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虐待や貧困を理由に児童養護施設や里親家庭などで育ったケアリーバー（社会的養護経験者）が、厳しい環境に置かれている。原則１８歳で自立が求められるが、進学を断念したり、不安定な仕事に就いたりすることが多く、コロナ禍で３割超が収入が不安定になったとの調査もある。衆院選では各党が格差の是正を訴えていたが、当事者からは「私たちにもっと目を向けてほしい」との声が上がる。（増田尚浩）
「先のことを考えると不安しかなかった」。九州の児童養護施設で育ち、３年前から大阪市で一人暮らしをしているカナさん（２２）（仮名）は打ち明ける。
カナさんは母親に障害があり、養育不安を理由に生後間もなく乳児院に引き取られた。１８歳で施設を出た後、大阪の音楽専門学校の夜間コースに進学。月２万〜３万円の給付型奨学金を受けたが、ほぼ毎日、未明までアルバイトをした。
物心つく前から児童養護施設で育ったカナさん。コロナ禍で収入が減ったが、頼れる大人は身近にいなかった（大阪市内で）
昨春の卒業後、希望した音楽関係の仕事につけず、バイトを続けた。しかし、コロナ禍でバイト先が休業し、収入は月２０万円から８万円に。母親の所在はわからず、出身の施設にも頼れない。気づけばスマートフォンで自殺の方法を検索していた。
昨年１０月、調理関係の正社員の仕事を得た。しかし、人間関係が原因で半年ほどで退職。別の仕事を見つけたが、長時間労働で精神的に不安定になり、働けなくなった。今夏に１か月間だけ生活保護を受給した。
今は落ち着き、バイトをしながら、音楽の仕事を目指しているが、「こんな生活になるなんて思わなかった。せめて不安を受け止めてくれる人が身近にいれば……」と漏らした。
「赤字」２２％
厚生労働省は今年４月、過去５年間に自立したケアリーバーを対象に実施した初の実態調査結果を公表。７１％が就労中で、雇用形態は、パート・アルバイトが３４・５％、契約社員・派遣社員が８・６％、日雇い・期間工が１・３％と、５割近くが非正規労働だった。
生活は苦しく、２２・９％が「支出の方が多い（赤字）」と回答。コロナが追い打ちをかけ、ＮＰＯ法人「ＩＦＣＡ」（東京）が昨年５〜６月に行った別の調査では、約３５％が「収入が不安定になった」と答え、約５％に解雇経験があった。
経済的な理由で進学を断念するケースが多く、厚労省の調査で、退所直後の進路が進学だったのは３０・６％。最終学歴が４年制大学は２％にとどまった。
貸付金ためらう
政府は、２０１７年にケアリーバーを含む低所得世帯向けに給付型奨学金を創設。２０年に対象を拡大し、給付額も最大年４８万円から９１万円に引き上げた。授業料も最大年７０万円が減免される。
ケアリーバー向けには月５万円まで生活費を貸し付ける制度もある。コロナ禍で、収入減を条件に８万円に引き上げられたが、ＮＰＯ法人「ブリッジフォースマイル」（東京）の林恵子理事長は「奨学金は拡充しているが、身寄りのないケアリーバーが一人暮らしするには十分ではなく、貸付金も将来のリスクを抱えたくないと利用をためらうケースが多い」と指摘する。
大阪市の中村舞斗さん（３２）は母親からネグレクト（育児放棄）を受けて育った。バイトをしながら大学に通ったが、心身の不調で働けなくなった。役所に生活保護の相談をしたが、「制度上、夜間以外の大学に通いながら受けられない」と言われ、大学をやめた。
中村さんは２０年にＮＰＯ法人「虐待どっとネット」（大阪）を設立。事情に応じて大学在学中の生活保護を認めるよう求める署名を３万人分以上集め、先月２０日、後藤厚労相に提出した。
中村さんは「虐待を受けた子どもが夢をあきらめずに済む制度にしてほしい」と訴えた。
◆ケアリーバー ＝児童相談所に一時保護され、児童養護施設や里親家庭などで育った社会的養護の経験者。児童福祉法に基づき、原則１８歳で自立が求められるが、事情に応じて２２歳を迎える年度末まで延長できる。国は自治体に対し、「支援コーディネーター」の配置や、生活や就労の相談支援を求めているが、配置は全体の５割弱にとどまる。施設などで暮らす子どもは現在約４万５０００人いる。
ケアリーバー支援義務化を…永野咲・武蔵野大講師（社会的養護）
「米国では、ケアリーバーが『アフターケア』を受ける権利が法的に認められ、住宅を提供されたり、ソーシャルワーカーが必要な助言を行ったり、手厚い支援がある。日本も児童福祉法に同様の権利を盛り込むことを含め、国や自治体に支援や実態把握を義務づけることを検討する必要がある」
虐待や貧困を理由に児童養護施設や里親家庭などで育ったケアリーバー（社会的養護経験者）が、厳しい環境に置かれている。原則１８歳で自立が求められるが、進学を断念したり、不安定な仕事に就いたりすることが多く、コロナ禍で３割超が収入が不安定になったとの調査もある。衆院選では各党が格差の是正を訴えていたが、当事者からは「私たちにもっと目を向けてほしい」との声が上がる。（増田尚浩）
「先のことを考えると不安しかなかった」。九州の児童養護施設で育ち、３年前から大阪市で一人暮らしをしているカナさん（２２）（仮名）は打ち明ける。
カナさんは母親に障害があり、養育不安を理由に生後間もなく乳児院に引き取られた。１８歳で施設を出た後、大阪の音楽専門学校の夜間コースに進学。月２万〜３万円の給付型奨学金を受けたが、ほぼ毎日、未明までアルバイトをした。
物心つく前から児童養護施設で育ったカナさん。コロナ禍で収入が減ったが、頼れる大人は身近にいなかった（大阪市内で）
昨春の卒業後、希望した音楽関係の仕事につけず、バイトを続けた。しかし、コロナ禍でバイト先が休業し、収入は月２０万円から８万円に。母親の所在はわからず、出身の施設にも頼れない。気づけばスマートフォンで自殺の方法を検索していた。
昨年１０月、調理関係の正社員の仕事を得た。しかし、人間関係が原因で半年ほどで退職。別の仕事を見つけたが、長時間労働で精神的に不安定になり、働けなくなった。今夏に１か月間だけ生活保護を受給した。
今は落ち着き、バイトをしながら、音楽の仕事を目指しているが、「こんな生活になるなんて思わなかった。せめて不安を受け止めてくれる人が身近にいれば……」と漏らした。
「赤字」２２％
厚生労働省は今年４月、過去５年間に自立したケアリーバーを対象に実施した初の実態調査結果を公表。７１％が就労中で、雇用形態は、パート・アルバイトが３４・５％、契約社員・派遣社員が８・６％、日雇い・期間工が１・３％と、５割近くが非正規労働だった。
生活は苦しく、２２・９％が「支出の方が多い（赤字）」と回答。コロナが追い打ちをかけ、ＮＰＯ法人「ＩＦＣＡ」（東京）が昨年５〜６月に行った別の調査では、約３５％が「収入が不安定になった」と答え、約５％に解雇経験があった。
経済的な理由で進学を断念するケースが多く、厚労省の調査で、退所直後の進路が進学だったのは３０・６％。最終学歴が４年制大学は２％にとどまった。
貸付金ためらう
政府は、２０１７年にケアリーバーを含む低所得世帯向けに給付型奨学金を創設。２０年に対象を拡大し、給付額も最大年４８万円から９１万円に引き上げた。授業料も最大年７０万円が減免される。
ケアリーバー向けには月５万円まで生活費を貸し付ける制度もある。コロナ禍で、収入減を条件に８万円に引き上げられたが、ＮＰＯ法人「ブリッジフォースマイル」（東京）の林恵子理事長は「奨学金は拡充しているが、身寄りのないケアリーバーが一人暮らしするには十分ではなく、貸付金も将来のリスクを抱えたくないと利用をためらうケースが多い」と指摘する。
大阪市の中村舞斗さん（３２）は母親からネグレクト（育児放棄）を受けて育った。バイトをしながら大学に通ったが、心身の不調で働けなくなった。役所に生活保護の相談をしたが、「制度上、夜間以外の大学に通いながら受けられない」と言われ、大学をやめた。
中村さんは２０年にＮＰＯ法人「虐待どっとネット」（大阪）を設立。事情に応じて大学在学中の生活保護を認めるよう求める署名を３万人分以上集め、先月２０日、後藤厚労相に提出した。
中村さんは「虐待を受けた子どもが夢をあきらめずに済む制度にしてほしい」と訴えた。
◆ケアリーバー ＝児童相談所に一時保護され、児童養護施設や里親家庭などで育った社会的養護の経験者。児童福祉法に基づき、原則１８歳で自立が求められるが、事情に応じて２２歳を迎える年度末まで延長できる。国は自治体に対し、「支援コーディネーター」の配置や、生活や就労の相談支援を求めているが、配置は全体の５割弱にとどまる。施設などで暮らす子どもは現在約４万５０００人いる。
ケアリーバー支援義務化を…永野咲・武蔵野大講師（社会的養護）
「米国では、ケアリーバーが『アフターケア』を受ける権利が法的に認められ、住宅を提供されたり、ソーシャルワーカーが必要な助言を行ったり、手厚い支援がある。日本も児童福祉法に同様の権利を盛り込むことを含め、国や自治体に支援や実態把握を義務づけることを検討する必要がある」
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