ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

生活保護者の集いコミュの生活保護から脱却したい「車椅子の歌姫」が闘う、貧困の罠

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
https://diamond.jp/articles/-/269622

生活保護で音楽活動、
そして自立へ
朝霧裕さん
朝霧裕さん。筋萎縮症が年々進行する中、歌声は深みを増す。マイクは生活保護では経費として認められないため、2020年の特別定額給付金で購入した
 先天性の筋委縮症を持つシンガー・ソングライターの朝霧裕さんは、「車椅子の歌姫」として知られている。朝霧さんの毎日は、作詞作曲、イベント企画、エッセイ執筆、講演、自分が生きて暮らすための介助のマネジメントなど、有償無償の多様な“仕事”で忙しい。朝霧さんが生きて暮らすことを約20年にわたって支えてきているのは、生活保護だ。

 その朝霧さんは、「自分の収入によって生活保護を脱却できれば」という長年の夢の達成に、今、近づこうとしている。

広告

 生まれたときから介助を担っていた母に「祖父母とのトリプル介護をさせたくない」という思いが、朝霧さんを生活保護と単身生活へと踏み切らせた。1日24時間の介助を必要とする朝霧さんは、単身生活の最初の数年間を落ち着いた日常生活のために費やすこととなった。

 妨げとなっていたのは、「生活保護の障害者らしく」というイメージを押し付ける一部の介助者であったり、生活保護叩きへの引け目であったりした。いずれの課題に対しても、解決には介護事業所や福祉事務所の理解と協力が不可欠だった。

 もちろん、生活保護制度の「できることはしてほしい」というポリシーは、朝霧さんに対しても適用される。暮らしが安定すると、就労指導が行われた。しかし、パートタイムで事務職として働き始めた朝霧さんは、通勤と就労によって健康を損ね、入院生活の中で「自分の命と時間を何に使うべきなのか」と、真剣に考えた。福祉事務所にとっても、医療費が就労収入の10倍に達する場合もある状況は“お得“ではない。

 朝霧さんは、就労のための就労を断念し、自分でなくてはできない活動に打ち込む決意をした。

福祉からビジネスへ
自分から始まる小さな「革命」
 朝霧さんはもともと、執筆や音楽活動を仕事として考え、真剣に取り組んできた。しかし、音楽活動で報酬を受け取ることは少なかった。

「福祉業界は全体的に資金力が強くなく、仕事として成立する謝礼をいただけることは少ないです。障害者の才能を生かした事業は、仕事として成り立たせるのが非常に難しいと思います」(朝霧さん)

広告

 福祉の世界にいた朝霧さんを変えたのは、2020年、女性起業家たちとの交流が始まったことだった。

「サポートミュージシャンや音響さん、支えてくださる方々に、謝礼や交通費をお支払いしたいです。オンラインコンサートなら、良い通信条件で行いたいです。そう考えるうちに、『私が、お金と向き合わなくては』と気づきました」(朝霧さん)

 朝霧さんは、コンサートを無料ではなく有料で配信したり、講演を依頼されたときに報酬を相談したりする取り組みを始めた。

「小さいところから、1つずつ……『少し結果が出せた月もある』というところです」(朝霧さん)

 朝霧さんのご厚意で、昨年度からの月々の就労収入の情報をご提供いただいた。それをグラフ化すると、以下のようになる。

生活保護のもとで働いても
悲しくなるほど増えない手取り
 前ページのグラフのうち、紺色の線は、月々の保護費(生活費+家賃補助)だ。重度障害者である朝霧さんには、生活費に障害者加算がある。また屋内でも車椅子を利用するため、家賃補助に「特別基準」が適用される。もっとも、生活保護で暮らす障害者の暮らしは、健常者以上に圧迫されがちである。

 青色の線は、就労収入である。朝霧さんは、多い月には19万円を上回る収入を得た。ここから経費を減じ、さらに収入に応じた金額が収入認定(召し上げ)される。水色の線は、収入認定される金額である。紫色の線は、収入認定された後、手元に残った金額を加えた生活費である。

 収入をヒタヒタと追いかけてくる収入認定金額、そして生活保護費におおむね貼り付いたままの収入。石川啄木は「働けど働けどなおわが暮らし楽にならざり」と詠んだ。1970年代以後、所得税の累進性の強さが問題にされたのは、高額所得者の重税感からである。明治時代の啄木や現在の高額所得者と比べて、生活保護で暮らす人々が「ラクをしている」と言えるだろうか。

 さらに経費にも、生活保護ゆえの制約がつきまとう。「最低限度の生活」と「自立の助長」の間には、一定のマージンが存在するのだが、あまりにも狭すぎる。自営やフリーランスの場合は、生活保護ではない同業者よりも不利な条件で、同じ土俵で勝負することを余儀なくされる。朝霧さんの場合も、認められた経費は共演者やサポーターへの一定範囲の謝礼、および「間違いなく就労のために使用した」と言える通信費程度だった。

 朝霧さんの「いつか、自分の収入によって生活保護からの脱却を」という希望を妨げているのは、「貧困の罠」と呼ばれる仕組みだ。

 低所得層に対する現金および現物支援を受けるためには、「低所得である」という条件をクリアする必要がある。その支援によって低所得状態から脱すると、支援がなくなり、自己負担が増す。結果として、以前よりも低所得になるかもしれない。これが「貧困の罠」であり、社会保障の宿命のようなものである。

生活保護の収入認定は
「貧困の罠」そのもの
 生活保護の収入認定の仕組みは、一度生活保護で暮らし始めた人々を永遠に「生活保護の世界」に閉じ込める「貧困の罠」そのものだ。とはいえ、朝霧さんは希望を奪われているわけではない。

「ここでは、多数の障害者が生活保護で暮らしています。市全体として、生活保護や福祉制度についての理解が深く、先駆的ではないかと感じています」(朝霧さん)

 朝霧さんの居住地、関東地方A市の福祉事務所とケースワーカーは、非常に柔軟に制度を運用しているのだろうか。筆者は幸いにも、朝霧さんの暮らすA市福祉事務所の現職ケースワーカーから話を聴くことができた。

 A市の業務は、どのように進められているのだろうか。

「当事者の方々を最もよく知っているのは、担当ケースワーカーです。まず、定期訪問を行って、お話を聞いたり暮らしぶりを拝見したりして、理解します」(A市ケースワーカー)

 社会福祉法では、ケースワーカー1人あたり80世帯が標準とされている。標準数がおおむね守られていれば、1年あたり2回以上の訪問調査を行うことには大きな無理はない。しかし、標準数を大きく上回って業務量が過多になっている福祉事務所は珍しくない。

「1人1人を理解し、次にどういう支援をしていけば『自立』につながるかという方針を立てます。ただ、それだけだと、担当者の裁量や担当者によるブレが大きくなりすぎるという問題もあります」(A市ケースワーカー)

 そして、組織として方針を統一し、上司にあたる査察指導員(係長相当)や課長の決済を経た上で、各個人に対する支援の方向性を確定する。

「負担が大きな福祉事務所では、不適切になることもあるかもしれません。この状況は、打破しなくてはならないと思っています」(A市ケースワーカー)

現状の生活保護に
隠された可能性とは
 それにしても、一般的には「夢を追うことは大事だけれど、別の仕事をして稼げるようになってから余暇で」という考え方が根強い。朝霧さんの現在は、障害者であることを考慮しても奇跡に見える。ケースワーカーは「そういう考え方もあるとは思いますが」と前置きして、次のように語る。

「『就労して自立』の手前には、『社会生活自立』『日常生活自立』『経済的自立』の3つの自立があります。その人の現状や能力に応じて、支援の方向性を組み立てます」(A市ケースワーカー)

「その人の現在のありようを支え、可能性を育てることによって、その人にとっての自立へ」という考え方は、生活保護制度が発足した1950年に内包されていた。以後、生活保護の歴史は、この方向性と、国家財政を理由とする費用削減論とのせめぎ合いの連続である。2004年、社保審の委員会が提唱した『社会生活自立』『日常生活自立』『経済的自立』の3つの自立は、生活保護制度の本来の意義と可能性の再定義だった。

 A市ケースワーカーは、「個人的な思いですが」と前置きして、次のように語る。


本連載の著者・みわよしこさんの書籍『生活保護リアル』(日本評論社)好評発売中
「今は働き方そのものが、多様になってきています。大企業に勤め、終身雇用されることは、安定的ではあると思います。それに越したことはないのかもしれません。でも、人間をそこに縛り付けるのは、違うと思います」(A市ケースワーカー)

 就労指導にあたっては、高すぎるモチベーションによって消耗しがちな当事者に無理をさせないよう心がける。新年度には引き継ぎを行い、当事者が「新しい担当者が誰なのか知らない」という事態を防ぐ。定期的に、日常業務を組織として見直してブラッシュアップする。そういう伝統が、先輩たちから少なくとも40年以上続いているようだ。

 当事者が納得する支援を行い、成果を挙げている福祉事務所の実態は、概して「当然のこと」の定着、そして形骸化による「お役所仕事」化を予防することに尽きている。

 コロナ禍の影響は深刻化するばかりだが、生活保護がある限り、日本は大丈夫なのではないだろうか。メーテルリンクの童話『青い鳥』ではないが、2021年の日本にある“資源“は、昭和や平成に生まれた私たちが思っているほど小さくないはずだ。

(フリーランス・ライター みわよしこ)

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

生活保護者の集い 更新情報

生活保護者の集いのメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。