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はまかず文庫コミュのカルマの坂

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 はまかず文庫の皆様、はじめまして目がハート、さいころと申します。
 先ほどはまかずさんの許可を得まして、本日からこのレーベルに作家としてお世話になります。

 では、まずは挨拶を兼ねまして、ウチの数少ないオリジナル(?)を投稿したします。稚拙な文章ですが、お楽しみ頂けると幸いです。
                   2008.1.21 賽子 青


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 ―カルマの坂―


 ある時代

 ある場所

 現代の日本からは考えられないほど貧しく、穢れた世の片隅に、その少年はいた。
 少年は父親の顔を知らない。そして、自分がいったい何処で生まれたのかも、もう憶えていない。
 母親の手に引かれるままに、この街まで流れてきた。彼の記憶はそこから始まっている。
 その母も、少年が二次成長を迎える前に冷たくなった。
 そして少年は生きるために、盗みを覚えていった。彼は類まれな才能を身に宿していた。
 太った大人達は決して彼に追いつけはぜず、まるで風のように人々の間を潜り抜け、狭い路地を駆け抜けた。その頃の彼にあったのは空腹を満たすことだけ。是も非も超え、ただ、走る。


 ――――清らかなその心は、穢れもせず、罪を重ねる。


 しかし、勝手を続ける彼をほおっておかないのは自然界の摂理だろうか。どんな場所にも、どんな生物にも ナワバリ の概念は存在する。
 少年はこの街をナワバリとする不良の群れに捕まった。だが、顔の形が変わるほどの殴られても、少年は決して哭かなかった。
 それどころか、15歳の少年を相手に、12歳の少年が必死に喰らいついて、終に泣き出したのは15歳の少年のほうだった。少年が身に宿していたのは、速さ だけではなかったのだ。

「いい根性じゃん。オマエ、俺らのチームに入れよ。」

 少年がもう動けなくなって地面に倒れた時、傍にいた群れのリーダーである青年がそう言った。
少年はそれを受け入れ、以後、路地裏にたむろする最低で最高の仲間達と短い、黄金の青春を過ごすことになる。


 ・・・・・・思えば、少年にとって、この頃が一番幸せといえる時間だった。


『天国も、地獄さえも、ここよりマシなら喜んで行ってやる。』
 そう思っていた少年が、仲間達と過ごすこの瞬間だけは、まだ此処に居たいと思えていた。


「『人はみな平等』などと、どこのペテン師の言葉だか知らないけど・・・な。」


 ある日、群れの中で唯一文字の読めるリーダーが、何処かから盗んできた本を読み、その一節を切り出してそう皮肉った。
 その一言は、少年の胸の中に、深く染みこんだ。


 ・・・・・・もし。少年がこの頃に初恋を経験していたら、


 それから三年、最も輝く時を、少年は風の速度で走り続ける。いつしか少年は、いつかの路地裏で自分を認めた少年の後を継ぐように群れの中心に立っていた。
 無論、年功序列が常のヒトの群れで15歳の少年がリーダーになれる筈もない。彼がいるのはその隣、十五歳で十八歳の少年を圧倒するほどに成長した才能は、年上の者達を押しのけて彼を群れのNo,2の地位に押し上げた。
 ちっぽけな――路地の表や、さらに奥にすむ大人たちが少し動けば――簡単に崩れる地位。
 けれど両親のいない少年や仲間達には、何にも変えがたい ≪自分の場所≫ だった。


 ・・・・・・もし。彼の身にそんな才能が宿っていなかったら、


 この頃だ。少年が少女と出合ったのは。
 いつものように、パンを抱いて逃げる。大きなライ麦のパンをまだ二桁にならない、彼が世話をする子供のいる路地の影の放り込んで自身も小さめのパンを口に銜えた。
 いとも簡単に真っ赤な顔で追いかけてくるパン屋を巻いた彼は悠々と道を歩く。雑多な人混みの中、すれ違うすれ違う行列の中にいた、美しい少女に目を奪われて立ち尽くす。
 恐らくは遠い町から売られて来たのだろう、俯いているその瞳には涙が、確かに浮かんでいる。
 ぽとり、と、少年の口にあったパンが地面に落ちた。


 ・・・・・・もし。少年がこの時、少女を見つけていなかったら、


 カシャン、、カシャン、、、少女の腕に繋がれた野太い鎖が路地の石畳を打つ。
 殆ど無意識に、少年は少女と、少女に繋がれた鎖を握る奴隷商のあとをつけた。奴隷商は丘の上に建つ金持ちの家に入って行き、一刻ほどで出てきた。

 ――――その鎖の先に、少女の姿は無かった。

 少年はそれを見届けた後、叫びながらただ、走る。脳裏に、醜く欲望に歪んだ金持ちの顔と、静かに涙を流す少女の姿が浮ぶ。



『清らかな、少女のその身体に、穢れた手が触れているのか』



 そう思う度に、ふつふつと、心に真っ赤な感情が湧き出す。だが少年に大した力はなく、蹂躙される少女には思想すらも与えらなかった。



「神様がいるとしたら、なぜ僕らだけ愛してはくれないのか」



 かつてのリーダーが盗んできた本を読み終わった時、ぼそりとそう呟いたのを少年は思い出した。

 そして今、悟った。

「神さまは何もしない。どんなに祈ろうとも、何もしない。」

 不意に何かに躓いて、両足が離れた。数瞬の浮遊感のあとで身体が固い地面に叩きつけられる。
 不思議と、痛みは感じなかった。
 少年の脳は、既に別の、もっと大きく、強く、真っ赤で、どす黒い感情で一杯になっていたから。

「神なんてくそくらえだ。何かを成せるのは、人間だけだ!」

そう、叫んだ。




 少年は夕暮れを待って、剣を盗んだ。




 ――――重い。。。

 少年が剣を持った、最初の感覚だった。
 別に剣に重量がある訳ではない。彼は自分の長所と才能をよく理解している。
 彼が選んだ剣は騎士の使うようなロングソードではなく、脇差ほどの長さしかない。むしろ大型のナイフといったほうがしっくりくる短剣だった。

 その短剣から、彼が感じたのは初めて握り締めた『人を殺す為の道具』の重さ。己の感情の向くままに、人を殺傷できる『武器』の重さ。




心に、重たい剣を引き摺る姿は、風とよぶには悲しすぎよう。
―――――――――罪≪カルマ≫の坂を登る。



 それから1年。少年は街から街から姿を消した。
 かつてのリーダーの下を尋ね、彼が生きるために身を置く傭兵団に紛れ込んだ。

「力が無いなら、力を求めればいい。人を殺す力が欲しいなら、人を殺せばいい。」

彼が出した答えである。


 ・・・・・・もし。その戦場で彼が力尽きていたら、


 やはり、少年は強かった。彼は騎士道などというコトバはおろか、教養というコトバすら知らなかった。

 脆弱な子供を演じ、
 影から奇襲し、
 背中を見せて逃げるふりをし、
 時には戦士の誇りである剣すらも投げつけた。

 ただ心が命じるままに、目の前の敵を斬った。

 その類まれな速度で眼を抉り、
 脇腹を切裂き、
 頚動脈を断ち、
 腹を抉り、
 心臓を穿った。

 常に必殺。そこに一片の躊躇いも無い。
 人は自分と同じ人間を殺す際に僅かだが躊躇する。その僅かが生死を分ける為に、戦場に立つものは自らを鼓舞し、興奮状態に置いて躊躇を黙殺する。

 ――――彼にはそれがない。

 相手の刃が肌を掠める、
 懐にもぐりこむ、
 短剣が相手の肉に食い込む、
 紅の飛沫が身体を染める。

 どんな時でも常に無表情。淡々と目の前の敵を殺し、業を磨いた。


 ・・・・・・もし。彼がそんな自分に少しでも疑問をもったら、


 ・・・・・・もし。この血煙の戦場で、少年の心が萎えていたら、


 戦は終わった。
 もともと小さな小競り合いから始まった泥沼の戦争は、両軍の司令官の英断ひとつで収束するあっけないものだった。
 少年は世話になったかつてのリーダーに別れを告げ、街に帰った。


 ――――ザリ、


 そこの厚いブーツが石畳の上に溜まった砂を噛む。
 彼が立つのは丘の上、少女が売られていった屋敷の裏手だった。
「――」
 月が、分厚い雲に遮られ、辺りを闇が青く染める。静かに、もう何代目か解らない己の短剣を抜く。

 黄金の路地裏を走り抜けた少年は、鈍い銀色の凶刃を手に青い闇を駆け抜ける。胸に赤い怒りと、黒い憎しみを抱え、しかし彼の表情は無色だった。


駆ける。
 目的の少女が何処に囚われているかなど知らない。
駆ける。
 片っ端から扉を開けて部屋の中を探す。
駆ける。
 金持ちの雇った警護の兵に見つかった。
駆ける。
 そう広くない廊下。彼の速度に兵はついて来れない。
斬る。
 兵は心臓をひと突きにされ、血の華を咲かせる。
染まる。
 少年の纏う衣は紅い血を吸う。
駆ける。
 また見つかった。
斬る。
 兵は声をあげる前に、喉を裂かれた。
染まる。
 またも衣が血を吸う。
駆ける。
 すでに事切れた兵を一瞥することも無く、少年は少女の姿を探す。
駆ける。
駆ける。
斬る。
染まる。
駆ける。
斬る。
染まる。
斬る。
染まる。
斬る。
斬る。
斬る。
斬る。
斬る。

見つけた。


 怒りと憎しみの切っ先を払い、その身体を兵の血と己の血で濡らしながら、少年は少女の下にたどり着いた。

「退け。」

 少女に乗る、醜く太った金持ちを睨みつける。初めて、無表情だった少年は表情を変えた。

 ――――その眼に、顔に、紅に染まった身体に、金持ちは己の知る全ての恐怖を見た。

 ひぃ、と引き攣った声を上げて隣の部屋に逃げ込む金持ち。少年はそれを横目で見やると、ナイフを投げた。

「ぎっ・・・・・」

 短い悲鳴が、聞こえた。

 少年は少女にゆっくりと近づきふと己の身体がひどく汚れていることに気が付いた。怒りの表情は苦笑いに変わり、慌てて短剣を腰に挿した鞘に戻した。
 真っ紅な上着を脱いでぐるぐる丸めると部屋の隅に投げ、まだあまり汚れていない袖をビリッと破いて顔を拭った。

「ごめん、もっと早く、助けに来たかったんだけど・・・・」

 少年は優しく声をかける。
 しかし、




「あれ、旦那様はどこへいったの?」




 辿り着いた少女はもう、




「今夜の私は貴方に尽くせばいいのかしら。」




 壊された魂で、




「はじめまして。お名前はなんというのですか。」




 微笑んだ。




 欲望の赴くままに、半年に渡って繰り返された苛烈な虐待は少女の魂を粉々に砕き、心を止め、彼女を男の情欲を満たすだけの人形へと変えた。
「―――――!、――――ッ!」
 少年は震える手を必死に仰えて、鞘に戻した短剣を握る。
「―――――――――」
 幾多の命を奪った、凶刃を握り締める。
 そんな少年の心など知らず、そもそもそれを考える心を失った少女は、ゆっくりと背中を向けた。
「――――・・・・・・・」
 男の劣情を誘う仕草で肩にかかった薄い衣をベッドに落とす。その動きに、一切の澱みは無く、あまりに洗練されていた。
「・・・・・・  」
 鞘から、短剣が抜けない。この少女を斬れるわけが無い。
 最後の衣を落とそうとする少女の手を止め、柔らかく抱きしめた。
「あのぅ。私、何か間違いまし、た、か、、、」
 つぅ、と何の前触れも無く少女の頬を雫が伝う。

 ドタ、
 ドタ、
 ドタ、、
 ドン!、
 ドン!!、
 ドン!!!

 騒がしい足音が廊下に響き、金持ちの雇った兵が部屋の前に集まる。
 ここまで兵が部屋に飛び込まなかったのは、金持ちの男が「何があっても邪魔をするな」と命じていたが故。しかし残る部屋を全て調べ終え、もう動かない雇い主を見つけた兵はついに少年の居場所を特定した。
 抱きしめる少女の肩が僅かに震える。
 ドアを叩く大きな音で、一瞬だけ正気に戻った少女は、


「 殺 し て 」


 小さく、そう、呟いた。


「・・・・――――ちく、しょう。。。。」


 鞘から短剣を抜いた。







最後の、一振りを、少女に







 少女の胸を、少年の凶刃が貫く。深く食い込んだ短剣を伝って、少女の血が流れ落ちる。
 少女の胸から紅が流れ落ちるように、
 少年の胸からも色が抜け落ちる。

――――真っ白になる。
    駆け抜けた黄金の日々も、
    血に塗れた鉄色の戦場も、
    闇に溶け込んだ青い夜も、
    胸に沸き立つ赤い怒りも、
    心を覆った黒い憎しみも、
    全てから、色が抜け堕ちた。

 僅かな鼓動すらも感じなくなった柄を放す。
 短剣が突き刺さったままの、余りにも軽い少女を抱えて少年は屋敷の窓をぶち破った。
 かつてこの街で過ごした少年にとって、路地裏の地理を知らない大人を巻くのは容易かった。


 ・・・・・・もし。少年が少女に恋をしなかったら、こうはらなかったかもしれない。


 ・・・・・・しかしそれは考えても詮無きこと。


 ・・・・・・物事は起こるべくして起こり、全ては必然のままに収束する。


 町外れの、すでに忘れ去られ、滅びたはずの教会の扉が開く。冷たくなった少女を、少年は祭壇に静かに横たえると、高く掲げられた『神』のレリーフに石をぶつけて砕き、壁に孔を空けた。
 いつの間にか現れた月が、空けられた孔から少女を照らす。


「――っく、、、う、、うぅ、うわぁぁぁぁーーーー」


 慟哭し、涙が止め処なく溢れた。
 少年はいままで、泣くことも忘れていた。
 空腹を、どうしようもない本能を思い出していた。




 ――――痛みなら少年も、ありもままを、確かに感じてる。




 お話は、ここで終わり。

  ある時代の、ある場所の物語。



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 ・・・・・・いかかだったでしょうか?
 ごくごく一部の方はタイトルで、一部の方は文中で気付いているのではないかと思うのですが、これはあるアーティストがリリースした曲を小説化したものです。

 唄っているのはポルノグラフィティ。
 ベストアルバムにも収録されている『カルマの坂』という名曲ですぴかぴか(新しい)

 この曲は歌詞で1つの物語を綴っており、切ないが熱い物語がウチ的には大好きです。いつか、この歌詞の全ての単語を使って小説を書こうと思い、半年ほど前に書き上げました。
 はまかず文庫さんにお世話になるに当たり、これほど相応しい小説は無いと思い、これを挨拶の代わりとしました。

 では、これからよろしくお願いしますm(_ _ )m

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