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ミステリアスハンドルネームズコミュの第7話 僕にその手を汚せというのか (その3)

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酒井さんの匂いがする。
女の人を抱くと、こういう匂いがするのか。
僕は初めて知った。


手の中の酒井さんを抱きしめながら、僕はたまらなく酒井さんが愛しかった。
ただただ、酒井さんが愛しかった。
この愛しさを酒井さんは、もはや感じることが出来ないのだろうか。
この喜びを酒井さんは、感じることが出来ないのだろうか。


何も感じられないままただ生きていくのは、どういう気分なのだろう。
僕は想像するにつけ、恐ろしくなった。

何も感じないまま、ただあり続ける無限と、
あらゆることを感じながら、でもいつかは消えてしまう有限。


そんなことを考えながら、ふと酒井さんを見た。
相変わらずメガネをかけている。
それは行為の最中にも変わることはなかった。
しかも、かなり度のきついレンズだということが、その分厚さから見て取れる。


なぜ、酒井さんはメガネをかけているのだろう。
傷も一瞬で治る酒井さんの体だ。
視力を補正するなんて、造作もないことだろう。
僕は疑問をぶつけてみた。



「細かいところを見てるわね。
確かに私にメガネは必要ないわ。
別に趣味でかけている訳でもない。

これはね、誓いなのよ。」


「誓い、ですか・・?」


「そう、誓い。
いつか元の体に戻るという、死ぬための誓い。

この完璧な体の中に、あえて不完全な箇所を無理にでも作る。
実際にはこんなメガネ全く必要ないのだけれど、
これは私の誓いのよりどころなのよ。

死を取り戻すまで、私はこのメガネをはずさないわ。
そして私は死ねるようになるためには、何者をも厭わないわ。

会社でパルプンクルを抽出したドモホリアンが、どうなるか分かる?」



それこそが僕の知りたいところだ。
彼らは一体、どこへ行ってしまったのだろう。



「会社は、彼らの能力を欲しているの。
彼らの、確率を操作できる能力をね。

ありえないことでも現実に出来たら?
そしてそれを、いつでも恣意的にコントロールできたら?
・・・それは恐ろしい力を生むわ。

だから会社は、能力を発現させたドモホリアンを捉えて、様々な実験を繰り返すの。
その途中で死者が出ることも珍しくないわ。

カオリだってそうよ。
実験に曝された結果、彼女の脳は破壊されてしまった。
でも彼女の生み出すパルプンクルはあまりにも貴重だから、
ああして特別の部屋を割り当てられてる。

事象確定能力者もまた、常に危険に曝されているわ。
さっきあなたが危ないといったのも、そのせいよ。


私は、その闇をただ傍観してきたわ。」


「なぜ!?
なぜなんですか!?

そんな酷いことを、なぜ止めようとしなかったんですか!?
そもそもあなたも、実験体にされたんじゃないですか!

それなのに、なぜあなたは・・・・!!!」


言いながら僕は気が付いていた。
酒井さんは、何も感じないのだ。
善であろうが悪であろうが、酒井さんは何も感じないのだ。



「そう、私は何も感じないの。
私がここにいる理由はただ一つ。

不老不死のパルプンクルがあるように、
それと対になるパルプンクルが生まれるかもしれない。

私のこの体を元に戻してくれるパルプンクルが、いつの日か生まれるかもしれない。
それ以上に大事なことなんて、今の私にはないの。



近藤君、どうする?
組織を告発する?
そのために必要な資料は、全て私が持っているわ。

でもそうすると、あなたは殺されてしまうかもしれないし、
ドモホルンリンクルやパルプンクルを望む人は、不幸になるわ。

最瞬間製薬のほとんどの社員は何も知らない。
でもその彼らも、仕事を失うことになるでしょうね。
彼らが支えている家族も、不幸に陥るかもしれない。

その内情を知りながらパルプンクルを欲する人は、政治家や大企業にも大勢いるわ。
日本だけじゃなく、外国にもね。

おそらく世界は、未曾有の混沌が襲うはずよ。
何より、不老不死の薬が手に入るんですもの。
社会秩序も、あっというまに崩壊しかねないわ。

そんな権利が、あなたにあると思う?



それとも、見てみぬ振りをする?

そうしたら無用の混乱は防げるかもしれないけれど、
社内ではドモホリアンが殺されていくわ。
よくても実験体ね。

『ドモホリアン』なんて呼んでるから忘れてしまいがちだけれど、
彼らもまた一人の人なのよ?

その彼らの生を踏みにじってまで、パルプンクルを作る価値はあるのかしら?
誰かの幸せのために、他の誰かの幸せを奪っても良いのかしら?


あなたならどうする、近藤君?

何を選ぶ?
あなたは何を考える?


それとも、もっと他の選択肢を、あなたは提示してくれるのかしら?


それとも・・・。」



酒井さんは妖艶な表情で僕を見つめた。
その表情に感情がないなんて、到底信じることが出来ない。
酒井さんはさらに言葉を重ねた。



「私と二人きりで、逃げる・・?」




次々と投げつけられる酒井さんの言葉。
僕の頭は痺れてしまったかのように、まるで何も浮かんでこない。
僕はようよう言葉を搾り出した。




「何で、僕が・・?
なんで、こんなことに・・?

僕は、一体どうすれば・・?」


「近藤君、それはみんなが思っていることよ。
実験に晒されてるドモホリアンも、
パルプンクルを心の底から望む人も、
そう、例えば理由なく殺されてしまった人も。

それはみんなが思うことだわ。」


酒井さんの言葉はどこまでも透徹としている。



「あなたの人生は、誰のものでもないあなた自身のものだわ。
あなたの選択もまた、あなた自身のものだわ。
それに他の誰かが干渉することは出来ない。
あなたが選択することによって、結果が生まれる。

でも、忘れないで。
それを選んだのはあなた自身なの。
その答えはあなたそのものなの。

そしてあなたがどんな答えを出すにせよ、あなたは責任を取らなくてはならない。
生まれる結果に対して、そのリスクを負わなければならない。
どうしようもないことでも、あなたは選ばなければならない。
何かを選ぶと言うことは、自らリスクと責任を負うという、そういうことでもあるの。

選んだことによって生まれた、結果。
別の選択肢を殺した、結果。
あなたはその全てを負わなければならないわ。
選択するという行為は、そういう自覚を必要とするわ。


そしてあなたはまた一つ、汚れていくの。
その積み重ねで、あなたは少しずつ汚れていくの。
人は、何かを選ぶことで、ただ生きていくだけで汚れていく、
そういう哀しい生き物なのかもしれないわね・・。


今回のことで、あなたには決定的な汚れを負わせてしまうことになるわ。
それが申し訳ないけれど、でも私はそれを実感できないの。
それが私の汚れね・・。」




独白の後、酒井さんはうつむいた。
髪に隠れて、その表情を窺うことは出来ない。
ただ、白く美しい裸身が闇に浮かんでいる。


僕の頭は痺れたままだ。


振り返ってみて、僕は何かを選ぶと言うことに対して、何も考えたことはなかった。
ただ、惰性で生きてきただけだった。


何かを選択することは、汚れることなのか。
僕はこれから汚れて生きていくのだろうか。
人が生きることとは、そんなに哀しいことなのか?



僕に。
この僕に。










僕にこの手を汚せと言うのか。







・・・最終回に続く。
皆さんお疲れ様でした!

コメント(12)

づこはん、あんた天才や!

よくもここまで…

泣けたよ…

カオリさんとの関係を私がこうして欲しいと思ったとおりにしていただけた。

しゃべる猫も、矢のことも、そういうことだったのかと納得しましたよ。

さあ、gabeリーダーこの後近藤くんにどう洗濯いや選択させます?
うぉーっ!素晴らしい!
まさかパルプンクルが出てくるとは!
しかも今までの奇々怪々な出来事をまとめるなんて、到底思いつかないっすよ。
これは最後まで気が抜けないっすね。
リーダー!期待させていただきます!
矢が!!! そうきたか!というか、なるほど! しゃべる猫まで影響下にあったとは!

はあ〜〜。そうかあ〜〜。しみじみ読んでました。こういうことだったのか。

いよいよ結びに入ってきましたねえ。不老不死のと対になるパルプンクルを作って死なせてあげるのか?逃げおおせるのか??選択することは果たして汚れなのか??

リーダー!(←プレッシャーw


あと・・・上のお二人が書かれてないので書くの迷ったのですが、近藤君が初めてだったことに地味に驚きました。美香とはプラトニックな関係だったのですねえ(´∀`)
>cyonahiさん
!!!
そういえば!そうじゃん!
まぁ、UFOキャッチャーの人形をドキドキしながら取るんですから、それはそれは純情だったんでしょうね。


……な、なんかこんなこと書いてると、僕がメッチャ汚れみたいに!
ま、いいよね。人間は生きていく上で汚れていくんすから。
蝶に憧れる蛾、僕も同じかも。
いや、蛾みたいに飛べなさそう。
飛べない豚はただの豚って言うけれど、飛べない蛾は……なに?
ああああ。
すごいことに。
すごいことになった。

さあどうするリーダー。

そしてちょっとうらやましいぞ近藤君!
>>犬ホロさん

ね!? 意外でしょ!?
部屋に荷物もあるのにプラトニック!よかった、驚いたのが私だけじゃなくてw
いや、でも愛の形は様々ですからありなんでしょう!!!

しかし真っ先に驚いた私の方が汚れというかwww
飛べない蛾は・・・えーっと、いっそ地虫でどうでしょうか。
僕もそのうちさなぎに。。あれ?さなぎに。あれ?僕もう成虫? みたいな。
地虫は地虫で楽しいですよ!きっと!!w
黙ってましたが、私も気づいてました。
そんな私が一番の汚れ…

飛び回って嫌われて、追いやられた蛾でございます。

いやーすごい!!
お見事です!
ここまで今までのことをまとめあげてくれるとは!
酒井さんの正体とかもう目からウロコでした!
そしてパルプンクルという謎も解明されましたね!
もう言うことないです!

本当、おつかれさまです!
まさに最後を飾るのにふさわしいお話でした!

いやーみなさんも
本当おつかれさまでした!
また機会があったらみんなでやりたいですね!こういうの!
ではでは。
>みなさん
ありがとうございます!
いやぁ、不安で不安で・・・。

伏線を回収しているうちに、気が付いたらこんなことに。
しかも結局、話広げてるし。

ホントはカオリさんのことも、もっと触れたかったのですが。
もう十分書きすぎてると思い、却下しました。
残念。


そしてそう、近藤君は初めてでした!

決してもてないわけじゃないけど、何に対しても本気になれない。
熱くなれない。
だから彼女が出来ても、最後の一線が超えられない。

そして彼女との間に距離感が出来て、決定的な仲違いをした訳でもないのに
振られてしまう。


そういう妄想設定があります。

その垣根を越えたのが酒井さんなのですねぇ。


ちなみに酒井さんが美しいのは、パルプンクルの影響という設定です。
常に体を最高の状態に保つ、という。
だからもしかしたら酒井さんは妊娠できないのかも??

なんてことも勝手に考えてました。


パルプンクルにしたのは、「スーパー」だとなんだか間抜けかなぁ、と。
なので語感が良いパルプンクルを拝借しました。

そういうのもまた、リレー小説の良いところでないかと。



って言うか、え、ちょ、リーダー!?
いやぁー、こうある程度の謎を残して終わるっていうのもなかなか……




よくねぇーっつーの!




リーダー!
K2に乗って現実逃避しようにも前にも後ろにも行きませんぜ。
困ったら、二人をセレク島に飛ばすか?
なぁんつうのは無しよ!

リーダー、がんばっ!

最後にはgabeリーダーがかっこよくまとめてくれるよね。


ねっ!

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