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四月馬鹿。コミュの▲【二次創作】最遊記、悟浄創作。

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 2005.春 最遊記
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「夢うつつ」


夢と現の間に、俺はいつも赤を見る。

夢と現の間に、俺はいつも囚われて、捕らわれて抜け出せない。
足を一歩前へ踏み出す事も出来ず、只来た道を振り返り、ずっと助けを待っている。
何が助けてくれるのか、何に救いを求めるのか、それさえも知らずに。
こんなバカな話があるだろうか。
こんなバカな奴がいただろうか。

もうほとほと自分にうんざりしている。
自分で死ねないから、生きているだけなのに。

自ら望んで「生」を選んだわけじゃない。

***

路上には冬が立ち込めてきた。
今まで過ごしてきた中で、一番寒いのかとか、どうでもいい事を考えながら、賭場へ向かう。
別に生きていくなんて、死ぬほど、いや、死ぬより簡単。
誰とも目を合わせなけりゃいいし、面倒な事には首を突っ込まなけりゃいい。
その日一日分の金を稼げば空腹は満たされるし、安い言葉で引っ掛ければ女はつりが来るほど付いてくる。
夜は女で凌げば良いし、雨は賭場の喧騒で凌げば良い。

それが、俺が培ってきたロクでもない生き方。

只俺は「赤」を凌ぐ方法を知らなかった。

***

「"コール"…さぁて、次はいくらくれるんだ?」
「…っ!イカサマだろっ…き、貴様!でなきゃ俺が…こんな簡単に!!!」
「ほーう。じゃ、その証拠は何処よ?」
今夜も賭場で金を稼ぐ。
特に差し迫って困っている訳じゃない。
ただ、暇が潰したかった。

(…今夜は雨が降りそうだ)

「さぁて。次は何で勝負する?やっぱ"カリビアンスタッド"が一番かぁ?」
その時、ブランデーを両手に持った女が擦り寄ってきた。
年は、俺くらいか、いや、俺より少し上だろう。
安っぽいドレスにキツイ香水を纏って、真っ赤なルージュをして。
「悟浄、だっけ?」
眩暈がするほど色っぽい声だった。
意外と今夜は上玉が引っかかったようだ。
「あー、悪いね、おっさん。今日は終わりだ」
席を立つと、コートを肩に引っ掛け、金をポケットに乱雑に押し込んだ。
その後、ブランデーを受け取り、男に背を向ける。
すると、対峙していた男は逆上し、
「貴様、逃げるなっ!ぶっ殺すぞ!!」
と、非常に醜い口から存分に唾を飛ばしつつ叫んだ。
しかし、そんな事は無かったかのように賭場はざわついていて、俺は女と姿を消した。

「さて、お姉さん、これのお返しになんか奢るけど?」
そう言って俺はブランデーの入っていたグラスの氷をカラン、と鳴らした。
その派手な、しかし安っぽいドレスを纏った女は真っ赤なルージュの唇で囁いた。
その赤さと言ったら、とても美しく、妖艶で。血のように赤い。
「なんで、"お姉さん"なんて言うの?それとも、"お姉さん"は抱いてくれないのかしら?」
俺は笑むと、
「そー聞こえた?ならそのお詫びに一晩どう?」
と。

***

恋愛は、駆け引きだと分かっている。
自分は愛されないと分かっている。
自分は愛せないと分かっている。
のに。

どうして俺は一時の温もりを貪るのだろう?
愛したがっているのだろう?
或いは、愛されたいのだろうか?
愛を知らないものに愛を与えるなんて出来ないと解っていながら?

…つくづく馬鹿な男だ、俺は。

***

その女は名を名乗らなかった。
抱く前に、ふと名前を聞くと、
「名前なんて要らないでしょ?捨ててしまったの、ごめんなさい」
と返してきたのだ。
「好きに呼んだらいいじゃない、アタシは貴方をゴジョウと呼ぶけど」
一瞬の空白の後、俺は微かに笑うとその女を
「ブランデー」
と、そう呼んだ。
女は曇ってとろっとした瞳に俺を移して、ふっと笑う。

セックスが終わって、俺はその女に少し興味を抱いた。
名を名乗らなかったり、妙に色っぽかったりするその女は、他と違ってなにかが引っかかるのだ。
その中でも一番引っかかったのは、真っ赤なルージュだったろう。
その女の印象は、スタイルだとか、華美なドレスだとかそんなのよりも、唇だった。

煙草に火を点け、ふかしてみる。
そこで、なんとなく思い当たって聞いた。
「なぁ、お前さ、俺の事なんで知ってたの?」
別に、なんと言うことも無く、寝ているその女の安っぽい色の髪を触る。
まだ瞳は潤んでいて、少し息はあがっていた。
「あそこにいる女は皆、悟浄の事は知ってるわよ」
女はその妙に曇った瞳を俺に向けて。
「だってお前は見ない顔だったしさ」
「嘘。ホントは顔なんか見ないくせに」
目が合った。
なんとなく唇を近づけて、どちらからとも無くキスをした。

貪りあうように、奪い合うように。
キスが終わると、俺は"ブランデー"にこう言った。
「もしかして、さ。どっかで会ったりしてる?俺ら」
彼女は意味ありげに微笑むと、
「自分の名前も覚えてないのに、覚えてると思う?」
と。

俺は煙草を大きく吸い込み、肺を煙で満たした。
そして彼女は言った。
「私ね、天国に行きたいってずっと思ってたのよ」
俺は少し驚いて、視線を彼女に戻す。
「行けるといいのになって、でも、もうどうでもいいけどね」
「ふーん」
やすっぽい香水の香りをきつくきつく体に纏った、曇った瞳の"ブランデー"は、どうでもよさそうな表情を俺に残し、手のひらの粉を吸い込んだ。
「なに、それ」
「あら、悟浄やらないの?クスリ」
俺は沈黙し。
「阿片か?」
女は微笑した。
「そう。いいわよ、天国に行けるの」
ニセモノの天国だけど。女はそう呟いて、化粧を始めた。

***

“ブランデー”とはその後別れた。
また賭場に行けばいつでも会えるだろう…そう思いつつ、帰って睡眠を貪る。

雨音で目が覚めた。
賭場に行く仕度をし、今日は少し期待して賭場に向かう。
昨日とは違う、自分の纏う空気。
あの女に会いたいと。
なんだか無性にそう思っていた。
何かが他とは違うのだ。なんなのかは分からないけれど。
はじめて俺は目的を持って賭場へ向かった。

雨を含んだジーンズの裾が重くなって来た時、賭場ではいつもと少し違う喧騒が起こっていた。聞けば、女が昨日自分との賭けに負けた男に刺されたと言うのだ。
「…ッ」
俺はまさかと思って女の所在を突き止めた。
血に染まった彼女の安っぽい髪の毛と、その血より赤いルージュは、俺の目を引くには十分で。
「……」
男は逃げ出したと、聞いた。
俺が"ブランデー"に興味を持った理由…それは、「母親」に似ていたからで。
血に濡れた姿を見て思い出すなんて、自分はどこかがおかしいんだろう。
そう思いながら。
「…天国に行きたいの、か」
彼女は果たして天国に行けたのだろうか。
別に名前も知らない女だと言うのに。
女の頬にそっと触れると、まだ暖かかった。
俺は目を細める。

きっと名前の無い女は、あのまま生ゴミよろしく処理されるのだろう。
この世に居た痕跡すらもう残らないのだ。
安っぽいドレスを纏って、キツイ香水をつけた、真っ赤なルージュの女なんか。
安っぽいこの町に紛れて消えるのだろう。
明日にはこんな事は無かった事のように賭場は賑わうのだろう。
明日には何事も無かったかのように自分は賭場へ向かうのだろう。

それは、いつ見ても変わらない、自分の髪と瞳の戒めのように。


俺は賭場を後にした。

***

帰り道、ブランデーを煽りながら雨に濡れて帰る、いつもの道。
"ブランデー"を想って、雨空に向かってブランデーを振りまいた。
墓はきっと用意されるのだろう。
でも自分は名前を知らないから墓にも行けない。
赤の呪縛から抜け出せずに居る俺を、"ブランデー"は空から見ているのだろうか?

俺は帰路の途中、誰も来ないような空き地に。
その瓶を地面に刺した。
そして、持たぬ神に祈った。
「どうか、彼女に、天国行きの切符を」
我ながらクサイな、と自嘲した。
そこで物思いに耽りつつ、焼香代わりに煙草一本を燻らせる。
煙草は湿って火が中々点かなかった。
しかし、ジジッ…という音と共に煙を吸い込めばハイライト特有のラム酒の香りと口に残る刺激がやってくる。

慣れ親しんだ感覚と裏腹にこの感情をどうして良いのかわからなかった。
どことなく小雨になっていた雨はまた雨脚を強めた。



家へと続く一本道を歩いていると、赤に出会った。
血まみれになっているその眼鏡の男は、全身に赤を纏って。
『コロシテクレ』
そう自分に言っているように見えたので。
「おーい、生きてる?」
助ける事にした。

END   





---言い訳---
ブランデーの件はstigmaからのもの。解ったアナタ、流石です(笑)
実は高1の峰倉さんバースデーに送りつけた代物だったりしますwこんなん送れるとかある意味勇者だ、自分…orz
一応この後八戒を介抱する予定なので原作沿いのつもりです。

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