ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

あげみのはなしコミュの夜のひまわり

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
日中はまだまだ暑いけれど、朝晩はずいぶん過ごしやすくなった。
七時を回るとずいぶん暗い。ついこの間まではまだ明るかったのに。

国道沿いに生コン会社のプラントがかつてあった場所に、スーパーや家電量販店、大型衣料品店と本屋の複合商業施設が出来て一年ほどが過ぎた。

生コン屋が事業を閉めてからしばらくは、施設を解体して更地にしただけの状態で放置されていた。
よく通る場所だったけれど、コンクリートや鉄で作られた無骨な施設が、その中に人や車を飲み込んでは吐き出し賑やかに活動をしている頃は、その周囲に畑や水田が広がっていることに気付きもしなかった。廃墟廃屋が撤去されて明るい日差しの下に裸にされた土地が晒されて初めて、そこいらは碁盤状に道路が走った平らな土地で、裸地の、つまりかつて工業施設だった場所の隣は、休耕地の割合も多いけれど確かに田畑が広がっている、ということを知った。

それに気付いてから、まだ生コン屋が稼働している頃にこの辺に引っ越してきてずっと別の場所に行っていた犬の散歩はほとんど、いくつもの十字路があるこの場所に来るようになった。

よく手入れされた畑、放置気味の畑、雑草だらけの休耕地、そしてコンクリートがらや金属で出来た何かの部品がまだちらほらとり残されているプラントの跡地。道路を挟んで、十字路と畑と田んぼと雑草。用水路。

その中を歩くのは楽しかった。

飼っている犬の名前からその辺りを勝手に陸十字と呼んでいた。
犬の名前は陸丸という。たまに真夜中に陸丸と陸十字に出掛けて行き、引き綱を解いてかくれんぼや追いかけっこをしたりしていた。

その陸十字に商業施設が出来ると知った時は、しょうがないと思いつつも、さびしく、悲しかった。
ススキの藪もジュズダマの林もなくなった。おばあさんが細々と育てていた菊やキャベツもなくなった。刈り取られて埋め立てられその上にはアスファルトで舗装された駐車場が出来た。何がいるとも確かめはしなかったが確かに生き物の気配がした用水は、ある場所では側溝に姿を変え浅くなり、そしてまた別の場所では暗渠にされた。

それでも施設の駐車場のさらに周囲にはそれまでの半分くらいの畑や水田がなんとか残されてはいた。残されてはいるけれど、やはりずいぶんさびしくなった。
その上、耕作を放棄された土地の割合も多くなっている。

本屋に行った帰り道、駐車場と耕作地の境にある、以前のままでアスファルトも古くなってしまった細い道路を歩く。

薄暮に世界が少しずつ色を失っていく中、水田の中稲と早稲の稲の色の対比が美しい。
中稲(なかて)の黄緑色と早稲(わせ)の黄色の色合いの違いが、次第に濃淡だけの差異に変わっていく。その隣にはサトイモのやや稲たちよりも濃い緑が、これも色を失う濃紺のグラデーションの中に溶け込んでいく。

歩き続けるとさらにそれらの隣、ぼうぼうに生えた雑草の中から、それらの雑草よりも大人の背よりもはるかに高いひまわりが、数十本数百本と空を衝くように立っていた。
少し離れたところからの商業施設の灯りにほのかに照らされて思い思いの軸の向きで立っている姿は、大勢いるのに静かにただ佇む昔日の賢人らのようにも思われた。歴史の中のそれぞれの時代でそれぞれの土地に生きたかつての賢人たちが、一堂に会しているようだった。

陸十字の頃は、なかった。

スーパーや本屋が繁盛(はや)ってその辺りを訪れる人の数が増えたことで、その土地の持ち主が何か考えるところがあって種を蒔いたものだろうか。休耕地によくある、雑草のあまり目立たないコスモス畑よりもずっといいと感じた。

けれど、明るい時間にそこを通ったとしたら、生い茂る雑草の煩雑さが視界に入り過ぎてその賢人たちのような姿に気付きにくかったかもしれない。
むしろ雑草とともに横溢する生命力の方をこそ感じさせられたかもしれない。


まもなく夜がやってくる。

盛夏を過ぎた夏の花は、頭(こうべ)を垂れて宵闇に賢人の姿に還っていく。




         (2008/8/20)

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

あげみのはなし 更新情報

あげみのはなしのメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング