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【実録・人間劇場】
日雇い、ビッグイシュー（雑誌）の販売、段ボール手帳（都から委託される清掃業務のこと）。ホームレスが金を稼げる正規の仕事といえばこのあたりだ。しかし実際のところ、彼らは正規ではないグレーな仕事で金を稼いでいることが多い。
【写真】新大久保で宗教団体の送迎を待つ生活保護受給者とホームレスたち
特殊詐欺の連中が「仕事をしないか？」と、ホームレスに出し子（被害者が振り込んだ金をＡＴＭから引き出す役）の勧誘をすることがある。ホームレス生活中に私がその誘いを受けることはなかったが、出し子を請け負った者も実際にいたと仲間のホームレスは言っていた。とはいえ、実際に特殊詐欺に手を出すホームレスは少数派だ。リスクを負ってまで金を稼ぐ必要性が、彼らの生活にはあまりないからだ。
グレーな仕事の代表的な例としてはやはり「空き缶拾い」が挙げられるが、東京・山谷の生活保護受給者であるター坊（３８）に連れられて私が従事することになったのは、「並び」と呼ばれる仕事である。一般社会では聞き慣れない言葉だが、ホームレスの世界では当たり前のように使われている。
「並び」とは、誰かの代わりに店舗の行列に並び、その順番を待つ仕事だ。中国人観光客による爆買いブームは記憶に新しいが、その際は「並び」の全盛期であった。家電や化粧品を大量に買うため、彼らの代わりに並ぶのだ。
パチンコ店の抽選代理もある。早朝、パチンコ店の前には行列ができていることがあるが、抽選の頭数要員としてホームレスが使われる。一度並ぶごとに大体１０００円、日に何店舗か回ることが多い。
今回、私とター坊が「並び」で買い付けることになったのは、当時転売市場で価格が高騰していたポケモンカード。日本人転売グループの人間に付いて回り、都内各地で商品を買えるだけ買う。
自宅のある山谷には帰らずに、新宿駅西口の地下広場で一晩を明かしたター坊。私もター坊のとなりで朝を迎えた。転売グループの人間との待ち合わせは朝の７時だ。
この地下広場で寝ている者たちは、始発が出る午前５時前にはこの場所を退かなければならない。あと２時間、何をしていればいいかわからないので、ター坊と私は小滝橋通りにある「すき家 西新宿店」で朝飯を食べることにした。
私は牛丼並盛を注文し、３分ほどで食べ終わったが、ター坊はまぜのっけ朝食を１０分以上かけて食べている。口に飯が入っているときも「今日の仕事はああだ、こうだ」と、絶えずしゃべり続けている。財布を見ると小銭がなかったので１０００円札を店員に渡すと、ター坊は店内に通るような大声で「お、クニちゃん（筆者のこと）、おっ金持ちぃ〜！」と私の肩をポンとたたいた。
私は赤面し、そそくさとすき家を出て、待ち合わせ場所へと向かった。
■國友公司（くにとも・こうじ） ルポライター。１９９２年生まれ。栃木県那須の温泉地で育つ。筑波大学芸術学群在学中からライターとして活動開始。２０２１年夏の東京都内で６３日間の路上生活をまとめた新刊『ルポ 路上生活』（ＫＡＤＯＫＡＷＡ）が話題。
【実録・人間劇場】
日雇い、ビッグイシュー（雑誌）の販売、段ボール手帳（都から委託される清掃業務のこと）。ホームレスが金を稼げる正規の仕事といえばこのあたりだ。しかし実際のところ、彼らは正規ではないグレーな仕事で金を稼いでいることが多い。
【写真】新大久保で宗教団体の送迎を待つ生活保護受給者とホームレスたち
特殊詐欺の連中が「仕事をしないか？」と、ホームレスに出し子（被害者が振り込んだ金をＡＴＭから引き出す役）の勧誘をすることがある。ホームレス生活中に私がその誘いを受けることはなかったが、出し子を請け負った者も実際にいたと仲間のホームレスは言っていた。とはいえ、実際に特殊詐欺に手を出すホームレスは少数派だ。リスクを負ってまで金を稼ぐ必要性が、彼らの生活にはあまりないからだ。
グレーな仕事の代表的な例としてはやはり「空き缶拾い」が挙げられるが、東京・山谷の生活保護受給者であるター坊（３８）に連れられて私が従事することになったのは、「並び」と呼ばれる仕事である。一般社会では聞き慣れない言葉だが、ホームレスの世界では当たり前のように使われている。
「並び」とは、誰かの代わりに店舗の行列に並び、その順番を待つ仕事だ。中国人観光客による爆買いブームは記憶に新しいが、その際は「並び」の全盛期であった。家電や化粧品を大量に買うため、彼らの代わりに並ぶのだ。
パチンコ店の抽選代理もある。早朝、パチンコ店の前には行列ができていることがあるが、抽選の頭数要員としてホームレスが使われる。一度並ぶごとに大体１０００円、日に何店舗か回ることが多い。
今回、私とター坊が「並び」で買い付けることになったのは、当時転売市場で価格が高騰していたポケモンカード。日本人転売グループの人間に付いて回り、都内各地で商品を買えるだけ買う。
自宅のある山谷には帰らずに、新宿駅西口の地下広場で一晩を明かしたター坊。私もター坊のとなりで朝を迎えた。転売グループの人間との待ち合わせは朝の７時だ。
この地下広場で寝ている者たちは、始発が出る午前５時前にはこの場所を退かなければならない。あと２時間、何をしていればいいかわからないので、ター坊と私は小滝橋通りにある「すき家 西新宿店」で朝飯を食べることにした。
私は牛丼並盛を注文し、３分ほどで食べ終わったが、ター坊はまぜのっけ朝食を１０分以上かけて食べている。口に飯が入っているときも「今日の仕事はああだ、こうだ」と、絶えずしゃべり続けている。財布を見ると小銭がなかったので１０００円札を店員に渡すと、ター坊は店内に通るような大声で「お、クニちゃん（筆者のこと）、おっ金持ちぃ〜！」と私の肩をポンとたたいた。
私は赤面し、そそくさとすき家を出て、待ち合わせ場所へと向かった。
■國友公司（くにとも・こうじ） ルポライター。１９９２年生まれ。栃木県那須の温泉地で育つ。筑波大学芸術学群在学中からライターとして活動開始。２０２１年夏の東京都内で６３日間の路上生活をまとめた新刊『ルポ 路上生活』（ＫＡＤＯＫＡＷＡ）が話題。
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