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masayumeコミュのまさゆめ連載小説 第三話「後藤」

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「せっかく夏休みだってのに補講なんてナンセンスだよなー。」

隣の席で後藤が悪態をついている。

「しゃべるなよ。余計暑くなるだろ……」

僕は教授に聞こえない程度の声で後藤の話を適当にあしらい、ノートに文字を書き込む作業に戻る。

7月も終わりそうな真夏日に僕らはクーラーのない大学の旧講堂で補修を受けていた。

「やっぱ夏は海だよ海!この町に海ねーけどな。」

相変わらず後藤は話をやめる気はないようだった

後藤と僕は中学からの幼なじみで何の因果か大学でも同じ学科を専攻している。
幼なじみと聞くとなんだが甘酸っぱい恋物語を想像してしまうが。残念ながら後藤は男だった。

大学一年目の夏休みは補講と必修科目の実習があり。僕らの夏は毎日流れるように過ぎていた。
この前、駅前広場で遭遇したエキセントリック少女はその後見かけることはなかった。



「そういや、今日きそうだな。」

「何がだよ。」

「夕立。空見てみろよ。」

窓の外はまだ午後というのに薄暗く。今日は夕日のオレンジ色が町を染めることが無い事はすぐに分かった。

「どうりで蒸し暑いわけだよ。てか黙れ。」

「なんだよ。真面目ぶりやがって。」


汗で腕にへばりつくノートと後藤のくだらない話。そして一向に時間の進まない補習にイラつき始めた頃。

後藤が変な話を始めた。



「そういやお前あのうわさ知ってるか?総合病院の。」

「何だよ急に。」

「うちの市にあるあのでっかい総合病院。あの山のとこにあるやつな。あそこやっぱり幽霊が住み着いてるんだよ。」

こいつは何を言ってるんだ。

確かにうちの市には大きな総合病院がある。田舎には似つかわしくない大きな病院だ。都市部と地方の医療格差を無くすために国が広大な土地を地主から買い取り建てたものだ。といっても僕らが小さいころからあったものだから。もう町のシンボルみたいなものだけど。

「急に何言ってんだ。俺だってお前だって子供の頃から何度もあそこで診てもらってるだろ。」

この町の人はみんな何かあるとあの病院で診てもらう。その昔は地方の医療格差は僕らの思ってるよりもひどかったらしく。
僕の親の世代はみんな病院を建てた国と市の政策には心から感謝してるようだった。

「そんなん知ってるよ。でもあそこ山の奥のほうに別棟あんだろ?あそこはどんな病気になってもつれっててくれないぜ。」

「あそこは独立行政法人の敷地だろ。なんか最新医療の研究してるっていう。市のパンフレットにも載ってるぞ。」

うちみたいな田舎の市に病院を建てるという国の政策にはもう一つの側面があった。土地の余ってる地方に大きな研究施設を建て医療分野の躍進のを国が本腰を入れてサポートするというものだ。

正直あの建物のきな臭い噂はこの町の小学生なら誰もが一度は口にする話題であった。魔女がいる、秘密結社が人造人間を作っている、変形して巨大ロボットになる・・・・ets
もちろん僕らもそんな噂を信じて怖がっていたりした純粋な時代があった。しかし、いまさらの後藤の話に僕は心底うんざりしてしまった。

「いまさら餓鬼みたいなこと言ってんじゃねえよ。そもそもお前は昔から・・・・」

「ちょっと待て!話は最後まで聞け。この前彼女が見たんだって。」
「ほら俺の彼女のかーちゃん看護師だろ?で彼女が夜勤中のかーちゃんに忘れ物届けに行ったんだってこの前。」
「で深夜な。病院までの道で変なやつがいたんだって。女なんだけどなんか裸足でフラフラしててさ。」
「こんな時間に何やてんだ?って思って車で追い抜いたときにバックミラーで顔見てやったんだって。」
「そしたら。」

「そしたら?」

「その女。こっちのほう見て二ヤ〜って笑ってたんだってよ。満面の笑みで。」
「彼女気味悪くなってすぐにスピード上げて逃げたってさ。帰り道ではいなかったらしい。」
「絶対幽霊だって言ってたよ。なんかメッチャ雨振ってる中、傘もささずにペラペラの蒼いワンピース着てて・・・・・」



「っ!!!」

「どうしたんだよ。いきなり驚いた顔して。」




「いや、なんでもない。」

「変なやつだな。で、俺が思うにあそこの建物は生物兵器の研究してんだよ。そこで実験台にされた人の霊が夜な夜な・・・・」




「バカやろう・・・そんなわけ無いだろ。」




そんなわけ無い。



そんなわけが無い。俺も見てるんだ。彼女を。



そして僕は。



僕はもう一度彼女に会いたいと思っていた。





つづく

コメント(2)

今回はかなりの長文ですね!


これは…恋なのか!?

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