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心の宝石コミュの短編小説 『風 神』 2

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<別離>
「僕って優しいのかな?でも5代目が言う様に少し強くなりたいとは思う。」
「おまえは優しい過ぎる位優しい奴だ。今も顔にな、わしの今後に対する心配が書かれてるし、死んで欲しくないって書かれてる。それにな、さっき初めて会った時より少しばかり強くも成っているな。それも顔に書いてある。」
薫は少し可笑しくなり笑った、風神をそんな薫を見て大笑いしている。
「ワッハハッ・ワッハハッ」
「アハハッ・アハハッ」
二人して大笑い!薫は久々に腹の底から笑った!
「もうそろそろ帰った方がいいぞ!」
「うん、そうする。帰っても誰も居ないけど、今日は母の帰りを待っていろんな事を話してみたい。」 
「わしも明日早くには、此処を旅立ち、次の休息地に赴くとするわ。」
「5代目とはもう会う事出来ないのかな?」
「勿論だ、出来ない!わしにはわしの使命がある!それは言ったはずだ。この秋口には大台風が此処を襲う。それがわしの最期の姿さ!吹き飛ばされぬ様にしておけ!」
「そうか!別嬪さんと一緒になれるといいね。元気に旅をして下さい。」
「心配するな!雷神一族は実を言うとな皆な別嬪でな、今から、もう楽しみで楽しみでウキウキドキドキしちょるんじゃ。ガッハハッ!」
「それは御馳走様、僕もほんの少しでも強くなり、5代目に負けない彼女でも作れる様に努力するよ。」
「オウ!その意気じゃ!おまえの心の叫びはわしは何処に居ても聞いていてやる!ただし、もう手は貸さないぞ、後は自分の力で乗り越えろ!いいな!」
「うん、解った!5代目が台風に成って戻って来ても吹き飛ばされない男に成ってるよ。」
「ヨシ・ヨシ!それじゃ別れだ、最後はおまえをわしの風に乗せてやる!」
風神はその腹を少しだけ膨らませると、
ヒュー・ヒュー!薫の体は空を飛びそよ風に乗り翔捲る。
「なんて気持ちがいいんだ!・・・・」

「ウウッ」
くすの木の根元で薫は目を覚ました。
「あれ〜、夢?5代目は?」
其処には6月の爽やかでなんとも言えず温かく、それで居て透き通る様に心に染みる風が吹いていた。
「やはり夢か〜?いや夢なんかじゃない!5代目と僕は約束したんだ、明日からは逃げちゃ駄目!少しでも強く生きよう!」
薫は風に乗せ大声で叫んだ。
「5代目!僕は強くなるよ〜!」
何度も・何度も。

<勇気>
その夜、薫は5代目に約束した通り、母親と久しぶりに会話した。
そして、信じては貰えぬだろうが、5代目の事、学校での『イジメ』の事、母に対する正直な思いを!
涙が出た止まらなかった!母も泣いた!でも悲しみの涙では無い、明日に向け何か希望の持てる涙である!
「薫、ありがとう。なんか貴方、死んだ父さんに似て来たね。母さん今日は凄く嬉しい!薫のその優しい気持ちが堪らなく嬉しいよ。本当に!」
「生きて来て良かった!薫の母親で良かった!明日からも頑張れる!薫、一緒頑張ろうね!」
母の言葉が嬉しかった、この人が自分をどれほど愛してくれている事を再認識させられた。
この母をこれからは自分が守って行こうと薫は心に決めた。
「5代目!僕は貴方ほど強くはないけど、僕の母を必ず守り通すよ、見ていてね。」

翌日より学校でも変化は如実に生じた。
薫はもうただの『イジメ』られっ子に戻らなかった。
挫けそうになる心を必死に堪え『イジメ』に正対してみた。
廻りの友達は最初は稀有な目で見ていたが、薫の心根を感じ始めるとそれぞれ少しずつでは在ったが変化が生じてきた。
一週間・一ヶ月、少しずつ話をする仲間が増えてきた、薫自身にも自信が蘇る、元来の明るい性格も反映し良い方向に進んで行って居る。
また、『イジメ』の元凶だと思っていた携帯電話も、それが薫の単なるイジケで在った事、
イジケて仲間から外れていった事が『イジメ』に繋がった事も解った。
その時もっとちゃんと話をしていれば、仲間から外れる事も無かったのかも知れない。
だけど、きっかけはどうで在れ、『イジメ』は良くないし、詰まらない。
今の薫には、それが誰よりも良く解る!これからは仲間にそして廻りに『イジメ』の愚かしさを理解させえる人間になろうと思っている。
「5代目!僕は必ず『イジメ』撲滅の旗頭になるよ!」

そんな展開の中、早くも9月の初め、薫の住む街も暑い夏から、秋へと季節が移ろうとしていた。
そんな日の天気予報、
「現在、小笠原諸島の東南東に巨大台風が発生!このままの進路を進むと関東地方に上陸する模様。くれぐれも御注意下さい。」

「明後日にも上陸します。大変勢力が強く危険な台風です!瞬間風速30m〜50m、戦後最大級の台風が接近しています。出来るだけ外出を避け、注意して下さい。」
この放送を聴き薫は・・・
「5代目だ!5代目が雷神一族の別嬪さんと添い遂げ、大型台風に成って此処に舞い戻って来るんだ!」
「さすがは5代目、戦後最大の台風に変身したんだスゲ〜な」
「でも、待てよ、このまま台風が上陸したら、この街は・・・友達は・・・母は・・・」
「駄目だ!このまま上陸させたは駄目だ!どうにか方向変えてもらわないと・・・」
「どうすればいいんだ・・・」
薫は考えた、5代目の力は自分が一番知っている。多分5代目が力一杯暴れたら、この街なんて一溜まりも無い!
結論は早く導き出せた!これは自分にしか出来ない!命懸けでやるきゃない!

次の日の夜、もうすでに台風の接近に伴い、風雨はかなり強くなっている。
こんな夜に外出するなんて・・・考えただけで身も縮む思いだ。
しかし・・・行くしかない!
いままでのぼくではない!
これは、自分にしか出来ない事なんだ!
薫は外に出ると、走りに走った!あの頃のように街並は吹き飛び、田畑を置き去りにし、心臓の破裂しそうな鼓動を久しぶりに体現しながら走った。
「もう敗者じゃない!5代目にも負けられないんだ!」
一気にあのくすの木に向かい走った。風に飛ばされる事も恐れずに・・・

久しぶりに見るくすの木は何にも変わらず、風雨に冒されても微動だにせず、そこのデ〜ンと構えて薫を待ち構えて居た。
薫はくすの木にしがみ付き、そして心の底から叫んだ!
「5代目、此処に来ちゃ駄目だ!僕の街に来ちゃ駄目だ!」
「僕は、5代目を見習い少し強く成る事が出来た!だけどそれは5代目の力だけじゃないんだ!皆なの支えてくれる皆なのお陰なんだ!そんな皆なに今度は僕が恩返ししたいんだ!」
「持って行くなら僕だけを僕だけを持っていけ!」
「頼む!5代目!僕の命を上げるから、この街から離れてくれ!」
薫は必死にもがき続けながら叫んだ!何度も・何度も・・・・
気を失うまで・・・持てる力の全てを注ぎ込み!

気が付くと其処はいつかの爽やかな風が吹いて居る。
眼下には秋装束を楽しみにした街並が穏やかに・・・・
薫の耳に何処からか
「友達の頼みは聞いてやらんとな!別嬪の女房にスゲー怒られたけんどよ。それはそれでしょうがないべ!ワッハハッ!おまえも元気そうだな、これからも達者で暮らせよ!」
「5代目・・・ありがとう」

薫は今日も元気で暮らしている。
挫けそうな気持ちになると、いつもあのくすの木の下に行って5代目に話し掛ける。
勿論、返事なんて無い。
5代目は子孫を残し消え去ってしまったか?
はたまた、台風の進路を変えた事で女房に三行半を貰い、今では微風しか出せない老いた風神に成ってしまったのか?
しかし、薫にはあの日の出来事は忘れられない。
風神との出会いは大きく自分を変えてくれた。
そろそろこのくすの木ともサヨウナラすべきなのかも知れない。
それは、自分自身がより大きく成長する為にも・・・・

<エピローグ>
9月の風はなんとは無しに寂しさを運んでくる。
それは、行く夏を惜しみ、来る冬を身構えさせる。
なんとも、淡い風の臭いで心を揺らしてやまないからではないか?


―END―

                         






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