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カズエの夢日記コミュの*** セレモニー

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(1998年9月3日、木曜日)

その日は、朝起きた時から、ドキドキしていた。
入学式とか卒業式とかそんな時の緊張感にも似ていた。
セレモニーの前のような感じでもあった。
起きるときに手の上にあるホフマン先生の写真を確認して
「本当にやるのか・・・。」
と、また自問した。


朝ごはんのバイキングの朝食を目いっぱい食べて、持ち帰り禁止にもかかわらず、こっそり作った昼用のサンドイッチも隠して持って、さっそく演奏の準備をした。

今日は何も考えないでおこう。
なりきる。なりきる。
慣れてる大道芸人の振り・・・と、自分に言い聞かせながら、それでも、いつもなら商店街まで5駅行く途中の、バスの通る車道の脇の森の中の道を、1時間くらい歩きながら、普段の自分を忘れるようにして、大道芸人になりきる心の準備をした。

そして、町が見えてきたところで、お守りに自転車の車輪の部分がかいてあるクオーターのかけらを飲み込んだ。

その日は、いつもバスが止まる正面の道からではなく、今日は裏口の歩いてしか入れないような入り口から商店街し入っていった。みんなと同じに流れていくよりは、商売なんだから面と向かった方向から突進しようという気持ちもあった。

恥ずかしくて、歩いている感覚がしなかった。
回りもあんまり見えていない。
どこで叩こうか、人通りの少ない、デパートの入り口で、ちょっとこて試しをしてみようと思った。
足がすくんだ。
入り口のドアの脇にまずは立って、まわりを見回し、あんまりつったっていても恥ずかしいので、さっそく、床にスカーフを引いて、太鼓を並べて、練習曲を叩いてみた。
町で叩く音は全然響かない。
なんか、小学生の音楽の授業が、外に響いてくる感覚、人が叩いていると伝わってくるような音が、町の空気と融合するような感覚(ちょっときれいすぎかも?)のような感じがした。そこは、座ると、アスファルトの壁しか見えなかったし、太鼓も響かず、コンクリートの校舎の前で演奏する、鼓笛隊の太鼓が反響するような音みたい・・・と想像して、しばらくの間、叩くのに夢中になってしまった。何分続けて叩けるか、という自分への挑戦でもあった。

入り口に入っていくおばさんたちが、何人かコインをくれた。中でも、すごい普通っぽい、地味だけど、健康的なぽっちゃりしたおにいちゃんが、じっと見つめていて、最後に2マルクコインをくれていた。30分くらい演奏して、移動することにした。ベンチに座って、とりあえず、ケバブを食べることにした。サンドイッチを持っているのに、注文して食べるなんて、冷静に考えたら、パラノっている証拠にもなるんだけど。

そして、しばらく、歩行者天国の中の道路で叩いていた。子供達が遊ぶところで、子供がコインを投げてくれたり、向かいのジーンズ屋で働く男と女の店員がじゃれ合うのを遠くに観察しながら、結構、おもしろいなあ、と思い始めるようになってきたところに、後ろの店の店員が、
「いつまで、やっているのか?そろそろいいだろう」
と言ってきたので、めげずに、
「今のは集中できなくて、良い音楽じゃなかったと思う。ごめんなさい。」
と、おじさんに言って荷物を片付けた。

それから、しばらくベンチに座って、どうしようか考えながら、ボーっと、商店街の家族を観察していた。1時間くらい座ってたんだろうか、今度はバス通りを挟んだ向こう側の広場へ行こうとして、道を渡った。 そしてしばらくベンチに座ろうとしたら、おばあさんがびっくりした表情で、私のことを眺めていた。でも、気にしない振りをして、ベンチで休んだ後、さあ、叩いてみるか、通路で座って、叩いていたら、女の子が駆け寄ってきた。

「こんにちは。ここでバスターしてるの?どうやって旅してるの?私もしてみたいんだけど、インドに言った事あるの?どうだった?」と、根掘り葉掘りを聞かれた。そして、この駅よりもクンフスターダムの方が、もっとお金もらえるだろうと教えてくれたので、早速移動していることにした。

駅で叩こうとしてたら、ちょっとおしゃれをしているアラブ系のミュージシャンがいて、こっちをジッと見ているので、ちょっといやらしい気がして、叩かないまままたタブラをしまって、そのクンフスターダムという駅に向かうことにした。

地下鉄の階段を降りようとしたときに、さっきからこっちを見ていたおじさんが、手元の何かをちぎった紙の上に書いた自分の名前と電話番号をくれて、
「タブラが聞きたいから、是非、電話をしてくれ」
と、いわれた。
「本当にたいしたことないから」
と、いったけど、
「一度、聞いてみたいから」
と言われ、今から、移動するから、と、また後日考えて電話をする約束をした。

そこから、その女の子に教えてもらった通りクンフスターダムの駅に降り立ったものの、そこは新宿のように開けすぎていて、逆に座る場所がない。しばらく、観光客の振りをして町を往復してみた。

教会が見える手前の工事中の通りの中で、叩き始めようとしていたら、6、70mくらい遠くに来たお兄さんが私にウィンクであいさつをしてきたかと思ったら、服を脱いで帽子をかぶってナポレオンの格好をし始め、ラジカセを取り出して音楽を鳴らし、持参していたお立ち台の上に立って、人形のようにお辞儀をする芸が始まったので、お兄さんは音が邪魔しないくらいの距離で私も並んでタブラを叩いた。

結構経って、ナポレオンのお兄さんは、荷物を片付けて帰ってしまった後、そろそろ疲れてきたので、帰ろうとしていた矢先、向こうから目玉をひんむいたお兄さんが、にこにこしながらやってきた。自転車を引き、そのハンドルの両サイドには、いろんなフルーツがぱんぱん入ったビニール袋がたくさんぶら下げられている。

「xxx・・・・???」
って、ドイツ語で話しかけられたけど、全然わからない。
「アイ・ドン・アンダースタンド・ジャーマン」
と言ったら、英語で、
「どうして、こんなところで叩いているの?ボン、好き?」
って、話しかけられた。その質問は断れないの、何でわかったんだろ?ひとつ返事で
「イエス」
って答えた。
そしたら、お兄さん
「じゃあ、荷物しまちゃって、いきましょ♡」
もちろん、内心、
「え?」
って思ったんだけど、ボン好きの人に悪い人はいない、と信じ込んでいるアホな私は、お兄さんの後についていってしまった。
「え?地下鉄に乗るの?切符持ってないよ。」
お兄さんは、ウインクをして、「こっちだよ」と首をかしげ、自転車と一緒に地下鉄に乗った。
3つ目で降りて、お兄さんの家まで歩いていく途中に、一応、
「彼氏が待ってるから」
とか、嘘をついて逃げ場を作ろうとしてたけど。

お兄さんの家は、玄関が廊下でつながって、むき出しになっている日本のちょっと古い団地のようなマンションで、その一番上の一番端で、なんで?って思うような、すわり心地よさそうな、しかも、ちょっと映画のショーの世界を髣髴とさせるソファーが玄関の入り口の外に置かれていた。

部屋に入ると、廊下が通じていて、右のキッチン、その向いの小さな物置のような部屋を指差して、
「今晩、寝る所がないなら、ここで寝ていってもいいわよ。そして、お話しましょ♡」
と、床に敷いてある一人用のマットレスを指さした。なんとなく、どっか女っぽいなあと思いながら奥に行くと、洗面所では、蛇口と同じ直径の水が、ものすごい勢いで流れている。
「大丈夫かな、この人?」
って思ってたら、
「あら、出かけるまでに鍋を洗ってて忘れてたわっ」
と、鍋を洗い、水を止めた。

彼の部屋、まあすごい。
入り口から見えるのは、ワインレッドのおおっきなベッド、部屋のつきあたりの角から半分以上を占めているほどでかいし、しかも、電動で角度が上がるっぽい。部屋に入って左側には、すわり心地の良さそうな、Lの字型のソファーが横たわっていて、その手前の銀のテーブルの上には、花瓶のようなガラスの器に山盛りに盛り付けられているフルーツ。す、すごい。

なんといっても、部屋の天井4隅には、よく洋服屋さんのショーウィンドーにあるような首から太ももまでのボディーと、そのボディーには、パンクの衣装にしては、露出しすぎているし、がんじがらめになっている着心地悪そうなコスチューム。
「これってもしかしたらSMっていう衣装?」
などと、怖い思いは忘れて、高校生時代好きだった名古屋の女性パンクバンド“麝香猫”の事を思い出していた。ロザ・デビル・ドラマーの・・・うっ名前が出てこない・・、ま、いいや、あの3人のかっこいいお姉さん達。今頃は何をしているんだろうな、と思いながら、いつか渋谷で再開した時の感動や、私の最後の彼女達のコンサートの事なんかに思いを馳せていた。

すると、お兄さんが、
「こっちよ。」
と、ベランダに連れて行かれて、
「これ、うちで育ってるベイビーよ。」
と、かわいらしいガンジャの木を見せてくれたので、思わず顔がほころんでしまった。

ソファーにすわって、1本吸って、何の話をしたのか覚えていないけど、とりあえず長いは無用だと思って、暗くならないうちに帰ることにした。

お兄さんは、
「良かったらうちで家政婦として住んでもいいわよ。お話しましょうよ♡」
っていうので、
「じゃあ、考えておくから、今日はとりあえず帰ることにする。」
と言ったら、
「じゃあ、早速、今日一仕事して頂戴ね。太鼓を持って旅行してる位だから、力はあるでしょ?この冷蔵庫を地下の倉庫に持っていくのよ。」
と言われて、一緒に運ぶ羽目になってしまった。

一番上の一番端の部屋から、大きいドイツ人と小さい日本人が、エッコラと冷蔵庫を持って、エレベーターに乗る。普通のおばさんたちが乗ろうとしたところに、そのお兄さんが
「ごめんなさい。いっぱいです。」
と断ってる一面もあった。

お兄さんは、地下について、入り口のドアを開けながら、
「これは、あけるのに鍵が要るのよね。」
と言ったので、
「じゃあ、鍵がないと開けられないわけ。じゃあ、閉まったら、閉篭もっちゃうってこと?」
と、心の中でちょっとビクっとした。

地下の倉庫は、古びたコンクリートの枠の中に、まるで、鶏小屋の金網のように木と金網で仕切られていて、入り口の戸の鍵は住人がそれぞれ管理するような感じだった。

冷蔵庫を彼のブースに運び込んでいると、
「あ、戸がしまる音〜。しまる〜。閉まる〜。あああ〜っ。閉まっちゃった〜。これって鍵がないと開けられないんだよね。お兄さん、怖い人だったらどうしよ〜。」

小学校の時に聞いた噂、
「外国に行くと、試着室の鏡が回転して、誘拐されて、その後にマネキンにされちゃうんだよ。」
って話が蘇っていた。
「でも、パリで古着の試着中にもそんな事を思って怖かったけど、無事にこうしているじゃん。そこで買ったベルボトム、かわいくて履き古したじゃん。」
と、なるべく関係ない事を考えて現実逃避しようとした。

「それにしても、この金網、『張り付け』を髣髴とさせる、超怖い〜。」
なんかのホラー映画のワンシーンのように、殺されて吊り下げられてもおかしくなさそうな空間だった。

「・・・かといって、今は冷蔵庫を手放せない!」

忠実に指名を守り、冷蔵庫を適所に置いた途端・・・

私は閉まったドアに走り寄った。

「神様、お願いします。この人が悪い人じゃありませんように。もう、知らない人にはついていきません。ですから、無事にこの倉庫から出してください。」

心の中で何度も真剣に拝んでいると、お兄さんがやってきて、
「あら?閉まっちゃったのね、鍵どれかしら、あれ?これじゃない・・あ、これでもないっ、これも違う。」
と、50個くらい違う鍵のついたキーホルダーを持ってパニックっている様子が、今度は逆にかわいかった。

でも、さっきの瞬間を思い出すと、真剣に怖かったので、もう知らない人についていくのはやめようと、28歳にして始めて思った。あの一瞬の恐怖の割には何事もなくて本当に良かった。

その後、お兄さんの部屋にタブラを取りに行ってから、お兄さんは駅まで送ってくれた。帰りがてら、ボーイフレンドはどんなタイプか根掘り葉掘り聞かれて、話を作るのに苦労したが、
「今度はボーイフレンドと一緒に遊びに来なさいね。それから、これは、今日のお駄賃」
とさっきのベランダにあったベイビーが一掴みほど入ったたばこのビニール袋と5マルクをくれた。

地下鉄代くらいの足しになった。半日で35マルク(約1750円)ほど。
「まあ、足しにはなってるから、よかったかも。でも、こんな外れの駅から、毎日、出稼ぎにいくのに、往復の交通費を使ってたら埒が明かないから、駄目(で)元(々)で、シルベスタの家に行ってみよう。」
と、その晩、心に決めた。
遠慮して、消極的になるよりは背に腹は変えられないと思ったし。


(つづく・・・)

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