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生活保護者の集いコミュの生活保護があっても、北新地ビル放火殺人事件を止められなかった理由

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https://diamond.jp/articles/-/302494

北新地ビル火災から4カ月
5つの「謎」を読み解く
 2021年12月17日朝、大阪・北新地の心療内科クリニックで火災が発生した。合計27人が死亡した衝撃的な事件の直接の原因は、そのクリニックの患者でもあった容疑者・T氏(当時61歳)による放火だ。T氏自身が意識不明のまま約2週間後に死亡したため、放火に至った動機や経緯、そして事件直前のT氏の暮らしぶりのほとんどは、不明のままになっている。

 数多くの記事が、事件の背景にT氏の生活困窮と孤立があった可能性を指摘している。T氏は、家族に対する殺人未遂罪で実刑判決を受けており、刑務所への入所歴がある。また、精神疾患があり、心療内科での治療を受けていた。さらに、T氏は2回にわたって生活保護を申請したことがあるものの、利用には至らなかった。何があれば、事件は起こらなかったのだろうか。


 T氏の職歴・刑務所入所歴・生活保護・生活環境・心療内科クリニックの五つの「謎」に注目して、この問いを解きほぐしてみよう。

 板金工場を営む父親の次男として生まれたT氏は、工業高校を卒業し、父親の板金工場で働き始めた。しかし20歳になる前に母親が他界、その時期から父親や兄弟と疎遠になったという。実家を出て別の板金工場に就職したT氏は、腕前と真面目さを高く評価され、2000年代後半までは安定した職業生活を送っていたようだ。また私生活では、結婚して2人の子どもに恵まれた父親でもあった。
職歴も「刑務所運」も
困窮と孤立を救えなかった謎
 2019年の政府統計「家庭の生活実態及び生活意識に関する調査」によれば、世帯主の最終学歴が高校卒業以上の世帯は、生活保護世帯では54.4%にとどまるが、全世帯では87.3%に達している。「義務教育以後の学歴がない」という背景は、貧困に結びつきやすいのだ。

 しかし、「工業高校卒、板金工としての職業能力あり、50歳近くまで安定した就労を続けた実績あり」というT氏の経歴から、「生活保護しかない」という状況を想像することは難しい。

 T氏には、離婚(2008年)と理由の見当たらない退職、元妻らとの無理心中企図と長男に対する殺人未遂(2011年)、4年間の刑務所生活というネガティブな経歴もある。刑務所入所歴は、その後の人生を幸福にしない可能性が高い。しかしT氏の“刑務所運”は、極めて良好だった。


 一部報道によれば、T氏が4年間を過ごした刑務所は、島根県浜田市にある官民共同型刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」。生活全体を学びの場とする回復共同体の中で、受刑者たちは自らの犯罪に向き合い、その背景となった自らの価値観や行動パターンを変化させる認知行動療法に取り組む。運営の考え方の基本は、各個人が社会の一員であることを意識して行為の責任を引き受けられるように成長する修復的司法だ。

 所内で行われる作業は、ビジネスの基礎やICT技術をはじめ、出所後に生きていくためのスキルを確実に身に付けられる内容だ。出所者たちには同窓会のような場もあり、孤立しにくい。その様子は、坂上香氏の書籍『プリズン・サークル』(岩波書店)および同名のドキュメンタリー映画に克明に示されている。処遇の効果は、再度の刑務所入所率(再入率)の低さに示されている。データがやや古いが、2013年、日本の全刑務所での再入率が18.1%だったのに対し、「島根あさひ」では10.6%だった。

「島根あさひ」に送られる受刑者は、確実な社会復帰が見込まれる人々である。豊かな自然環境の中で落ち着いた生活を送り、対人関係スキルや職業能力を身に付け、人とつながり、出所後の生活にソフトランディングする配慮を受けつつ出所する。T氏も、そういう処遇を受けたようだ。それでも、事件は起こった。
生活保護が
結局は利用されなかった謎
 刑務所出所後のT氏は、相続した2軒のアパート経営(大阪市此花区)によって生計を立てており、自らもその1軒に居住していた。2017年に入ると生活に困窮したが、生活保護の利用には至っていない。

 関西の生活保護の運用は、自治体や地域の姿勢による差が著しい。なるべく申請させない運用で知られている自治体もある。中には、「申請は受け付けられたものの、自宅に福祉事務所職員が押しかけて高圧的に申請取り下げを迫った」と当事者が語る事例もある。

 また、体が健康な50歳代男性に対しては、就労可能な年齢であることを理由として生活保護の申請を受け付けない自治体もある。大阪市の各区の中には、それらの不適切な運用で知られる福祉事務所もある。


 しかし、此花区で暮らしの安定と改善に取り組む「此花生活と健康を守る会」事務局長の松岡恒雄さんは、「生活保護(の申請)を受理されずに追い返された例はないし、保護開始後の人権侵害などの大きな問題もありません」という。

 申請者が「働ける」と考えられる場合も、「此花区では、申請は基本的に受け付け、生活保護の条件を満たしていれば保護開始、その後で就労指導を行うこともあります」ということだ。生活保護法をはじめとする法律や通知などに違反せず適切な運用を行えば、自動的にそうなるのだが、そういう自治体は多くない。

 1回目の生活保護申請を行った当時、T氏は前述の通り相続したアパート2軒を経営し、その1軒に居住していた。大阪府警の捜査担当者によると、入居者が1人おり、支払われるはずの家賃は合計月7万円だったが、4カ月にわたって家賃が滞納されたため生活に困窮。生活保護を申請し、受理された。しかし、保護開始にあたっての調査が行われている時期、入居者が家賃4カ月分にあたる28万円を支払ったため、保護開始とならなかった。

 生活保護の利用資格を一言で言えば、「預貯金がほぼなく、毎月の収入が生活保護基準よりも少ない」ことである。毎月の収入が7万円だったT氏には、もともと生活保護の利用資格があった。ところが、申請したそのタイミングで滞納されていた家賃収入が入り、T氏は生活保護の利用資格を失った。その結果、ケースワーカーの人的支援のもとで生活と人生を立て直す機会を失ってしまったのである。不運としか言いようがない。

 T氏の2回目の生活保護申請は、近日中の転居予定を理由として、自ら取り下げられた。その後、生活保護を申請した形跡はない。大阪府警によれば、T氏はキャッシングによって生活費を工面していたが多重債務状態に陥り、事件前月の2021年11月を最後に借り入れができなくなっていた。その時のT氏には、「生活保護と自己破産で人生を立て直す」という成り行きは訪れなかったようである。

自分も他者も破滅させる計画が
実行されてしまった謎
 2022年1月下旬、筆者は大阪市北区を訪れた。どうしても、現場がまだ「現場」であるうちに自分の目で確認しておきたかったからだ。

 火災現場となった北新地ビルは、「事件当時、そのフロアに30人程度の人がいた」ということが信じられないほど小さかった。周辺はオフィス街だが、企業のオフィス・飲食店・語学学校・アダルトグッズショップなどが混在している。裏通りには、新宿・歌舞伎町と似た「新地」の風景が広がる。心療内科クリニックを含めて、働きざかりの人々が必要とする可能性のあるサービスは全て提供されているイメージだ。


 黙祷をささげ、T氏が12月17日に自転車でたどったと思われる経路を逆にたどる。東京で言えば新宿駅から杉並区高円寺までの距離感だが、北新地から1km程度離れると急激に風景が変わり、賑わいが消える。平日の午後なのに、通行人とすれ違うことは少ない。幼稚園児を連れた若い母親たちの姿が時折見られる程度だ。大通りを進むと、URの大規模団地や清掃工場の近辺にさしかかり、人影はさらに減る。

生活保護があっても、北新地ビル放火殺人事件を止められなかった理由
T氏自宅
 冷たい風に吹きさらされながら淀川を渡ると、堤防のすぐそば、海抜0メートル前後の地域に木造住宅が密集している。その一つが、T氏の最後の住まいとなった西淀川区の集合住宅だ。近隣住民はT氏が住んでいることを認識していなかったようだが、地域そのものから、人の気配が薄い感じを受けた。

 事件の背景の一つは、T氏の生活環境にもあったのではないかと思われる。破滅的な欲求を抱くことは誰にでもあるけれども、実行されることは極めて少ない。しかし、生活に困窮して角打ちや「センベロ」での小さな社交を失い、孤立を募らせると、地域の無料の社交の場に近づく気力も湧かないだろう。人と出会う機会が少ないと、偶然が好作用する可能性も減る。そのような状況は、破滅的な欲求に対するブレーキを機能させにくくする。

症状が改善しないのに
通院を続けていた謎
 T氏が現場の心療内科クリニックに通院していたのは、2017年から2021年末にかけての約5年間だった。通院回数は100回以上に及んだというが、1年当たり20回、1カ月当たり1〜2回となる。通院頻度としては一般的だ。医師に対して語っていた症状は不眠や倦怠(けんたい)感で、向精神薬の処方を受けていたが、改善せず不満を漏らしていたようだ。

 クリニックは、就労している人々や近い将来の復職や再就職が見込まれる人々を主対象としており、リワーク(就労復帰)プログラムにも注力していた。

 T氏が「場違い」感を抱いていたとしても不思議ではないが、大阪府警によれば、クリニック側で何らかのミスマッチや行動面の問題を把握していた形跡はない。ともあれ、T氏の人生の終わりまで、クリニックは社会との細い絆となった。


 働く人々のメンタルヘルスは、重要な社会課題だ。一般財団法人労務行政研究所が2017年に行った調査によれば、企業の99.5%が何らかのメンタルヘルス対策を行っており、86.2%には欠勤・休職中の社員がいる。そして概ね半数は、長期休職または退職という成り行きをたどると認識されている。

生活保護があっても、北新地ビル放火殺人事件を止められなかった理由
現場付近の供花
 患者にとってのリワークプログラムは、確実な就労を約束するわけではなく、希望につながっているかもしれない細い糸のようなものだ。T氏が自らの生命と同時に焼き切ったのは、その時クリニックにいた医師やスタッフや患者たちの生命や健康だけではなく、関係者全員の希望の糸でもあった。

「せめて、生活保護が利用されていれば」という筆者の思いは、多くの人々の思いでもあろう。むろん、生活保護は万能ではない。京都アニメーション放火殺人事件の抑止力になれなかったという「前例」もある。

 社会生活の強力なツールである現金が給付されるものの、現在の生活保護の水準では十分とは言えない。対人援助としての生活保護の効果は、福祉事務所やケースワーカーに左右される。それでも、各個人には生きる希望をもたらし、社会からは絶望を減らす制度であるはずだ。生活保護には、まだ発見されていない可能性が数多く隠されている。



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