北京波の新世紀映画水路コミュの『母たちの村』評

割礼といって思い出す映画がある。

果たして真実のドキュメンタリーであったかは疑問だが、１９７３年２月、受検のために訪れた福岡で見た『残酷猟奇地帯』という映画である。そのときの模様を再録してみたい。

＜『残酷猟奇地帯』『激突！』＞　福岡ピカデリー・封切り

『残酷猟奇地帯』はアフリカの部族で、女児が成長すると女への戒めのためにクリトリスを切断してしまう割礼シーンがハイライトの記録もの。なにが哀しくて受験前日に、こんな映画を見なくちゃあならんの？

ボクのお目当てはアメリカで２７歳という若さで才能を認められた新人監督の初公開作品『激突！』だ。才能があれば、こんな革新的な映画が作り出せるのだ！アメリカン･ドリームといえばそうだが、こっちとすれば、映画の文法を自然に体の内側から発散できる新人の登場は大歓迎。目が離せない監督の出現に、さて日本映画界は？

スピルバーグの映画としては劇場映画第１作は翌年公開となった『続激突！カー･ジャック』であるが、テレビ･ムーヴィーである『激突！』はあまりの出来の良さに、日本では劇場公開されたものだった。才気輝く新しい映画作家の手ごたえを得て、夕方には宿に帰る。

この宿屋は昔は遊郭だったんじゃないかと思えるような雰囲気だった。まるで『五番町夕霧楼』のセットのような風情の風呂に入り、夕食は衣がカリカリのトンカツだった。

“敵に勝つ”のシャレなのか。だがテキはついに出なかった。宿泊費２２００円では仕方ない。それでも深夜２時までは最後のおさらいをし、ゆっくりと睡眠をとる。

試験は宿から歩いて１５分ばかりのところにあり、通りはその方向に大勢の学生が歩いていたので迷うはずもない。なにか関西とは空気が違う。

試験はとくに出来なかったようには感じなかったが、ここしか受からねば仕方がないが、ボクの目標は映画館の密集する首都・東京なのだ。ここに執着はさらさらない。

びっくりしたのは試験が始まって３０分ぐらいで退室する受験生が何人もいたことだ。そいつらが昼食時には大きな声で「やさしかったなあ」と話している。普通ならビビるところだが、なにしろ目は東京を見ているのだから、そんなやつらのスタンド･プレイにはたじろがない！

夕方には試験会場を後にし、博多駅に荷物を入れて、身一つで天神へと向かう。ちょうど小腹が空いたので立ち食いうどんにはいった。すると、となりの学生さんがきつねうどんを食べていたように見えたが、それが丸天うどんという、円形のさつま揚げを乗せたものであることが判明。さっそく注文する。

これは美味い！岩田屋百貨店の西鉄の駅のコンコースにある立ち食いうどん屋か、覚えておこう。
（１９７３年映画青春記より）



と、脳天気なこと夥しいのだが、イスラム社会である『母たちの村』の舞台であった村では、女児のうちに割礼させられることになっていた。

そもそも割礼とは男尊女卑の象徴である。

よくある男性の割礼とは性器包皮の切除を目的としたもので、推進された理由の多くはスメグマによる陰茎疾患の防止と、自慰行為の防止が主たる理由であった。

女性への割礼が行われている最大の理由は「クリトリスを切除することで、女性の性欲、性感覚の低減を目的」とするものであった。

クリトリスは女性にとってのペニスそのものであるから、切除することで男性主権の象徴的なものとして扱われている。

この映画でも男はあくまでもセックスを男性主権で一方的に終了させるものであった。そして、これらはすべて男たちにとって都合のよい社会構造になっているために当然のように継続されてきたものだった。

　言語道断なのは、割礼のあまりの不潔さに感染から亡くなる女児がいることで、こういうことも隠されることなく描写されている。

こういう、明らかに差別的な構造がまかり通っている社会では、映画は問題提起をするだけで、第一段階を終える。本来映画に取り上げられることのなかった人々にスポットが当てられるだけで、まずは満足するのである。

『母たちの村』では割礼という理不尽な慣習に対しての問題提起が身上である。だが、その演出術はじつに巧みであり、力強い。

果たして職業俳優がいるのかは分からないのだが、こういう問題を扱うとき、それはすべての女性にとっての切実な問題であるがゆえに、職業俳優は色を失うと思われる。
（★★★☆☆）