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黒澤明監督「赤ひげ」コミュの赤ひげをより理解するための瑣末な事項[4]

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■4 病気へのスタンス


本来、前近代社会では病気の捉え方は多種多様であった。

もっとも考えられたのは次のようなものである。
? 神仏による罰
? 人による呪詛
? 疫病神の仕業
? 死霊の憑依
? 身体内のバランスの失調
などに人々は病因を求めてさまよった。

したがって、前近代社会では身体内外によるバランスの是正に最重要も目的がおかれ、具体的には神仏・社会・人への謝罪、お祓い、祈祷、服薬、鍼灸、カウンセリングというかたちで治療が行われた。

よって、医師のみならず、宗教家、呪術師、巫女、修験者、占い師も施療者になり得た。

このことは英語でも「まじない師」のことを「ウィッチ・ドクター」と言うことでも予想できるだろう。

余談だが、『女中っ子』で知られる由紀しげ子原作で昭和30年代初頭の日活映画『沙羅の花の峠』という作品がある。

(この映画は俳優で監督作品にも『黒い潮』『蟹工船』『風流深川唄』などの佳作がある山村 聰の作品だ)

しかし戦後10年たつというのに、この映画で描かれた村落では急性虫垂炎の患者が発生したのだが、辺境の農民たちは西洋医学を金儲け主義と頭から排斥し、村のまじないを引き受けている老婆(東山千栄子)に祈祷させる。

映画はこの田舎にハイキングに来ていた若者グループの中に医学部学生(南田洋子)がおり、もう少しで彼女に手術させようとするムードが高まるが、流石に断り、グループが患者を戸板に乗せて谷の村から運び出し、沙羅の花が咲く峠の大木の下で、隣村に住む馬医者(山村 聰)が外科手術をして事なきを得るというストーリーである。

このような前近代的な医療実体が昭和30年頃に描写されているということに驚愕したのである。

余談ついでに書くと、同じ由紀しげ子の原作で名匠・田坂具隆が北原三枝主演で撮った『今日のいのち』という作品では、北原三枝は医学部のインターンであるが、実家の父親の代わりに在宅医療というか往診にも出かけ、森雅之の希望に応じて彼の宿泊しているホテルにヴィタミン注射をしに度々訪れている。


インターンとは無料医局員のことで医学部卒業後に2年間の医学的知識を実践・教育させてもらうかわりに無給で働いている医者のことだが、この映画では医学部学生だと名乗っており、いったいいかなるリサーチで作品化したのか理解できない。

量産体制にあるなかで、事実とはかけ離れたストーリーが展開するのは許されないことではある。

閑話休題、健康に対する知識や見識がなく、カネにも困っていなかったとして、悲しい煩悩に振り回されるのが人間というものだ。

食いたい、抱きたい、儲けたい。

理性や良識が根付くには、徳育しかない。

『赤ひげ』のなかに出てくる通い治療(往診)で訪れる旗本(千葉信男)は超のつく肥満体で脇息に上体を預けて「ゼェーゼェー」と喘鳴を症状として描写されている。

超肥満を類推するに、「メタボリック症候群」を呈していると思われる。

新出去定は西村晃扮する家来から献立表を示させ、「鶏肉はお命を縮めると申し上げたではないか。殿の病態は美食・飽食の果てに心臓の周りに脂肪が取り巻いて、呼吸循環系に悪影響を与えている」旨の指摘をし、二人がげっそりする前で矢立から筆を取り出し、改めるべき献立に墨で消していく。

このときの去定には言葉こそ丁寧語だが、情け容赦がない。

言葉こそ丁寧でも厳しいばかりの去定を高い金を払って通い治療を依頼しているのも、名医の誉れ高い去定が少しの努力で画期的な施薬や治療を施してくれると思うからではないか。

志村喬扮する豪商も、自らのステイタス・シンボルとして通い治療を依頼したクチだが、同様の不満から「医者は(診察や治療はするが)その結果は預かり知らぬとのことですが・・・」と皮肉を言うが、去定は真意を察知して「それはそうだな。しかし、そんなことを気にしていたら、金持ちの提灯医者は務まらん」とバッサリだ。

遂には、こういった彼らからの直訴があったのだろう・・・、とうとう通い治療の中止をお上から通達されてしまう。

それはそうだろう、いわば国公立病院の院長が勤務時間中に私的に往診し法外な診察料を取っているようなものなのだから。

『赤ひげ』という作品が繰り返し映像化され、広く愛されてきたのも、この清濁併せ呑む去定の人となりにある。

そこにまっすぐな純粋な心根を持つのだが、事情があって捻じ曲がろうとしている若い魂の救済と成長が描かれるのであるから、ここには庶民が持つ理想の構図がある。


見捨てず、じっと見ていてくれる人間がいる・・・。

観客は、どんな年代でも、こういう指導者に憧れるものだろう。(続く)

コメント(1)

「沙羅の花の峠」は数年前に観る機会がありました。

牧歌的な話ながら、山村聰演出には社会派的な怒りがこもっていて、面白かったですね。

田坂「今日のいのち」は観ておりません。

今、東京の三百人劇場で開かれている田坂の特集上映にもラインアップされていません。

ぜひ観たい映画です。

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