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生活保護者の集いコミュの「命の価値」問う裁判 亡き愛娘の補聴器に誓う両親の思い

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https://mainichi.jp/articles/20210917/k00/00m/040/287000c?utm_source=newsshowcase&utm_medium=gnews&utm_campaign=CDAqEAgAKgcICjDH194KMOS91gEwh_Id&utm_content=rundown

小学5年生だった最愛の娘は補聴器をつけて懸命に生きていた。勉強や学校行事に励み、家族を気遣う心優しい子だった。「障害を理由に差別しないでほしい」。交通事故で娘を失った両親が、事故を起こした運転手や当時の勤務先を相手に民事裁判を続けている。問われているのは、「命の価値」だ。

 7月7日、大阪地裁。大阪府豊中市の会社員、井出努さん(48)と妻さつ美さんは支援者とともに、9箱に及ぶ段ボール箱を運び込んでいた。2人の思いに賛同し、各地から寄せられた10万筆を超える署名が詰められていた。


 「この署名はただの紙切れじゃない。同じ障害を持つ人たちの悔しい思いがたくさん込められている」。努さんは目を潤ませながら訴えた。

事故当日と同じ赤いコートを着る井出安優香さん=遺族提供拡大
事故当日と同じ赤いコートを着る井出安優香さん=遺族提供
 2018年2月1日は普段と変わらない朝だった。大阪府立生野聴覚支援学校(大阪市生野区)に通っていた長女の安優香さん(当時11歳)の通学に付き添い、電車に揺られていた。「もう2月だから何かあるのかな」。努さんが中旬に迫るバレンタインデーをほのめかすと、安優香さんは手話で「ナイショ」と返してはにかんだ。娘の成長を感じていた。


変わり果てた愛娘
 そんな幸せな日常はわずか半日後に崩れ落ちた。泣き叫ぶ妻の電話で大阪市内の病院に駆けつけた努さん。目に飛び込んできたのは、変わり果てた安優香さんがベッドで応急処置を受ける姿だった。

 努さんが名前を何度呼んでも反応はなく、目にはうっすら涙を浮かべていた。痛かったのだろうか、怖かったのだろうか。あの時の娘の表情は忘れられない。


事故直後の現場の様子。信号待ちしていた井出安優香さんらに重機が突っ込んだ=大阪市生野区で2018年2月1日午後4時56分、貝塚太一撮影拡大
事故直後の現場の様子。信号待ちしていた井出安優香さんらに重機が突っ込んだ=大阪市生野区で2018年2月1日午後4時56分、貝塚太一撮影
 悲劇は1日午後4時ごろ、学校近くの交差点で起きた。下校途中に信号待ちをしていた安優香さんや同級生、教諭の計5人は、暴走して歩道に突っ込んだ重機にはねられた。他の4人は重傷を負った。

 運転手の男性(38)は持病を隠して運転免許を更新し、事故時は発作で意識を失っていたことが判明。「事故を起こす危険を軽視していた」として懲役7年の実刑判決を受け、今も受刑中だ。安優香さんの両親は刑事裁判後の20年1月、運転手と当時勤務していた建設会社に計約6100万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴した。


「将来はすてきなお母さんに」
 両親が裁判で突き付けられたのは、障害者に対する認識のずれと、健常者との「格差」だった。

亡くなった井出安優香さんが聴覚支援学校の幼稚部時代に書いた活動記録。しっかりとした字で当時の思い出を記している=大阪府豊中市で2021年8月11日、梅田麻衣子撮影拡大
亡くなった井出安優香さんが聴覚支援学校の幼稚部時代に書いた活動記録。しっかりとした字で当時の思い出を記している=大阪府豊中市で2021年8月11日、梅田麻衣子撮影
 安優香さんは生まれつきの難聴だったが、補聴器をつければ生活に支障はなかった。4歳から聴覚支援学校に通い、手話や発音の練習に励んで言葉を覚えた。英語の読み書きにも熱心に取り組んでいた。

 幼い頃は引っ込み思案だったものの、年を重ねるにつれ人前であいさつできる社交的な女の子になった。努さんは「安優香は努力家でね。本当に頼もしくなってきたなって感じていた」と言う。文化祭では最もセリフの長い役どころを任され、家では何度も台本を読み込んでいたという。

井出安優香さんが聴覚支援学校の小学部時代に解いた算数のプリント。名前はローマ字で書かれている=大阪府豊中市で2021年8月11日、梅田麻衣子撮影拡大
井出安優香さんが聴覚支援学校の小学部時代に解いた算数のプリント。名前はローマ字で書かれている=大阪府豊中市で2021年8月11日、梅田麻衣子撮影
 料理を作ることが大好きだったという安優香さん。「将来はすてきなお母さんになりたい」。家庭ではこんな言葉を口にし、パート勤務の母親に代わってうどんなどを家族に振る舞っていた。

 両親側は訴訟で、年齢相応の学力もあった安優香さんは大学に進学し、将来的には民間企業に就職していた可能性が高いと主張。健常者と同じように働けたとして、賠償額のうち将来得られたはずの収入「逸失利益」を全労働者の平均賃金で算出し、約3500万円に設定している。

埋まらぬ認識のズレ
 逸失利益は「命の値段」とも呼ばれ、損害賠償額を導き出す柱の一つに位置づけられている。障害者を取り巻く就労環境は法整備などで改善しつつあるが、裁判では障害児の逸失利益が健常者に比べて低く提示されることが少なくない。

 被告側は「聴覚障害者が健聴者に比べて思考力や言語力の習得が困難で、健聴者と同等の労働価値を生み出すことはできない」と反論。聴覚障害者の平均賃金(全労働者の平均賃金の約6割に相当)を基礎に算出すべきだと訴えている。安優香さんには重度の聴覚障害があったとして、当初は一般女性の平均賃金の4割とさらに厳しい額を示していた。事故の過失は認めている。

公正な判決を求める10万筆超の署名を提出するため、大阪地裁に向かう井出努さん(後方左から2人目)ら=大阪市内で2021年7月7日、芝村侑美撮影拡大
公正な判決を求める10万筆超の署名を提出するため、大阪地裁に向かう井出努さん(後方左から2人目)ら=大阪市内で2021年7月7日、芝村侑美撮影
 努さんらを支援する公益社団法人「大阪聴力障害者協会」の大竹浩司会長(67)は「逸失利益はいまだに残る優生思想の一つだ。裁判所に障害者の切実な声を届けたい」と訴える。

 協会が21年5月に公正な判決を要望する署名を募ると、1カ月あまりで10万1685筆の賛同が寄せられた。地裁に提出以降も追加で署名活動を続けている。

 「私たちは娘の11年間の努力を、生きてきた証しを正当に評価してほしい」と求める努さん。裁判は長期化する可能性もあるが、今は安優香さんと同じ障害を持つ人たちの支えがある。

 そして、「お守り」もある。事故から半年たって自宅に戻ってきた安優香さんの補聴器。努さんはいつも胸ポケットにしのばせ、何度も語りかけている。「パパ、頑張るね」と。

「裁判所は柔軟に判断を」
亡くなった井出安優香さんの思い出を振り返る井出努さん。安優香さんの机は今も大切に残されたままだ=大阪府豊中市で2021年8月11日、梅田麻衣子撮影拡大
亡くなった井出安優香さんの思い出を振り返る井出努さん。安優香さんの机は今も大切に残されたままだ=大阪府豊中市で2021年8月11日、梅田麻衣子撮影
 障害児の逸失利益に対する司法判断は、障害者雇用の推進や人権意識の高まりを背景に改善しつつある。ただ、健常者と同等に算出されたケースはほとんどなく、専門家は「裁判所は障害者という枠組みにとらわれず、個々の生活状況に応じて柔軟に判断すべきだ」と訴える。

 就職の実績がない障害児はそもそも「労働能力」が低いとみなされやすいとされる。裁判では被告側が逸失利益をゼロと主張する事例も少なくないが、障害者の社会進出を後押しする障害者雇用促進法の改正などを受け、裁判所の判断には変化がみられる。

 大阪府豊中市で2015年、障害児支援施設からいなくなった重度の知的障害がある男児(当時6歳)が死亡した事故。施設側は障害年金を踏まえた逸失利益を主張したが、大阪地裁が17年に全労働者の平均賃金の8割を基礎に算出する案を示し、遺族側との和解が成立した。

 19年の東京地裁判決は、施設から行方不明になって亡くなった知的障害の少年(当時15歳)の逸失利益について、「障害者雇用政策は大きな転換期を迎え、知的障害者の就労の可能性を否定するのは相当ではない」と指摘。19歳以下の男女の平均年収から算出する判断が示されたこともある。

 立命館大の吉村良一名誉教授(民法)は「障害があってもなくても平等に暮らせる社会を目指す中、裁判所が率先して差別的な判断を改める姿勢を示すべきではないか」と話す。【芝村侑美】

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