語部夢想〜語部夜行別館〜コミュのElegantemente il tè 〜優雅にお茶でも〜

「Ciao！」

　紅い髪の少女が語部館のドアを開けると人の気配がない。
　時間的にみて夜子は学校だろう、黒崎は……
　二階へと上がる階段を少し見つめ

「Presti la cucina」

　と言いながら奥の部屋へと入っていった。

　数分後ポットとティーカップ３人分を持って戻って来ると、
　黒崎とレイディが、ちゃっかりテーブルについてる。

「なに二人で話してるのよ、手伝ってくれても良いじゃない」
『邪魔になるかと思って』
「ロイヤルミルクティーですか？」
　
　話を逸らされてため息が出る。

「そう、ミルクリキュール入りのね」

　ティーカップに紅茶を注いでいるシーナの姿に違和感……。
　ローヒールの編み上げブーツ。
　濃紺に金糸が織り込まれているレースを使った、黒のベルベットのワンピースドレス。
　15cmくらいのハットに薔薇のブーケとチュールを飾り付けたヘッドドレス。
　黒に紅い髪が映えている。
　いつもと変わらない服装…なのに違和感がある。

「シーナ、もしかして身長が伸びたんじゃありませんか？」

　黒崎の一言で椅子に座ろうとしていたシーナの動きが一瞬止まり、
　再びため息を漏らしてストンと腰かけた。

『今「それ」を一番言われたくないのよね』

　クスクスと笑っているレイディとは対照的に少しむくれている様だ。

「………５フィート６インチ」
「と言う事は１６７cm前後あるんですか？」

　テーブルに片肘を付け顎を乗せて、完全にむくれている。

『急に身長が伸びはじめてビックリしたわよ』
「あぁ…だから日本にいなかったんですか」
『ドレスの丈が合わなくなって、慌ててワシントンに行ったの』
「確かに、それだけ伸びればサイズ直しが必要になるでしょうね」
『日本にいる時は１インチちょっとだったのが、向こうに行ったら毎朝伸びてるのよ』
「今まで例がなかった事では？」
『なかったわ。今回は「特例中の特例」でしょうね』
「天界で治療した影響でしょうか？」
『恐らくね』

　むくれているシーナを置き去りにして二人の会話が延々と続いている。

「そろそろ夜子が帰って来る時間？」
「寄り道していなければ、もう帰ってくるはずですよ」

　立ち上がると同時に扉が開き、外の冷気と共に帰ってきた。

「ただいま」
「噂をすれば…ですね」
「おかえり夜子。久し振りね」
「来ていたのか…っとレイディも」
『お久し振り、姿消した方が良いかしら？』
「……いや、そのままでかまわない」
「夜子、オーブン借りるわね」
「何か持って来たのか？」
「たまには焼きたてをお茶菓子にするのも良いかと思って」
「なに？」
「赤ワインで作ったオレンジのコンポートとクランベリーのパイ。それに合う紅茶をお願いね」
「あぁ、わかった」

　キッチンへと向かうシーナの後姿を見て首をかしげながら

「雰囲気が少し変わった様な気がするんだが？」
『身長がね…伸びたのよ。本人結構気にしてるから言わないであげてね』
「髪が伸びる人形の話はよくありますが、身長が伸びる人形は…」
「ジェスターーーーーっっ!!（怒）」
『Jester？』
「二人に怒られてしまいましたね」
「どう言う意味なんだ？」
『夜子には話しても良いと思うんだけど、その内に…ね。それより本当に私がいて大丈夫？』
「本当に大丈夫だから。それより今のレイディの姿は他の人にも見えるのか？」
『夜子とJester以外には見えないわ』
「神宮寺さんでも？」
『どれだけ霊感が強くても私が相手に「見える」と意識しないと見えないのよ』



　焼きあがったお菓子でひと時のティータイム。
　夜子が帰って来ると同時に、語部館へ誰も来れない様にシーナが結界を張り、
　レイディも結界を重ねる様に張り巡らした。
　夜子も黒崎も気付いていたが、そ知らぬふりをしてお茶を飲む。
　きっとおやつを狙って館に行こうとしても辿り付けない二人がいるだろうが、
　たまにはこんな日があっても良いだろう。