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生活保護者の集いコミュの貧困と生活保護(36) 権力を背負ってケースワークができるか

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https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20160810-OYTET50020/

生活保護のケースワーカーは、貧困の問題を中心に福祉の仕事をする公務員です。福祉の仕事といっても、制度の企画や事業全体の運営ではなく、生活に困っている人と実際に接する現業の仕事です。そこには、経済的な給付を担当する面と、対人援助を行う面があります。


 生活保護の取材をしてきて感じるのは、ケースワーカーの多くは、行政職員という意識が強く、福祉の仕事という意識が低いのではないか、ということです。制度を適用して経済的給付を実施する行政職員という立場は、上からの目線になりがちです。それは、現代の社会福祉で基本になっている対人援助のスタンスとは違います。保護の停止・廃止まで含めた権力を背負いながら、本当にケースワーク(個別支援)ができるのでしょうか。

行政職員か、福祉の職業か

 ケースワーカーの多くに行政職員という意識が強い背景のひとつは、大半の自治体が職員採用のときに専門性を重視せず、人事異動にあたっても専門性を軽視している点にあります。一部の自治体を除いて、もともと福祉職の枠で採用された職員はわずかです。きのうまで住民登録や税金や健康保険の仕事をしていた事務系の職員が、本人の希望と関係なく福祉事務所へ異動し、十分な研修も受けないまま働いて、2〜3年たつと別の部署へ異動していくほうが一般的なのです。しかも生活保護部門は、自治体職員の間であまり好まれている部署とは言えず、「次の人事異動まで、しばらく我慢の期間」といった感覚の職員も少なくありません。むしろ、最初から生活保護担当として公募で採用された非正規のケースワーカーのほうが、福祉の職業という意識をしっかり持っている傾向があるようです。

 行政職員でも、たとえば街づくりのような分野では、柔軟な発想やアイデアが求められますが、法律・制度を適用していく分野では「しっかり管理する」「ミスをしないように」という発想が強くなることがあります。生活保護のように経済的給付を行う制度では、なおさらです。少なくとも、どこかで見破れるレベルの不正受給を見逃してはいけないので、管理の意識を持つのは当然かもしれません。

 ですが、「給付する」という立場と、「給付を受ける」立場は、上下関係になりがちです。法律上の権限は別にしても、人と人の間の力関係という意味で「権力性」を帯びるわけです。

社会福祉は同じ目線で支援

 一方、社会福祉の相談援助(ソーシャルワーク)は、上下関係ではなく、相手と同じ目線で支援することを重視します。いわば水平の位置関係での支援です。このスタンスは、社会性と並んで、ソーシャルワークの生命線です。

 古くは欧米でも、貧困状態にある人々について、本人の生活態度に問題があるとみて、上から指導するようなアプローチをした時代があったのですが、やがて、スタンスが変わってきました。

 実は、「援助する」という立場も、「援助される」立場の人に対して、上からの姿勢・意識になるおそれがあります。たとえ給付などの権限がなくても、人間関係のうえで権力を持ってしまう。支援者は、そのことを自覚して支援にあたる必要があります。

 生活保護法には「指導・指示」という用語が使われています。法律ができた1950年には、それが自然だったのかもしれませんが、現代の社会福祉の考え方からは、かけ離れた言葉です。

バイステックの7原則

 社会福祉の対人援助の古典に「バイステックの7原則」があります。ケースワークを行うときに、援助する相手と関係を築くための基本的な作法を、1957年に米国の研究者がまとめたものです。社会福祉に限らず、人とかかわるときの参考になります。少しかみ砕いて紹介しましょう。

<1>個別化=相手を一人ひとり、名前を持った個人としてとらえる。問題は人それぞれに異なり、全く同じ問題は存在しない。たとえば「脳梗塞で寝たきりの高齢女性」といった属性で判断しない。

<2>意図的な感情の表出=相手が自分の気持ちを抑えることなく、否定的な感情を含めて吐き出せるようにする。

<3>統制された情緒的関与=援助者は感受性を発揮し、共感などの態度を示す。ただし自分の感情を自覚してコントロールしながら行う。

<4>受容=相手の長所、短所を含めて、ありのままを受けとめる。言いなりになる必要はなく、社会のルールや市民道徳に反する行為を認めるわけではないが、頭から否定せず、どうしてそうなるのかを理解するよう努める。

<5>非審判的態度=相手を一方的に非難しない。自分の価値基準で裁いたり評価したりしない。その行為が問題解決のために良いか悪いかの判断は、相手自身にしてもらう。

<6>自己決定=相手の人格を尊重し、自分自身の考えや意思に基づいて決定し、行動できるよう援助する。

<7>秘密保持=プライバシーや個人情報を守る。

 以上の原則に反する言動や態度をとると、相手はいやな気分になり、よい関係を築けない。適切な援助にならないわけです。とくに個別化、非審判的態度、自己決定を意識する必要があるでしょう。

 ところが、生活保護担当の自治体幹部に尋ねても、この古典的な原則を知らないと言われたことが何度かあります。そういう初歩的な素養さえない人が、ケースワーカーとして働き、査察指導員として部下の指導にあたり、ときには課長までやっているのは、恥ずかしいことだと思います。

否定・強制されたら、人間は気持ちが落ち込む


 まだ若いんだから働きなさい、もっと仕事を探す努力をしなさい、酒をやめなさい、きちんと金銭管理をしなさい……。生活保護の申請者や利用者に、そういう趣旨の発言をするケースワーカーがけっこういます。そう言いたくなる状況は、あるのかもしれません。

 信頼関係を築いたうえで、親身になって、ていねいにアドバイスするなら、まだいいのですが、上から目線で言ってしまうケースワーカーがいます。すると、心理的に弱い状態にある申請者や利用者の場合、命令されたように、あるいは責められているように感じます。同じ「働けませんか?」という疑問文でも、口調や態度によって、受ける印象はずいぶん違います。

 人間は、自分を否定されたら嫌だし、指図や強制をされても嫌になります。「おまえはダメだな」「勉強しろ」と言われて喜ぶ子どもはいません。大人もそうです。

 日本社会には、厳しい態度で接するほうが本人のためだ、そうすれば本人が発奮する、人を甘やかしてはいけない、という思想が強く残っています。昔の軍隊がそうでした。今でも、運動クラブのしごきや職場のパワハラの底流に、そういう発想があると思います。

 けれどもふつう、厳しく言われた側は、気持ちが落ち込み、自己評価が下がります。そう簡単に前向きの意欲には結びつきません。生活の再建、生活の自立をめざすには、何よりも本人の気持ちが大切です。「どうせ自分なんて」と感じていては、前へ進めません。説教する、指図する、尻をたたく、責めるといったやり方は、心理的に逆効果になるのです。

肯定のアプローチで自尊感情、自己効力感を高める

 先にバイステックの原則を挙げましたが、その後も社会福祉の理論は、いろいろ発展してきました。たとえば、その人の短所やできない点ではなく、長所(ストレングス)を見つけ、そこに着目して生かしていくという考え方が出てきました。その人が本来持っている力を引き出す(エンパワメント)という考え方も登場しました。

 肯定のアプローチで、自尊感情(自分を大切にする気持ち)や自己効力感(自分も何かやれるという気持ち)を高めることが、現代的なケースワークの基本と言えるでしょう。

 単純に何でもかんでもやさしくしろ、と言っているわけではありません。不当な要求や悪質な不正には、 毅然きぜん とした態度が必要です。

 しかし一般的には、その人のよい点を見つける、親身になって自覚を促す、前向きの方向へ勇気づけるという接し方こそ、有効だということです。アルコールなどの依存症の場合も、そうです。否定されて自己評価が下がり、無力感が強まると、かえってアルコールなどに逃げたくなります。

 環境との関係も重要です。ここで環境というのは、その人を取り巻くすべてのこと。生活の場、仕事の場、人間関係、制度や事業の実情、社会のあり方などが含まれます。生活上の問題は、個人の内部だけでなく、周りの状況との関係で生じていることが多い。個人のありようと周りの状況には、相互作用がある。だから、その人が置かれた環境をよく検討して問題を理解する。よりよい生活にするためには周囲を変え、環境を変え、社会を変えることも大切だ。そのように考えます。周囲や社会にも働きかける活動をするから、ケースワークではなく、ソーシャルワークと呼ぶのが社会福祉では一般的になっています。

 生活保護のメインの課題である貧困には、社会的な要因があります。そのことを踏まえれば、個人の生活態度ばかりを問題にして上から指導する、というスタンスにはならないはずです。

権力性に悩みながら仕事をしてほしい

 生活保護法で、福祉事務所は保護の利用者に対して必要な指導・指示をする権限、保護の停止・廃止をする権限、給付すべきでなかった費用の返還を決める権限を持っています。重要な決定は組織として行うもので、幹部と関係職員によるケース診断会議にはかる必要がありますが、担当ケースワーカーは、権限の一端を実質的に握っています。

 そういう権力を背負い、対等とは言えない関係の下で、本当の意味でのケースワークができるのでしょうか。生殺与奪とも言える権力を持った相手に、制度利用者がどこまで本音を語れるのか、納得できないけれど、しぶしぶ従っているだけではないのか、自己決定という形を取っていても実際は半強制になっていないか、根本的に疑問があります。

とはいえ、保護の要件の審査や、不正への対処は必要です。生活保護の基本が経済的給付である以上、権力性を伴う仕事はどこかに残ります。

 法的権限を持っていても、きちんとした姿勢で臨み、経験を積めば適切なケースワークができる、と言うベテランもいます。一方、筆者は、対人援助としてのソーシャルワークの業務を、経済的給付の権限を持つ者から分離すべきではないかと考えています(制度設計は簡単ではありません)。

 どのように解決するかは難しい問題ですが、少なくともケースワーカーは、自分の持つ権力性が、福祉的な援助の妨げになるものだという自覚を持ち、悩みながら仕事をしてもらいたいと思います。

原昌平(はら・しょうへい)
読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保 障を中心に取材。精神保健福祉士。2014年度から大阪府立大学大学院に在籍(社会福祉学専攻)。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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