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生活保護者の集いコミュのなぜ、「障がい当事者のつくるメディア」が社会を元気にするのか?

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https://news.yahoo.co.jp/articles/090ef777c65544a51dd3fea05d39a66f7fcfc291?page=1

カラフルな表紙に、笑顔の女性の写真。キャッチーなコピーや特集タイトルが躍る雑誌「Co-Co Life☆女子部」。一見、一般のファッション誌のようだが、実はこの雑誌に登場するモデルは全て「障がい」や「難病」の女性たち。記事を執筆しているライターも障がいや難病の当事者だ。キャッチコピーは、「こころのバリアフリー&ビューティーマガジン」。いったい、どのような人たちが、どういう意図で制作しているのか? その発行元を「オリイジン」が取材した。(ダイヤモンド・セレクト「オリイジン」編集部)

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 *本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティ マガジン 「Oriijin(オリイジン)2020」からの転載記事「ダイバーシティ」が導く、誰もが働きやすく、誰もが活躍できる社会」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。

● 一度は資金が尽きて休刊。東日本大震災を機に復活

 来年2022年に創刊10周年を迎える「Co-Co Life(ココライフ)☆女子部」――まずは、創刊のきっかけを、この冊子(以下、メディア、媒体)の発行元であるNPO施無畏(せむい)*1
の代表理事・遠藤久憲さんに聞いた。 *1 「施無畏(せむい)」は、仏教用語で「畏(おそ)れること無く、施(ほどこ)す」の意味。NPO施無畏は特定の宗教とのつながりはない(仏教系ではない)が、この言葉を気に入った「Co-Co Life」初代発行人が「施無畏(せむい)」とネーミングした。団体は2006年の設立で、今年2021年に15周年を迎えた。

 遠藤 2007年に創刊した“障がい者向けの有料雑誌”「Co-Co Life」は、障がい当事者全般を読者ターゲットとし、内容はユニセックスなものでした。一般誌のクオリティーを実現しつつ、「障がい者向け」の個性的なメディアだったと自負していますが、紙メディアを継続するための資金的ハードルを越えられずに3年で休刊(2011年1月)。そして、休刊後すぐに東日本大震災が起きました。震災で、「情報提供の必要性」「社会的弱者の支援」「ロールモデルの必要性」など、私はさまざまなことを考えました。何よりも、メディア人として、「読者の笑顔をつくる」ミッションを感じました。「Co-Co Life」休刊以来、ずっとモヤモヤした気持ちで過ごしていたのですが、東日本大震災を契機に、「やるべきことは障がい者メディアの再発刊」だと改めて決意したのです。

 当時、新聞社に勤めていた遠藤さんは、媒体のアートディレクターを務め、編集・ライタースクールでの講師役も担うなど、「メディア」への造詣が深く、その知見と情熱を障がい者向けマガジン「Co-Co Life」に注いだ。当初から現在まで媒体の制作にはボランティアで加わり、500名を超える障がい者を取材したという。

 遠藤  「Co-Co Life」の失敗教訓を生かし、再創刊ではまずは何より読者に届けやすくしようと思いました。そこで「フリー(無料)メディア」にすることを決意。フリーメディアでやるからには、読者ターゲットを絞り、とんがるしかないと。とんがることで、読者の熱い支持を獲得する見通しを立て、媒体を継続していくための戦略を立てていきました。そこで「Co-Co Life☆女子部」という雑誌名に改称し、女性をターゲットにしたのです。「障がい者向け」の誌面の中で、「おしゃれ」を大切にして、ファッションやメイクなどの情報を掲載し、一般的な女性誌と遜色ないメディアとしてリ・スタートしました。「女子部」創刊号の発行は2012年8月でした。

 有料誌からフリー(無料)メディアへの転換、それに伴うターゲットとテーマの絞り込みで新たな船出をした「Co-Co Life☆女子部」。その企画から制作過程において、特に苦労した点は何か。

 遠藤 「当事者がつくるメディア」というコンセプトで、障がい当事者を誌面づくりのスタッフに据えたのですが、スタッフ教育の部分では苦労しました。発信したい思いはあるものの、仕事でメディアづくりなどは全くしたことがないスタッフばかり。一般的な女性誌と遜色ないレベルに雑誌を仕上げるために時間がかかりましたね。スタッフも、泣きながら何度も原稿を書き直したりしました。メディアづくりのプロにはできない、読者の気持ちが分かる「当事者がつくる」というところにこだわったのです。

 創刊から10年あまりがたった現在では、読者は障がい・難病の当事者やその家族、支援者へと広がり、事業に共感した編集・ライター・写真・デザインなどのプロも制作チームに加わっているという。また、「SNSで発信するのが好き」「書くのが好き」といったスタッフを集めて、執筆の技術や、著作権・個人情報保護法に関するレクチャーを行うなど、スタッフ教育も欠かさず行っている。フリー(無料)メディアなので販売収入のない「Co-Co Life☆女子部」だが、前身の「Co-Co Life」で腐心した「資金的ハードル」は越えられているのか?

遠藤 媒体の発行において、必要資金の確保には苦労しました。創刊当時は、発起人によるシードマネー*2
と、個人協賛・団体協賛、誌面への広告掲載という3つが資金源でした。発行して間もない頃から現在まで、テレビや新聞などではよく「Co-Co Life☆女子部」が取り上げられ、読者サポーターは順調に増えて来ましたが、スポンサーの獲得には苦労しました。経費削減のため、創刊時はカラー24ページだったものを、途中からカラー16ページに縮小して、発行継続を優先しています。いま現在は、ユニバーサルデザインのコンサルティング(企業による商品開発の支援)、フランチャイズ化(地方版の発行)、外部での講演・執筆、人材紹介のコーディネート、公益団体による助成金の活用など、さまざまな資金源を持って運営している状況ですが、決して安泰ではなく、団体を回していくのに精いっぱいというのが正直なところです。 *2 新しいビジネスやプロジェクトを始めるときやその準備段階において必要となる資本のこと

● 取材する側も取材される側も障がい当事者がメイン

 「Co-Co Life☆女子部」を発行し、無料配布するにあたって、「編集部」による制作体制はどうなっているのだろう? NPO施無畏の副理事長で、「Co-Co Life☆女子部」編集部のエディター・ユニバーサルデザインコーディネーターを務める守山菜穂子さんに現在の状況を聞く。

守山 取材対象者となる読者モデルやインフルエンサーは、基本的に障がい・難病の当事者*3
です。そして、取材する側のライターも、障がい・難病の当事者で、「発信したい」という思いがある人たち。執筆実績がなくても、書きたい・取材したい思いがある人を発掘し、育成しています。一方、雑誌づくりに関わるフォトグラファー・デザイナー・レタッチャー・編集者、組織運営者などは、おおむね、実績のあるプロの方々にボランティアか薄謝でご協力いただいています。プロたちは、自身に持病があるとか、家族に障がいの人がいるとか、あとは社会貢献の意識が高い方、発行意図に共感してくれる人などです。 *3 障害者手帳の取得有無は問わず、グレーゾーンを含む。記事監修の有識者などは障がい当事者とは限らない。

 オンライン(ネット記事)での発信とは異なり、紙媒体(フリーペーパー)の発行には印刷・製本といった制作過程もあり、遠藤さんが危惧するような、多くのコスト(金銭と時間)がかかっていく…。

 守山  媒体発行のスポンサーや、担当の印刷会社は、障がい者の社会進出を応援している企業・団体です。編集費用、雑誌配送の費用など、さまざまな面でご支援をいただいています。

 「Co-Co Life☆女子部」の誌面は、とても丁寧に手間暇かけてつくられていることが読者目線から分かり、障がい当事者である読者にとことん寄り添う姿勢がうかがい知れる。媒体には確かな編集方針があるようだ。

 守山 まず、読者に対して、「家に引きこもっていないで、出かけよう!」というメッセージを伝えるために、「出かけたくなる情報」を掲載しています。障がい当事者が気軽に出かけることのできる場所が、ハード(設備)・ソフト(サービス&人)の両面において、日本にはたくさんあるので、それをまず情報として提供したいですね…と、これが、コロナ禍前の基本的なスタンスだったのですが、コロナ禍においては、室内やオンラインでできることの記事も増やしました。実例としては、「身体の可動域が限られている人でも、自分でできるストレッチ」ですとか、障害年金などを含めた「お金」の特集。また、自宅で落ち着いて楽しむことのできる「障がい・難病を扱ったマンガ」「障がい・難病のYouTuber・インフルエンサー」の特集などです。覆面トークで当事者界隈の話題を斬る「座談会」も、オンラインでのやりとりをもとにつくっています。

● 読者同士がつながり、読者が出演者として輝いていく

 編集スタッフとともに執筆を行う障がい当事者が、媒体出演者と読者をつなげる「Co-Co Life☆女子部」――そうした多数の人の交じり合い(コラボレーション)の中で印象的なことを、現編集長の土井唯菜さん*4
に聞いた。 *4 土井唯菜さんは大学で舞台芸術におけるファッションを学び、現在は洋服お直しの会社でマネジャー職を務めているという「洋服のプロ」。「編集長」という肩書でありながら、実務的には読者代表、コミュニティーマネジャーのような役割も担っている。

土井 私が初めて「Co-Co Life☆女子部」に関わったのは、2016年、NHKのテレビ番組主催で行われたダイバーシティ系のファッションショーの時でした*5
。「Co-Co Life☆女子部」から、障がい当事者の女性20人がモデルとして出演し、ランウェイを歩いたんです。私はスタッフに応募し、ショー現場のお手伝いをしました。たくさんの障がい当事者がおしゃれをして、明るく楽しくしている姿を見て、「なんて素敵な世界なんだ」と感じたのが「Co-Co Life☆女子部」の第一印象です。 *5 番組企画の「バリコレ2016」ファッションショーに「Co-Co Life☆女子部」のモデルたちが出演した。→NHK「バリコレ2016」ファッションショーに、「Co-Co Life☆女子部」が出演! 「Co-Co Life☆女子部」バリコレモデル達をご紹介します!

土井  そこから、スタッフとして本誌編集にも関わっていたのですが、3年後に編集長を拝命しました。2019年に「Co-Co Life☆女子部」の読者ファンミーティングを開催したとき、編集長として初めてたくさんの読者と一度にお会いし、「いつか誌面に載りたいです!」と言ってくれる方が多くて、とてもうれしかったですね。実際、ファンミーティング*6
でお会いできた読者の方に、後日、お声をかけて雑誌の表紙に登場する読者モデルをしていただいたこともあります。 *6 読者イベントとしてのファンミーティングには39人の読者が参加し、その場で、土井唯菜編集長の就任が発表された。→10月5日にファンミーティングをおこないました! ファンミーティングの動画はこちらから→昨年のファンミーティングが動画になりました!

 土井 現在は新型コロナウイルスの影響もあって、複数人で集まる企画や取材がなかなかできないのですが、恒例の人気企画「街散歩」や「座談会」は、いまでも基本的には障がい・難病の当事者、何人かに集まってもらって実施しています。撮影の現場で、初めて会う読者同士が仲良くなって、LINE交換したり、一緒に写真を撮ったり。撮影後も一緒にお買い物やお茶しに行ったり…と、当事者同士のつながりができるのは、とてもいいなと思っています。

 読者同士がつながることで「Co-Co Life☆女子部」はさらにファンを増やし、フリーメディアとしての魅力を増しているようだ。エディターの守山さんにも印象的なことを尋ねた。

 守山 いちばん楽しいのは、家族に後押しされてオドオドと撮影に来た障がい当事者の女の子が、プロによるヘアメイク、本格機材によるシューティング(撮影)を重ねるうちに、「モデル」に変身する瞬間を目の当たりにすることです。その人の持っている真の美しさ、生きる力、エネルギーのようなものが、撮影現場でいきなり開花することがよくあります。「バリバリと音を立てて剥けていく!」「パーンとキラキラが弾ける!!」みたいな感じで…そういうシーンは本当に見ていてワクワクするし、感動しますね。来た時と帰り道で読者(出演者)の表情が全く違うので、家に帰ってご家族がびっくりすることもあるようです。その日が、その人の人生の転機になったとしたら、編集者冥利に尽きるというものです。

 また、読者イベントや撮影会で、10代や20代の読者同士が仲良くなっておしゃべりしているうちに「私ももっとおしゃれしたい」「もっとかわいくなりたい」「恋愛したい!」「お出かけしたい!」「人生を楽しく送りたい!」と、欲(=生きるエネルギー)がグッと出てくる瞬間があって、それも見ていてすごくうれしいですね。「みんな若いのに、いままで我慢を重ねて生きてきたんだなぁ」「これからは生きたいように生きればいいんだよ」と思いながら応援しています。
● コロナ禍によって、最低限の集合以外は全て中止に

 新型コロナウイルス感染症の拡大が「Co-Co Life☆女子部」の制作に与える影響や読者にもたらす「困りごと」は何だろう?

 守山 当団体は、雑誌の発行を核に、障がい当事者やその家族が気軽に集まっておしゃべりでき、友達を作れるという「コミュニティー機能」を非常に重視してきました。読者モデルが集まる取材・撮影の日は大いに盛り上がり、本誌発行後には、毎回、関わった人を集めて「打ち上げ」を開催。また、年に数回、数十人を集めてのファンミーティング、ファッションショー、スナップ撮影会、合コンイベント、各種勉強会など、多彩な「友達を作る機会」を提供してきたんです。

 しかし、読者は、持病の影響などで感染リスクの高い人が特に多いため、コロナ禍において、撮影などの最低限の集合以外は全て中止としています。現在はオンラインイベントの開催、SNSの積極的な投稿などで補完している状況ですね。コロナ禍で、日頃よりさらに体調が不安とか、人に会えなくて孤独感を強めている、職を失ったという読者もいて、編集部のみんなで心配しています。来年2022年に「Co-Co Life☆女子部」は創刊10周年を迎えるため、感染症対策に留意しながら記念イベントを開催する予定ですが…。

 NPO施無畏の「バリアフリーという言葉がいらない社会の実現に向けて」というミッションとともに、「Co-Co Life☆女子部」は10年にもおよぶ長期間の情報発信を続けている。その過程における“社会変化”を守山さんはどう見ているのか――。

 守山 実はよく、このご質問をいただくのですが、私は「2013年9月7日」を起点に見ています。この日、アルゼンチンのブエノスアイレスで行われた国際オリンピック委員会(IOC)総会で、イスタンブール(トルコ)、マドリード(スペイン)に競り勝ち、2020年のオリンピック・パラリンピックが東京に決まりました。日本中が、「東京オリンピック」に沸きましたが、「東京パラリンピック」に言及している人はわずかだったと記憶しています。「パラリンピック」に関する報道も、ほぼ皆無の状態でした。

 当時、「Co-Co Life☆女子部」は創刊2年目で、編集に参加していた私は「東京で、本当にパラを開催できるのか?」と疑問に思いました。その後、2016年4月に「障害者差別解消法*7
」が施行。この法律は、オリパラ開催を前提にしたものだと思います。この頃、法認知のためのシンポジウムやセミナーが増え、東京都内のバリアフリー対応も急速に進みました。当団体(NPO施無畏)も法関連で、数多くの講演・イベント登壇の機会をいただきました。 *7 「障害者差別解消法」は、全ての国民が、障がいの有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障がいを理由とする差別の解消を推進することを目的としている(厚生労働省ホームページより)。正式名称は「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」。

 守山 同じく2016年頃から、東京都の啓蒙活動や、オリパラ公式スポンサーの企業広告などで、パラリンピックのトップアスリートのビジュアルが、大きく世に出るようになりました。街頭の大型ビジョン、山手線や都営地下鉄などの電車内での広告、テレビCM、オリンピックを盛り上げるためのイベント、テレビ番組など…パラの露出が急速に増えたのです。そうした動きとともに、障がい者ダンサーやミュージシャン、ファッションモデルなどのパフォーマー、障がいやバリアフリーの専門家・有識者もステージに立つ機会が増え、当団体もたくさんの障がい者インフルエンサーをキャスティングし、ステージに立っていただきました。

 2018年には、「障害者雇用促進法*8
」が改正施行され、企業の障がい者雇用もさらに進みつつあります。「SDGs」「ダイバーシティ」が企業間のトレンドワードとなり、世界全体が社会的課題の解決に積極的に動きだしている傾向も見られますね。 *8 「障害者雇用促進法」の正式名称は「障害者の雇用の促進等に関する法律」。2018年4月の改正で、障害者雇用促進法が適用される従業員数の引き下げと障害者の法定雇用率の段階的引き上げがなされた。

 守山 実は、当団体では、2018年頃から、障がい当事者が働きやすいように全ての業務をクラウド化し、自宅から移動しなくても会議に参加できるよう、オンライン会議システムも導入していました。そんな中、コロナ禍によって、世界全体がリモートワークを推進するようになり、オンラインでのイベント開催やYouTubeの隆盛が起こりました。これは、障がいや難病の当事者が「体調や通勤・移動を気にせず、普通に社会参加できる時代」が一気に来たということなんです。本当に驚くべきことで、ダイバーシティに大きく貢献する流れだと思いますね。

 現時点で、パラリンピックが本当に開催されるのかは分かりませんが、少なくとも、パラリンピックの準備や、それを社会で受け入れるための各所での「覚悟」といった感覚が、障がい者の社会進出を発展させたのは間違いありません。この黄金の数年間は、日本のダイバーシティ史に刻まれるかもしれませんね。そして、パラリンピック以降の各国の施策、社会的トレンド、技術革新などで、「バリアフリーという言葉がいらない社会」も、明らかに近づいていると感じます。

● 「ダイバーシティ&インクルージョン」のあるべき姿は?

 障がいの有無にかかわらず、変わりゆく社会情勢の中で一人ひとりが個性で輝いていくことの大切さ。それを「Co-Co Life☆女子部」の誌面や守山さんの言葉から再認識できる。NPO施無畏の理事・扇強太さん*9
は、同団体のあり方を次のように説明する。 *9 扇強太さんは大手製薬会社で営業部エリアマネジャーを務めたのち、その、典型的な「大手の企業人」「男性社会」の世界を飛び出し(早期退職し)、NPO施無畏の専任スタッフに飛び込んだという経歴を持っている。

 扇 当団体の業務では「配慮はするが、遠慮はしない」という姿勢を大切にしています。たとえば、障がい当事者にも公平に、原稿の執筆、団体事務など一定の役割や責任を与えます。その遂行のプロセスをよく見て、できたら褒め、できなかったら単なる叱責ではなく、理由→課題→対応策というPDCAを回しています。一般企業で若手を育成するのと同じですよね。

 「バリアフリー」には、権利もありますが、義務もあります。健常者と区別せず、障がいによって「できないこと」ではなく、「できること」に着目する。仕事を任せて、同じ土俵に立ってもらう…ということは、下駄を履かせず、同じ基準で評価もするわけです。ただ、そうはいっても、障がいや難病ゆえに社会経験や就業経験が少ない・ない人も多く、それは明らかなハンデです。特に業務が重なったときなどは優先順位がつけられず、多少パニックになる傾向がありますが、同時並行でたくさんのプロジェクトが動く「仕事の現場」にいた経験がそもそも少ないんですね。経験の有無は、本人だけではなく社会の問題でもあるので、配慮、サポートしながら人を育成するのが大切だと思っています。

 NPO施無畏の理事で「Co-Co Life☆女子部」の副編集長を務める関由佳さん*10
が、扇さんの言葉を受けて、編集部の様子を教えてくれた。 *10  プロのライターでもある関由佳さんは、幼い頃から知的障がいの叔母と同居していた経験がある。また昨年2020年、連れ添ったご主人を病気で亡くし、現在は看取り関連の執筆を精力的に行っている。

 関 編集部でスタッフと仕事をするときは、「障がい者」と「健常者」という線引きをあまりしていません。障がいの有無に関係なく、お互いに得意なことは生かして、苦手なことはサポートし合える体制を作っています。できないことを「できない」と言える環境は、意外と一般の職場では難しいことのように思うんですね。でも、「Co-Co Life☆女子部」ではそれを当たり前にしています。特別にそれが「理想」の姿だと思って実践しているわけでもないのですが、自分を含めたみんなが働きやすい環境にするために、常にフラットな目線を意識しています。

 「ダイバーシティ&インクルージョン」という言葉が先行し、多くの人がその理念や姿勢を追い求めがちだが、「Co-Co Life☆女子部」をつくるNPO施無畏のメンバーには、“過剰な力の入れよう”は見当たらない。

 守山 私自身には、「(ダイバーシティ&インクルージョンの)理想を語る」というような気負いはあまりありません。それは、「ダイバーシティ=当たり前」という感覚が以前からあるからでしょう。理由は、自分では3つ思いあたります。

 一つめは、私が美術大学の出身で、個性が強い学生たちと長い時間を過ごした経験です。教授陣からも、事あるごとに「他の人と違うことをせよ」と言われ、個性や独自性についてとことん考え、制作の手を動かし続けた4年間でした。

 二つめは、社会に出て、広告会社・出版社に16年間勤めたこと。芸能界、多様なクリエイターや作家さん、ファッション業界の人たち、そして、LGBTQの方々と長く仕事をしました。芸能やメディアの業界では、個性や独自性は重要視されますし、奇抜であることも基本的に称賛されます(笑)。昔からゲイであることを表明しているクリエイターさんも多いですね。私にとって、「多様性」と「ワクワク」は同義語でした。

 三つめは、私の家族には障がい者がいて、また、末期がんの父を看取った経験があることです。さらに自分自身も病気や手術を経験して、障がいや難病はいつも人生の隣り合わせにあると感じています。

 「Co-Co Life☆女子部」のスタッフとしてこの団体に加わったときは、確かに「障がい当事者の、かわいい女子の集団とは、珍しいな」と驚きました。でも、いまは「いろんな人が世界にいるなあ」という程度の感覚です。障がいや難病の当事者の中で、飛び抜けて面白い人、言葉が強い人、珍しいことをしている人、個性が強い人などを見つけ出し、「面白い人がいるよ」と世間に紹介するのが、私は好きなんです。「Co-Co Life☆女子部」が、ダイバーシティ界の旗印として、憧れの存在になれたらうれしいですね。

 ※本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティマガジン「オリイジン2020」からの転載記事「ダイバーシティ」が導く、誰もが働きやすく、誰もが活躍できる社会」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。

ダイヤモンド・セレクト「オリイジン」/福島宏之

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