生活保護者の集いコミュの母再就職口なく、高校学費払えず息子中退　食品無料配布が命綱　低所得ひとり親世帯

https://mainichi.jp/articles/20211017/ddq/041/040/001000c

お茶やジュース、レトルトの総菜、カップラーメン、米、野菜――。ずらりと並んだ食品一つ一つをスタッフがエコバッグに詰め、訪れる人たちに手渡していく。愛知県一宮市で生活困窮者を支援する「のわみ相談所」では週3回、フードバンク団体や企業、個人などから提供を受けた食品を無料配布している。

　「新型コロナウイルス感染拡大の影響による失業者は多く、家賃が払えずに部屋を追い出された人もいる。ここが無かったら、どうなっていたんだろうと思う人は少なくない」。相談所の理事、宝満正一さん（69）は言う。8年ほど前から本格的に食料支援を始めたが、コロナ禍で食品を求める人の数が激増し、一時は配布場所付近に長蛇の列を作った。多い時は70人近くが訪れ、現在は40～50人ほど。新規の利用者は絶えないという。

　一宮市に住む50代の無職女性は、5月からここで食品を受け取るようになった。長年医療関係の仕事で働いてきたが、数年前に持病の悪化で退職。その後、専門性を生かした仕事に再び就きたいとハローワークなどで探したが、採用されず家計が厳しくなっていった。「どこでもいいから早く仕事を見つけたいと思いながら、他の業種で一から始めるのは、どこかためらいもある。自分なりのプライドもあるんでしょうね」。コロナ下の「受診控え」の影響か、求人が控えられているようだという。

　女性は8年ほど前に夫を亡くし、息子（17）と2人暮らし。2カ月に1度支給される遺族年金が頼りだが、生活費は賄えない。家賃や携帯電話料金の支払いは滞り、学費が払えなくなって、息子は今春、高校を中退した。「楽しそうに学校に通っていただけに息子には申し訳なくて……。まさかこんな状況になるなんて、思ってもいなかった」

　夫の形見の自動車はガソリン代を節約するため、なるべく使わないようにしているが、相談所へ食品を受け取りに行くには欠かせない。「もともと私もよく食べる方だったけれど、今は1日1食にしたりしている。その分なるべく息子には食べさせたいから」。市役所などからは生活保護を勧められるが、申請すれば自治体が親族に援助の可否を問い合わせる「扶養照会」があることを懸念し「それだけは絶対にしたくない」と拒む。女性は「ひとり親家庭は、親一人が失業したら、どうしようもなくなってしまう。もっと充実した支援を考えてもらいたい」と政治に切望する。

　相談所の利用者は市役所や社会福祉協議会などからの紹介が多い。初めて訪れた人には家族構成や困り事などを聞き、各家庭の状況に応じて3～7キロほどの食品を手渡す。深々と頭を下げてお礼を言う人、欲しい物や要らない物をはっきりと伝える人、何も言わず受け取る人……。年齢や国籍もさまざまで、中には華やかな服装で現れる人もいる。生活保護を受けていても金銭管理がうまくできず、食べる物に困って訪れる人もいるという。

　相談所では、食品を受け取る際に詳細な事情は聞かないが、住居や仕事を探している人たちには相談や支援もしている。「最近顔を見ない人がいれば『仕事が見つかったのかな』と思うこともある。誰かの命をつなぐ活動であり続けたい」と宝満さん。ただ、活動はほとんどがボランティア頼みで、直接受け取りに来られない人には、支援が届きにくいのが実情という。宝満さんは「しっかりと活動への助成をしてほしいし、支援のきめ細かなネットワークを作っていく必要性にも目を向けてほしい」と訴える。【加藤沙波】＝つづく

完全失業率、11年ぶり上昇
　厚生労働省によると、低所得のひとり親世帯は全国で約100万世帯とされる。政府はこれまで所得が少ない子育て世帯を対象に特別給付金を支給。2020年にひとり親世帯を対象に2回支給し、21年には両親がいる住民税非課税世帯にも拡大した。給付額は、20年は第1子5万円、第2子以降3万円だったが、21年は第2子以降も一律5万円に増額。愛知県瀬戸市は独自に5万円上乗せし、10万円を給付している。

　雇用では、20年平均の完全失業率が11年ぶりに上昇し、19年平均と比べ0．4ポイント増の2．8％に。「失業者」に入らないがシフトの大幅に減ったパート・アルバイトも多い。野村総合研究所が2月、約6万5000人を対象に行った調査では、男女とも約3割が「コロナ以前と比べてシフトが減少」と答え、うち男女ともに4割以上が「シフトが5割以上減少」と答えた。