秘密のバイト大作戦。コミュの笑い屋第８話〜異国からの使者〜

第７話　Emilta作
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第８話　摩周主殿守辺瑠璃（ペリーダー）


　　
　
チーーーン。






エレベーターの重厚なトビラに似合わぬ軽い音が、ナモミオー国ご一行の到着を告げた。

通訳を傍らに優雅に歩いてくるユリーアさんを迎えるために、どじょうひげを筆頭に一列に並んでお出迎えする。

サリーのような黄色の布をまとい、布のふちに沿ってご当地キティがジャラジャラとついてる。




「エポポマ　ギャルティ　（ごきげんよう）」




聞き取りづらい音量だったけど、挨拶くらいはできるみたいだ。

口がなんだか尖っていて、それでも柔らかい表情が印象的なのは、やはり一国の大使だからだろうか。

何かを警戒するように辺りを見渡している。声もなんだか小さいし、こりゃそうとう重症だ。








ロビーにいた客も、三々五々散っていき、ホテルはなんだか緊張感に包まれてきた。

ラメのスーツを着たどじょうひげと、眼光鋭い荒野がいたら無理もないよな。

ナメヌマと荒野以外の笑い屋は来ていないけど、これで全員なのかな。






疑わしげな目つきで、通訳が話し始める。


　「今日は一日観光をすることになっておりマシュ。日本首脳との会談は明日を予定しているので、どうしても今日中にお願いした仕事をしてもらいたいのデシュ。」


このナミオモー国、面積は小さいがなんだか貴重な金属が採れるようで、今回の案件も数十億の規模になるらしい。彼女の気分しだいではその取引もオジャンになってしまう。

なるほど、ここで彼女にリラックスしてもらわないことには日本の将来も危ないわけだな。

軽い気持ちで始めたバイトだったが、なんだか大変なことになってしまった。



どじょうひげはそんな重苦しい空気も読めないのかいつもの無神経っぷりで話し出す。




　「まかせてくださいよ♪特に仕事のできるメンバーを用意しましたからねー◎」




そんな安請け合いしてて大丈夫かドジョウ。
　
笑顔どころかさっきから視線すら合わせてくれないんだぞユリーアさんは。

あ、虚空に向かって何かポソポソ言ってるよ、ヤバいなぁ。





僕たちは打ち合わせどおりまずは新宿へ向かう。

途中器用貧乏なナメヌマ先輩が車内であやとりを見せるが、ユリーアさんのご歓心は買えなかったようだ。

世界遺産シリーズとかすごかったけど、ユリーアさんはちっともあやとりなんか見てなかった。




「エチョンゲ　デルデル　（伊勢丹寄りたい）」




セレブにありがちなわがままってやつだ。通訳が札束を抱えて掛け合い、開店前のデパ地下でひとしきり遊ぶことにした。

ユリーアさんの買い方なんだけど、これがまたすごい。

「ここからここまで買い」なんてもんじゃない。「ここからここ以外買い」ってやつだ。買占めだ。

黄土色に紫の斑点が入ったなんだか気味悪いカードでヒョイヒョイと会計を済ませる通訳。

店の人はもちろん、笑い屋３人は仕事を忘れただただ見守るしかなかった。






「プミ　プミゲッチャオ　ポポポ（これ、王宮の柱代わりにいいわ）」






切る前の足の状態の生ハム、何本買うんだよ。そしてどんな王宮だよ。




通訳は奇異の目を向ける僕らに釘を刺すように


　「少しでも機嫌を損ねたら帰ってしまいマシュから気をつけてくだシャい。」


とつぶやく。

ほとんど空き棚となってしまった地下食品売り場で、しかし僕らは次の段取りについてしっかり考えていたのだ。






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新宿末廣亭は、伊勢丹からほど近いところにある、鈴本、浅草と並ぶ歴史ある寄席場だ。

日本の無形文化財視察にかこつけて、実は今回この場所で僕らはまず勝負をかける。

僕は車に乗り込む直前どじょうに渡された台本を、さっきからこそこそ読んでいる。

ここではある重大な仕事をしなくてはならない。

そう、笑い屋としての本分だ。

成功するかなんて分からないけど。





僕ら３人は落語に挑戦する。ナモミオー語の落語に。

落語の中で彼女に最高の笑いを見せてやるんだ。