ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

生活保護者の集いコミュの論点 生活保護費、引き下げ 注目の連載 オピニオン 朝刊解説面 毎日新聞 2024/4/10 東京朝刊 有料記事 39

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
https://mainichi.jp/articles/20240410/ddm/004/070/010000c

 生活保護費の引き下げは憲法25条や生活保護法に反するとして、全国で行われている「いのちのとりで」訴訟で、行政の敗訴が相次いでいる。あるべき生活保護費の基準とは。【聞き手・須藤孝】

桜井啓太・立命館大准教授
時代遅れ価値観一掃を 桜井啓太 立命館大准教授
 行政訴訟では、行政側が圧倒的に有利で、原告の勝率は1割程度と言われている。「いのちのとりで」訴訟で勝率が5割を超えているのは異例だ。名古屋高裁判決では国家賠償も認められた。国家賠償まで認められることはさらにまれで、驚異的だ。国の行為の違法性だけでなく、背後にある故意、重大な過失も認めたことになる。判決文からは行政への厳しい警告を感じる。

Advertisement

 名古屋高裁の判決文には<人が3度の食事ができているというだけでは、当面は飢餓や命の危険がなく、生命が維持できているというにすぎず、到底健康で文化的な最低限度の生活であるといえないし、健康であるためには、基本的な栄養バランスのとれるような食事を行うことが可能であることが必要であり、文化的といえるためには、孤立せずに親族間や地域において対人関係を持ったり、当然ながら贅沢(ぜいたく)は許されないとしても、自分なりに何らかの楽しみとなることを行うことなどが可能であることが必要であったといえる>とある。

 憲法25条1項にある「健康で文化的な最低限度の生活」は、少なくとも現代においては「単に食えればいい」という程度の低いものではないと示した。さらに25条2項の国の責務にもふれているのがポイントだ。人間には「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」がある。そして、その「向上及び増進に努めなければならない」のが本来の国の責務だとした。その責務を忘れて安易に、また違法に引き下げたことへの強い非難と警告を感じる。


 生活保護は最低生活を保障する制度だが、「最低」という言葉を巡って誤解がある。「生活保護を受ける人は、社会の最底辺であるべきだ。だから可能な限り低い水準でよい、食えさえすればいい」。このような考え方は、最低保障ではない。劣等処遇という時代遅れの価値観だ。最低生活保障の「最低」とは、「誰もこれ以上は下に落ちてはならない」というこの社会全体の理念であって宣言だ。社会の底が抜けないためのくさびだ。判決はこのことを再確認した。

 訴訟で問われている基準引き下げのもとは、生活保護給付水準を10%引き下げるとした、2012年衆院選での自民党公約だ。厚生労働省も含めて関係者は、自民党公約との直接の関係は否定するが、本当は「1割削減ありき」で引き下げたと分かっている。ただ、自民党はこの公約を掲げた衆院選で大勝した。世論は支持したといえるかもしれない。世論や国民感情からまったく自由な、真に中立的な生活保護費の基準はない。だからこそ、私たち有権者の責任と社会像が問われているのではないだろうか。


 生活保護費の基準は、どんな人でもこれ以上、下に落ちてはならないという理念だから、国民全体の問題だ。困窮のリスクは誰にでもあるのに、不正受給や保護の長期化ばかりが取り上げられる。不正受給は1%以下だ。保護を受ける期間も、1年だけ必要な人も、20年必要な人も、死ぬまで使う人も、結果的に一生使わない人もいる。でも、そんなことはたいしたことではない。大切なことは、その制度によって社会の誰一人としてそれ(最低)よりも下、貧困に落ちない、社会から貧困を駆逐することができる、そういう社会を実現できているかどうかだ。自民党の公約はだれかがずるをしていると言って分断をあおること自体が目的だったのではないかと思う。

 同じ社会の一員を、足を引っ張る厄介者として仮想敵にすることは社会の土台を切り崩すことだ。最低限を引き下げて本当に貧しくなるのは実は我々の社会の方だ。


 私は大学を卒業してから10年間、生活保護の現場で働いてきた。基準の引き下げが行われた13年は生活保護ケースワーカーをしていた時期に重なる。行政機構の最末端、ヒラのケースワーカーとはいえ、自分自身、保護の引き下げ行為に行政側として関わり、実際に引き下げ決定の通知を担当世帯の方に配り、保護の決定処理をしていた。その意味でこの訴訟について考える時は加害側の一端に立っていたという事実に痛みを感じる。

木下武徳・立教大教授=須藤孝撮影
受給の権利を保障せよ 木下武徳 立教大教授
 自民党は2012年12月の衆院選で、生活保護給付水準を10%引き下げると公約した。12年にあったお笑い芸人の親族の生活保護受給をめぐる報道など、生活保護バッシングが影響したと思う。自民党はそれに乗ったのだろう。自民党の生活保護に関するプロジェクトチーム(世耕弘成座長)は、12年4月に生活保護給付水準の10%引き下げと同時に、食費などの現物給付を進めるとする提言をまとめた。それぞれの世帯への食事の現物給付など、現場の実態からすればあまりにも非現実的な提言だった。日本では最低賃金と生活保護給付水準とは、ほとんど変わらない。そのような国はほとんどない。本来であれば、最低賃金を上げるべきなのだが、この時は、逆に生活保護を下げると公約した。生活保護を受給している人は200万人ぐらいだ。少数の人、しかも弱い立場にある人を攻撃して政治的な支持が増えるならそのほうがよいと考えたのではないか。

群馬県桐生市から生活保護費を1日1000円ずつ手渡されていた事情を説明する男性(左)=同市役所で2023年11月21日、大澤孝二撮影
 群馬県桐生市は生活保護受給者に1日1000円ずつ生活保護費を手渡しし、全額を支給しないなど、異常な対応をしていた。しかし、行政で生活保護を担当する職員がみな、おかしな人であるはずはない。ただ、生活が安定した公務員の立場にあるために、不安定な生活にある人の状況を理解できず、同じ市民として見ていないことがある。そのうえ、職員には事実上の生活保護の決定権があり、一方で、受給する側は生活保護がなければ生きていけない。そこには権力関係が生じる。外部から見ればおかしいことでも、自分たちは正しいことをしていると思ってしまうのだろう。生活保護バッシングと近い考え方をする職員が、一部だがいることも確かだ。そのような一部の人の影響が大きいということはあるだろう。

 桐生市だけではなく、行政は生活保護の受給者に対して非常に細かい指導をしている。生活保護法には指導をできる条文があるが、同時に「被保護者の自由を尊重し、必要の最少限度にとどめなければならない」などの規定もある。抑制的であることが想定されている。ところが、指示に従う義務も規定されていて、従わない場合は、「保護の変更、停止または廃止をすることができる」ともされている。高齢者にせよ、障害者にせよ、児童にせよ、福祉の分野では、以前は生活指導が重視されていた。しかし今は、自己決定権が重視されるようになっている。ところが生活保護の分野には自己決定権の考え方がなかなか入ってこない。受給者は一方的に指導、指示を受けるだけの消極的な立場に置かれている。これは現在の生活保護行政の大きな課題だ。

 私の聞いた例だが、就労支援だとして、毎朝7時に「働け」と電話をかけているところがあった。電話をかけるだけでは支援にはならない。大切なのは協力関係を作って具体的なアドバイスをすることだ。生活保護行政にはこのような視点が欠けていることが多い。生活保護は誰でも受けられる権利のはずであり、「生活保護は権利だ」と政府も言っているのだが、困ったら誰でも生活保護を受けられる体制にならなければ権利として認識されない。

 桐生市だけではなく、どこにでも細かな抑制装置がある。私が知っている例では、相談ブースの壁に「不正受給はダメ」という、脅すようなデザインのポスターが張ってあった。みんなが安心して生活保護を受けられると思えない抑制装置が張り巡らされているから、権利だと思えないのだ。

 自立とは人の助けを受けないことではなく、専門家や制度など、人の助けをかりて主体的に生きることだ、という考え方がある。まず「自助」、次が「共助」、最後が「公助」というのは誤りだ。政府は「生活保護は最後」という考え方だ。これでは常に自助や共助が受給の際に問われ、胸を張って権利として利用することができない。生活保護のような公助が基本にあるから、共助や自己決定に基づく自助が成り立つのではないだろうか。家(住所)がないのに就労自立を求めても、まともな仕事を得ることが難しいことは容易に想像がつくだろう。

1000人超が訴訟提起
 2013年に決められた生活保護基準の引き下げに対し、29都道府県で1000人を超える原告が憲法25条が定める生存権保障に違反するなどとして訴訟を提起した。29地裁で提起された訴訟で、1審判決が出ている26件のうち、15件が減額処分を取り消した(2024年2月22日現在)。23年11月の名古屋高裁判決は、減額決定を取り消し、国に1人1万円の慰謝料を支払うよう命じた。

 ご意見、ご感想をお寄せください。 〒100−8051毎日新聞「オピニオン」係 opinion@mainichi.co.jp

 ■人物略歴

桜井啓太(さくらい・けいた)氏
 専門は社会学、社会福祉学。著書に「子育て罰『親子に冷たい日本』を変えるには」(共著、光文社新書)「自立へ追い立てられる社会」(共編著、インパクト出版会)「<自立支援>の社会保障を問う」(法律文化社)など。

 ■人物略歴

木下武徳(きのした・たけのり)氏
 生活困窮者自立支援制度の各地域での支援体制、生活保護制度の不服申立制度などを研究。著書に「生活保護と貧困対策 ―その可能性と未来を拓く」(共著、有斐閣)など。

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

生活保護者の集い 更新情報

生活保護者の集いのメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。