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ショート小説〜ホッと一息編〜コミュのきたぐに

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深夜11時の大阪駅。USJの袋を大量にかかえた一人の少女が途方にくれていた。
少なくとも、自分にはそう見えた。
内ポケットの中の券をさわる。急行「きたぐに」7号車・・・・
当然、下段である。

自分は床面にきをつけながら、少女のところへ向かった。
「最終の新幹線を逃しましたか・・・・」
「いえ・・・」
「では特急?」
自分の格好はJR西日本の駅員と違うようだが、少女は自分を駅員だと思ったようだ。
新幹線が走っていない地区、山陰か日本海沿いか・・・・
「どちらまで」
「金沢まで・・・・」
「まだ列車はありますよ。特急よりも安く乗れます。」
駅員にしてはちょっと余計なことをいってしまった。
「え?」
「みどりの窓口はもう閉まっています。乗ってから車掌から乗車券、急行券を買われれば平気です。」
「急行?」
「そう。もう日本では滅びつつある名前です。私鉄を除いてはね・・・・」

きたぐにが入線する時間に、自分と少女は自由席車、1−4号車がはいってくるところにいた。
この時間になっても、大阪はゴミゴミとしている。東京よりはまだ気持ちのいいものだけれども。

「どちらまで?」
初めて少女が私に話しかけてきた。
顔をよくみると、「娘」というよりは「女」だ。
「新潟までです。ちょっと野暮用がありまして。移動手段くらいは好きなようにさせていただきたいので・・・・・」
「きたぐに、そういえば乗った人いました。でも、ボロボロで・・・・」
「それがよいのです。583系が定期運用されているのは「きたぐに」だけなのです。一昔前までは、日本中を走っていた車輛なんですがね・・・。 今ではわざわざこれに乗りに来る人間もいるくらいです。」
私はここで、この女性がどう出るか、少し興味があった。悪趣味との謗りは甘んじて受けよう。
「それにわざわざ乗りに・・・」
彼女の応えは期待通りでもなく、期待外れでもなかった。
「新潟に早く着きすぎてしまうのが難点ですが、漫画喫茶くらいはあるでしょう。10時からですから、用件は・・・」
時計の針のすすみが遅い。これだけ話していれば、とっくに入線してきてもよいのだが・・・

ホームに袋を下げた人が集まってきた。
高揚さめやらぬもの、疲れきったもの。
雑然としたところで入線のアナウンス。
「のっぽ」さん583系電車の入線である。

荷物を置く。
「天井がひろいねぇ〜」
彼女は発車前に大阪を離れた。
「座席、寝台とも可能になるように設計された電車なんだよ。」
自分はいけない気をおこし、彼女を談話スペースに誘った。
自分がA寝台の切符を持っている以上、それを咎める車掌はいない。
「お酒は?」
「飲むよぉ〜」
モーターの音がして、「きたぐに」が発車するのがわかった。
自分は手提げ袋の中から小瓶を出した。
東京であれば、新宿駅南口コンコースの成城石井で簡単に手に入るのだが、大阪で探すのには一苦労した。
「これじゃぁ、1.5人分だなぁ・・・・・」
「これ、シャンペンなん?」
「うん。自分の好きなもの。」
「いつも列車でシャンペン飲むの???」
「いや、今日はA寝台の券がとれたものと、大阪でちょっと話がまとまったので祝杯だよ。 いつもはクラシックラガーさ。」

乾杯。京都はもうすぐだ。
せめてハーフボトルにしておけばよかった。
自分はあえて土産用としていた若鮎の佃煮を出した。
このほうが、下手な西洋のつまみよりも彼女にあうと思ったので・・・・
それに、彼女は東京の不浄の街を知らないのだから・・・
残すは胸元のダブル×3ほど。
金沢だとそうも飲んではいられない。

「寝台車もついてるんねー」
「まぁね。寝心地は、そこらのビジネスホテルよりよっぽどいい。」
「なんでAにしたん?」
「撮影のため。滅び行く美しいものを撮っておこうとおもってさ。寝る気じゃさいのさ。」
「馬鹿ねぇ〜」
「イラクに落ちる爆弾の金になるより、個人の鉄道趣味を充足させたほうが世界平和のためというものさね・・・」

米原を過ぎたあたりで、揺れと雪が激しくなった。
彼女はこういうところで育ったのだな・・・・。

新潟駅の夕方、彼女のメモが内ポケットに入っているのに気がついた。
名刺でもなく、思わせぶりな手紙でもなく、ただ連絡先が記載されているのみ。

もう一度、きたぐにを訪問することになりそうだ。
これだから夜汽車はやめられない。
人生の軌道も、列車の軌道も思わぬうちにかわっているのだから。

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