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学は光コミュの世界との語らい 【第1回】 J・K・ガルブレイス博士 2006-4-2

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  経済は皆を幸福にする武器
  ── ゲームでもギャンブルでもない

 コン、コン。
 ドアを叩く音がした。204センチの長身が、むくりとベッドから起きあがる。昭和20年8月の終戦の直後。東京・帝国ホテル。
 36歳のガルブレイス博士は、米軍による空爆の実態を調べるために来日していた。焼け野原でヘトヘトになるまで働き、やっと寝床に、たどりついた時である。
 ドアを開けると、日本人が大きな籠を抱えている。籠の中にはギッシリ並んだウイスキーの瓶。やあやあ親愛なる紳士よ、1本どうだい。つい先日まで敵だったアメリカ人に、売り込もうというのである。
 瓶のラベルには、英語の文字。“日本訪問中の占領軍のみなさんのために、特別に瓶詰めしました”
 博士に、思わず笑みが浮かんだ。
 商魂たくましいではないか。この焦土(しょうど)の東京。破壊の傷跡ばかり見てきたが、人間の知恵や心は崩れていない。
 博士は日本の経済復興が遠くないことを確信した。

◆この逞(たくま)しき庶民よ

 この年の7月3日。軍部の弾圧を勝ち越えて、豊多摩(とよたま)刑務所から出所された戸田城聖先生は、中野駅から電車に乗った。戦争末期。いつB29が爆弾を降らせるか分からない。
 車内の一角から、焼夷弾(しょういだん)の話題が聞こえてきた。
 「アメ公の、あの鉄は何というのだろう。質はべらぼうなものだ。あれでシャベルを作ってみたが、すごいのができる」
 「いや、わしはあれで包丁(ほうちょう)を作ってみたが、いいね。一つの殻(から)で10丁はとれる」
 実に、しぶとい。日本も捨てたものじゃない。思わず恩師は唸(うな)った。
 奇(く)しくも同時期、同地域。ガルブレイス博士と戸田先生が見たものは、雑草のごとき庶民のたくましさであった。怪しげな酒だろうが、敵軍の爆弾だろうが、生きる術(すべ)にしてしまう知恵である。
 経済といえば数理や統計のイメージが強いが、目に見えるものでは推(お)し量れない「何か」がある。
 何が何でも生きる! 必ず勝つ! そう決めたとき、すでに心は勝っている。その一念がなければ、何事も動くはずがない。
 博士は語る。
 経済を動かしているのは、人間です。
 その人間が立ち上がるならば、必ずや反転と復興と飛躍の原動力となる。社会を見事に繁栄に導くものです。
 そうだ。民衆の「大海」があってこそ、経済という「船」も進む。

◆経済力の剣(つるぎ)を磨け

 戸田先生の事業が最も苦境にあった昭和25年ごろから、恩師は私に万般の学問を個人教授してくださった。あらゆる学問、事象(じしょう)の本質を教えていただいた。
 その「戸田大学」の最初の講義が「経済」であった。教材は当時、たいへんに評判であった『経済学入門』(波多野鼎〔はたのかなえ〕著、日本評論社)である。
 戸田先生は、多額の借金に苦しまれていた。親も及ばぬほどの大恩を受けながら、師を罵倒(ばとう)して去っていく者もいた。
 恩師は、根っからの事業家であった。その事業で敗北したのである。
 「大作、俺は悔しい!」
 口にこそ出されなかったが、心中の激情が痛いほど察せられた。

 数々のご指導を頂戴した。
 「経済が分からなければ、大きな仕事はできない。一流の指導者にはなれない」
 「昔の男は、剣をもって起った。今、それにあたるものは、経済力である」
 大きな仕事とは、広宣流布である。大丈夫たるもの、大事業を成すためには、経済力の一剣を磨かねばならない。
 戦前から学会の財政基盤を一人で支えてこられた戸田先生だからこそ、後継者の私に経済の何たるかを教えてくださった。ご自分のような悔しい思いを弟子にさせたくなかった。
 本当に有り難い師匠であった。
 たとえば戸田先生は苦しいときでも、事業では相手にも儲けさせようとされた。それが私にも染みこんでいる。
 私は、恩師の借金を返し、破綻した事業を再建した。ご逝去ののちに学会に残された借財も、すべて返済した。
 その後、民主音楽協会、東京富士美術館、創価大学・学園などを次々に創設した。すべて経済、財政の基盤の確立が焦点の一つであった。その一切に師の教えが生きた。

 悩める友の訴えに、戸田先生は、つねに、語っておられた。
 「大いに儲けろ。ただし、自分のためでなく、世のため、人のために!」。終生、貧しい人の味方であった恩師は、実にわかりやすく仏法者の経済観を示された。
 難しい言葉は必要ない。「何のため」の経済か。庶民が、母と子が、幸福に暮らしていける経済か否か。これが肝要である。
 「経世済民(けいせいさいみん)」
 社会を導いて民を救う。これが「経済」の本義である。民を忘れて、経済はない。

 ガルブレイス博士の主張には頷(うなず)ける点が多かった。
 博士は「経済とは人間の幸福を実現する技術であり、武器である」と声を励ます。
 だから、経済動向の予想、予測などは重視しない。予想が当たったところで、人間の幸不幸とは本質的に関係ないからだ。
 私も思う。経済は、貧富の差をつくるものではない。ましてゲームやギャンブルでは決してない。
 主婦には主婦の経済がある。中小企業の社長さんには社長さんなりの経済がある。どちらも少しでも生活を豊かにしたい、業績を上げたいと努力する。だが、それだけでは人生の真実の充足(じゅうそく)はない。

◆良識を育て鍛えよ

 大なり小なり、誰もが一個の経済人として、社会全体の運命に責任を負っている。この一点を忘れたとき、社会は衰亡(すいぼう)する。
 ゆえに博士は警告する。
 経済を動かすには、人間を鍛えることです。
 「良識」の人間を育てなければなりません。
 私は初対面の時から申し上げてきた。「そうです。だからこそ、民衆を導く指導理念が大切なのです。それが仏法です」
 実際に、関心を深めてくださったようである。私がハーバード大学で2度目の講演をしたとき、自ら講評に立ってくださった。
 その際、仏教の哲理にも鋭く言及されたことに、私も妻も驚いた。

 「経済学者として、わずかでも人間の幸福に寄与したい」と語る博士は、世の中の不条理が許せない。
 不平等。差別。貧富の差。人間を見下す傲慢。
 97歳になる今も青年のような情熱で、社会の不正、不合理と戦っている。
 初めてお会いしてから28年。これほど長く親交が続いてきた理由でもあろうか。
 「皆を幸せにするための経済」を説かれた戸田先生とガルブレイス博士。
 もし、お二人が直接、語り合われたとしたら ── 私には、楽しい想豫が湧く。両者とも破顔一笑(はがんいっしょう)、たちまち意気投合されていたに違いない。
 それにしても ── いま、マネーゲームの指南役や分析家は山のようにいる。だが「何のため」を説く志の人を久しく見ない。

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