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心の宝石コミュの短編小説 『風 神』 1

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 風神

<プロローグ>
6月の爽やかな風は傷心を癒すには最適だと思う。
夏・冬の風と違い、不快感、痛みを伴わない。
世に言う涼風とは、この季節の風を言うのではないだろうか?

<出会い>
薫は今日も終業のチャイムを聞き、胸を撫で下ろす。と同時に帰り支度、脱兎の如く校門を背にする。
学校なんかに「自分の居場所なんて無い!」そう思う様になり、もう何年経つだろうか?
家→学校→家だけの生活、まして母一人・子一人の家庭、母は生きていく為昼夜働いてくれている。(昼は一般事務、夜は場末のスナックのホステス)
感謝はしている、いつも心の中では・・・だが、言葉には出来ない・・・
自分がこの世に居なければもっと違う生き方が出来、幸せを掴む事だって可能なはず、
「僕さえ居なければ・・・」
薫自身を悩ませるのは何も、母に対する思いだけでは無かった。
逆に母に対しては将来孝行したいという気持ちは誰にも負けない。
・・・しかし
「イジメ!」そう薫を悩ませる最大の原因はこれである。
もう2年以上イジメに遭っている。本来は明るい性格だと自分自身思っている。
小学校時代は結構友達も多く、笑顔が絶えなかった。
だけど中学校に入学した頃より・・・・
発端は単純、廻りの皆が携帯電話を持つ様に成った。連絡・会話の多くがメール発信。
薫も母に強請りたい衝動には何度も成った、だけど母の疲れた後ろ姿を見ると言い出せず・・・
結局仲間からは外れて行く事となり、ひいては「イジメ」の対象へと・・・

今は母から貰った携帯を持って居る、だけど使う事なんて・・・母からの連絡が時々あるだけ、いつもバックの底で冬眠状態。
クラスの誰も薫が携帯を持ってるなんて思っても居ないだろう。
徹底的に無視されている。一日何も話をしないなて当たり前!
修学旅行なんて生き地獄だった、班行動では異端児扱い、おまけに喫煙事件では首謀者祭り上げられる始末!
学校に母迄呼びつけられ・・・クラスメートも担任も薫を庇おうとする者など皆無。
ひたすら、自分の感情を押し殺し、殻の無い貝が如く、生身の体を、突き刺さる攻撃から逃げ回る事だけを考え、一日々虚しく過ごしている。
卒業まで数ヶ月だが、自分を虚空の中に閉じ込める時間の焦燥感は永遠に果てしなく続くようの思われる。
そんな薫だが、唯一安息を感じる空間がある。
放課後、出来るだけ早く廻りから逃れ、その場所に逃避する為、薫は走る!
街並は吹き飛ぶ、緑に輝く田畑を置き去りにし、ただ風を感じ、風と同化し走り抜く!
心臓の破裂しそうな鼓動と体内を駆け巡る血潮が、薫の生を具現化させる。

郊外の丘陵公園の裏手、一本のくすの木。
ここが薫の安息地。
バックをくすの木に投げおき、汗を拭きながら体を持たせ掛ける。
程よい風が気持ちよく、また夕焼け前の太陽が薫の体を真綿の布団に入るが如く包み込む。
大きく深呼吸し、目を細め、この風景と風を感じ、自分の空想の世界に入り込む事が薫の楽しみなのだ。
「あ〜気持ちいい!僕も風に成り、何処か遠くへ飛んで行けたらな。」
薫は自分が風に成る様を想像しつつ、ウトウトと・・・・

ヒュー・ヒュー 強い風が薫の全身に吹き付ける!
「飛ばされる!」薫は寝ぼけている場合ではないと実感し、やおら、くすの木にしがみ付く。
「なんなんだ、この強風は!体が浮き上がってるぞ」
薫の体は強風に煽られ、浮き上がり地上3mも上を地面と垂直に投げ上げられている。
「助けてくれ!」
くすの木に吹き飛ばされぬ様必死にしがみ付く。
ヒュー・ヒュー!風は一向に止む気配が無い。
「もう限界だ!僕はこんな処で死ぬのか?」
しがみ付く腕の力はもはや限界、薫は飛ばされる覚悟をした。
ヒュー〜風が穏やかに・穏やかに消えて行く。
薫の体は何故かスローモーションさながら、ゆっくりと元居た、くすの木の根元に・・・
「助かった!」
全身虚脱感で声が出ない。それにしても凄まじい風だ!

<風神到来>
「ここいらで、ちょっくら休んでいくか。まだまだ出会える場所は遠いべ〜、そんな急ぐ事ねえしな。」
くすの木の裏手で、ダミ声が聞こえる。
薫は恐る・恐るその方向に顔を向ける。
其処には、なんと・なんと身の丈優に2mを超え威風堂々、筋骨隆々とした鬼のような男が立って居る、おしむなくは腹が以上に出ている!いわゆる超メタボ、それさえ無ければいい男の部類だと思うんだけど・・・
ただメチャ恐そう!どうやって此処から逃げればいいのだ?

薫はその男に気付かれまいと、ゆっくりと後ずさりしながら、逃げようとする。

「オイ!小僧!もしかしておまえ、わしの姿が見えるんか?」
(見つかった!鬼が僕に向かって声を掛けてきた!ヤバイ)
「す、すみません。此処で少しやすんでたもんで、決して怪しい人間ではありません。もう帰る処なんで・・・貴方と会った事は誰にも言いませんから。」
薫は直立不動でその男に返事を返した。
「おまえが休んでようが、何してようがええんやけど、わしの姿が見えるか?って聞いておるんじゃ。」
「ハ、ハイ!凛々しいお姿を拝見しました。」
(殺される・・・薫は半ば覚悟した。この男、なんかの犯罪者で・・・)
「そうか、珍しいと言うか初めてやな、人間にわしの姿が見えるなんて・・・こりゃたまげたわ!ワッハハッ・ワッハハッ」
(何・何言ってるんだこの男!気でも狂ってるんじゃないか?・・・それより逃げなくては)
薫は後ずさりしながら、逃げる体制に入る。
「オイ!小僧!そお逃げるな!折角だ、少し話でもしよう!」
「いえ、もう帰らないと母が心配するので。」
「何を言ってる!おまえはわしから逃げたいだけじゃろうが!おまえの気持ちはわしには手に取る様に解る!いつも逃げてばかりじゃないのか?おまえ!」
(図星だ!でも僕には鬼と向き合うだけの勇気はないよ!)
「図星だろう!顔に痛い処を付かれたって書いてある。解った・解った!帰りたいならとっとと帰れ!驚かせたわしにも非が有るしな。」
(そんな事顔に書いてある訳ないだろう。ええ〜い一度は死んだと思い話相手してみるか?)
「ありゃ!話す気になったか、顔にわしと向かい合おうって書いてある。小僧なかなか面白い奴だな!気に入った!わしの名前は『風神5代目・風間大五郎直風』!簡単に言えば風の神様じゃ!」
(やっぱこの人狂ってる!風の神様だって!そんなんこの世に居る訳ないじゃん!やはり逃げなくては。)
「小僧!おまえ嘘だと思ってるだろう!さっきから言ってるがおまえの心で思ってる事はちゃんと顔に書かれる。初めてだから許してやるが・・・解った・解った!わしが風神の証拠を見せちゃるわ!おまえ吹き飛ばされぬ様その木にしがみ付いてろよ!」
やおら、風神はそのメタボ腹に空気を入れ込む、これがなんと凄まじい!
腹が膨れ上がる!世に言う蛙の腹の様に・・・ただその量たるや蛙では弾け飛ぶ勢いだ!まるで体が全て腹に成るが如き勢いで!
腹一杯に膨らましたと思った瞬間、風神は勢い良くその腹に貯めた空気を・・・
ヒュー・ヒュー・ヒュー!!
目一杯の勢いで放出する!なんたる勢いか、その凄まじき風!
突風が眼下に広がる街に吹き荒れる、木々の揺れ動く様・家々の窓ガラスや瓦をも撒き上げそうなその風!
薫はくすの木にしがみ付きながら目を丸くせずには居られなかっつた。
「もう止めて!解ったから風神様!僕の街が潰れてしまう!」
「ワッハハッ!やっと本気にしたか!まあ、このくらいわしとしたら持ってる力の1割程度だけどな。おまえがそこまで言うなら止めといてやるわい。」
一筋の突風の後、またいつもの微風が街を包み込む。
「ありがとう、僕も自己紹介します。僕の名前は久保 薫 中学3年生、風神様に会えて光栄です。」
(あ〜!なんでこんな変な奴に付き合わなくては・・・
駄目だ!立ち向かわないと、相手は僕の心が読めるんだ!
「薫って名か?なんか女みたいだな。」
「すみません、女みたいで。でも死んだ父と母が付けてくれた名前だから・・・大切にしてるんだ。」
「いや、悪い!いい名前だ。「風薫る」って言うしな。何処かでおまえとわしは出会う運命だったもかも知れんな。」
「どうして?」
「考えてみろ!普通の人間にはわしら風神は見えない。わしも人間と喋ったのは、おまえが初めてじゃ!これは奇跡か運命だぞ!おまえもそう思わんか?」
「そうかもしれないね。風神様はいつもこの辺にいるんですか?」
「薫よ〜!その風神様ってのは止めんか、なんかこそばゆいわ。そうだ5代目って呼べ!」
「はい、5代目」
「わしら風神一族はな、おまえら人間と違い両親を見る事は無いんじゃ!悲しいだろう?
風神はすべて男!そう男の中の男が風神じゃ!先代のわしの父親は風神の中でも目茶苦茶モテたらしい、わしも先代に負ける訳にはイカンのだがな!」
「じゃ、どうやって5代目はうまれたの?なんで両親と会えないの?」
「そう、其処よ!さっき言ったが風神一族は全員男衆、この風神一族が子孫を授かる為にはな、女衆だけの一族で在る雷神一族の誰かと添い遂げなくてならのだ!
添い遂げて、そして、台風となり、その威力を見せ付ける事で子を宿す!台風に成ると言う事は己の全知全霊傾けねばならん事なんじゃ!その後にはなんも残らん!残るのは子孫のみなんじゃ!
わしの両親は凄まじい台風だったらしい、だから一族でもわしはエリートと思われちょる!」
「そしてな、わしもそろそろ、子孫繁栄の為この身を投げ出す時期が来たって寸法さ。
8月には巨大な台風となり、此処に戻って来る!勿論、母者に負けぬ、ええ〜女子を雷神一族より貰い受けての!」
「なるほど、そうすると、5代目は見合いに出掛け、そしてそのまま死んでしまうんだ。」
薫はなぜか、なぜか、この男が憐れに思われ悲しくなった、この風神の一生が凄く侘しく感じられた。
儚く、哀し過ぎる、たった一度の出会いで・・・
命を燃え尽くすなんて・・・それが定めとは言え・・・なぜか・なぜか涙がこぼれる。
「なぜ、泣く?わしの晴れの門出じゃぞ!折角おまえと出会い、こうして友達になれそうなのに?」
「だって、悲し過ぎるよ!死に行くんでしょうこれから!」
「まあ、確かに死んじまうな。でもそれがわしらの定めだし、エリートの務めなんじゃ!」
「風神として生き続け事は出来ないの?」
「出来ない事は無いが・・・さっきの様な力は歳と共に失う!男ヤモメで力を失い最後は微風も起こせなくなり、生き絶える!何人か見て来た。哀れな一生さ。」
「5代目には死んで欲しくないよ!友達にもなれそうだし・・・でも、男してはそんな一生も送って欲しくないかも?」
「そうだろう!わしはやはりこの旅の果てに死しても、良き女子と共にわしの様な子孫を設けて、立派な風神で在ったと言われたいんじゃ。」
「なるほどね、男ならそうあるべきなんだろうな。」
壮絶な一生である!薫には到底真似出来ないと思った。
生命を懸けて迄・・・死ぬ事が解っていながら・・・
この男の定めと比べれば自分の境遇なんて・・・
此処まで強くなりたいとは思わないが・・・少しでも男らしくしならなくては・・・
「僕は今、廻りから『イジメ』られていて・・・それからいつも逃げていて・・・母に心配ばかり掛けて・・・今日もこの場所に逃げてきて・・・」
「そんな事は会った時に全部顔に書いて在ったぞ!だから声を掛けたんじゃ!」
「僕はこれからどうすればいいのかな・・・?」
「そんな事をわしに聞いてどうする?わしがおまえの為にやってやれる事なんて風を起こす事だけだぞ!この世が無くなって欲しい様な顔してるから、風を起こせば『止めてくれ!』って頼んだんはおまえじゃないか?」
「確かにさっきはそう言った・・・」
「おまえがもう一度頼めば、全てを風で吹き飛ばしてやる!どうする?」
「・・・」
「ヨ〜シ!今から吹き飛ばすぞ!」
風神は街に向けそのメタボ腹に・・・
「止めて!それは駄目だよ!母も友達も廻りの皆が泣く姿は見たくない!」
「なんだ止めるのか!フゥ〜体力温存出来たわ!ワッハハッ!」
「いいかおまえ、わしは人間の考えなんて解らんが、おまえの優しい気持ちには好意をもってるよ。おまえは『イジメ』られて、それで逃げた!立ち向かう事を諦めた!ただな、それは今おまえがわしに対して抱いて居る優しい気持ちとは裏腹だ!廻りの友達や母親への優しさでもなんでもないんじゃないか?友達や母親にある面では立ち向かわないと駄目なんじゃないか?そうしてこそ、おまえのその優しい気持ちも理解して貰えるはずだぞ。」
「わしらみたいに強く生きろなんて、言わん!わしらは風神!『神』なんだ!だから強くなれるんだ!おまえは所詮人間、優しいに越した事は無い。ただ、わしに折角会ったんだ!少し強くなれ!そうすれば変われるだろう。」








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