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65歳以上の介護保険料が4月に見直される。朝日新聞が主要自治体に実施したアンケート（73自治体が回答）では、高齢化に伴い介護ニーズが高まるなか、保険料を据え置いたり減額したりするところが相次いだ。浮き彫りになったのは、保険料を決める判断にも新型コロナウイルスの感染拡大が影響を及ぼしている状況だ。
4月からの介護保険料「6千円以上」8割 74市区調査
働く高齢者「コロナで仕事なくなった」
法律家らが昨年4月から継続的に開催している「なんでも電話相談会」には、働く高齢者から多くの相談が寄せられている。
「派遣でビル管理の仕事を5年続けていたが、（昨年）6月に解雇された。65歳以上なので失業給付は1日5千円の50日分しかもらえなかった。夫婦2人の年金月額14・5万円の収入しかない。家賃もあり、生活が苦しく、医療の受診を控えている」（70代男性、夫婦2人世帯）
「自営で物品販売の仕事をしているが、（昨年）5月からコロナで仕事がなくなり、5万円の年金収入しかない。社会福祉協議会の貸し付けを受けてなんとかやってきたが、家賃は8カ月滞納。生活保護の申請に行っても社協に行くように言われてしまう」（70代男性）
年金収入だけでは生活が苦しいため、パートなどの仕事で補っていたものの、コロナ禍が直撃。仕事を失って収入が減少するなど、高齢者が厳しい状況に置かれている。そして、市区町村が運営する介護保険にもその影響が及んでいる。
「台風災害及び新型コロナ感染症の影響を踏まえ、同額とした」。長野市は4月からの介護保険料をこれまでと同額の月5670円（基準額）に据え置く方針を決めた。
同市の高齢化率は29・7%。市区町村の保険料算定などを支援するために厚生労働省が用意したシステムで試算すると、高齢者数の増加に伴って介護ニーズは高くなり、4月からは増額にする必要があった。
ただ、2019年10月の台風19号で大きな被害を受けた上、昨年はコロナの感染が広がった。同市の担当者は「コロナの影響で年金に加えてパートなどで生計を立てている高齢者の収入が減ったり、マスク購入など感染予防対策にお金がかかったりと市民の生活に影響が出ていることを考慮した」と据え置いた理由を説明する。
「支出増は心理的に影響大」 保険料据え置く
4月から保険料が改定されるのを前に、朝日新聞が74市区（政令指定市、県庁所在市、東京23区）を対象に行った調査では、葛飾区をのぞく73市区が回答。保険料をこれまでと同額あるいは引き下げとした自治体は、3年前に行った調査の11市区から大幅に増えて32市区と、全体の4割に達した。
その中で、「コロナによる影響」を理由としてあげたのは、長野市以外に、甲府市、鹿児島市、東京都中央区、港区、世田谷区、杉並区。取材に対して、「保険料の減免を受けている人も一定程度おり、コロナ禍における高齢者の経済的な負担を抑えるため」（甲府市）、「コロナの先行きが見通せない中、支出増は心理的にも影響が大きい。さらなる区民負担増とならないようにした」（中央区）などと回答した。
これらの自治体の多くが頼ったのが「介護給付費準備基金」。これまでに徴収した保険料の剰余金を、それぞれに積み立ててきたものだ。
介護給付費で国が負担する費用の一部は、75歳以上の割合や所得の低い65歳以上の割合が高い自治体に多く配分される。こうした自治体の財源不足を補うためだ。
こうした仕組みがあっても介護サービス費用が増えて保険料が上昇しそうなとき、自治体に基金残高があれば取り崩して補塡（ほてん）することで、保険料上昇を抑えることが可能だ。今回、保険料を据え置いた自治体の多くはこの基金を使ったと回答していた。
今回の調査でもっとも大きい上げ幅となった静岡市は5492円から6325円と833円上がる。前回の改定時は225円の引き上げだった。
同市の担当者によると、3年前の改定時は基金の残高が年々増え、保険料を支払っている高齢者に還元するとの理由で約30億円あった基金を取り崩し、保険料の上昇を抑制。その結果、残高は5億円ほどに。今回の改定でも残った5億円を使うが、抑制効果は極めて限定的になったという。
18年に政府が示した推計では、団塊の世代が後期高齢者になる25年度に約6800〜7200円、全国の高齢者数が最多となる40年度には約8600〜9200円になるとしている。今回据え置いた長野市も25年度は6290円、40年度は8263円になると見込む。「将来的に保険料が上昇する見通しは変わらない」としている。
「介護保険を利用できなくなる」懸念
団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年へ向けて、介護保険行政を担う市区町村は何を課題と考えているのか。今回の調査（複数回答）で尋ねたところ、「介護人材の不足」が62市区で最も多かった。
厚労省によると、在宅介護を支えるホームヘルパーの有効求人倍率は15・03倍（19年度）。ある事業者は「求人募集を出しても採用まで至るのはまれ」。コロナ禍で、人手不足に拍車がかかっているとの声もある。自治体からは「介護職の処遇改善や賃金の更なる引き上げ」（福島市）を求める声や「元気高齢者の活躍、外国人材の活用」（松江市）などの意見があった。
次に多かったのが「保険料や利用者負担の上昇」（54市区）。今回の調査で25年度の推計をしていたのは50市区で、いずれも21年度の保険料より上昇する見込みだ。7千円台が32自治体で最も多かったが、8千円台が3自治体、9千円台も2自治体あった。
高松市は25年度の見込み額は9007円。4月からの保険料に比べて2374円上昇すると推計する。「保険料の上昇が続くと、年金収入だけでは生活が厳しくなり、利用する際の1割負担も払えずに、介護保険を利用したくても利用できない人が発生する懸念がある」と指摘。「公費の割合や40歳以上が支払う2号保険料の納付対象者の拡充など、費用の負担割合の見直しが必要」としている。（有近隆史、畑山敦子、及川綾子、編集委員・清川卓史）
65歳以上の介護保険料が4月に見直される。朝日新聞が主要自治体に実施したアンケート（73自治体が回答）では、高齢化に伴い介護ニーズが高まるなか、保険料を据え置いたり減額したりするところが相次いだ。浮き彫りになったのは、保険料を決める判断にも新型コロナウイルスの感染拡大が影響を及ぼしている状況だ。
4月からの介護保険料「6千円以上」8割 74市区調査
働く高齢者「コロナで仕事なくなった」
法律家らが昨年4月から継続的に開催している「なんでも電話相談会」には、働く高齢者から多くの相談が寄せられている。
「派遣でビル管理の仕事を5年続けていたが、（昨年）6月に解雇された。65歳以上なので失業給付は1日5千円の50日分しかもらえなかった。夫婦2人の年金月額14・5万円の収入しかない。家賃もあり、生活が苦しく、医療の受診を控えている」（70代男性、夫婦2人世帯）
「自営で物品販売の仕事をしているが、（昨年）5月からコロナで仕事がなくなり、5万円の年金収入しかない。社会福祉協議会の貸し付けを受けてなんとかやってきたが、家賃は8カ月滞納。生活保護の申請に行っても社協に行くように言われてしまう」（70代男性）
年金収入だけでは生活が苦しいため、パートなどの仕事で補っていたものの、コロナ禍が直撃。仕事を失って収入が減少するなど、高齢者が厳しい状況に置かれている。そして、市区町村が運営する介護保険にもその影響が及んでいる。
「台風災害及び新型コロナ感染症の影響を踏まえ、同額とした」。長野市は4月からの介護保険料をこれまでと同額の月5670円（基準額）に据え置く方針を決めた。
同市の高齢化率は29・7%。市区町村の保険料算定などを支援するために厚生労働省が用意したシステムで試算すると、高齢者数の増加に伴って介護ニーズは高くなり、4月からは増額にする必要があった。
ただ、2019年10月の台風19号で大きな被害を受けた上、昨年はコロナの感染が広がった。同市の担当者は「コロナの影響で年金に加えてパートなどで生計を立てている高齢者の収入が減ったり、マスク購入など感染予防対策にお金がかかったりと市民の生活に影響が出ていることを考慮した」と据え置いた理由を説明する。
「支出増は心理的に影響大」 保険料据え置く
4月から保険料が改定されるのを前に、朝日新聞が74市区（政令指定市、県庁所在市、東京23区）を対象に行った調査では、葛飾区をのぞく73市区が回答。保険料をこれまでと同額あるいは引き下げとした自治体は、3年前に行った調査の11市区から大幅に増えて32市区と、全体の4割に達した。
その中で、「コロナによる影響」を理由としてあげたのは、長野市以外に、甲府市、鹿児島市、東京都中央区、港区、世田谷区、杉並区。取材に対して、「保険料の減免を受けている人も一定程度おり、コロナ禍における高齢者の経済的な負担を抑えるため」（甲府市）、「コロナの先行きが見通せない中、支出増は心理的にも影響が大きい。さらなる区民負担増とならないようにした」（中央区）などと回答した。
これらの自治体の多くが頼ったのが「介護給付費準備基金」。これまでに徴収した保険料の剰余金を、それぞれに積み立ててきたものだ。
介護給付費で国が負担する費用の一部は、75歳以上の割合や所得の低い65歳以上の割合が高い自治体に多く配分される。こうした自治体の財源不足を補うためだ。
こうした仕組みがあっても介護サービス費用が増えて保険料が上昇しそうなとき、自治体に基金残高があれば取り崩して補塡（ほてん）することで、保険料上昇を抑えることが可能だ。今回、保険料を据え置いた自治体の多くはこの基金を使ったと回答していた。
今回の調査でもっとも大きい上げ幅となった静岡市は5492円から6325円と833円上がる。前回の改定時は225円の引き上げだった。
同市の担当者によると、3年前の改定時は基金の残高が年々増え、保険料を支払っている高齢者に還元するとの理由で約30億円あった基金を取り崩し、保険料の上昇を抑制。その結果、残高は5億円ほどに。今回の改定でも残った5億円を使うが、抑制効果は極めて限定的になったという。
18年に政府が示した推計では、団塊の世代が後期高齢者になる25年度に約6800〜7200円、全国の高齢者数が最多となる40年度には約8600〜9200円になるとしている。今回据え置いた長野市も25年度は6290円、40年度は8263円になると見込む。「将来的に保険料が上昇する見通しは変わらない」としている。
「介護保険を利用できなくなる」懸念
団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年へ向けて、介護保険行政を担う市区町村は何を課題と考えているのか。今回の調査（複数回答）で尋ねたところ、「介護人材の不足」が62市区で最も多かった。
厚労省によると、在宅介護を支えるホームヘルパーの有効求人倍率は15・03倍（19年度）。ある事業者は「求人募集を出しても採用まで至るのはまれ」。コロナ禍で、人手不足に拍車がかかっているとの声もある。自治体からは「介護職の処遇改善や賃金の更なる引き上げ」（福島市）を求める声や「元気高齢者の活躍、外国人材の活用」（松江市）などの意見があった。
次に多かったのが「保険料や利用者負担の上昇」（54市区）。今回の調査で25年度の推計をしていたのは50市区で、いずれも21年度の保険料より上昇する見込みだ。7千円台が32自治体で最も多かったが、8千円台が3自治体、9千円台も2自治体あった。
高松市は25年度の見込み額は9007円。4月からの保険料に比べて2374円上昇すると推計する。「保険料の上昇が続くと、年金収入だけでは生活が厳しくなり、利用する際の1割負担も払えずに、介護保険を利用したくても利用できない人が発生する懸念がある」と指摘。「公費の割合や40歳以上が支払う2号保険料の納付対象者の拡充など、費用の負担割合の見直しが必要」としている。（有近隆史、畑山敦子、及川綾子、編集委員・清川卓史）
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