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ショート小説〜ホッと一息編〜コミュの法務大尉の憂鬱

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指揮刀の中身が重くてならない。
この刀と共にはやくまた野戦に出してくれないか、それが私の望みだった。

「入ります」
法務官補の凛々しい声に私は現実世界に連れ戻された。

「この頃、軍政地下での住民への犯罪が横行してるね。まったく困ったものだ。それにはやく文官の法務官を出して欲しいね。自分はもともとこういうことは知らないんだから。」
「しかし、法務将校として下士官、及び兵・・・」
「学校で法律に関する科目とっていたからって言うのだろう? 本国の法律といったって、刑法なぞほとんど知らない。憲法だってだ。」
法務官補は反応に困りながらも、私に紙束を差し出した。
「住民たちの上申書です。」
「彼らには彼らの掟がある。それに任すか、指揮官が即決で撃っていればこんなことにはならなかったんだよ!」
「少なくとも、軍政地下において本国の法律を適用する以上、先日のように大尉は判例に基づき判決を下されればよいでしょう。」
法務官補は姿勢をただした。
「そうだな。このあたりに少年院はないから、成人用刑務所に5−7年の不定期刑。簡単に出すなと意見をつけてな。しかし君はそもそもおかしいと思わないか。」
「と、申しますと?」
「何故、16の少年が小火器を保有しているのだ。何故、都市防衛隊などというものがあるのだ。そもそも我々の存在が違法なのだよ。 本国もなにもあるか。」
私は拳銃を机の上にそっと置いた。
「ですから、現在・・・」
「それは嬉しいだろうな。大学に巣食う法律の奴隷どもめ、一から秩序とやらを構築できるのだからな。条文を暗記するのではなく、自らつくれるのだからな。」
「上申書は、おおむね厳しい内容でして・・・・」

私は当番兵を呼び、お茶を二人分持ってくるように命じた。
「掛けて」

「法務官補、一個人としての君の意見を聞きたい。聞かせてくれるか?」
彼女の端正な唇がゆがんだ。
「地域のボスの娘が強姦し殺害された。小銃を持った16の少年に。被害者感情は極めて苛烈、また、このような事件はこれが一度目ではない。このままでは、占領地行政に支障をきたすのは明らかだ。」
「しかし、現行法ではその少年を死刑にはできません。戦時国際法を研究してみましょうか?」
「法律の話ではない。その少年を、娘の父親に引渡し、これを渡す。」
私は机の上の愛銃を示した。素人でも数メートルの距離から撃てば7発のうち3発くらいは当たるだろう。
「反対です。いかなる理由があっても、少年を私刑になど。それにこれは越権行為です。」
「法務官補、君は准尉待遇の文官だったな。短大では何を専攻していた?」
「私の専攻と、少年の命にどういう関係が・・・・」
「君が動員されれば、小隊長として、16,17の少年・少女たちに死んで来いと命令する立場になる。 君の先輩とこの前飲んだ。人を殺すと人間が変わる。だが、慣れる。我々は戦時下にあって、いつなんどき死ぬかわからない身だ。住民だって鉄砲くらいは持っているのだぞ。」

当番がお茶を持って入ってきた。
動作が実に洗練されている。

「上申書を読んだか?」
「目を通しました。」
「金銭でカタがつく話でないのは明らかだろう。」
「せめて・・・」
「本音を言っていいよ。」
「都市の14住区に何故少年兵たちは入れないの?」
「そうだね、若い子の性欲は制御できないからな。その話は、民間からいくつか来ていてね・・・・。問題は軍票。」
「本国のお金より信用されてるのに?」
「今はね。ただ、彼らは外貨か物資で支払ってくれといってきている。中央は軍票でなんとかできないかといっているんだ。」
「貯金しようなんて思ってくる子はいないわ・・・」
法務官補の顔が学生崩れに戻った。
「だよなー。みんなやりたくてやってることじゃねぇんだよなー。」
二人の笑い声に当番がよろめく。

「当番、訓練用の弱装弾を一箱持ってきてくれ。教練銃用の。書面は後で出す。」
当番は飛んでいった。

「自分が、数発ぶち込む。近親者だけを集めてな。」
「殺す?」
「いや、血が出るだろうけれど、殺しはしない。自らの為したことを考える時間を与えるさ。けけ、偉そうだね。」
「賛成よ。女も知らないのに死ぬなんてあんまり・・・・」
「俺は法律は大嫌い。人が人を殺すのは戦争だけで十分だい。」

こういうことがしばらく続き、法務官補は二等法務官に任命され、平和な地方にまわされた。
私の事務所には文官の法務官が中央から来て、私はようやく任を解かれた。

まもなく、大規模な侵攻作戦が発動され、我が部隊は助攻をかける役割を与えられた。
しかし、私は死ぬつもりだった。
郵便システムが無事であれば、銘の入った刀はあの人が受け取ってくれるだろう。敵の少年兵を手にかけた刀だけれど。
官給品の光るだけが取り得の指揮刀を振り回し、雑兵に胸を突かれて死ぬのが望み・・・

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