ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

北京波の新世紀映画水路コミュの木下恵介「二十四の瞳」を味わい尽くす

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
【 木下恵介「二十四の瞳」の魅力 】

★昨夜は12時前に就寝したせいか、今朝は5時過ぎには目が覚めた。こんなときには旧作に限る。誰も邪魔が入らないうちに、15年ぶりに木下恵介の『二十四の瞳』を取り出してきた。

160分が瞬く間に終わる演出の冴え、抒情性といい、あれほど若いときにはいい映画だとは思いつつもスンナリと享受できなかった世界が、まったく違う魔力を放つことになる。

黒澤 明作品のように初見の印象が永劫続く映画は稀有のことであろう。

★小豆島の風景がまずいけない。二度とわれわれが取り戻すことの出来ない風景が胸に迫る。そしてこどもたちの顔。脚本も書いた木下恵介の手腕が遺憾なく発揮されて涙滂沱の160分だ。

★有名な、こどもたちが大石先生に会おうと徒歩で訪ねていくシーン。意気軒昂と歩き出したはいいが、あまりに遠く、疲れと空腹で泣きべそをかきだす。

木下忠司の唱歌を中心にした音楽構成は巧みかつ秀抜なものであるが、このシーンではその唱歌がこどもたちの心理状態を表現するように半音ずれて奏でられる。
これにはビックリした。

★またまた有名なシーン。ちょっとした修学旅行で讃岐金毘羅さんへ行く一行。参道で昼食を摂ろうと店を探している高峰が、ある店から洩れてきた声にはっとする。

果たせるかな、大阪に奉公に出たとして突然姿を消した教え子・松江であった。松江は自分の境涯を恥じ萎縮する。店の主人が言葉こそ慇懃だがまさに無礼な態度で応対する。この教え子の日常がそれだけで計られ、この女主人の浪花千栄子が実に巧い。そこに松江の厨房に通す声「他人丼一丁」絶妙なタイミングである。

★高峰扮するおなご先生は分校にやって来て、その日から新一年生を担任する。この12人の児童が若く美しく優しい高峰を人生の教師として憧れ育まれていく。

しかし悪戯による落とし穴に落ちた高峰は足を骨折し、分校に通えなくなるため本校勤務となり、彼らは5年生になって本校へ通学できるようになるまで高峰とは会えない。

見事だと思うのは成長した彼らが舟をしたてて高峰の結婚相手を見るためだけに湾を渡ってくるシーン。子役を兄弟姉妹で採用したというだけに、小学1年から5年になっても、実の兄姉が演じているため驚くほど似ていて「ああ、あの子が」というオドロキを観客に生じせしめる。

こういう橋渡しはなかなかに難しい。多くはテロップに何年後と出て、主役の俳優が演じるのだが、なかには驚くべき方法もあってジェームズ三木が脚本の『八代将軍吉宗』というNHK大河ドラマでは子役時代の吉宗が疱瘡にかかり、顔中を包帯で包む。何ヶ月かしてはずすと西田敏行になっているという荒業だった。

★彼らは港で紋付袴の先生の新郎(天野英世)を見、「うん。あれならええ。」と呟き高峰には会わずに帰るのだ。この結びつきの強いこと、時代とはいえ凄い。

だが佐藤忠男が言う“反戦映画ではなく、これは厭戦映画”という指摘は間違いではない。高峰は戦争で夫を亡くし、戦後の食糧難で飢えて柿を採ろうとした長女を転落により亡くし、なにより多くの教え子を戦争で亡くす。

こんなに人々を苦しめる戦争への憎悪は燃え盛るが、高峰はそのことを思い出すだけで泣いてしまうため、戦後分校の教員として採用されてからもスグに“泣き味噌先生”と仇名がつくほどなのだ。

声高に反戦を叫ぶのではなく、庶民のレベルで戦争にたいする率直な感情である「戦争は厭だ」という次元のアプローチをやってのけた映画なのである。

そこに木下恵介の流麗な演出テクニックが駆使されるのだから、観客は陶酔したに違いない。だが、いま同じことを同じヴォルテージでやったとしても絶対に感動は起こせまい。頻繁に登場してくるタイトルには、木下恵介が映画のクライアントとして草の根レベルの庶民を選んだことが見て取れる。

彼もまた、日本がこれほど高学歴で、しかもこれほど味気ない国民になるとは50年前には予想もしなかったことだろう。古い映画はそういう反省や悔悟さえ感じさせてくれる。

★と書き進んではきたものの、やはり気にかかり、学生時代に読んだきり手にとることもなかった原作の文庫本を探し出し読んでみた。

すると“いま同じことを同じヴォルテージでやったとしても絶対に感動は起こせまい。頻繁に登場してくるタイトルには、木下恵介が映画のクライアントとして草の根レベルの庶民を選んだことが見て取れる。”と書いた前号の文章が観客としての勝手な印象で、木下恵介は原作の様式や雰囲気を充分に取り入れたものであったのだとわかった。

★映画の随所に登場した「十年をひとむかしというならば、この物語はいまからふたむかしも前のことになる」とか「海の色も、山のすがたも、そっくりそのままきのうにつづくきょうであった」というタイトルも原作の章の書き出しであったのだ。

★原作を読んでみて木下恵介が映画で工夫した箇所が色々見て取れた。大石先生が足を痛める(アキレス腱を切る)シーンは原作では単に後ずさりして落とし穴に足を踏み入れるのであるが、映画では男の子たちが先生を呼び込んで落とし穴に落とす。それだけに、ことの重大さに慌てふためく子供たちの描写が生きる配慮がなされている。

★木下恵介の映画版の最大の改訂として、今回初めて分って驚いたのはコトエという女の子のエピソードであった。コトエは綴り方に「わたしは女に生まれてざんねんです。わたしが男の子でないので、おとうさんはいつもくやみます。わたしが男の子でないので、漁についていけませんから、おかあさんがかわりにいきます。だからおかあさんは、わたしのかわりに冬の寒い日も、夏の暑い日にも沖にはたらきにいきます。わたしは大きくなったらお母さんに孝行つくしたいと思っています。」と書いた。

大石先生は成績が良い彼女が上の学校に行かずに諦めたことを残念に思う。するとコトエは「そのかわり、えいこともあるん。さらいとし敏江が六年を卒業したら、こんどはわたしをお針屋にやってくれるん。そして十八になったら大阪に奉公にいって、月給みんな、じぶんの着物買うん。うちのおかあさんもそうしたん」

運命に服従して、与えられる運命をさらりと受けようとする女の姿があった。(原作の表現)それに続いて、原作はこういう言葉が続く。“はたちにもなれば、かの女はハハキトクのにせ電報で奉公先からよびかえされ、キトクのはずの母たちの膳だてのまま、よくはたらく百姓か漁師の妻になるかもしれぬ。”と厳実を語る。

だが原作では大石先生が戦後分教場の教師として復帰。かつての教え子たちの子供たちに出席を取っていて、コトエの妹に気付く場面で、「あんた、コトエさんのうちの子。」

マコトはぽかんとしていた。かの女は小さいときなくなった姉のことなどおぼえていなかったのだ。と、突然コトエの死が語られ、その様子の描写もない。

木下恵介はガマンできなかったのだろう。奉公に出たものの胸を病んで返されてきたコトエと見舞いに行った大石先生とのシーンを加えている。運命をひたすらに受け入れて、諦めのうちにささやかな希望を口に出したコトエの哀れな境涯を、観客は大石先生とともに、死を予感して心を痛めるのである。

★また原作では大石先生の娘はひもじさから青い柿を食べて急性腸カタルで死んでいるが、映画では柿を獲ろうとして枝から落ちて死ぬ。

いずれにしろ、木下恵介は説得力を高めるためにはアイデアと推敲を惜しまぬ超一級のシナリオ・ライターであり、自分で納得できない省略は認容しない作家だという手ごたえを感じた。

★『二十四の瞳』という作品では原作でも映画においても徹底的に語られていることに、子供といえども家族である以上労働を分け合う存在であり、家庭を存続していくために責任を負わされているという一点がある。

これは戦後の映画、とくに現代の作品からは何時の間にか消失してしまったものである。わずかに現在イラン映画や中国映画などに見つけることが可能だが、結局物質的貧困の消失した地域にはなくなってしまう。

★壷井 栄は小豆島に地場産業として栄えていた醤油製造に木の樽を納めていた家に生まれたという。醤油製造も企業化しなければならない時代となり、彼女の家は連鎖倒産してしまう。

使用人の数も多く、随分豊かな家であったというが、彼女は働き尽くめでなければ生活できない状況ではあったが、父に高等小学校への通学を許され、優秀な成績で卒業。

16歳で自分の家の真向かいにある郵便局への就職を自分で取り付けてきたという。彼女はここで、郵便局の窓口から村人たちの生活をつぶさに観察する数年間を過ごした。村人たちの生活感、方言の生きる言葉の使用法はこのときに培われたのだろう。

★『二十四の瞳』の原作は昭和27年2月から11月にかけて「ニュー・エイジ」というキリスト教家庭雑誌に連載された。

12月に光文社より単行本として出版されるときに、反戦思想、社会批判を大幅に加筆したということである。

どちらかといえば地味な児童文学が、この木下恵介による映画化で出版まもなく天下に知られる存在となったことは、隔世の感がある。

今の世なれば、映画がこれほどの影響力をもち得るはずはないからだ。

あゝ、また見たくなってしまいました。


コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

北京波の新世紀映画水路 更新情報

北京波の新世紀映画水路のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング