生活保護者の集いコミュのトーキョー路上編（１５）　炊き出しに飲み放題、刑事もズラリな山谷の夏祭り　スーパーの袋や股間で挑発する老人も

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【実録・人間劇場】

日本三大ドヤ街（あいりん・寿町・山谷）のひとつと称される台東区山谷。西成区あいりん地区が現役のドヤ街とするならば、山谷は元ドヤ街といったところだろうか。日雇い労働者の姿はなく、ドヤに暮らす生活保護受給者が目立つ。

ここ山谷では、毎夏３日間、「山谷夏祭り」なるものが開催される。プログラムは、炊き出しに始まり、酒の飲み放題、激安の屋台、衣類の配布、音楽隊の演奏、レクリエーションなどめじろ押しだ。参加者はもっぱら山谷のドヤに暮らしている生活保護受給者。それと、周辺に住む路上生活者たちだ。私もそのとき、山谷からほど近い隅田川の高架下に段ボールを敷いて暮らしていたので、飯をもらいに夏祭りへ行くことにした。

さて、「夏祭り」という言葉で思い出すことは何だろうか。私なら、髪を後ろで結いた浴衣姿の女性が見せるうなじだ。しかし、この夏祭りにそんな風景などあるわけがない。夏祭りが行われる玉姫公園に足をのばすと、入り口の前にはズラリと刑事が並んでいた。近くにいるおじさんに聞いてみると、参加者同士でもめごとが起きたときのために、毎年のように見張っているのだという。

３日間の炊き出しのメニューは、牛丼、カレーライス、しらす丼。この期間に続いた雨のせいで今年の催しは酒の飲み放題以外、すべて中止となった。しかし、その酒の飲み放題というのも参加者からは不評である。

ひしゃくで使い捨てのプラスチックカップに注がれたウーロンハイを一口飲んだ１人の参加者が、「こんな薄いウーロンハイ、飲んでも意味ねえよ」とカップごと地面にたたきつけている。ウーロンハイは雨とともに排水溝へと流れていった。

炊き出しをもらうため、公園の外にできた行列に並んでいると、スーパーの袋に食料をパンパンに詰めた生活保護受給者たちが私たちの前を通った。目の前で飯がタダでもらえるというのに、なぜわざわざスーパーになど行くのだろうか。列の前に並ぶ男が小声で私に言う。

「アイツらが住んでいるドヤを俺は知っているが、こんなところ通らなくても行けるんだよ。〝炊き出しに行くほど貧乏じゃない〟と俺たちにアピールしたいんだよ。いつもそうだ」

植込みに座って受け取った飯を食べていると、７０歳ほどの男が食事中の男たちにしつこく言い寄っている。

「俺の金玉を見てくれよー。なあ、俺の金玉を触ってみるか？」

男は自らの陰部を露出し、手で金玉を揺らし始めた。

「ホラ、チンポをこっちに向けてみろ。俺がハサミで切ってやるから」

誰かがそう言うと、どっと笑いが起きた。山谷に甘酸っぱい夏などない。いくらなんでも苦すぎる。

■國友公司（くにとも・こうじ）　ルポライター。１９９２年生まれ。栃木県那須の温泉地で育つ。筑波大学芸術学群在学中からライターとして活動開始。２０２１年夏の東京都内で６３日間の路上生活をまとめた新刊『ルポ　路上生活』（ＫＡＤＯＫＡＷＡ）が話題。