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俺と伝説のニーランチャーコミュの097

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097

ついた先は県営の団地に程近い場所だった。
表札には「四十万」と書いてある。
俺はその後輩君の家を訪ねると、母親なのか年配の女性に不在を告げられた。
少し迷って、家のポストに封筒を入れて帰る事にした。
そして、帰ろうとしたところで家に帰ってきた後輩君と出くわした。

「あ、」

俺は後輩君と連れ立って近所の公園に行くことにした。

公園の屋根つきベンチに座ると、雨の中で泥だらけになりながら一人で遊んでいる子供がいるのが見えた。

「・・・なんで、雨の中で一人で遊ぶ?」
「さあ、なんか変わった子なんですよ。この近所では有名です。」

俺は「志村」と名前を名乗ると、「知ってます有名ですから」と言われた。

「俺、シジマっていいます。」
「あー、シジマって読むんだ。」

俺は封筒や表札に書いてあった宛名の「四十万」の読み方がやっと分かって何だかほっとした。

「ごめん、ポストに入れてきちゃったんだけどさ・・・」
「見てました。」

俺は事の難しさを感じながら「そう」と呟いた。

「志村先輩は瀬田先輩に甘えてるだけですよね。もうそろそろ瀬田先輩を解放してあげるべきです。志村先輩は卑怯です。」

俺は四十万君の語気の荒さに舌を巻いた。
思わず「言うねえ」と言ってしまいそうだったけど、それは流石に空気よめない発言だなと思ってやめておいた。
代わりになんて答えて良いかも思いつかない。
そうしているうちに四十万は話を続けた。

「先輩が不自由なのは知っています。でも、だから俺が退くのは違うと思います。」
「そりゃそうだ。」

思わず口に出た。

「でも、卑怯なのも仕方がない。俺は特別なんだ。」

四十万は火がついたように反論した。

「『特別だ』なんて何の根拠もないじゃないですか!」
「でも、特別じゃない根拠だってないよ。四十万君は難しい喋り方するね・・・」
「はぐらかさないで下さいよ!」
「あ・・・いや。」

なんだか参った。
思ってたのと全然違う展開だった。

「・・・あのな、俺が特別なのは、別に足のことじゃない。七美にとって特別なんだよ、俺が。」
「そうやって瀬田先輩の事を『七美』って呼び捨てにして優越感ですか!?」

これは参った。
俺が知らない類の人種だ。

「・・・じゃあ瀬田さんって呼ぶよ。瀬田さんにとって俺が特別なんだよ。」

なんだか「瀬田さん」っていうと七美のお母さんやお父さんを呼んでいる気分になる。

「それだって根拠はないじゃないですか。」
「お前・・・四十万君は恋愛に根拠を求めてるの?」

四十万は俺を睨み付けて言った。

「先輩と瀬田先輩のは恋愛なんかに見えません!」
「・・・うわぁ。」

内心、一人出来た事を公開しながらも、一人出来てよかったと思った。
多分、七美がこの場にいたら激昂していた。
あいつは最近大人しくなったけど、一途で徹底主義者だ。
そう考えると最近は平和になった。
もしかすると、俺が平和ボケしているだけかも知れない。

「・・・参ったなぁ。」
「『参った』なら瀬田先輩を解放してください。なんていうか不潔です。」

俺はとりあえず、一旦、四十万君の意見に耳を傾ける事にした。

「・・・四十万君は一体、どこまで俺たち・・・俺と瀬田さんの話を知ってるの?」

四十万は俺を咎めるような目で見ながら喋り始めた。

「志村先輩が1年の最後にトラックに跳ねられて、それに同情した瀬田先輩が介護するようになって、それから同棲してるんですよね。」
「うーん、あながち間違ってないな・・・」
「不潔ですよ。卑怯ですよ。恥ずかしくないんですか?・・・人として。」

俺はものすごく悩みながら言葉を選んだ。

「うーん、瀬田さんの名誉の為に言っておくけど、俺は事故った影響で、多分君が思ってるような、そんな不潔な事が出来ない。」
「え!?」

四十万少年は口を開けて俺を見ている。
本当はこの前、カイロの治療の成果が出て治ったのだが、これまで上手く言っている関係をどうこうしたくないので、未だに咎められるような事はしていない。
だから、完全に嘘をついているわけではない。

「・・・すいませんでした。」
「はは・・・無理ないよ。君はまだ言葉を選んでくれた方だよ。事情が事情だから胸を張って話せるような話でもないしね。」

学校に戻ったころは下世話な話にはだいぶ付き合わされた。
俺としてはそれにウンザリしすぎて、そうした風潮に反抗している部分もある。
あと、やっぱり自分にも不安が残っているのだ。
四十万少年は耳まで真っ赤にしてうつむいている。

「卑怯なのは、そう言われればそうなのかもしれないよな。」
「・・・すいませんでした。誤解していました。」

俺は「もういいよ、その話は」と答えておいた。
自分に自信がないことと、少々の嘘が後ろめたいのもあって、そのことで誰かを責める気にはなれない。

「・・・でも、瀬田先輩が好きです。」
「俺だってそうだよ。残念だったな。」

四十万少年は俺に頭を下げると、走り去った。

「渋いのう・・・お主。」
「いつから見てたんですか、師匠。」

師匠は「いっひっひ」と不気味な笑い声を残して消えた。
多分、本当にこのためだけに日本に帰ってきたのだろう。
公園のベンチの端には、スーパーの袋にいろいろな国のお土産らしきものが詰め込んで置いてあった。
覗いてみると、全部酒のようだ。

「未成年に何をもって来るんだあの人は・・・」

久々に現れた師匠に飽きれ返った俺は、その袋を持って樋口の父親の店に寄ってから帰った。
物々交換でヘナタトゥーを手に入れて、得した気分だった。

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