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北京波の新世紀映画水路コミュの『ミュンヘン』評

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『ミュンヘン』を見る。

あのミュンヘン・オリンピックの惨事の後日談で、報復の命を受けたイスラエル人のエリック・バナをリーダーとした4人の男たちの姿を描く。

いま、この実話をあえて作品化していく意義は何処にありや。

その胡乱さにも危惧を覚えながら入場したのだが、160分の長尺作品であったが、“永劫繰り返される民族対決の不毛”といったテーマへの緊張の糸は一瞬も弛むことなく、終盤に到り更に引き締まる。見事なシナリオに作家としてのスピルバーグが呼応して傑作を誕生させた。

パレスチナゲリラ“黒い九月”によるイスラエル選手団人質・死亡事件は記憶に強く残っているが、あの後にイスラエルの政治の上層部においてこのような決断がなされていたとは衝撃であると同時に、やりきれなくなる。

イスラエルの秘密諜報機関“モサド”にもそれほど知識はないのだが、この国からの命令を受けて本名も戸籍もなにもかも消去されて任務にあたる主人公の姿に胸が痛む。

この4人の報復チームのメンバーがすべてイスラエル人というのではなく、南アフリカ人、ドイツ系、ベルギー人などユダヤ系という出自の赤い糸だけで集められたことに興味が沸き立った。

そして彼らに情報を売るフランス人家族の面白さ。

アテネの用意された隠れ家でパレスチナのテロリスト・グループと鉢合わせし、一夜の同宿となるエピソードは、その個人体個人としては成立しても、いったん使命を果すために動き始めたら躊躇なく引き金を引かねば生き延びられない彼らの修羅を表わして見事なサスペンスを生んだ。

全体的にどこか懐かしいテイストを湛えたスリラーで、とくに終盤近く女殺し屋をめぐるエピソード、そして殺害しようとしたときにCIAの妨害で果せないエピソードなど、冷戦時代の諜報合戦のサスペンスが見事に高まった。

こういう映画で面白くしていいのかという疑問が起こらないわけじゃないのだが、引き締った演出にアラン・J・パクラのポリティカル・サスペンスの傑作『パララックス・ビュー』を思い出したほどである。


思えばデビューからの10年、彼は古今東西の名作映画から栄養を吸収した生粋の映画小僧として走り抜いた。その呼吸さえ映画から学んでいたからである。

その映画的サスペンスの組み立て方は、頭で考えてできるものではなく、映画の持つ魅力の奥にある鼓動を再現するものであったから、映画小僧出身の世界の映画ファンは魅了されたのだった。

しかし満を持した『カラー・パープル』の予想もできない不評ぶり(これとても妬み嫉みの域を出るものではないように思うが)から『太陽の帝国』ではディビッド・リーンを、『プライベート・ライアン』では黒澤明をというように彼が敬愛してやまない偉大な先人たちの足跡をたどるようなアプローチを示した。そういう教養しか持ちえていなかったからである。

ただ、その教養の豊穣さは世界一のレベルなのだが、総スカンに近い反響に動揺したに違いない。

黒澤明がもし現在のようなCGを当然の如く駆使する時代に在せば、いかなる映画を創ったであるかという予想は幻想にしか過ぎないのだが、映画における新しい表現に対して常に進取の気概を持った黒澤明なら、節度と見識を湛えながら、素晴らしい業績を遺しただろうと思われる。

それだけに『プライベート・ライアン』の冒頭のノルマンジー上陸シーンにおける弾丸雨あられ描写には優しく頷いただろうと思われてならない。

『赤ひげ』の保本登のごとく、スピルバーグには常に自分を創ってくれた多くの先人への敬慕の姿勢を事あるごとに示す弟子のような姿勢を感じたものだが、わずかに『シンドラーのリスト』からは(巨匠の先人たちが寿命を迎えて鬼籍に入ったために自然に上りつめた位置であったのだが)、いつも付きまとっていた○○みたいな映画というのが影を潜めていく。

いつのまにか新出去定の年齢にさしかかり、自分の後ろに多くの保本登が自分を見つめているようになっていたからである。

だが『ミュンヘン』は演出力のボリュームだけが迫ってきて、ここ数年続いたスピルバーグの低迷も払拭でき、なによりも先人たちの呪縛から解き放たれたように見えた。
(★★★☆☆)

ではあるのだが、やはりハリウッドのエンタテインメントとして、この種の映画を作りはじめると、どこかに割り切れない自分がいる。

当事者たちが存命していて、この映画が並々ならない平和への願いを非常に込めたものであったとしても、商品として世に問うためには、最低50〜60年の年月が必要ではないか?

多くの名優たちが見事なアンサンブルを見せれば見せるほど、違和感が残る。

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