生活保護者の集いコミュの「置き去りの存在」支援を　加害者家族　孤立、困窮…　非難の目、理解されず　／宮城

https://mainichi.jp/articles/20220113/ddl/k04/040/067000c

　事件や事故を起こした加害者の家族は、置き去りにされがちな存在として、欧米では支援の必要性が認識されている。日本でも2008年に加害者家族を支えるNPO法人「ワールドオープンハート」（WOH、仙台市）が発足したが、孤立や困窮に直面する状況は十分に理解されていない。理事長の阿部恭子さん（44）は「いつ、どの立場で事件や事故に巻き込まれるか分からない。自分のこととして考えてみてほしい」と訴える。

　21年11月下旬、阿部さんは、東北地方に住む女性（51）とその長男とともに山形刑務所に向かった。殺人罪で服役中の女性の夫に会うためだ。

山形刑務所に服役中の夫の面会に向かう女性（左）と長男＝山形市で2021年11月拡大
山形刑務所に服役中の夫の面会に向かう女性（左）と長男＝山形市で2021年11月
　女性と長男は持病などで働くことができない。頼れる友人や身内もいなくなり、生活保護を受けて暮らす。面会の交通費も捻出できず、WOHのサポートで8年ぶりに夫と対面した。夫は何度も「大変な生活をさせて申し訳ない」と謝った。

　阿部さんは「事件で一家の大黒柱が突然いなくなり、生活は困窮し、孤立してしまう家族は少なくない」と語る。

　東北大大学院でマイノリティーの研究をしていた際、加害者家族の内実を知り、WOHを立ち上げた。ホームページで電話番号を公開し、寄せられた相談は2000件超に。事件で職を失い、転居や転校を余儀なくされた。結婚や就職が白紙になった……。弁護士や自治体への懸け橋となり、面会や裁判に同行、家族同士の交流会も定期的に開く。

　だが、活動に反対する声は絶えずある。阿部さんは「家族が崩れてしまえば更生の支え手が失われ、被害者に賠償責任も果たせなくなる恐れがある」と指摘する。

　3歳女児と母が死亡し、9人が重軽傷を負った19年4月の東京・池袋の暴走事故でも、阿部さんは旧通産省工業技術院元院長飯塚幸三受刑者（90）＝禁錮5年が確定＝の家族の支援に当たった。

　「なぜ運転をやめさせなかったのか」「家族も同罪だ」「死ね」。会員制交流サイト（SNS）などで非難の目は家族にも向けられ、身の危険を感じるほどだったという。WOHも嫌がらせを受ける一方で「高齢の親の運転をやめさせたい」との相談も届いた。

　阿部さんは「加害者家族に起きていることは、誰にでも起こり得る」と話す。凶悪事件の加害者の面会に同行し背景を探ると、多くの人が抱くような生きづらさに悩んでいたこともあった。「新たな孤立や分断を生むのではなく、その根底に目を向けることが犯罪の抑止につながるはずだ」と確信している。