアが開き、男がよそ見しながら出て来て、火瑪の肩にぶつかった。
 ドンッ
「あ、悪ィ悪ィ」
 そのまま立ち去ろうとする男。

 カララン・・・

 ぶつかった勢いで落ちたライターすべってく・・・

 チキッ

「ん?」

 男はライターを踏みつけ、ちょっとかがんで下を見た。

「うあぁーー!!!」

 火瑪は、スチール製の傘立てを持ち上げ、男の頭めがけて振り下ろしていた。
  
 ガスッガスッ

 気付くと、男は血を流して倒れ、動かない。

 ガランッ

 傘立てを放り投げ、棒立ちになった火瑪の中は、まだ余熱でぐつぐついっている。

 やっちゃったよ、ブラッド・・・
 あたしは流れを変えらんなかった。
 でも、ブラッドのやさしさは、カーテン通した日の光みたいで、気持ちよかったよ。すごく楽しかった。
 会えたら、またね。

 無抵抗なまま、周りの人間に取り押さえられる火瑪は、以前ブラッドからもらった水色のキャンドルを思い出していた。
 そして反対に浮かび上がる、身体に染み付いて取れなくなった幼い記憶・・・

 うだる暑さ。ワンボックスカーの中で死にかけた。
 灼熱地獄イン駐車場。
 父ちゃん母ちゃんパチンコ好き・・・


 
ブラッドは、スタジオで練習の合間に、薄暗い通路に腰を下ろしていた。そして、火瑪にもらったライターを見ながら、物思いにふけっていた。

 昔のオレは、自分の絶望感で頭がいっぱいだった。だが、今は違う・・・

「ブラッド、何だよその女みたいなライター」
 ふいに、バンド仲間が話しかける。

「これ見てると、落ち着くんだ」

 濃いピンクに銀のふちどりで、角が丸い細身のガスライター。そこには、小さいひまわりの絵が描いてあった。

 カキッ ポッ

 火をつけるブラッド。

その小さい炎が自分の中に入ってくるのを感じると、暗い中、身体の芯に明かりが灯った。

 その明かりは徐じょに広がり、ブラッドの内側を照らし始めた。
 そして次の瞬間、「ブワッ」と光の翼が開いた気がした。









 ・・・公園で火瑪と缶ビール飲んだ時、オレは階段状になっている壁を登っていった。

「バカは高い所好きなんだってよ」と、火瑪。

「ちょっとでも眺めよくなるぜ」

 オレは手を差し出し、火瑪を引き上げようとした。

「あっ」

 ズルッ

「んっ、もう一回・・・」








【終】   
私にはちょっと難しいかもあせあせ(飛び散る汗)

でも、何度も読み返したくなるような作品ですねわーい(嬉しい顔)
はらcchoさん 

読ませていただきました。フランス映画みたいな作品をありがとうございますm(__)m
>りん☆さん
ちょっと描写とか少ないんで、わかりづらかったかもしれません。

よろしければ、読み返してみて下さい。

ありがとうございました!


>Quinnさん
さっそく、アップさせていただきました。

読んでいただき、ありがとうございます!

フランス映画みたいとは、気づきませんでした!


>まゆ 6号さん
あまり考えず、雰囲気感じて頂けたらと思います。
(歌や音楽聴く感じ?)

そうですね、切ないです・・・
読み込んで頂けるとは、うれしいです。ありがとうございます!


>Quinnさん
言われてみると、断片的なシーンとか、雰囲気で進んでいったり、ハッピーエンドじゃないすれ違いのラストなど、フランス映画ぽいかもしれません!?

映画なんておそれおおいですが・・・
>Spade Devilさん
実はこれ、昔書いた長編の番外編なのです。
それで「日常と非日常」架空の街のある出来事、みたいな感じがするのかもしれません。
(本人は難しく考えず書きましたw)
グッと来ていただき、ありがとうございます!
難しいので何回も読み直してみました。

痛みとか切なさとか絶望感とか小さいしあわせ等が、後からじわじわと効いてきました。
>はぴさん
何回も読み直し、ありがとうございます。光栄です!

やはり、わかりにくいのかもしれません・・・

でも後からじわじわ・・・よかったです!

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