ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

格差社会を考えるコミュの[JMM363M] 社民党の経済政策と日本社会の格差是正

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
JMMでタイムリーな記事があったので転載しておきます。
http://ryumurakami.jmm.co.jp/

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第363回目】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
====質問:村上龍============================================================

Q:650
 ヨーロッパでは、「社会民主主義政党」が政権を担当している国がいくつかありま
す。日本では、消滅の危機に瀕している社民党の大会が行われたようです。社民党は
日本社会の格差を問題にしています。社民党は、どういった経済政策によって日本社
会の格差を是正しようとしているのでしょうか。

============================================================================
※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ■ 真壁昭夫  :信州大学経済学部教授

 社会民主党の経済政策については、あまり知識がないため、「社会民主党宣言(第
2次案)」(http://www5.sdp.or.jp/central/topics/sengen2.html)の中から経済
に係わる部分を検索すると、以下のような記述がありました。

「生産・交換・分配の手段として市場の機能を認めつつ、それを万能として、すべて
を競争の結果に委ねて、資産や所得の格差を放置する立場には立ちません。生活条件
の向上と自然環境との共生を経済活動の主眼におき、公正な交換や取引き、分配が行
なわれるよう市場の民主化や監視、規制に取り組み、福祉や医療、教育など人々が共
同で社会生活を営む分野で公共サービスの役割を充実させます。」
また、最近、国会での社民党の代表質問の内容等から考えると、社民党の基本的な経
済政策は、社会における政府の役割を小さくするのではなく、むしろ拡充することに
よって、格差是正に努めるというスタンスを読み取ることができるでしょう。これ
は、現在の小泉政権が目指している、"小さな政府"のコンセプトの反対概念というこ
とができると思います。

 次に、欧州における社会民主主義政党の流れについて考えます。ヨーロッパの主要
国の中には、イタリアやフランスのように、しっかりした共産主義政党が存在する国
があります。また、社会主義の色彩を持つ政党が活発に活動を行っていたり、しっか
りした発言権を持っているケースはよく見られます。この背景には、ヨーロッパで産
業革命が起きたこと、また、それによって労働者と資本家との階級的な対立関係の発
生が大きな要因だと講義を受けたことを覚えています。

 ヨーロッパ社会が、本来、階級社会であったこと(今でも階級制度が残っていま
す)も、社会主義的な考え方を醸成した一つの要因だと思います。そうした土壌が、
階級社会や労働者・資本家の関係に対する、アンチテーゼとしてのマルクス経済学を
生み出したとも考えられるでしょう。

 ただし、最近の状況を見ると、社会民主党と言っても、特別に社会主義的な政策を
掲げているというわけではないようです。昨年末、フランス人の友人が東京にやって
きたときに、そうした話題になったことがありました。彼によると、「特に、社会主
義的な政策を掲げているわけではない。社会保障制度などについて、やや社会主義的
な主張が強いという程度だ」と言っていました。そうした認識が一般的なのではない
かと思います。

 私は、市場に全てを委ねる市場原理主義には反対です。市場に任せておけば、全て
を自動的に解決できるというのは、楽観的過ぎると思います。かつて、市場が間違い
を起こしたケースは、それこそ枚挙に暇がありません。市場の参加者が生身の人間で
ある以上、彼らには間違えもあれば、勘違いもあります。間違った見方が多数派にな
ることは、十分に考えられます。それを狙って、不当利得を狙う人たちもいることで
しょう。そうした人たちを野放しにして、経済全体を効率的に運営することは困難で
す。そのためには、一定のルールが必要になると思います。

 一方、公的な規制や監視を強めることによって、社会の格差是正を図ることには懐
疑的です。そうした運営手法が上手くワークし難いことは、今回の防衛施設庁の贈収
賄事件を見ても明らかです。規制や監視の体制を作っても。それを潜って利得を得る
人たちが必ず出てきます。官僚や一部の企業が、そうした既得権益を作るのは目に見
えています。

 "売り手"と"買い手"が、相互に逆のベクトルを持って牽制し合う"価格機能"を使う
ことが、最も現実的で有効な手法だと思います。"売り手"がインチキをして一方的
に、値段を吊り上げようとしても、"買い手"は自分の利益を保持するために、それに
は乗らないでしょう。逆に、"買い手"が、無理やりに値段を下げさせようとすれば、
他の"買い手"が出現して、結果的に、価格は適正な均衡点に収束するはずです。一定
のルールを設けて、"価格機能"の働きを担保する仕組みを作ることを考えるべきだと
思います。

 昔、イギリスで労働党が政権を取り、企業の国有化を推進しました。その結果、企
業内の収益や労働に対する意欲が大きく落ちたことによって、英国経済全体が下落傾
向を辿ったといわれています。それは、"英国病"と呼ばれた時期もありました。その
後、サッチャー政権が誕生し、国営化政策のまき戻しを行いました。それによって、
英国経済はエネルギーを取り戻し、高成長を続けたと分析されているようです。

 あるいは、革命によって誕生した共産主義国家である、ソビエト社会主義共和国連
邦は既に存在しません。ロシア人の知人は、「共産主義は幻想だった。結果的に、共
産党幹部の贈収賄が蔓延る専制国家になってしまった。連邦の解体は必然」と指摘し
ていました。

 また、中国人の知人は、「日本は世界最大の社会主義国家だ」と言っていました。
興味深い発言だと思います。

                       信州大学経済学部教授:真壁昭夫

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ■ 菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト

 社民党に関するコメントを求められると、他の寄稿者同様に、社民党のホームペー
ジから情報を得ざるを得ません。マスコミのカバレッジが高いため、常識で答えられ
る自民党の政策と異なり、社民党の政策を普段からチェックしていることはないため
です。社民党は衆院議席数480のうち7議席を占めるに過ぎませんので、国政への
影響力は限定的です。社民党は2月11日の定期党大会で、自衛隊を明らかに違憲状
態とする先祖帰りともいうべき「社民党宣言」を採択しました。他党と変わった主張
をしないと埋没してしまうためといえるかも知れません。
 
 政権を担う意欲が高まると、民主党のように現実的な政策を打ち出さざるを得ず、
結果として自民党との政策の差が分かり難くなってしまいますが、社民党のようにニ
ッチプレーヤーを目指すならば、少数の支持者をターゲットとした非現実的な主張を
することが、小政党として生き延びるための戦略になるという点は理解されます。社
民党がどのような主張をしようと、日本の政策が変わる可能性は低いので、世間全般
から社民党への注目は低下しています。現在の株式市場では外国人投資家を含め、2
94議席も保有する巨大与党・自民党の9月総裁選の行方を、固唾を呑んで見守って
います。
 
 社民党の昨年衆院選時の選挙公約を見ますと、真っ先に「格差拡大社会を変える、
みんなが平等な社会へ」が掲げられています。年齢差別の禁止、整理解雇要件などを
盛り込んだ「労働者契約法」、パート・派遣の均等待遇確保を目的とした「パート・
有期契約労働法」、賃金の最低基準額を保証する「公契約法」などの法律を次々と成
立させるとしました。このように格差解消のために、社民党が掲げる最初の政策は労
働市場の規制強化です。
 
 政府・自民党は、米国に比べて硬直的で、経済や企業の成長の阻害要因になってい
ると指摘された労働市場の規制緩和を、90年代に入って次々と進めてきました。社
民党の主張のように、労働市場の規制強化を行えば、労働者の所得格差は縮小するで
しょうが、企業の活力が失われて、日本から逃げ出す優良企業が出るでしょう。特に
製造業の中国投資や、情報サービス業のインド投資が拡大するでしょう。働いた分の
リターンが得られないと、優秀な若者の海外移住が増えたり、起業意欲も低下するで
しょう。
 
 社民党の主張の中で、年齢差別の禁止は考慮に値すると思います。米国でも年齢に
よる雇用差別は禁止されていますし、日本は少子高齢化を迎えて、高齢者の有効活用
が求められるためです。政府も継続雇用の努力義務を企業に課す「改正高年齢者雇用
安定法」を既に施行しています。
 
 労働市場の規制強化と並ぶ、社民党の格差是正策は税制です。社民党は選挙公約
に、所得税最高税率の引き上げ、法人課税の強化、消費税引き上げ反対を盛り込みま
した。所得税最高税率は74年75%→99年37%、所得税率の刻み数は19→4段
階、法人税基本税率は40%→30%へ引き下げられてきました。こちらも労働市場の
規制強化と同じ議論になりますが、増税が行き過ぎると、優良企業や優秀な個人が日
本から他国で移ってしまうリスクがあります。
 
 社民党も経済のグローバル化については認識しているようで、社民党宣言で、「成
長と発展の恩恵が先進国や特定の企業にだけ還流することのないよう、通貨・貿易・
信用取引の公正なルール、国境を越えた労働者の権利の保障、多国籍企業の活動に対
する国際的な規制の実現に努力する」と述べました。多国籍企業に対する国際規制の
具体策は不明ですし、そのような国際規制の実現は極めて困難と思われます。社民党
も困難さを認識しているがゆえ、努力目標にしたのかもしれません。

               メリルリンチ日本証券 ストラテジスト:菊地正俊

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ■ 山崎元  :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員

 2月11日、12日に行われた社会民主党の全国大会で採択された「社会民主党宣
言」を読んでみました。宣言文の冒頭近くに、「社会民主主義こそが次代の担い手で
あり、世界史の流れであることを確信します」という一節があり、同党は、社会民主
主義に基づいた政党であることをアピールしています。

 「歴史の流れ」とは、だからそれで良いものだ、という根拠になるようなものでは
ありませんし、些か古めかしい表現です。しかし、今回は、単に、同党の奉ずる社会
民主主義を讃えたレトリックだと好意的に考えて、経済政策に関連する部分を中心に
先を読み、具体的な政策なり、そのための原則を示す考え方なりを探してみましょ
う。

 先ず、目に付くのは、「格差を是正した生活優先の社会」を目指すと書かれた箇所
です。これは、「競争こそ万能として規制緩和をやみくもに進め、『小さな政府』と
称して福祉や医療、教育などの公共サービスを切り捨てていく社会」ではないと説明
されています。

 この部分からは、?規制緩和に対して全面反対ではないものの、少なくとも懐疑的
・警戒的であること、?経済活動における政府の関与を大きくしようとしているこ
と、特に、?福祉、医療、教育などに関する政府の関与を大きくしようとしているこ
と、が読めます。

 次に、経済観の根幹に関わると思えるのは、「政策の基本課題」の第1項目目にあ
る文章です。「生産・交換・分配の手段として市場の機能を認めつつ、それを万能と
して、すべてを競争の結果に委ねて、資産や所得の格差を放置する立場には立ちませ
ん」と言っており、少し後には「公正な交換や取引、分配が行われるよう市場の民主
化や監視、規制に取り組みます」とあります。

 社民党の言う社会民主主義が分かりにくくなるのは、この箇所からです。市場万能
ではない、という主張には大なり小なり共感できるとしても、「公正な交換や取引、
分配」の具体的内容が分かりません。たとえば、市場原理を尊重する立場では、「公
正な」とは、情報の公開や取引コストの削減など市場をより有効に活用し、市場で出
た結果を尊重することなので、具体的な意味を想像することができますが、「社会民
主党宣言」は、市場万能を強く否定しているので、この立場でないことは明らかで
す。

 すると、「公正な」という言葉の誰にでも理解できる具体的な基準か、或いは「公
正」であることを誰が決めるのか、その手続きについて明らかにしないと、この文章
は、「市場万能」に対する心情的な批判以上の意味を持ちません。

 前記の文章の後に続く文の中には、「同一価値労働・同一賃金といった均等待遇の
保障の下で」とありますが、これは厳密に解釈すると、稼ぎの額に完全に連動する成
果主義の事を指すかのようです。しかし、完全な歩合制のセールスマンのような仕事
以外に同一価値労働・同一賃金は難しいし、第一、それでは市場原理主義そのもので
すから、これは凡そ社民党の採る方針ではなさそうです。

 その他、「公平で持続的な税財政」とか「社会の連帯を柱とした社会保障」といっ
た項目がありますが、「公平」を誰がどういう手続きで判断するのか、また、社会保
障に伴う資産や所得の移転をどの程度行おうとするのかなどが、具体的な施策として
も、ベースになる考え方としても内容不明です。ちなみに、共産党の一党独裁といっ
た政治形態では、公平の判断を事実上は党と一体化した政府の政治家ないしは官僚が
行うので、民間では自由な活動が制限される一方、政治家や官僚が個人的なメリット
を得やすい状況、つまり腐敗が起こりやすい状況になることが懸念されます。

 社民党が、ある程度は結果平等を指向した資産や所得の移転を主張するとしても、
?「ある程度」がどの程度なのか、?その「程度」や、もろもろの取引が「公正」で
ある、ということを、誰がどんな手続きで決定するのか、という具体的な内容を欠い
ていたのでは、国民はどのような状態を支持していいのか、判断のしようがありませ
ん。「社会民主党宣言」を読む限り、これが与党のあり方への心情的な批判にはなっ
ているとはしても、具体的に、何を任せたらいいか分からない主張であり、現社民党
は、旧日本社会党以来の悪しき伝統を受け継いでいるようです。

 仮に社会民主主義的な結果平等の方向への政府による資産・所得の移転を支持する
人が居たとしても、現在の社民党のような政策アピールでは、何をどこまで期待して
大丈夫なのかの判断のしようがないので、社民党に与党への批判勢力という以外の意
味で投票することは難しいように思います。ひとり社民党だけの問題ではありません
が、脱野党を本気で目指すためには、もっと具体的な判断基準や考え方を積極的にコ
ミュニケートしないと、国民は何を信用していいのか分かりません。

 われわれが社民党の宣言から得るべき教訓は、「公正」、「公平」、「平等」とい
った概念は、その意味の定義と、現実にはそれを誰がどうやって判定するのかという
手続きとをセットで決めないと、議論が意味を持たないということです。これらの規
定をせずに、「公正な競争を尊重する」とか「ある程度の平等も大切だ」と言って
も、具体的には何も言ったことにならないことに注意したいと思います。そう考える
と、これまでの「市場」や「分配」を巡る多くの議論は、残念ながら単に無駄だっ
た、ということが分かります。

              経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ■ 津田栄  :経済評論家

 社会民主党(社民党)は、先日第10回党大会を開催、社民党宣言を採択していま
す。これを見ますと、「格差のない平和な社会を目指して」という理想高い目標を掲
げています。基本的には、護憲の立場のもとで、やみくもな規制緩和には反対で、
「小さな政府」を否定し、一方で福祉や医療、教育などの公共サービスを保障し、
「格 差を是正した生活優先」の共生社会を目指すとしています。

 確かに、社民党の目指す社会は理想のような気もしますが、実現不可能なものであ
れば、また国民が望み、期待する社会でなければ、絵に描いた餅です。今、国民は格
差の存在を認める一方、否定はしていません。むしろ、競争を歓迎し、その結果とし
て格差が生ずることは仕方がないことと見ています(もちろん、自分が競争で破れる
ことはないと思っているのかもしれませんが)。そうした点を考えると、競争を制限
しようとしているかに見える社民党宣言の期待する社会は、国民に受け入れられるよ
うには見えません。

 社民党宣言から経済政策を考えてみますと、まず「社会的な規制による公正な市場
経済」を目指す政策を考えています。具体的には、「生産・交換・分配の手段として
市場の機能を認めつつ、それを万能として、すべてを競争の結果に委ねて、資産や所
得の格差を放置する立場」には立たないとしています。

 市場は万能でないことは多くの人は認めるところです。ただ、その結果として経済
的格差を放置することは認めないとしていますから、その是正のために政策として何
らかの政府の関与を考えていることになります。そして、そのために「公正な交換や
取引き、分配が行なわれるよう市場の民主化や監視、規制」に取り組むとしていま
す。その具体的政策として、「同一価値労働・同一賃金といった均等待遇の保障」、
「富の偏在を防ぎ、負担能力のある人から社会の支えが必要な人へと所得を再分配」
させる「所得税・住民税の最高税率の引き上げや累進性の強化、企業に応分の社会的
責任を求めた法人税の見直し」を指すならば、市場経済を認めながら、政府の関与を
強めて市場を管理し所得・富の平準化を図る社会主義的な政策を考えているように見
えます。

 それは、官僚が喜ぶような社会であり、世界で失敗してきた旧ソ連などの旧社会主
義国の目指した社会ともいえましょう。また、そうした政策が、経済に非効率的で、
国民の生活の向上につながらず、国の発展にも寄与しないと気づき、競争を認め、格
差が生まれることを容認しながら、国民の積極的な経済活動を通じて、国民および国
の成長につなげるように政策の転換を図ってきている中国からすると、逆行している
ように見えるのではないでしょうか。こうして見ると、社民党の政策は、市場経済を
認めながら、規制を強化するという相矛盾した政策であり、結果的に政府の強い関与
により格差是正を図る大きな政府を目指しているということになります。

 もう一つ、この政策に現実味が見い出せないのは、それを実現する時に必要な財源
・コストを考えていないということです。大きな政府を考えているならば、歳出は相
当膨らむはずです。今の膨大な財政赤字のなかで、どのように資金を調達するのでし
ょうか。とてもそうした視点を考えているようには見えません。ましてや、国民のや
る気を失わせるような政策ですから、新たな富を生むことが期待できず、金利や為
替、株式などの市場も混乱することになり、経済を低迷させることになると思われま
す。

 個人は、期待や希望を持って経済活動をする環境があれば、経済社会にダイナミズ
ムをもたらします。皆平等な社会は、理想郷のようですが、市場を規制して、そうし
た個人の期待や希望を失わせるのであれば、本当のところ個人の望む社会ではない
と思います。ましてや、その格差是正のための政策を行なうものが政府、官僚であれ
ば、本当に「公平」「公正」にできるのか、疑問です。むしろ、そこに裁量的な判断
が入り込む可能性があり、さらに一歩進めば旧社会主義国で生まれた官僚テクノクラ
ート支配につながることになります。それは、別の意味で格差社会を生むことになり
ます。

 結局、理想郷のように見える社民党の描く社会は、格差是正のために強力な政府介
入を図って所得の再配分を政府の手で行なう、これまで以上の非効率な社会であり、
構造改革を支持してきた国民が求めているものからは程遠いといえましょう。その意
味で、理想郷と思っていても、それを実現するための経済政策は、国民の容認しがた
い、実行不可能な政策といえます。そして、社民党がそうしたことを考慮もしていな
ければ、欧州の現実的な政策を採る社会民主主義政党とは大きく異なり、いまだ国民
の期待に応えられていないといえるのではないでしょうか。

                             経済評論家:津田栄

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ■ 三ツ谷誠  :三菱UFJ証券 IRコンサルティング室長

「村上ファンドと手が組めるかこそが」

 今回の設問に答えるに際して、私も他の寄稿家の皆さん同様に社民党のホームペー
ジを覗いてみました。私が読んだのは先の衆議院選挙の公約だったのですが、このよ
うな機会でもない限り読むことのない彼等の公約、主張は、実はそれなりに私の胸に
響いたものです。

 特に、民主主義の基盤を成す「代表性」の問題を考える上で、彼等が主張する立候
補に際しての供託金の引き下げや公職休暇復職制度の導入は、本当は政治的な情熱を
持ちながらも、政治に対して冷笑的な態度に陥りがちなインテリ層に対して、政治へ
の回路を開く福音なのかもしれません。

 また、国・特殊法人職員による関連企業への天下りの全面禁止や、NPO、帰農、
帰郷に対する税制優遇などの施策も、私的には評価に足る提案に感じられました。特
に、後者は今後、団塊の世代が企業をリタイアしていくことを考えると、過疎の問題
を考える上でも、市場の失敗を補足する社会的な仕組みを考えていく上でも、妥当性
の高い提案のような気がしました。

 勿論、提案と政策の違いは、後者が財政上の課題をも抱え、法的な意味でも全体的
な整合性を求められる点にこそ存在する訳なので、彼等の主張が単に主張であるの
か、政策として評価に足るのか、その判断は難しいものです。

 また、反米、親アジアというスタンスも、脱亜入欧という福沢的なリアルとは余り
にも異なる情念的なスタンスであり、戴けない感じですし、他にも幾つかついていけ
ない主張も公約には散見されました。

 ところで、彼等の公約で明確なのは、彼等が拠って立つ立場が「働く者にとっての
理想社会」の実現であり、しかもその理想というのは、労働者としての連帯感に強く
裏打ちされた結果平等の世界であるということです。そして、一方で彼等が牽制すべ
き対象としていまなお大資本、大企業、それを支えるものとしての官僚を想定してい
るということす。

 企業社会というものは資本主義の勃興によって生まれた世界であり、これまでの連
帯の論理や王権の論理と異なる、資本の増殖という自律性をコアとする「非人間的
な」論理に貫かれたその世界は、民衆にとって異質な世界だったと考えられます。し
かし、王に拠る統制的な経済が駆逐されて貨幣交換の経済が支配的になる中で、人々
は王に従い階層に応じて分配に預かることで生を維持できなくなって、異質な論理に
貫かれた企業に雇用され、賃金労働者として新しい世界に投げ出されます。

 社会民主的な政治とは、そのような存在としての労働者を連帯させ、企業の対峙者
として屹立させることを意図した政治と考えられるでしょう。「企業」の牽制者とし
ての「労働者」という視点です。

 社会民主党の主張も、企業から収奪し、労働者に果実を分配する、という原則に貫
かれています。

 やがて、その共生が発展していく中で、労働者は寧ろ消費者という立場で企業を牽
制するようになる。社会民主的な政党は、このような消費者運動も企業を牽制すると
いう立場で呑み込んでいったので、消費者運動的な主張も、やはり社会民主党の公約
のそこここに散見されています。

 そこまではいいのですが、21世紀の<帝国>的な世界が到達しているのは、民衆
が年金や貯蓄を通じて、実際に「投資家」として企業を牽制している(というより
は、企業そのものの支配者=資本家!!として統治している)世界なので、社会民主
党のように、企業から果実を労働者に分配しようとすればするほど、今度は資本家と
しての民衆の不利益に繋がるという構図が生まれて来る、それが見えないと、なかな
か巧くいかない、金メダルどころか、メダルすら取れない、ということではないか、
と思います。

 つまり、奪うもの、対峙するもの、としての企業ではなく、共に価値を創造するも
のとして、連帯するものとして企業を捉え直すという或る種のコペルニクス的転回が
ないと、この方向では運動が行き詰まってしまうということではないでしょうか。

 という意味では、社会民主党は、かつて消費者運動を吸収したような形で、投資家
運動を吸収できるか、端的に言えば例えば村上ファンドの村上氏と手を組めるか、が
試されていると言えます。

 ところで、冬季五輪の日本選手団の不振は哀しいことですが、西武の堤氏が失脚す
れば、日本の冬季五輪のメダル数に影響が出てくる(私はそう考えていますが)とい
うことも、なかなか暗示的な感じがします。

                三菱UFJ証券 IRコンサルティング室長:三ツ谷誠

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ■ 金井伸郎  :外資系運用会社 企画・営業部門勤務

 社会民主主義は、市場経済、複数政党制、民主主義を前提として、社会的公正を目
指し、資本主義経済の歪みを是正することを目的とするものとされています。当然な
がら、社会民主主義を掲げる社民党の経済政策も、日本社会の格差是正を最大の課題
として捉えているようです。

 こうした社民党の経済政策の今日的意義を考える上では、かつて社会民主主義が一
定の支持を集め成果を上げていた時代の社会背景と現在を比較するとわかりやすいで
しょう。

 前回の設問への回答でも指摘しましたように、かつての工業社会においては、国な
どの公共部門が社会インフラを整備し、それを基礎として生産活動が行われ、社会全
体としての富が形成されていました。その中で社会民主主義は、市場経済を前提とし
て、自由な企業活動による効率的な生産の拡大を支持してきました。

 一方で、社会民主主義は、市場機能への依存に懐疑的な立場からは様々な規制の導
入を、また、生産手段の公共性を主張する立場からは重要産業の国営化などを進め、
混合経済といわれる経済体制を形成してきました。このような混合経済は、第二時世
界大戦後の社会民主主義の下での欧州においてだけではなく、日本や新興国の開発経
済においても同様に見られました。

 このような工業社会での経済格差は、資本家層/労働者層、企業労働者の中での管
理職層/従業員層などの階層間の格差に集約されます。社会民主主義は、こうした経
済格差の問題を配分の問題と捉え、法人税や国営化により資本家層/労働者層の格差
を、また、累進制所得税により個人間の格差を緩和することを目指してきました。ま
た、労働組合活動を保護し支援することによって、企業労働者への配分に対する交渉
力とすると同時に、管理職層/従業員層などの階層間の格差に対する牽制としていま
した。

 このように、かつての工業を前提とした社会では、社民党の経済政策、即ち社会民
主主義が主張するような、累進構造による税制を通じた所得再分配政策は有効に機能
し、正当性が認められるものであったと考えられます。また、こうした税収を社会イ
ンフラへ再投資することを通じて社会全体の富の形成を拡大し、結果的に所得下位層
を含め広く還元することが可能であったことも、重要な点として指摘できます。

 こうして社会民主主義が一定の支持を集め成果を上げていた時代の社会背景と現在
を比較することにより、社会民主主義の限界も明らかになります。

 現在のように、工業社会から知識社会へ移行する中では、個人間の経済格差の根源
も、社会階層間での富の分配の不均衡から、個人の持つ知識や能力による富の形成能
力の格差に移りつつあります。そうした状況下では、累進課税の強化による経済格差
是正は、その根拠と正当性を失いつつあると言えます。人が持つ知識は、公共の教育
などをはじめ様々な形で提供されるものですが、その能力は本人の努力によって獲得
されるものである以上、その経済的成果も本人に帰属するのが妥当と考えられるから
です

 また、税制を通じた所得再分配政策は、社会に対してセーフティーネットを提供す
る機能を持つ一方で、所得下位層の経済所得の基盤を改善するものではないため、経
済格差の発生を是正するための政策としては有効性が限られています。

 社民党の経済格差の問題に対する政策の課題としては、こうした税制による所得再
分配政策に固執すると同時に、所得下位層の経済所得の基盤を改善することに対して
明確なビジョンを欠いていることが指摘できます。

 社民党の政策を見ますと、高等教育の機会を無償化するなど、教育における公費負
担の増額なども訴えています。ただし、このような教育の機会拡大は、結果的に階層
間の人の移動を促し、社会の活性化に寄与する面があることは積極的に評価されるべ
きですが、現在の所得下位層の経済所得の改善に直ちにつながるものではありませ
ん。

 むしろ、これらの政策は、社民党の重要な支持基盤である教育機関に勤務する教職
員労働者の立場と利害に配慮したものと思われます。様々なレベルでの教育機会の提
供を拡大することは重要ですが、社民党にとっては学校教育以外の場での教育機会拡
大については、比較的関心が薄いようです。

 一方、社民党の支持基盤には所得下位層や高齢者層が多いと想像されますが、これ
らの層に対して自助の努力を求め、その経済所得基盤の改善を目指す政策を訴えて
も、残念ながら訴求しにくいとの現実もあります。所得下位層の経済所得基盤の改善
を目指す政策は、これら所得下位層の支持によってではなく、所得階層のより上位に
位置する層における問題意識の高まりと合意の形成によって導入されるものなのでし
ょう。

 例えば、英国でのサッチャー氏の改革についても、中産階級が支持基盤となり、そ
の精神的気風が色濃く反映したものでした。また、現在の労働党政権においても、政
策面では従来の労働党政権と一線を画し、より中産階級を意識したものとなっていま
す。特に、ブレア首相のブレーンの一人とされるアンソニー・ギデンス氏は、マルク
ス的視点を再評価しながらも先進社会での新中間階級の拡大の重要性に注目してきた
社会学者であり、現政権の政策決定に大きな影響を与えたとされています。(従来の
マルクス的視点からは、こうした中間層は無産階級に「沈殿する」と予言される存在
でした。)

 日本社会における経済格差、特に所得下位層の拡大が問題にされていますが、そこ
で懸念されるべき問題は社会の多数を占める中間層である中産階級の変質です。中産
階級とは本来、自らの不断の努力によってのみ、その地位を維持することが可能な階
級であり、常に緊張感を求められる存在です。自覚なく中流意識だけが膨張した日本
の社会では、競争環境が厳しくなる中で、緊張感と意欲を失い急速に沈殿する層が拡
大しているのは事実でしょう。

 今後、日本ではさらに経済格差が拡大し、より少数の成功者に富が集中するととも
に、社会の底部に沈殿する「下流社会」が形成される社会構造になっていくと思われ
ます。しかし、その中にあっても、常に緊張感を維持し高い能力への研鑽を絶やすこ
となく社会を支えていく、より多数の層が存在し続けることも事実です。今、政治に
求められているのは、こうした中間層に対して、自信と自覚を強く意識させられる政
策ではないでしょうか。

                外資系運用会社 企画・営業部門勤務:金井伸郎

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■■編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■

 Q:650への回答ありがとうございました。「群像」という文芸誌の連載小説の
執筆でまた箱根に来ています。箱根に来る前はトリノオリンピックを熱心に見ていた
のですが、小説の執筆時にオリンピックテレビ観戦は向いていないとわかりました。
圧倒的な事実に虚構が負けそうになるからです。箱根では一人で誕生日を過ごすこと
になりました。誕生日に一人で小説を書くのは嫌いではありません。特に今回は非常
にむずかしいシーンを書くことになったので、やりがいがありました。

 トリノでは日本勢が不振だと言われています。19日現在でまだメダルがありませ
ん。原因はいろいろとあるのでしょう。「もっとも重要な機会に自分の能力の限界に
チャレンジすることを大前提的に善とする」という文化が日本社会にないことも少し
影響しているのではないかと思いました。ウインタースポーツはそのほとんどすべて
が「速度と制御」という相反した二つのファクターによって成立しているように見え
ます。「攻撃性と自制」と言い換えてもいいのですが、制御可能なギリギリの速度を
競うわけです。スキーのアルペンやスピードスケートなどは典型ですが、モーグルや
スノーボードのハーフパイプなどでも、斜面を滑る際のスピードが不足すれば高いエ
アの演技ができなくなります。

 オリンピックという大舞台で、自分で制御できるギリギリのスピードに挑戦するこ
とが「できるか」ではなく、挑戦することが「社会的文化として当然のことになって
いるかどうか」ではないかと思うわけです。ただしその国の文化は単純な構造ではな
く、また他国にもオリンピック競技に不利な文化はあるのかも知れません。

============================================================================

コメント(2)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第363回目】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
====質問:村上龍=========================================

Q:650
 ヨーロッパでは、「社会民主主義政党」が政権を担当している国がいくつかあります。日本では、消滅の危機に瀕している社民党の大会が行われたようです。社民党は日本社会の格差を問題にしています。社民党は、どういった経済政策によって日本社会の格差を是正しようとしているのでしょうか。

========================================================※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・ 組織の意見・方針ではありません。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ■ 真壁昭夫  :信州大学経済学部教授

 社会民主党の経済政策については、あまり知識がないため、「社会民主党宣言(第2次案)」(http://www5.sdp.or.jp/central/topics/sengen2.html)の中から経済に係わる部分を検索すると、以下のような記述がありました。

「生産・交換・分配の手段として市場の機能を認めつつ、それを万能として、すべてを競争の結果に委ねて、資産や所得の格差を放置する立場には立ちません。生活条件の向上と自然環境との共生を経済活動の主眼におき、公正な交換や取引き、分配が行なわれるよう市場の民主化や監視、規制に取り組み、福祉や医療、教育など人々が共同で社会生活を営む分野で公共サービスの役割を充実させます。」また、最近、国会での社民党の代表質問の内容等から考えると、社民党の基本的な経済政策は、社会における政府の役割を小さくするのではなく、むしろ拡充することによって、格差是正に努めるというスタンスを読み取ることができるでしょう。これは、現在の小泉政権が目指している、"小さな政府"のコンセプトの反対概念ということができると思います。

 次に、欧州における社会民主主義政党の流れについて考えます。ヨーロッパの主要国の中には、イタリアやフランスのように、しっかりした共産主義政党が存在する国があります。また、社会主義の色彩を持つ政党が活発に活動を行っていたり、しっかりした発言権を持っているケースはよく見られます。この背景には、ヨーロッパで産業革命が起きたこと、また、それによって労働者と資本家との階級的な対立関係の発生が大きな要因だと講義を受けたことを覚えています。

 ヨーロッパ社会が、本来、階級社会であったこと(今でも階級制度が残っています)も、社会主義的な考え方を醸成した一つの要因だと思います。そうした土壌が、階級社会や労働者・資本家の関係に対する、アンチテーゼとしてのマルクス経済学を生み出したとも考えられるでしょう。

 ただし、最近の状況を見ると、社会民主党と言っても、特別に社会主義的な政策を掲げているというわけではないようです。昨年末、フランス人の友人が東京にやってきたときに、そうした話題になったことがありました。彼によると、「特に、社会主義的な政策を掲げているわけではない。社会保障制度などについて、やや社会主義的な主張が強いという程度だ」と言っていました。そうした認識が一般的なのではないかと思います。

 私は、市場に全てを委ねる市場原理主義には反対です。市場に任せておけば、全てを自動的に解決できるというのは、楽観的過ぎると思います。かつて、市場が間違いを起こしたケースは、それこそ枚挙に暇がありません。市場の参加者が生身の人間である以上、彼らには間違えもあれば、勘違いもあります。間違った見方が多数派になることは、十分に考えられます。それを狙って、不当利得を狙う人たちもいることでしょう。そうした人たちを野放しにして、経済全体を効率的に運営することは困難です。そのためには、一定のルールが必要になると思います。

 一方、公的な規制や監視を強めることによって、社会の格差是正を図ることには懐疑的です。そうした運営手法が上手くワークし難いことは、今回の防衛施設庁の贈収賄事件を見ても明らかです。規制や監視の体制を作っても。それを潜って利得を得る人たちが必ず出てきます。官僚や一部の企業が、そうした既得権益を作るのは目に見えています。

 "売り手"と"買い手"が、相互に逆のベクトルを持って牽制し合う"価格機能"を使うことが、最も現実的で有効な手法だと思います。"売り手"がインチキをして一方的に、値段を吊り上げようとしても、"買い手"は自分の利益を保持するために、それには乗らないでしょう。逆に、"買い手"が、無理やりに値段を下げさせようとすれば、他の"買い手"が出現して、結果的に、価格は適正な均衡点に収束するはずです。一定のルールを設けて、"価格機能"の働きを担保する仕組みを作ることを考えるべきだと思います。

 昔、イギリスで労働党が政権を取り、企業の国有化を推進しました。その結果、企業内の収益や労働に対する意欲が大きく落ちたことによって、英国経済全体が下落傾向を辿ったといわれています。それは、"英国病"と呼ばれた時期もありました。その後、サッチャー政権が誕生し、国営化政策のまき戻しを行いました。それによって、英国経済はエネルギーを取り戻し、高成長を続けたと分析されているようです。

 あるいは、革命によって誕生した共産主義国家である、ソビエト社会主義共和国連邦は既に存在しません。ロシア人の知人は、「共産主義は幻想だった。結果的に、共産党幹部の贈収賄が蔓延る専制国家になってしまった。連邦の解体は必然」と指摘していました。

 また、中国人の知人は、「日本は世界最大の社会主義国家だ」と言っていました。
興味深い発言だと思います。

   信州大学経済学部教授:真壁昭夫

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ■ 菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト

 社民党に関するコメントを求められると、他の寄稿者同様に、社民党のホームページから情報を得ざるを得ません。マスコミのカバレッジが高いため、常識で答えられる自民党の政策と異なり、社民党の政策を普段からチェックしていることはないためです。社民党は衆院議席数480のうち7議席を占めるに過ぎませんので、国政への影響力は限定的です。社民党は2月11日の定期党大会で、自衛隊を明らかに違憲状態とする先祖帰りともいうべき「社民党宣言」を採択しました。他党と変わった主張をしないと埋没してしまうためといえるかも知れません。
 
 政権を担う意欲が高まると、民主党のように現実的な政策を打ち出さざるを得ず、結果として自民党との政策の差が分かり難くなってしまいますが、社民党のようにニッチプレーヤーを目指すならば、少数の支持者をターゲットとした非現実的な主張をすることが、小政党として生き延びるための戦略になるという点は理解されます。社民党がどのような主張をしようと、日本の政策が変わる可能性は低いので、世間全般から社民党への注目は低下しています。現在の株式市場では外国人投資家を含め、294議席も保有する巨大与党・自民党の9月総裁選の行方を、固唾を呑んで見守っています。
 
 社民党の昨年衆院選時の選挙公約を見ますと、真っ先に「格差拡大社会を変える、みんなが平等な社会へ」が掲げられています。年齢差別の禁止、整理解雇要件などを盛り込んだ「労働者契約法」、パート・派遣の均等待遇確保を目的とした「パート・有期契約労働法」、賃金の最低基準額を保証する「公契約法」などの法律を次々と成立させるとしました。このように格差解消のために、社民党が掲げる最初の政策は労働市場の規制強化です。
 
 政府・自民党は、米国に比べて硬直的で、経済や企業の成長の阻害要因になっていると指摘された労働市場の規制緩和を、90年代に入って次々と進めてきました。社民党の主張のように、労働市場の規制強化を行えば、労働者の所得格差は縮小するでしょうが、企業の活力が失われて、日本から逃げ出す優良企業が出るでしょう。特に製造業の中国投資や、情報サービス業のインド投資が拡大するでしょう。働いた分のリターンが得られないと、優秀な若者の海外移住が増えたり、起業意欲も低下するでしょう。
 
 社民党の主張の中で、年齢差別の禁止は考慮に値すると思います。米国でも年齢による雇用差別は禁止されていますし、日本は少子高齢化を迎えて、高齢者の有効活用が求められるためです。政府も継続雇用の努力義務を企業に課す「改正高年齢者雇用安定法」を既に施行しています。
 
 労働市場の規制強化と並ぶ、社民党の格差是正策は税制です。社民党は選挙公約に、所得税最高税率の引き上げ、法人課税の強化、消費税引き上げ反対を盛り込みました。所得税最高税率は74年75%→99年37%、所得税率の刻み数は19→4段階、法人税基本税率は40%→30%へ引き下げられてきました。こちらも労働市場の規制強化と同じ議論になりますが、増税が行き過ぎると、優良企業や優秀な個人が日本から他国で移ってしまうリスクがあります。
 
 社民党も経済のグローバル化については認識しているようで、社民党宣言で、「成長と発展の恩恵が先進国や特定の企業にだけ還流することのないよう、通貨・貿易・信用取引の公正なルール、国境を越えた労働者の権利の保障、多国籍企業の活動に対する国際的な規制の実現に努力する」と述べました。多国籍企業に対する国際規制の具体策は不明ですし、そのような国際規制の実現は極めて困難と思われます。社民党も困難さを認識しているがゆえ、努力目標にしたのかもしれません。

   メリルリンチ日本証券 ストラテジスト:菊地正俊

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ■ 山崎元  :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員

 2月11日、12日に行われた社会民主党の全国大会で採択された「社会民主党宣言」を読んでみました。宣言文の冒頭近くに、「社会民主主義こそが次代の担い手であり、世界史の流れであることを確信します」という一節があり、同党は、社会民主主義に基づいた政党であることをアピールしています。

 「歴史の流れ」とは、だからそれで良いものだ、という根拠になるようなものではありませんし、些か古めかしい表現です。しかし、今回は、単に、同党の奉ずる社会民主主義を讃えたレトリックだと好意的に考えて、経済政策に関連する部分を中心に先を読み、具体的な政策なり、そのための原則を示す考え方なりを探してみましょう。

 先ず、目に付くのは、「格差を是正した生活優先の社会」を目指すと書かれた箇所です。これは、「競争こそ万能として規制緩和をやみくもに進め、『小さな政府』と称して福祉や医療、教育などの公共サービスを切り捨てていく社会」ではないと説明されています。

 この部分からは、?規制緩和に対して全面反対ではないものの、少なくとも懐疑的・警戒的であること、?経済活動における政府の関与を大きくしようとしていること、特に、?福祉、医療、教育などに関する政府の関与を大きくしようとしていること、が読めます。

 次に、経済観の根幹に関わると思えるのは、「政策の基本課題」の第1項目目にある文章です。「生産・交換・分配の手段として市場の機能を認めつつ、それを万能として、すべてを競争の結果に委ねて、資産や所得の格差を放置する立場には立ちません」と言っており、少し後には「公正な交換や取引、分配が行われるよう市場の民主化や監視、規制に取り組みます」とあります。

 社民党の言う社会民主主義が分かりにくくなるのは、この箇所からです。市場万能ではない、という主張には大なり小なり共感できるとしても、「公正な交換や取引、分配」の具体的内容が分かりません。たとえば、市場原理を尊重する立場では、「公正な」とは、情報の公開や取引コストの削減など市場をより有効に活用し、市場で出た結果を尊重することなので、具体的な意味を想像することができますが、「社会民主党宣言」は、市場万能を強く否定しているので、この立場でないことは明らかです。

 すると、「公正な」という言葉の誰にでも理解できる具体的な基準か、或いは「公正」であることを誰が決めるのか、その手続きについて明らかにしないと、この文章は、「市場万能」に対する心情的な批判以上の意味を持ちません。

 前記の文章の後に続く文の中には、「同一価値労働・同一賃金といった均等待遇の保障の下で」とありますが、これは厳密に解釈すると、稼ぎの額に完全に連動する成果主義の事を指すかのようです。しかし、完全な歩合制のセールスマンのような仕事以外に同一価値労働・同一賃金は難しいし、第一、それでは市場原理主義そのものですから、これは凡そ社民党の採る方針ではなさそうです。

 その他、「公平で持続的な税財政」とか「社会の連帯を柱とした社会保障」といった項目がありますが、「公平」を誰がどういう手続きで判断するのか、また、社会保障に伴う資産や所得の移転をどの程度行おうとするのかなどが、具体的な施策としても、ベースになる考え方としても内容不明です。ちなみに、共産党の一党独裁といった政治形態では、公平の判断を事実上は党と一体化した政府の政治家ないしは官僚が行うので、民間では自由な活動が制限される一方、政治家や官僚が個人的なメリットを得やすい状況、つまり腐敗が起こりやすい状況になることが懸念されます。

 社民党が、ある程度は結果平等を指向した資産や所得の移転を主張するとしても、?「ある程度」がどの程度なのか、?その「程度」や、もろもろの取引が「公正」である、ということを、誰がどんな手続きで決定するのか、という具体的な内容を欠いていたのでは、国民はどのような状態を支持していいのか、判断のしようがありません。「社会民主党宣言」を読む限り、これが与党のあり方への心情的な批判にはなっているとはしても、具体的に、何を任せたらいいか分からない主張であり、現社民党は、旧日本社会党以来の悪しき伝統を受け継いでいるようです。

 仮に社会民主主義的な結果平等の方向への政府による資産・所得の移転を支持する人が居たとしても、現在の社民党のような政策アピールでは、何をどこまで期待して大丈夫なのかの判断のしようがないので、社民党に与党への批判勢力という以外の意味で投票することは難しいように思います。ひとり社民党だけの問題ではありませんが、脱野党を本気で目指すためには、もっと具体的な判断基準や考え方を積極的にコミュニケートしないと、国民は何を信用していいのか分かりません。

 われわれが社民党の宣言から得るべき教訓は、「公正」、「公平」、「平等」といった概念は、その意味の定義と、現実にはそれを誰がどうやって判定するのかという手続きとをセットで決めないと、議論が意味を持たないということです。これらの規定をせずに、「公正な競争を尊重する」とか「ある程度の平等も大切だ」と言っても、具体的には何も言ったことにならないことに注意したいと思います。そう考えると、これまでの「市場」や「分配」を巡る多くの議論は、残念ながら単に無駄だった、ということが分かります。

   経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ■ 津田栄  :経済評論家

 社会民主党(社民党)は、先日第10回党大会を開催、社民党宣言を採択しています。これを見ますと、「格差のない平和な社会を目指して」という理想高い目標を掲げています。基本的には、護憲の立場のもとで、やみくもな規制緩和には反対で、「小さな政府」を否定し、一方で福祉や医療、教育などの公共サービスを保障し、
「格差を是正した生活優先」の共生社会を目指すとしています。

 確かに、社民党の目指す社会は理想のような気もしますが、実現不可能なものであれば、また国民が望み、期待する社会でなければ、絵に描いた餅です。今、国民は格差の存在を認める一方、否定はしていません。むしろ、競争を歓迎し、その結果として格差が生ずることは仕方がないことと見ています(もちろん、自分が競争で破れることはないと思っているのかもしれませんが)。そうした点を考えると、競争を制限しようとしているかに見える社民党宣言の期待する社会は、国民に受け入れられるようには見えません。

 社民党宣言から経済政策を考えてみますと、まず「社会的な規制による公正な市場経済」を目指す政策を考えています。具体的には、「生産・交換・分配の手段として市場の機能を認めつつ、それを万能として、すべてを競争の結果に委ねて、資産や所得の格差を放置する立場」には立たないとしています。

 市場は万能でないことは多くの人は認めるところです。ただ、その結果として経済的格差を放置することは認めないとしていますから、その是正のために政策として何らかの政府の関与を考えていることになります。そして、そのために「公正な交換や取引き、分配が行なわれるよう市場の民主化や監視、規制」に取り組むとしています。その具体的政策として、「同一価値労働・同一賃金といった均等待遇の保障」、「富の偏在を防ぎ、負担能力のある人から社会の支えが必要な人へと所得を再分配」させる「所得税・住民税の最高税率の引き上げや累進性の強化、企業に応分の社会的責任を求めた法人税の見直し」を指すならば、市場経済を認めながら、政府の関与を強めて市場を管理し所得・富の平準化を図る社会主義的な政策を考えているように見えます。

 それは、官僚が喜ぶような社会であり、世界で失敗してきた旧ソ連などの旧社会主義国の目指した社会ともいえましょう。また、そうした政策が、経済に非効率的で、国民の生活の向上につながらず、国の発展にも寄与しないと気づき、競争を認め、格差が生まれることを容認しながら、国民の積極的な経済活動を通じて、国民および国の成長につなげるように政策の転換を図ってきている中国からすると、逆行しているように見えるのではないでしょうか。こうして見ると、社民党の政策は、市場経済を認めながら、規制を強化するという相矛盾した政策であり、結果的に政府の強い関与により格差是正を図る大きな政府を目指しているということになります。

 もう一つ、この政策に現実味が見い出せないのは、それを実現する時に必要な財源・コストを考えていないということです。大きな政府を考えているならば、歳出は相当膨らむはずです。今の膨大な財政赤字のなかで、どのように資金を調達するのでしょうか。とてもそうした視点を考えているようには見えません。ましてや、国民のやる気を失わせるような政策ですから、新たな富を生むことが期待できず、金利や為替、株式などの市場も混乱することになり、経済を低迷させることになると思われます。

 個人は、期待や希望を持って経済活動をする環境があれば、経済社会にダイナミズムをもたらします。皆平等な社会は、理想郷のようですが、市場を規制して、そうした個人の期待や希望を失わせるのであれば、本当のところ個人の望む社会ではないと思います。ましてや、その格差是正のための政策を行なうものが政府、官僚であれば、本当に「公平」「公正」にできるのか、疑問です。むしろ、そこに裁量的な判断が入り込む可能性があり、さらに一歩進めば旧社会主義国で生まれた官僚テクノクラート支配につながることになります。それは、別の意味で格差社会を生むことになります。

 結局、理想郷のように見える社民党の描く社会は、格差是正のために強力な政府介入を図って所得の再配分を政府の手で行なう、これまで以上の非効率な社会であり、構造改革を支持してきた国民が求めているものからは程遠いといえましょう。その意味で、理想郷と思っていても、それを実現するための経済政策は、国民の容認しがたい、実行不可能な政策といえます。そして、社民党がそうしたことを考慮もしていなければ、欧州の現実的な政策を採る社会民主主義政党とは大きく異なり、いまだ国民の期待に応えられていないといえるのではないでしょうか。

   経済評論家:津田栄

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ■ 三ツ谷誠  :三菱UFJ証券 IRコンサルティング室長

「村上ファンドと手が組めるかこそが」

 今回の設問に答えるに際して、私も他の寄稿家の皆さん同様に社民党のホームページを覗いてみました。私が読んだのは先の衆議院選挙の公約だったのですが、このような機会でもない限り読むことのない彼等の公約、主張は、実はそれなりに私の胸に響いたものです。

 特に、民主主義の基盤を成す「代表性」の問題を考える上で、彼等が主張する立候補に際しての供託金の引き下げや公職休暇復職制度の導入は、本当は政治的な情熱を持ちながらも、政治に対して冷笑的な態度に陥りがちなインテリ層に対して、政治への回路を開く福音なのかもしれません。

 また、国・特殊法人職員による関連企業への天下りの全面禁止や、NPO、帰農、帰郷に対する税制優遇などの施策も、私的には評価に足る提案に感じられました。特に、後者は今後、団塊の世代が企業をリタイアしていくことを考えると、過疎の問題を考える上でも、市場の失敗を補足する社会的な仕組みを考えていく上でも、妥当性の高い提案のような気がしました。

 勿論、提案と政策の違いは、後者が財政上の課題をも抱え、法的な意味でも全体的な整合性を求められる点にこそ存在する訳なので、彼等の主張が単に主張であるのか、政策として評価に足るのか、その判断は難しいものです。

 また、反米、親アジアというスタンスも、脱亜入欧という福沢的なリアルとは余りにも異なる情念的なスタンスであり、戴けない感じですし、他にも幾つかついていけない主張も公約には散見されました。

 ところで、彼等の公約で明確なのは、彼等が拠って立つ立場が「働く者にとっての理想社会」の実現であり、しかもその理想というのは、労働者としての連帯感に強く裏打ちされた結果平等の世界であるということです。そして、一方で彼等が牽制すべき対象としていまなお大資本、大企業、それを支えるものとしての官僚を想定しているということす。

 企業社会というものは資本主義の勃興によって生まれた世界であり、これまでの連帯の論理や王権の論理と異なる、資本の増殖という自律性をコアとする「非人間的な」論理に貫かれたその世界は、民衆にとって異質な世界だったと考えられます。しかし、王に拠る統制的な経済が駆逐されて貨幣交換の経済が支配的になる中で、人々は王に従い階層に応じて分配に預かることで生を維持できなくなって、異質な論理に貫かれた企業に雇用され、賃金労働者として新しい世界に投げ出されます。

 社会民主的な政治とは、そのような存在としての労働者を連帯させ、企業の対峙者として屹立させることを意図した政治と考えられるでしょう。「企業」の牽制者としての「労働者」という視点です。

 社会民主党の主張も、企業から収奪し、労働者に果実を分配する、という原則に貫かれています。

 やがて、その共生が発展していく中で、労働者は寧ろ消費者という立場で企業を牽制するようになる。社会民主的な政党は、このような消費者運動も企業を牽制するという立場で呑み込んでいったので、消費者運動的な主張も、やはり社会民主党の公約のそこここに散見されています。

 そこまではいいのですが、21世紀の<帝国>的な世界が到達しているのは、民衆が年金や貯蓄を通じて、実際に「投資家」として企業を牽制している(というよりは、企業そのものの支配者=資本家!!として統治している)世界なので、社会民主党のように、企業から果実を労働者に分配しようとすればするほど、今度は資本家としての民衆の不利益に繋がるという構図が生まれて来る、それが見えないと、なかなか巧くいかない、金メダルどころか、メダルすら取れない、ということではないか、と思います。

 つまり、奪うもの、対峙するもの、としての企業ではなく、共に価値を創造するものとして、連帯するものとして企業を捉え直すという或る種のコペルニクス的転回がないと、この方向では運動が行き詰まってしまうということではないでしょうか。

 という意味では、社会民主党は、かつて消費者運動を吸収したような形で、投資家運動を吸収できるか、端的に言えば例えば村上ファンドの村上氏と手を組めるか、が試されていると言えます。

 ところで、冬季五輪の日本選手団の不振は哀しいことですが、西武の堤氏が失脚すれば、日本の冬季五輪のメダル数に影響が出てくる(私はそう考えていますが)ということも、なかなか暗示的な感じがします。

   三菱UFJ証券 IRコンサルティング室長:三ツ谷誠

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ■ 金井伸郎  :外資系運用会社 企画・営業部門勤務

 社会民主主義は、市場経済、複数政党制、民主主義を前提として、社会的公正を目指し、資本主義経済の歪みを是正することを目的とするものとされています。当然ながら、社会民主主義を掲げる社民党の経済政策も、日本社会の格差是正を最大の課題として捉えているようです。

 こうした社民党の経済政策の今日的意義を考える上では、かつて社会民主主義が一定の支持を集め成果を上げていた時代の社会背景と現在を比較するとわかりやすいでしょう。

 前回の設問への回答でも指摘しましたように、かつての工業社会においては、国などの公共部門が社会インフラを整備し、それを基礎として生産活動が行われ、社会全体としての富が形成されていました。その中で社会民主主義は、市場経済を前提として、自由な企業活動による効率的な生産の拡大を支持してきました。

 一方で、社会民主主義は、市場機能への依存に懐疑的な立場からは様々な規制の導入を、また、生産手段の公共性を主張する立場からは重要産業の国営化などを進め、混合経済といわれる経済体制を形成してきました。このような混合経済は、第二時世界大戦後の社会民主主義の下での欧州においてだけではなく、日本や新興国の開発経済においても同様に見られました。

 このような工業社会での経済格差は、資本家層/労働者層、企業労働者の中での管理職層/従業員層などの階層間の格差に集約されます。社会民主主義は、こうした経済格差の問題を配分の問題と捉え、法人税や国営化により資本家層/労働者層の格差を、また、累進制所得税により個人間の格差を緩和することを目指してきました。また、労働組合活動を保護し支援することによって、企業労働者への配分に対する交渉力とすると同時に、管理職層/従業員層などの階層間の格差に対する牽制としていました。

 このように、かつての工業を前提とした社会では、社民党の経済政策、即ち社会民主主義が主張するような、累進構造による税制を通じた所得再分配政策は有効に機能し、正当性が認められるものであったと考えられます。また、こうした税収を社会インフラへ再投資することを通じて社会全体の富の形成を拡大し、結果的に所得下位層を含め広く還元することが可能であったことも、重要な点として指摘できます。

 こうして社会民主主義が一定の支持を集め成果を上げていた時代の社会背景と現在を比較することにより、社会民主主義の限界も明らかになります。

 現在のように、工業社会から知識社会へ移行する中では、個人間の経済格差の根源も、社会階層間での富の分配の不均衡から、個人の持つ知識や能力による富の形成能力の格差に移りつつあります。そうした状況下では、累進課税の強化による経済格差是正は、その根拠と正当性を失いつつあると言えます。人が持つ知識は、公共の教育などをはじめ様々な形で提供されるものですが、その能力は本人の努力によって獲得されるものである以上、その経済的成果も本人に帰属するのが妥当と考えられるからです

 また、税制を通じた所得再分配政策は、社会に対してセーフティーネットを提供する機能を持つ一方で、所得下位層の経済所得の基盤を改善するものではないため、経済格差の発生を是正するための政策としては有効性が限られています。

 社民党の経済格差の問題に対する政策の課題としては、こうした税制による所得再分配政策に固執すると同時に、所得下位層の経済所得の基盤を改善することに対して明確なビジョンを欠いていることが指摘できます。

 社民党の政策を見ますと、高等教育の機会を無償化するなど、教育における公費負担の増額なども訴えています。ただし、このような教育の機会拡大は、結果的に階層間の人の移動を促し、社会の活性化に寄与する面があることは積極的に評価されるべきですが、現在の所得下位層の経済所得の改善に直ちにつながるものではありません。

 むしろ、これらの政策は、社民党の重要な支持基盤である教育機関に勤務する教職員労働者の立場と利害に配慮したものと思われます。様々なレベルでの教育機会の提供を拡大することは重要ですが、社民党にとっては学校教育以外の場での教育機会拡大については、比較的関心が薄いようです。

 一方、社民党の支持基盤には所得下位層や高齢者層が多いと想像されますが、これらの層に対して自助の努力を求め、その経済所得基盤の改善を目指す政策を訴えても、残念ながら訴求しにくいとの現実もあります。所得下位層の経済所得基盤の改善を目指す政策は、これら所得下位層の支持によってではなく、所得階層のより上位に位置する層における問題意識の高まりと合意の形成によって導入されるものなのでしょう。

 例えば、英国でのサッチャー氏の改革についても、中産階級が支持基盤となり、その精神的気風が色濃く反映したものでした。また、現在の労働党政権においても、政策面では従来の労働党政権と一線を画し、より中産階級を意識したものとなっています。特に、ブレア首相のブレーンの一人とされるアンソニー・ギデンス氏は、マルクス的視点を再評価しながらも先進社会での新中間階級の拡大の重要性に注目してきた社会学者であり、現政権の政策決定に大きな影響を与えたとされています。(従来のマルクス的視点からは、こうした中間層は無産階級に「沈殿する」と予言される存在でした。)

 日本社会における経済格差、特に所得下位層の拡大が問題にされていますが、そこで懸念されるべき問題は社会の多数を占める中間層である中産階級の変質です。中産階級とは本来、自らの不断の努力によってのみ、その地位を維持することが可能な階級であり、常に緊張感を求められる存在です。自覚なく中流意識だけが膨張した日本の社会では、競争環境が厳しくなる中で、緊張感と意欲を失い急速に沈殿する層が拡大しているのは事実でしょう。

 今後、日本ではさらに経済格差が拡大し、より少数の成功者に富が集中するとともに、社会の底部に沈殿する「下流社会」が形成される社会構造になっていくと思われます。しかし、その中にあっても、常に緊張感を維持し高い能力への研鑽を絶やすことなく社会を支えていく、より多数の層が存在し続けることも事実です。今、政治に求められているのは、こうした中間層に対して、自信と自覚を強く意識させられる政策ではないでしょうか。

   外資系運用会社 企画・営業部門勤務:金井伸郎

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■■編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■

 Q:650への回答ありがとうございました。「群像」という文芸誌の連載小説の執筆でまた箱根に来ています。箱根に来る前はトリノオリンピックを熱心に見ていたのですが、小説の執筆時にオリンピックテレビ観戦は向いていないとわかりました。
圧倒的な事実に虚構が負けそうになるからです。箱根では一人で誕生日を過ごすことになりました。誕生日に一人で小説を書くのは嫌いではありません。特に今回は非常にむずかしいシーンを書くことになったので、やりがいがありました。

 トリノでは日本勢が不振だと言われています。19日現在でまだメダルがありません。原因はいろいろとあるのでしょう。「もっとも重要な機会に自分の能力の限界にチャレンジすることを大前提的に善とする」という文化が日本社会にないことも少し影響しているのではないかと思いました。ウインタースポーツはそのほとんどすべてが「速度と制御」という相反した二つのファクターによって成立しているように見えます。「攻撃性と自制」と言い換えてもいいのですが、制御可能なギリギリの速度を競うわけです。スキーのアルペンやスピードスケートなどは典型ですが、モーグルやスノーボードのハーフパイプなどでも、斜面を滑る際のスピードが不足すれば高いエアの演技ができなくなります。

 オリンピックという大舞台で、自分で制御できるギリギリのスピードに挑戦することが「できるか」ではなく、挑戦することが「社会的文化として当然のことになっているかどうか」ではないかと思うわけです。ただしその国の文化は単純な構造ではなく、また他国にもオリンピック競技に不利な文化はあるのかも知れません。

========================================================



改行を削りながら読んだ(・・

楽天の人がバランスは一番かな。曰く、わからない。
最後の人の視点はちょっと面白い。
トリノオリンピックはどうでもいい(w
すまんです・・・

メーラーから貼り付けたら引用があったようです。。

トリノは余分に張ってしまった ・・・ orz

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

格差社会を考える 更新情報

格差社会を考えるのメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング