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ハンス・ギュンシュ大尉の副官。コミュの満月に照らされた最後の言葉

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仄白く蒼い月光が漆黒の森の間隙から差し込む。ふと見上げると、胸がズキズキと痛んだ。
『…なんだろう、この気持ちは』
思い出そうとしても、濃い霧に覆われたような朧気な記憶はそれを形にする事を赦してくれない。
…否。
思い出しては、いけない。
その瞬間、視界が真っ暗になり、ガクリ、と草むらに倒れこんだ。

***
「…起きたかい?」
目覚めると、嗄れた声が頭に響いてズキズキした。ただでさえ鈍い頭痛がするのに、この声は。
眉間に皺を寄せて上体を起こすと、老婆が訝しげな顔をしていた。
「あんな時間に独りで倒れてるなんて。あたしが通らなかったらあんたは今頃狼の餌になってただろうよ」
…狼。その単語を耳にした途端、頭痛が激しさを増し、意識が遠退いてまた失神した。
老婆が何か呼んでいるようだったが、それも届かない。
ああ。…そうだ…。俺は…。
まるで月光のように美しいプラチナブロンドをしたあの。
名前が思い出せない。泉のように透き通ったブルーグレーの瞳を湛えた…。
酷く物悲しげに俺の顔を見ていた。

俺は死んだんじゃ、なかったのか。そして俺を物悲しげに見るあの男も。

じゃあ、今此処に居る俺は一体誰なんだ?
あの男も生きているのだろうか。
そう考えると、俺は切なくて胸が痛んだ。頬につつー、と流れる涙に吃驚した。

俺は。
そうだ。大切にしてくれた。俺も心底愛していた。
言葉では言い尽くせない想いで満たされていた…。

「今度こそやっと起きたようだね」
「此処は…、此処は何処なんだ婆さん」
「ったく、なんて口の悪い糞餓鬼なんだいあんたは。此処はスコットランドのフォイヤーズって村だよ。身なりは紳士だけど、
その言葉遣い。あたしも生まれは良くないが、あんたも相当なもんだね」
「…スコットランド…。俺は、ロンドンに居た筈なんだ」
「は?何を言ってるんだいあんたは。記憶喪失にでもなったのかい」

俺はアイツと戦いたくて、全てを投げ打って化け物(フリークス)になって、最後ロンドンで朽ち果てた筈だ。
どうしてだ?一体何の為に?
ベッドから飛び起きた俺は、化粧台に駆け寄り鏡に姿を映した。
…碧い瞳と黒髪。ああ、俺は俺のままだ…。
でも。今の俺は化け物じゃない。普通の人間だと判る。
「あたしは行き倒れのあんたの生涯には興味無いから何も詮索しないが、これからどうするんだい?何処か行く宛はあるのかい」
「…無い」
ロンドンに戻れやしない。いや、本当は戻りたい。
インテグラ卿は。ヘルシング機関は。英国全土、下手をしたら全世界から糾弾され、解体され幽閉の憂き目に遭っているかもしれない。
裏切った俺が心配するのもお門違いだが、インテグラ卿とセラス、円卓のメンバー達に何も罪は無い。
早く戻らなくては。
戻ったところで何も出来やしないと誰かが脳内で嗤う。
何なんだ、このざらついた感覚は…。
俺はやはり化け物のままなのか。
「なぁ婆さん、知ってる限りの事を教えてくれ。英国はどうなってる?ロンドンは?ナチによって滅茶苦茶にされたロンドンは…」
「この国だって打撃は受けたさ。全く、度し難い連中どもだね。いつまでも過去の栄光に縋って…。しかも化け物どもの集まりじゃないか。
御伽噺を現実にするなんて狂気の沙汰の極みだね。ナチどもが生きてたのも反吐が出るが、あたしの娘達を酷い目に遭わせた糞共、
殺しても飽き足らないよ。…ああ、あたしとした事が。済まなかったね。英国は復興中で、ヘルシング機関っていう英国の最高機密
とされた特務機関は解体されたよ。で、その機関長は結果的に戦争を起こさせる契機を作ったとして、監視つきの身で飼い慣らされて
るそうだよ」
俺の正体を知ったら、この老婆はどんな反応をするだろうか。その災厄の機関に属し、裏切り、ナチに身を投じた化け物だと知れば。
ヒステリックに喚き散らし、殺そうとするかもしれない。
だが、俺の予想通りならば。此処に居ても安寧は無い。寧ろ、老婆に危害が及ぶ可能性がある。犯罪者を匿った罪で。
俺が生きていると知れば、英国の諜報部の連中は黙ってはいないだろう。嗅ぎ付ける事など容易だ。
情報操作はお手のものだ。かつて俺がしていたように。

コメント(5)

つ、続きを読ませて下さい…!!(悶)
いぎゃあああ!!
大尉さん死んでもウォルターが気がかりでそんなことを・・・!!(泣)

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